カネコアヤノが背負うもの。歌は日々に添えられた花束のように

2019年9月5日にアナログレコードで先行発売された、カネコアヤノのオリジナルアルバム『燦々』。そこには“ぼくら花束みたいに寄り添って”という楽曲が収められている。そのタイトルを見た瞬間、一聴するまでもなく「なんて素敵なんだろう」と心打たれたことを覚えている。

それはなぜか。「ぼくら」という言葉に、カネコアヤノの歌をお守りのように聴いている自分自身を直感的に重ねてしまったからだと思う。以下のインタビューは、そんな想いのもと北沢夏音を聞き手に迎えた約2時間にわたる対話をまとめたものだ。初めて聞く話ばかりだったが、どれも不思議と知っていることばかりだった。それはきっと、すべて彼女が歌を通じて教えてくれていたことだったからだと思う。もしかしたら、これを読んだあなたもそう感じるのではないだろうか?

『燦々』のリリースにあたり、CINRA.NET編集部が毎月1組だけ選出する「今月の顔」としてカネコアヤノを取り上げることになった。2017年4月、『ひかれあい』のリリースから僕らがともに歩んできた最初の集大成がここに。

「私のために歌ってるんだ」ってみんなに思ってもらえたらと思う。「あなたに歌ってるよ」って言い切れるので、私は。

北沢:今回、アルバムタイトルになった「燦々」っていう言葉が降りてきたのはいつなんですか?

カネコ:昔から好きな言葉だったんですよ。だからアルバムタイトルとか、何かにつけたいなとずっと思っていて。今回は漢字2文字で、明るくて、包み込むようなタイトルにしたかったからから『燦々』にしました。もうひとつの候補は「抱擁」だったんですけど。

北沢:包み込むようなタイトルにしたかったのは、なぜ?

カネコ:洋服着せるみたいな感じというか、やさしくて暖かい印象にしたかったんですよね。なにかを否定するようなものにはしたくなかったし、「大丈夫だよ」っていうふうに聴こえるものというか、みんなに寄り添うものにしたかった。歌ってる内容も寄り添うようなものばかりだし、“愛のままを”とか“光の方へ”とか言ってるけど、意識してそうなったというより全部直感で。

北沢:「寄り添うこと」が大事だったんだ。

カネコ:そう。私も正直めっちゃ不安っていうか、別に普通の人間ですしね。

カネコアヤノ
弾き語りとバンド形態でライブ活動を展開中。2016年以降、新たなメンバーと大胆なバンドサウンドを展開し注目を集める。2017年9月には初のアナログレコード作品『群れたち』、2018年4月に新作アルバム『祝祭』を発表し、このアルバム2作は各所で高い評価を獲得する。2019年9月、フルアルバム『燦々』を発表。

カネコ:やっぱりそういう部分って、人はみんな一緒だと思うんです。だから「救う」みたいな言い方は大げさでできないけど、「そうだよね。じゃあちょっとがんばってみようかな」くらいの寄り添い方ができたらいいなと思ってる。

疲れて帰ってるときに聴いて、「カネコアヤノ聴いたらちょっと大丈夫になったわ」くらいの。「私のために歌ってるんだ」ってみんなに思ってもらえたらと思う。実際に「あなたに歌ってるよ」って言い切れるので、私は。

北沢:カネコさんの歌って、なんか友達みたいだよね。

カネコ:あー、なるほど。

北沢:悩みだったり、嬉しいことだったり、そういう心の機微を分けあえる特別な友達。そんな歌たちかなって思う。

カネコ:うん。友達に悩み相談して、ほんの少しだけすっきりしたぐらいがいいかも。別に流し聴きしてくれててもいいけど、「今の一言よかったな」みたいな。

北沢:歌の効用というのは、やっぱりそれが一番だよね。聴くともなしに流れてきた言葉が心に引っかかってくるときってあるでしょう?

カネコ:「今なんて言ってたんだろう?」みたいなね。そういうことがやりたいな。

北沢:あと、お気に入りの文庫本に挟むしおりみたいなところもあるんだよね。「この一行、ちょっと忘れたくない」みたいにしおりを挟むような感じ。

カネコ:嬉しい! 最高! そういうささやかな感じがいいな。

ありえないくらい気にしいですし、かなり受け身なんですよ。だからそういう自分を説得するような歌を歌いたいのかも。

北沢:あと、「燦々」って言葉をパッと聞いたときにどうしても、美空ひばりの“愛燦燦”が浮かんでーー

カネコ:そうそう、「♪愛、燦々と~」ね。それでいいのかなって思ってます。

北沢:カネコさんが、いつかひばりさんみたいに、聴く人の人生を丸ごと包み込むような……歌の包容力がとてつもない歌手になったらいいなあ! 凛としてるところとか、歌ってるときのカネコさんにもちょっと似たところがあるなあと思う。

カネコ:本当ですか?(笑) でもたしかに、見てて不安にはさせたくないですからね、みんなのこと。

北沢:“燦々”の歌詞の一節、<自ら選んだ人と友達になって>とか<屋根の色は自分で決める>みたいな言葉からうかがえる、自立心とか自己決定する意思の強さを持ちたいという思い、それはカネコさん自身のテーマでもあるのかなと。

カネコ:もともと私も……いや、今もですけど、周りに流されやすいというか。もう本当にありえないくらい気にしいですし、かなり受け身なんですよ。でもそれで失敗してきたこともたくさんあるし、そういう自分が嫌だなっていうのはすごく思う。だからそういう自分を説得するような歌をずっと歌いたいのかも。説得というか、「考えろよ、自分で!」みたいな(笑)。

なんか最近、SNSで誰かがなにかをディスるとみんなで寄ってたかって言うじゃないですか。「別にいいじゃん!」と思うんです。「自分で考えれば?」って思うこともいっぱいあるし。

北沢:「クソリプで他人の足引っ張んなよ!」みたいな?

カネコ:そうそう。「お前はお前を生きろよ!」みたいな。なんというか、「みんなもっとでっかくなろうぜ!」って思う(笑)。自分がそうしたいなら奇抜な服を着ててもいいじゃんって思うし、それなのに恥ずかしいからやめるとか……本当はしたいと思っているなら、したらいいのになって。

堕落してる生活も見方を変えたら、綺麗なんじゃないかなって私は思うんですよ。

北沢:“燦々”は<胸が詰まるほど美しいよ ぼくらは>っていうフレーズもすごく印象的で。「美しい」っていう形容詞で肯定したい気持ちは、どういうところから出てきたんですか?

カネコアヤノ“燦々”を聴く(Apple Musicはこちら

カネコ:堕落してる生活も見方を変えたら、綺麗なんじゃないかなって私は思うんですよ。私、別に毎日同じものを食べてても大丈夫だし、ずっと家にもいれるんです。だから片づけもできないし(笑)。

北沢:(笑)

カネコ:でもそういう生活のなかから、なにか生まれるなら別にいいんじゃないかなって思う。そういう人でも家に誰かが来るってなったら、やっぱり片づけるわけじゃないですか。その片づける行為そのものが、すごく愛おしいなって思っちゃう。

北沢:反語的な表現を肯定的に使うのはカネコさんの作詞の特徴だよね。“セゾン”でも、<テーブルの上 雑に置かれた財布と鍵>って歌ってるし。そういう油断した状態にむしろ安心する、という言葉の綾。

カネコアヤノ“セゾン”を聴く(Apple Musicはこちら

カネコ:それを見せられるのって、信頼してる人だけだったりしますからね。でも散らかった家に人を招待できる人も、またそれはそれでかわいいなって感じがするし。“燦々”で歌いたかったのは、「みんなダメな面がどこかしらあるよね」っていう美しさ。容姿がとかそういうことじゃなくて。

北沢:人それぞれの持って生まれた個性、つまり「人間らしさそのもの」を肯定するというかね。

カネコ:そうそう。不器用なところとか苦手なことくらい、みんなありますからね。

恋愛っぽいことが多いかもしれないけど、私としてはあらゆる関係における愛を歌いたい、そういう意味でのラブソング。

北沢:今作に限らず、カネコさんの歌は愛の光景のいろんな場面を見せてくれる。愛のかたちにもいろいろあるけど、ひと口にラブソングといってもカネコさんのラブソングはどこかひと味違うなって思う。カネコさんのなかでラブソングを歌う意味ってどういうことなんだろう?

カネコ:極端に言うと、恋人と友達の間にそれほど差はないかもしれない。私、友達も恋人もバンドメンバーも、この関係が一番っていうのがなさすぎて。友達といるときは全力で「好き!」って感じだし、バンドでいるときはバンドメンバーに「好きすぎる!」みたいな感じになる。恋人といるときも、「わー! めっちゃ好き!」みたいな(笑)。

北沢:(笑)

カネコ:「絶対この人がいないと無理」っていう度合いでいうと、全部一緒なんですよね。私のなかでは全部「ラブ」だから。それに恋愛で失敗して助けてくれるのは、やっぱり友達だったりするじゃないですか。

北沢:人間関係には連鎖してるところがあるよね。

カネコ:そう。食物連鎖みたいなのが人間関係にある。友達もバンドメンバーも恋人も家族も、全部がないと私にならないから「こうなってるのかな……?」とは思うな。やっぱりどれも捨てられない。

北沢:関係性を歌うことは、カネコさんの重要なテーマでしょう?

カネコ:そうですね。恋愛っぽいことが多いかもしれないけど、私としてはあらゆる関係における愛を歌いたい、そういう意味でのラブソング。それを恋愛と受け取ってもらってもいいし、聴き方によっては友達への愛でも家族への愛でもいい。その想いを抱く相手は、人によって誰になるのかはわかんないから限定したくない。

北沢:“車窓より”で<スポットライトから / 降り注ぐ憧れとバンドの正しさよ>って言ったあとに、<恋に似た 何かだな>って言うところとか、恋愛感情と友情と家族愛の境がない感じがするよね。

カネコアヤノ“車窓より”を聴く(Apple Musicはこちら

カネコ:実際そういうことかも。歌のテーマとして、恋人とエロスみたいなことが大事なのはすごくわかるし、それを作品にしてて好きなものもあるけど、私はそれを直接的に言葉にするのはたぶんできないですね。

ま、キスとかはすごくかわいらしいものだなって思ってるから歌詞にするけど。私は「恋に溺れる」みたいな感覚はあんまりないし、それ以上のことは別に書きたいとは思わない。あと私、奇をてらったエロがすごく嫌いで。歌でも映画でも「これやったらいいって思ってるんだ」っていうのが透けて見えると萎えちゃう。

北沢:「これやったらウケるだろう」って確信犯でやってる人もいるかもしれない。でもカネコさんがそうしないのは、嗜みだし。

カネコ:そうそう。人それぞれなので。

北沢:“布と皮膚”とか、エロスもあるけどすごく品がある。でもそれも感覚的なものだよね。

カネコ:嬉しい。品は大事です。なんかあるんですよ、感覚的に。そこからはみ出すと、「あ、これはダメだ。消し消し消し」みたいなときもある(笑)。

カネコアヤノ“ごめんね”を聴く(Apple Musicはこちら

あることが起きたことそのものよりも、その前になにがあったかとか、それまでの会話とか、その一瞬の感じに私はギュってなりますから。

北沢:関係性を歌うってことでいうと、たとえば“ぼくらは花束みたいに寄り添って”の<最近悲しいニュースが多いねと呟く君の横顔 / 失礼だけど可愛すぎて>みたいな描写に、カネコアヤノのラブソングを聴く醍醐味を感じる。「最近悲しいニュースが多い」「そう呟く君の横顔が可愛すぎる」――相反する二つの物事を対比するだけでキャラクターの違いまで浮き彫りにするストーリーテリングの妙、しかも「失礼だけど」とつけ加えることで「不謹慎でごめんね」とも「可愛いなんて思ったら悪いかな」とも解釈できるし、この二人の関係性に想像が膨らんでくる。

カネコ:そういうワンシーンからその続きは見えてくるから、日々のささいな瞬間でも漏らさないように書きたいんです。

北沢:そこがカネコさんの歌のよさだなと思う。前作にも、<今となりの君のまつ毛がおちるのを / 見逃さなかったよ>(“ごあいさつ”)って歌詞があったけど、あの系譜かなと。

カネコ:たしかに。なるほど!

カネコアヤノ“ぼくらは花束みたいに寄り添って”を聴く(Apple Musicはこちら

カネコアヤノ“ごあいさつ”を聴く(Apple Musicはこちら

北沢:そう。そこがカネコさんのオリジナリティーだと僕は思う。目のつけどころがいいを通り越して、「ニクいなー!」って思う。その着眼点の鋭さがカネコさんの歌を輝かせてる。子猫みたいな観察眼というか、人間を超えた野生的なものを感じるんだよね。「こいつ、なにを見てるんだろう?」って猫に対して思う瞬間が、カネコさんの歌にはある。

カネコ:彼らみたいな視点で生きていきたいですね。ある出来事そのものよりも、その前になにがあったかとか、それまでの会話とかが感じられる、その一瞬の感じに私はギュってなりますからね。それはなおさらそう。

勝ちたいっすから。

北沢:『燦々』を聴いて感じる前作との一番の違いは、アレンジがすごく緻密に、しかもカラフルになって、それぞれの曲のよさを引き立てながら、プレイヤーたちの才能もますます発揮されているところです。

カネコ:ありがとうございます。作り方自体は『祝祭』のときから変えていないんですけど、今回みんなでアレンジについてじっくり話し合いをしてから作ったんです。曲のなかの余白みたいなものってあるじゃないですか? それが一番綺麗に、かっこよく聴こえるものにしたいよねっていうことは今回の大きなテーマでした。『祝祭』までは勢いでしかなかったというか、「どーん! 生まれました!」みたいな感じだったから(笑)。

北沢:特に林くん(カネコアヤノバンドのギター、林宏敏)は、今回も大活躍ですね。ギターとバンジョーを重ねる斬新なアイデアが全体のムードを決定づけてる。

カネコアヤノ“花ひらくまで”を聴く(Apple Musicはこちら

カネコ:林くんのギターはムードがありますよね。バンジョーはほぼ全部入ってて、“セゾン”だけが入ってない。なんかよくわかんないけど、ずっとバンジョー入れてた(笑)。

北沢:そこがすごい閃きだな、って。バンジョーはJ-POPとかにあまり入ってない楽器だし、だからといって決して渋くなりすぎない、隠し味的な使い方をしてる。もちろん、歌と曲がカネコさんだから渋くならないっていうのもあるけど、なんというのかな……お約束のものだけじゃポップにならない。別々に見えるものが組み合わさったり衝突したり溶け合うことによって生まれる何か素敵なもの、っていうのがポップだと、僕は思うんです。

カネコ:そうそう、そこでギュってなるんですよね。ポップっちゅうのはそういうことだと思う。

北沢:今回、すごく音楽的な成長を感じるんですよね。1曲目のイントロの透明なギターが鳴った瞬間からもう既に、「このアルバムは絶対にいい!」って思えたし。“花ひらくまで”“かみつきたい”という絶対間違いない掴みの2曲が続いて、3曲目に“布と皮膚”。この意外性と繋がりのよさ、先行シングルで聴いたときも「おおっ!」と思ったけど、「だからちょっとゴージャスなアレンジだったのか!」って腑に落ちたし、アルバム全体の流れも本当に見事で。4曲目の“明け方”からドラマティックでヒリヒリしたカネコワールド感がでてきて、「じわじわと来たぞ」みたいな感じで盛り上がる。

カネコアヤノ“布と皮膚”を聴く(Apple Musicはこちら

カネコアヤノ“明け方”を聴く(Apple Musicはこちら

カネコ:ああ、やっと来たな、みたいなね(笑)。その次の“りぼんのてほどき”とかは、歌詞もめっちゃ気に入ってる。

北沢:<プレゼントボックスのリボンを / 体のかたちが変わっても / 焦ってほどいてたい>なんてフレーズ、カネコさん以外の誰にも書けないと思った。それぐらいカネコアヤノ感のある独創的なフレーズで。こういうのにやっぱみんなやられちゃうんだよな、って思う。

カネコ:そのフレーズはもうずっと書いてあって、なにかの曲に絶対入れたいなってずっとずっと取っておいて、やっとこれに入ったんです。だから書けたときはすごくうれしかった。

カネコアヤノ“りぼんのてほどき”を聴く(Apple Musicはこちら

北沢:とっておきのフレーズだったんだ! この曲には、<なんとか生き抜いた>ってドキッとするフレーズも出てくるけど、カネコさんって刹那を燃焼し尽くしながら生きてる感じがする。それから苦しいなかにも常に希望を見出そうとしてる感じもある。そういうところに年齢を問わず励まされてる人が多いと思うんだよね。不安と戦っていて「勝つぞ!」みたいなところも大きな魅力だと思っていて。

カネコ:勝ちたいっすからね。

意地でも明るいことをやってたほうが絶対にいい。

北沢:「がんばってる」っていうとちょっと陳腐な言い方だけど、でも「やっぱり生きるってそういうことでしょ?」っていう真実を歌っていると思う。

カネコ:やっぱり暗いままでは終わらせたくなくて、私は。“かみつきたい”の歌詞じゃないですけど、「なんか、不幸なフリしてる人もいるなあ」って思うんです。

カネコアヤノ“かみつきたい”を聴く(Apple Musicはこちら

北沢:<自ら不幸にならない / なろうとはしないで>って歌ってるよね。

カネコ:そう。すごい極端なこと言うと、友達が死んじゃったとか、飼い猫が死んじゃったとか、好きなことができなくなったとか……そういうことがあったなら、それはもう本当に抱擁してあげたい。「どうにかなるなら私がやれること全部やるよ!」って感じですけど……「どうにかできるやろ!」みたいな悩みもたくさんあるし、「そんなに言うなら自分で変えていけよ!」って思っちゃう節が私はあるから、そういう曲ばっか書いてるのかもしれない。

あとやっぱり、不幸とか、陰の気ってめちゃくちゃ強いなと思うんです。だから意地でも明るいことをやってたほうが絶対にいいし、「ハッピーなことに越したことなくね?」っていう考えが根本的にある。あるというか、「音楽をやってくぞ!」って思うようになってからは、そういうふうに念じているところがあって。音楽なんて絶対に自分がどうかでしかないし。

カネコ:それに私、言霊もすごい信じてるから、ネガティブなこと歌ってたらダメになっちゃう気がするんですよね。それが怖いのもある。だから、「こういうふうにつらいことがあったけど、まあたぶん大丈夫だよ! 大丈夫になろうよ!」って歌いたい。

北沢:ジョン・レノンが最初にオノ・ヨーコと出会ったときのエピソードがあるじゃない? オノ・ヨーコの展覧会の前日にジョン・レノンが訪ねて来て、天井にあるキャンバスを、ハシゴで上ってぶら下がってる虫眼鏡で見てみたら「Yes」って書いてあったという。

カネコ:すごく小さく書いてあったっていうね。「肯定された!」みたいな、そういうほうがやっぱり絶対にいいって信じてる。

北沢:そこで「No」って書いてあったら恋愛にはならなかったし、なにもはじまらなかったんじゃないかな。

カネコ:そう思います。「いや、もう大丈夫だから!」みたいなほうが絶対にいい。聴いている人全員のそばにいることできないけど、私の曲がちょっとでも生活が明るくなる手助けになればいいなあって思いますね。私は言霊を信じているからこそ、「聴いてる人がこれを歌えば、楽になるんじゃないかな?」みたいなことを信じてやってるかもしれない。

「うわあ~! なんて嬉しいことなんだろう、これは!」ってめっちゃ思った。

北沢:“光の方へ”は映画『わたしは光をにぎっている』(2019年11月15日公開、監督は中川龍太郎)の書き下ろし主題歌ですよね。

カネコ:そうそう。映画自体もめちゃめちゃいいんですよ。内容は私と同世代くらいの女の子のお話で、結構淡々と進んでいくんです。本当にみんなが悩んでて……でも、最後にちょっとだけ開くんですよね。それでパカーン! ってこの曲が流れる。そのときに「うわあ~! なんて嬉しいことなんだろう、これは!」ってめっちゃ思った。

北沢:これもまたカネコさんらしさが炸裂してる曲で。パワーワード満載だけど、<僕だけの命 チューブのチョコレートみたいに / けち臭く 最後まで>なんて最高だな。

カネコ:映画があって、意味がちゃんと生まれた曲になったなあと思います。もちろん私の曲ってだけで意味はあるんですけど、そもそも映画のために作ったから、すごく繋がっていて「うわあ~!」って思ったんです。それは初めての感覚でしたし、映画のために曲を書き下ろすって不思議な気持ちでした。しかもバンドメンバーの音ももちろん入ってるわけじゃないですか。「ああ、ここまでやって来れたんだな」って純粋にすごく嬉しかった。

あと、明るい作品にこれがついているわけじゃないのもすごくよくて。中川さんは最初から「明るい曲にしてほしい」って言ってたんですよ。そう言われてなかったら、しっとりした曲を作ってたかもしれない。中川さんは最初っからこれが見えてたんだって、それも「すごい、カッケー!」って思った。

北沢:<隙間からこぼれ落ちないようにするのは苦しいね>っていうフレーズにグッとくる。この一行があるから、<だから光の方へ 光の方へ>っていう決めの言葉にすごい説得力が生まれる。

カネコ:いやあ、そうなんですよ。

北沢:この『燦々』というアルバムは、クリエイターを触発するような作品だと思う。時が過ぎても、これを聴いて自分の作品を作りたくなった、という人がきっと現れる。

カネコ:そうなったら一番嬉しいですね。音楽とか、モノ作りをしてる人に聴いてもらえたら嬉しい。お客さんに聴いてもらえる喜びとはちょっと違う喜びがありますよね。

「あなたのために100%でいつも歌うことが私のことも救うし、あなたのことも救うなら、それを生み出しちゃった責任は私が取らなくちゃ」って。

北沢:ここまで話を聞いて思ったんだけど、カネコさんの抱える不安の種類は変わったんじゃないですか? もちろん不安そのものはなくならないと思うけど。

カネコ:私の不安は……基本的にはめっちゃ自信がないタイプだから、不安はもう漠然とずーっとあって。このバンドメンバーとずっと一緒にやるためにはどうしたらいいかなあとか……うーん、なんでしょうね。不安って漠然としてませんか?

北沢:お金がないとか、現実的な不安もあるけどね。

カネコ:(笑)。そういう現実的なものもありつつ、ずっと100%の気持ちで今は歌を歌えてますし、これからもやっていく自信があるけど、それでも大丈夫かなって思うときはありますね。気持ちが少し落ちているときでも、意地でも音楽はやらなくちゃいけないし、そういうことをずっと考えてる。もう絶対に音楽しかないから、もし本当にできなくなったときにどうしようとか、本当どうしようもないことでずっと悩んでいるかな。

北沢:今の純度を失わないまま活動できるかどうか不安になる、とか?

カネコ:たとえば、“とがる”(2017年リリース『ひかれあい』収録)を作ったときの衝動のままでいれるのかなあみたいなことだったり。

カネコ:あと最近思ったのは、私がこのままであることが責任だなってことで。実際にライブ会場はちょっとずつ大きくなっていますけど、売れていったからっていきなり変わっちゃうのって、聴いてるお客さんたちはきっと望んでないわけじゃないですか。これを聴いて、これを歌っている私のことが好きなんだから、もし私がめっちゃ派手な化粧するようになったら、絶対にそれは違うなと自分でも思う。

もらったお手紙は全部読んでいるんですけど、そこに「お守りみたい」って書かれていることがすごく増えて(参考記事:カネコアヤノのお守りみたいな歌 不安を大丈夫に変える詩の秘密)。そうふうに思ってもらってる曲を作っているのは自分じゃないですか。だから「あなたのために100%でいつも歌うことが私のことも救うし、あなたのことも救うなら、それを生み出しちゃった責任は私が取らなくちゃ」って。人は変わっていく生きものだから変わっていきたいなとは思っているけど、根本的に音楽をやる理由が変わっていかないようにがんばろうってずっと思ってる。

北沢:カネコさんならきっと自然に人生の節目で変わっていって、でもそうしたら変わったなりにすごくいい曲を書くと思うから、それが楽しみ。

カネコ:自分でもそう信じてやっていきたいです。私の場合はこうやって歌を作ることで自分のこと救えてるしいいかなとは、今は思ってますね。

北沢:また返ってくるリアクションでカネコさんが励まされたりね。

カネコ:そうそう、「励まされました!」とか「こういうときに聴いてました」とかみんなからのお手紙で私が励まされてるし、続ける理由になってるから。そうやって言葉をくれるのは嬉しいし、だから私も歌わなくちゃってすごく思うかな。

北沢:すごくいい感じの連鎖から生まれる責任感。これからもきっと楽しいことのほうが多いですよ。

カネコ:そうですね。楽しいことが多いほうがいい。

北沢:嫌なことは歌にして消化できるし。

カネコ:腹が立つときや落ち込んでるときも歌を歌えばいい。そうやって歌を作って生きていきたいですね。

カネコアヤノ『燦々』を聴く(Apple Musicはこちら)/(特設サイトを開く

リリース情報
カネコアヤノ
『燦々』初回限定盤(CD+DVD)

2019年9月18日(水)発売
価格:3,534円(税込)
NNFD-01

[CD]
1. 花ひらくまで
2. かみつきたい
3. 布と皮膚
4. 明け方
5. りぼんのてほどき
6. ごめんね
7. セゾン
8. 光の方へ
9. 車窓より
10. ぼくら花束みたいに寄り添って
11. 愛のままを
12. 燦々

[DVD]
『「カネコアヤノ ワンマンショー 2019春」(2019.5.21 恵比寿LIQUIDROOM)』
1. アーケード
2. 天使とスーパーカー
3. とがる
4. 明け方
5. ごあいさつ
6. カーステレオから
7. 恋しい日々
8. 愛のままを

カネコアヤノ
『燦々』通常盤(CD)

2019年9月18日(水)発売
価格:2,748円(税込)
NNFC-03

1. 花ひらくまで
2. かみつきたい
3. 布と皮膚
4. 明け方
5. りぼんのてほどき
6. ごめんね
7. セゾン
8. 光の方へ
9. 車窓より
10. ぼくら花束みたいに寄り添って
11. 愛のままを
12. 燦々

書籍情報
『わたしのまっしろときんいろ』

2019年9月17日(火)から一部店舗、通販サイト、ライブ会場などで発売
著者:カネコアヤノ
価格:2,454円(税込)

イベント情報
『カネコアヤノ「燦々」リリース記念インストアイベント』

2019年9月18日(水)
会場:東京都 タワーレコード新宿店 7階 イベントスペース

2019年9月19日(木)
会場:大阪府 タワーレコード 梅田NU茶屋町店 6階 イベントスペース

2019年9月23日(月・祝)
会場:愛知県 名古屋パルコ 西館1階 イベントスペース

『カネコアヤノ TOUR 2019“燦々”』

2019年11月22日(金)
会場:大阪府 梅田CLUB QUATTRO
料金:前売4,000円(ドリンク別)
※ソールドアウト

2019年11月30日(土)
会場:愛知県 名古屋CLUB QUATTRO
料金:前売4,000円(ドリンク別)
※ソールドアウト

2019年12月4日(水)
会場:東京都 赤坂BLITZ
料金:前売 1階立ち見4,000円 2階指定席4,500円(共にドリンク別)
※ソールドアウト

プロフィール
カネコアヤノ
カネコアヤノ

弾き語りとバンド形態でライブ活動を展開中。2016年4月には初の弾き語り作品『hug』を発表、その後、続々と新作をリリースする。2016年以降、新たなメンバーと大胆なバンドサウンドを展開し注目を集める。2017年9月には初のアナログレコード作品『群れたち』、2018年4月に新作アルバム『祝祭』を発表し、このアルバム2作は各所で高い評価を獲得する。そして2019年1月に7インチ『明け方/布と皮膚』を、さらに4月にはシングル『愛のままを/セゾン』をリリース。2019年9月、フルアルバム『燦々』を発表。



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