Gotchやゲス乙女が一目置く、THE BED ROOM TAPEの才能

京都のインストバンドNabowaのギタリストである景山奏のソロプロジェクト、THE BED ROOM TAPEが新作『Undertow』を発表した。昨年発表された『YARN』では、indigo la End / ゲスの極み乙女。の川谷絵音の参加が話題を呼んだが、新作にはゲスの極み乙女。からちゃんMARI、さらにはGotchことASIAN KUNG-FU GENERATIONの後藤正文も参加しているほか、これまでの作品同様に関西の音楽シーンの先輩や盟友たちが数多く関わっている。

なぜTHE BED ROOM TAPEはこうも多くのアーティストから愛されているのか? それはNabowaとしての10年以上に及ぶキャリアが導いたものであることはもちろん、THE BED ROOM TAPEの音楽自体に特別な魅力があるからに他ならない。景山、後藤、ちゃんMARIからのコメントを引用しつつ、その実体を紐解いていく。

ブラックミュージック隆盛の2016年における、次世代プロデューサーの本命?

ブラックミュージックの大波が押し寄せた2015年の日本において、J-POPシーンの主役が星野源であり、インディーシーンの主役がceroであったとするなら、影の主役は長岡亮介とmabanuaだったと言っていいのではないかと思う。星野源の『YELLOW DANCER』に参加し、『紅白歌合戦』でもバックを務めたほか(しかも、椎名林檎とのデュエットでも登場)、自身のバンド・ペトロールズとしても待望のアルバムを発表し、さらにはTHE BAWDIESやReiのプロデュースも手掛けた長岡。一方、Awesome City Club、大橋トリオ、Chara、一十三十一らの作品に関わり、ドラマーとしてもくるりのツアーに参加するなど、活動の場をさらに広げたmabanua。彼らのようなプレイヤー兼プロデューサーの貢献が、シーンの盛り上がりに大きく寄与していたのは間違いない。そして、僕が2016年の活躍に期待したいのが、本稿の主役THE BED ROOM TAPEである。

改めて紹介すると、THE BED ROOM TAPEとは、2014年に10周年を迎えた京都のインストゥルメンタルバンド・Nabowaのギタリストである景山奏のソロプロジェクト。Nabowaというバンド自体、ジャンルの枠にはとらわれない幅広い音楽性を持ったバンドであり、リズム隊の二人、川上優(Dr)と堀川達(Ba)はディスコテイストのWONDER HEADZというユニットでも活動しているが、THE BED ROOM TAPEの音楽性もご多分に漏れず非常にエクレクティック。プログラミングと生演奏を組み合わせ、ジャズ、ヒップホップ、ブレイクビーツ、エレクトロニカなどを自在に横断していく。1990年代後半から2000年代初頭ぐらいのヒップホップ、R&B、ネオソウルなどの再評価が進む今の気分にジャストであり、Nujabesにも通じるメロウなムードは、日本人好みだとも言えよう。

まずは、「THE BED ROOM TAPEに影響を与えているアーティストを1組だけ挙げるとするならば?」という質問を投げてみた。

景山:なかなか難しいですが、1組だけ挙げるなら、韻シストですかね。ヒップホップに全く興味がなかったのに、ライブを観たその日からヒップホップが大好きになりました。全員かっこいいですが、中でもギターのTAKUさんには、ギターのことはもちろん、音楽をやっていく中での人とのコミュニケーションの取り方や、ステージ上での振る舞いなど……あらゆる面で一番影響を受けています。出会いはだいぶ前に神戸のカフェの周年パーティーで対バンしたときです。「こんなにかっこいいギター弾く人いるんや!」と驚いて、次の日さっそくCD屋に行きました。その何年かあとから、ギターを教えてもらうようになって、今でも頻繁に教えてもらっています。

韻シストは1998年に大阪で結成された日本のヒップホップバンドの先駆け的存在で、近年はCharaとのコラボレーションも話題となった5人組。景山の言う「神戸のカフェの周年パーティー」というのは、おそらく2008年5月に行われたカフェ「chelsea」のパーティーで、両者の交遊はここから続いているようだ。そして、景山の敬愛するTAKUも参加したのが、2013年に発表されたTHE BED ROOM TAPEのデビュー作『THE BED ROOM TAPE』。他にも、奇妙礼太郎、児玉奈央、NAGAN SERVERがボーカリストとしてゲスト参加している本作は、ceroがジャズやヒップホップにより傾倒し、その影響下にある若手バンドも育った2016年の耳で聴くと、時代の先を行っていたようにも聴こえる。

THE BED ROOM TAPE『THE BED ROOM TAPE』ジャケット
THE BED ROOM TAPE『THE BED ROOM TAPE』ジャケット

『THE BED ROOM TAPE』はパーソナルな色合いの強い作品であり、ジャケットは景山が幼少期を過ごした公団住宅がイメージされている。児玉が参加した“かいせんとう”は、景山の当時の記憶を基に、児玉が作詞を手掛けた楽曲であった。

川谷絵音やBudaMunkが参加、「非日常」を描いた『YARN』

『THE BED ROOM TAPE』から2年のブランクを経て、昨年12月に発表されたのが『YARN』である。5lackらとのSICK TEAMや、mabanuaとのユニットGreen Butterとしての活動でも知られるBudaMunkによる“かいせんとう”のリミックスを含む全5曲が収録されているが、中でも強烈なのがindigo la End / ゲスの極み乙女。の川谷絵音をボーカルに迎えた“命の火”。作詞は川谷、作曲は景山と川谷の共作によるこの曲には、ドラムに韻シストのTAROW-ONE、キーボードにTHE MICETEETHの次松大助、さらには川谷のバンドでコーラスを務める佐々木みおと服部恵津子も参加し、後半に向けてジワジワと盛り上がる展開がカタルシスを生む、エモーショナルかつサイケデリックな楽曲となっている。

景山:もともと面識のないときにTwitterで絵音くんが僕のアルバムを褒めてくれて、僕もindigo la Endが好きだったので、嬉しくてメッセージを送ったことがきっかけで繋がりました。『ゲスナボワ』という2マンライブを開催したとき(2015年2月)に、「次、僕の作品を出すときに歌ってほしいです」と言ったら、快く受けてくれました。僕が最初に考えていたテーマとしては、子どもの声をサンプリングして入れて、そこから人の何かを感じられるものになったら、ということだったのですが、すかさず絵音くんはその感じをキャッチしてくれて、「この声からテーマを『命』にしました」と言ってくれました。制作中は、絵音くんの集中力というか、メロディーも歌詞もその場でどんどん作っていくスキルが本当にすさまじくて、貴重な現場を見れたと思っています。さすがでした。

また、『YARN』には、『THE BED ROOM TAPE』収録の“水と泡”に続いて、景山が作詞作曲を手掛け、ボーカルも自ら担当した“Chocolate”を収録。手探りの制作だった“水と泡”に続いて、今回も相当苦労したと本人は語るが、『THE BED ROOM TAPE』リリース時のインタビューで「ホンマはもうちょっとロマンチックなことが書けたらなって思ったんですけど、なかなかそういうワードも思いつかへんかった」と言っていた景山が、今回<雨が降ったら傘になってあげる 僕のとなりにおいでよ>と歌い、ボーカル自体もスムーズさを増すなど、確かな成長を感じさせる仕上がりとなっている。

景山:上辺のやんわりした部分は排除して、心をえぐり取ってしまうような、正直な歌詞を書いてみたいなって、最近思うようになりました。でも、いざやってみたら全然できなかったんです。歌詞を書くって簡単じゃない! この曲のテーマは、「口に出したら多分寒くて一生言わなさそうな言葉を、文字に起こしてみて、なるべく気持ち悪くならないように気をつけよう」です。

『YARN』のジャケットを飾っているのは、日本ではなく台湾の路地。「自分の中では『ちょっとだけ非日常』なイメージ」「ゲストの方々の持ってきてくれた新しい世界」と景山が語るように、川谷やBudaMunkの参加が大きな刺激となり、景山にとっての新たな一歩を刻んだ作品が、『YARN』なのだと言えよう。

THE BED ROOM TAPE『YARN』ジャケット
THE BED ROOM TAPE『YARN』ジャケット

後藤正文やちゃんMARIが参加、「日常」を描いた『Undertow』

『YARN』に続いて、3月9日に発表された最新作が『Undertow』。韻シストのMC・BASIが参加し、<あの時のように初志貫徹 生き方は自由 千差万別>というリリックが景山との決して短くない歴史を想起させる“Free”や、Nujabesとの交流で知られるUyama Hirotoによるリミックスなど全4曲が収録され、リード曲の“音符の港”には、GotchことASIAN KUNG-FU GENERATIONの後藤正文がボーカルで、ゲスの極み乙女。のちゃんMARIがキーボードで参加。本作のジャケットは「日常」を表していて、景山いわく「通学、通勤中に聴いていたアジカンや韻シスト」のメンバーが参加し、「毎日の風景」を描いた作品になったと言う。

THE BED ROOM TAPE『Undertow』ジャケット
THE BED ROOM TAPE『Undertow』ジャケット

景山:Gotchさんとの出会いも、きっかけはTwitterです。“かいせんとう”を褒めてくれているのを発見して、びっくりしてメッセージを送ったんです。それからだいぶ経ったあとに、ダメ元で歌ってほしいことを伝えたら、快く受けてくださいました。ちゃんMARIちゃんも僕のCDをわざわざ買ってくれていたみたいで、絵音くんと同じタイミングで「参加してほしいです」とお願いしたら、快く受けてくださったんです。“音符の港”のテーマは、出かける人と待ってる人。もともとGotchさんに歌詞を書いてもらって歌ってもらうのがいいと思っていたのですが、Gotchさんが勧めてくださって、僕が歌詞を書くことになりました。

景山のエレクトロニカ風のトラックに、後藤のいつもより低めの音程のボーカルが訥々と乗り、「出かける人と待ってる人」の開放感と少しの寂しさが入り混じったような雰囲気が見事に表現された“音符の港”。ゲスの極み乙女。ではプログレッシブに展開する曲に合わせて1曲の中で多彩な表情を見せるちゃんMARIのピアノは、ここではしっかりと楽曲のムードに寄り添っている。

後藤:レコーディングは自分のスタジオで行いました。アジカンともソロとも違う音程で歌う必要があったので、そこを楽しみながら録音しましたね。細かい歌い回しなど、なるべくデモの奏くんの歌い方を模倣したかったのですが、Gotch節が出てしまうところもあって、そのあたりは少し悩みました。デモの段階からかなり凝った音作りでしたけど、完成した楽曲はアレンジやプロダクションがさらに複雑になっていて、さすがだなと。聴いていて楽しい音像だと思います。

左から:後藤正文、ちゃんMARI
左から:後藤正文、ちゃんMARI

ちゃんMARI:まずは自由に弾いてみて、その後細かいところを詰めていくという方法でレコーディングを行いました。音の隙間の多いトラックだという印象があったので、その隙間を縫うように音を入れていったんです。あとは奏さんの要望で、トラックに合わせずに素材として即興でフレーズを何個か弾きました。できあがった音源を聴いたとき、即興で弾いたフレーズが生まれ変わったように効果的に使われていて、いい意味で驚きましたね。私はもともとTHE BED ROOM TAPEやNabowaのファンだったので、参加させていただいて本当に嬉しかったです。

「音のコラージュとメランコリックなフィーリング」が導く、THE BED ROOM TAPEの未来

パーソナルな意味合いの強い『THE BED ROOM TAPE』でソロとしてのキャリアをスタートさせた景山だが、今回の2作によって、その作家性をはっきり確立させたと言っていいだろう。それは『YARN』と『Undertow』というそれぞれのタイトルにもよく表れている。

景山:『YARN』は縫い糸とか作り話という意味があるのですが、自分の音のコラージュ具合に合うなと思いました。『Undertow』は引き波という意味があって、日も暮れる夕焼けのビーチで、波がバーって足元まできて引いていって、砂に描いた絵も消えたような、ちょっと寂しいイメージですね。

音のコラージュ具合と、メランコリックなフィーリング。後藤は「おもちゃ箱みたいなサウンドプロダクション」、ちゃんMARIは「一つひとつの音の集まりが、いい具合に組み合わさって、なんとも言いがたい心地よさを出していると思います」とそれぞれTHE BED ROOM TAPEの音の魅力を語り、さらにちゃんMARIが「聴くと無条件に優しい気持ちになれるところが好きです。名前の通り、休みの日にベッドに寝転びながら聴いたり、洗濯をしながら聴いたりしています」と語るように、サウンド自体の素晴らしさと、そこから喚起されるエモーション、その両面がTHE BED ROOM TAPEの魅力だと言えよう。おそらくは、今回の2枚が改めての名刺代わりとなり、今後多くのアーティストからプロデュース依頼が舞い込むのではないだろうか。

景山:『THE BED ROOM TAPE』を出したことによって、尊敬するミュージシャンの方々に自分の作品を褒めてもらったことは、自分にとっても大きかったです。自分の目指すポイントに自信を持てるようになりました。ずっと守りの姿勢でいたのが、「もっとこれもしてみよう」とか「やって失敗してもいいじゃない」って思えるようになったかなと思います。ダメ元でも、口に出して言ってみると奇跡が起きるということを発見できたんですよね。気づいたら好きなアーティストと一緒に曲を作ってたり、ライブをしたり、ラッキーな変化が非常に多いです。

一度しかない人生。やはり「行動しなければ何も始まらない」ということを改めて思い知らされるが、行動した途端に後藤正文やゲスの極み乙女。のメンバーとすぐに繋がってしまうというのは、もちろん景山のキャリアの成せる業であり、THE BED ROOM TAPEの音楽の素晴らしさゆえだろう。

最後に、個人的な希望を書かせてもらうと、今後はその知識や経験をさらに若い世代に還元してみてほしいと思う。例えば、mabanuaも参加していた後藤のソロでのバンドには、Nabowaと同じく京都を拠点にするTurntable Filmsから井上陽介がギタリストとして参加していたが、彼らの出身レーベルであるSECOND ROYAL周辺には、今のブラックミュージックの動きを追いかけている若いバンドがたくさんいるはず。そうした若手とのコラボレーションが、THE BED ROOM TAPEをさらに新たな段階へと導くことになると思うのだが、さてどうだろうか?

リリース情報
THE BED ROOM TAPE
『Undertow』(CD)

2016年3月9日(水)発売
価格:1,404円(税込)
DDCB-12084

1. Hook
2. 音符の港 feat.Gotch
3. Free feat.BASI
4. 音符の港 feat.Gotch(Uyama Hiroto Remix)

THE BED ROOM TAPE
『命の火 feat.川谷絵音/音符の港 feat.Gotch』(アナログ7inch)

2016年1月29日(金)発売
価格:1,620円(税込)
DDKB-91002

[SIDE-A]
1. 命の火 feat.川谷絵音
[SIDE-B]
1. 音符の港 feat.Gotch

プロフィール
THE BED ROOM TAPE
THE BED ROOM TAPE (ざ べっど るーむ てーぷ)

滋賀県生、京都在住、景山奏のソロプロジェクト。2013年、奇妙礼太郎、児玉奈央、NAGAN SERVERがボーカル参加したデビュー作『THE BED ROOM TAPE』が高い評価を獲得。2015年12月、川谷絵音(indigo la End/ゲスの極み乙女。)がボーカル参加した5曲入EP『YARN』をリリース。インストゥルメンタル・バンド、Nabowaのギタリストとしても活動している。



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