のろしレコードと生活の歌 折坂悠太ら3人が考える、歌とは何ぞ?

フジテレビ系ドラマ『監察医 朝顔』の主題歌“朝顔”のヒットにより、幅広い層にその名が知られつつある折坂悠太。折坂と同じ平成元年生まれでありながら、1970年代の日本産フォークにも影響を受けた歌世界を描き出す松井文(まついあや)。引きずるようなブルースを歌う一方で、ギタリストとしても卓越した腕前を持つ夜久一(やくはじめ)。同世代のシンガーソングライターである彼ら3人が2014年に立ち上げたインディーレーベルが「のろしレコード」だ。2015年には3人の楽曲と共作曲で構成された初の音源集『のろし』を発表。去る10月30日にリリースされた新作『OOPTH』は、3人揃ってのものとしては2枚目の作品となる。

ハラナツコ(Sax)、宮坂洋生(コントラバス)、あだち麗三郎(Dr)と共に山梨・小淵沢の八ヶ岳星と虹レコーディング・スタジオで制作された本作には、3人の新曲に加え各自のセルフカバーも収録している。ここに収められているのは、生活のなかで生まれ、育まれ、歌われる歌。フォークやブルースの風味たっぷりのレイドバックした作品でありながら、そこには確実に時代と社会を撃ち抜く表現が息づいている。混迷を極める2019年の日本で、彼らはどんな歌を歌おうとしているのだろうか?

のろしレコード(左から:折坂悠太、松井文、夜久一)

一匹狼の歌い人たちが集う理由

―根本的な質問なんですが、「のろしレコード」ってレーベルなんでしょうか。それともユニット?

松井:よく聞かれるんだけど、説明に困るんですよね(笑)。レーベルであり、ユニットでもあるというか。

折坂:レーベルとしてはじめてみたものの、当初はやり方がわからなかったんですよ。一緒に歌ったり、ライブを一緒にやるぐらいしか方法がわからなかった。葛藤しているうちに今に至るという感覚です。

のろしレコード
シンガーソングライター松井文、夜久一、折坂悠太によるレーベル。日本や世界のルーツミュージックを独自に咀嚼し、うたを追いかける旅人たち。それぞれ違った形の個性が集いこの時代ののろしを上げている。2018年冬に行われたイベント『ことびらき』より、ハラナツコ(Sax)、宮坂洋生(コントラバス)、あだち麗三郎(Dr)をしたがえた「のろしレコードと悪魔のいけにえ」にも注目が集まる。

―最初は松井さんから、折坂さんと夜久さんに声をかけたそうですね。一匹狼的なところがある3人がゆるやかに繋がりながら、ときたま一緒に活動するというスタンスにも「のろしレコード」のユニークさはあるんじゃないかと思うんです。

松井:もともとレーベルをやってみたかったんです。私は自主制作で1枚アルバムを出しているんですけど(2012年発表の『あこがれ』)、いろんな人を巻き込んでやってみたくなって。1回だけの企画ライブだと関係性が持続しないだろうし、ひとりでできないことを補い合えればと考えていました。

松井文(まつい あや)
平成元年横浜出身。1stアルバム『あこがれ』を大阪在住時にリリースし、フォークロックシーンで話題を呼んだ。2017年、折坂悠太監修のもと2ndアルバム『顔』を発表。「のろしレコード」旗揚げの呼びかけ人。2019年初冬、演劇ウンゲツィーファ『さなぎ』に俳優として出演。少年性と女性性の間を行き交う歌声が、日常を激情に寄せてくる。
松井文『顔』を聴く(Apple Musicはこちら

夜久:シンガーソングライターってひとりで完結してナンボみたいなところがあるし、(松井から)声がかかるまで誰かと一緒にやろうと考えたこともなかった。ずっとひとりでやるもんだと思ってたし。でも、だからこそ新鮮だったし、ワクワクしたんですよ。

折坂:レーベルにしてもユニットにしても、イメージが固まっているものに自分が入るというのは当時から抵抗がありました。でも、一緒にライブをやってすごくインパクトがあった松井さんから声をかけてもらったこと自体が嬉しかったし、一緒にゼロから作っていけるんじゃないかと思ったんです。

折坂悠太(おりさか ゆうた)
平成元年、鳥取県生まれのシンガーソングライター。幼少期をロシアやイランで過ごし、帰国後は千葉県に移る。2013年よりギター弾き語りでライヴ活動を開始。独特の歌唱法にして、ブルーズ、民族音楽、ジャズなどにも通じたセンスを持ち合わせながら、それをポップスとして消化した稀有なシンガー。

三者三様の歌の形。「フォーク」という言葉の解釈をめぐって

―3人とも「フォークシンガー」と紹介されることも多いですよね。そう呼ばれることについてはどう思いますか。

松井:それは私のせいだと思うんです(笑)。高田渡さんや中川五郎さんが好きだから、その印象が強いんだと思う。彼ら(折坂と夜久)の音楽は必ずしもフォークという感じじゃないから。

折坂:僕は自分がやっていることに名前をつけてもらえるんだったらつけてもらいたいと思ってたし、それが「フォーク」でも全然問題ないと思っていました。3人がやっていることをわかりやすく伝えるのであれば、そういう言葉も必要なんじゃないかなって。

夜久:僕は最初からイヤでした(笑)。イメージでそう呼ばれているんだろうけど、違和感があった。

夜久一(やく はじめ)
サニーサイドビレッジ出身のシンガーソングライター。主にアコーステッィクの弾き語り。2019年よりエレキギターに目覚める。2016年、AZUMI監修のもと、1stアルバム『やく』を全国リリース。定期的にカセットテーブでのレコーディングを行い、2017年はカセットを計7本、CD-Rを3枚を自主で発表。年間約150本、ライブを行いながら精力的に全国へと旅を続ける流れ芸人。関東の最終兵器とも呼ばれる。

「松井さんと夜久さんと出会って、『これが本当のフォークなのかも』と思った」(折坂)

―それはどういう違和感なんですか?

夜久:日本でいうフォークって「四畳半フォーク」的なイメージに限定されがちだけど、アメリカの人たちにとってはもう少し根が深い音楽じゃないですか。

―もともとは、アメリカの生活のなかで歌われてきた労働歌や民謡を掘り起こす発掘作業と繋がっていたわけですしね。

夜久:そうですね。そういうフォークロアは僕もやりたいと思っていました。もちろん日本のフォーク歌手の人たちも最初はそういうことをやろうとしてたんだけど……四畳半フォーク的なイメージには僕らも囚われたくなくて。

折坂:そこについて僕は野心があるんですよ。フォークミュージックって要は「伝承されてきた音楽・歌」ということだと思うんですけど、過去のものから何らかの影響を受けて作られているという意味では、すべての歌はフォークミュージックとも言えるんじゃないかと思っていて。松井さんと夜久さんと出会って、「これが本当のフォークなのかも」と思ったんですよ。

―「民衆・民俗の歌」としてのフォークソングという感覚?

折坂:そうですね。自分たちが追い求めている歌が何かといえば、そういうものだと思う。最初、松井さんと夜久さんは僕とちょっと別のフィールド、それこそブルース色の濃いところで活動してたんですけど、松井さんが僕と夜久さんを引き合わせたんです。意識的なのか無意識なのかわからないけど、松井さんはそういう部分での共通性を見ていたのかなと思っていて。

松井:いや、そこまで考えてなかった(笑)。フォークミュージックと呼ばれるものが好きなのも、「フォークとは何ぞや」というふうに頭で考える以前に、大きな括りの「歌モノ」として聴いていたんですよ。「生活に密着した歌」という感覚。その点でいえばブルースも一緒だと思うんだけど。

「歌を歌っている人間として、絶対どこかに相容れないものがある。でも、長く一緒にいると、どこかに共鳴する部分が見えてくる」(折坂)

―その他に3人で共有している感覚があるとすれば、どういうものでしょうか。

折坂:歌に対する感覚が似ている気もしますね。たとえば3人で「あの人は歌がうまいね」という話をするとき、あまり話がズレることがないんですよ。「何が歌か」という感覚が近いんだと思う。

松井:そこは確かに一致しますね。他の細かいところ、タイトルとかは全然決まらないけど(笑)。

折坂:3人のなかでいえば、僕がバリバリに理詰めで、感覚の部分では夜久さんが真ん中にいる。だから、自分の作品を作るときとは全然違う感覚なんです。

のろしレコード『OOPTH』を聴く(Apple Musicはこちら

―折坂さんはここ最近、butajiさん、青葉市子さん、イ・ランとツーマンの弾き語りツアーをやったりと、シンガーとの共同作業を重視していますが、そうした活動と「のろしレコード」の活動は繋がっている感覚なのでしょうか。

折坂:それはあります。シンガーソングライター同士のコミュニティーって親戚関係に近いんじゃないかと思っているんですよ。友達って少しイヤなことがあると、パッと離れることもあるじゃないですか。この3人もそうなんですけど、あとの2人のことを全肯定しているわけじゃないんです(笑)。

歌を歌っている人間として、絶対どこかに相容れないものがある。でも、長く一緒にいると、どこかに共鳴する部分が見えてくる。歌を歌っている者同士の間には、そういう距離感がある気がしていて。それが親戚関係に近い感じがして、心地いいんです。

―他者をどう受け入れていくかという、社会そのもののあり方にも通じる話ですね。

折坂:自分のなかにあるシンガー同士の関係性の理想像が、社会に求めるものと近いのかもしれない。それこそ先日の『全感覚祭』が象徴していると思うんですよ。GEZANはそういう感覚を持っていると思うし。

折坂悠太が松井文、夜久一を「マジの芸術家」と評する理由

―今の折坂さんの話を聞きながら、僕も『全感覚祭』のことを考えていました。「他者とどう共存していくか」という話であると同時に、ひとつの繋がりやコミュニティーが何かに飲み込まれることなく、独立してそこに存在していること、それを主張することが社会に対する異議申し立てにもなる。そういうことを『全感覚祭』で感じたんですが、「のろしレコード」にもそれと同じ感覚を感じるんです。

松井:『全感覚祭』は私も行ったんですけど、すごいなと思いました。私はGEZANの企画イベントをやっていた大阪のライブハウスで働いていたことがあって。メンバー自身でライブの前日にやってきて、仕込みをやっていたんですよ。自分たちで音楽の場を作っている姿を見て、この人たちすごいなって。

折坂:『全感覚祭』は台風で当初の野外会場が使えなくなって、渋谷でやることになったわけですけど、入場規制がかかって会場に入れなかった人がたくさんいたじゃないですか。会場の外に広がっていた混沌をどれだけ受け止められるか問われた気もするんですよ。

「のろしレコード」も普通の感覚でいえば全然うまくいってなくて、明確な意思や目標があるわけでもないし、「がんばっていこうぜ!」と気合いが入ってるわけでもなく、何となくやってる。ただ、ちゃんと格好いいことをやりたいんですよ。まったく違う3人がこうやって集まることに熱いものを感じているし、豊かなことだとも思っていて。

―社会の渦に巻き込まれず、そこに抗いながら立ち続けるということでもありますよね。

折坂:僕にはそういう感覚があるけど、2人はちょっと違うと思う。フォークやブルースって、今、目に見えている世界をそのまま歌いますよね。たとえば、誰にいくら貸して、誰が死んで、あいつは結婚してしまったという。世界の成り立ちをそのまま歌っているわけで、「こういう世界になってほしい」という願望に近い視点はそこには入っていない。そうやって作為なく世界の姿を描けば描くほど、結果的にその歌がレベルミュージックとしての力を持つこともあると思うんですね。

折坂:僕が2人のライブを初めて観たとき感じたのは、作為がない歌ということだったんですよ。「こういうふうに歌ってやろう」という意識が見えなくて、歌っている人そのものが鳴っている感じ。

『たむけ』(2016年)は、2人と出会ったことをきっかけに作ったんです。あのアルバムは状況描写に軸を置いているんですけど、その点に関していえば2人の影響がすごく大きかった。世界のことをドライに描くことで、一番エモーショナルな音楽ができるんじゃないか、あのアルバムではそういうことを考えていました。

折坂悠太『たむけ』を聴く(Apple Musicはこちら

「歌も生活の一部だし、意識せずとも生活を歌っているんだと思う」(松井)

―新作のリード曲“コールド・スリープ”は今回のために折坂さんが書き下ろした曲ですが、“コールド・スリープ”というのはSFで出てくる言葉ですよね。タイムトラベルの手段としての冷凍睡眠という。

折坂:『OOPTH』というアルバムタイトルは新宿の公園で話し合ってつけたんですけど、フォークやブルースの持つ古い雰囲気とは真逆のタイトルをつけたくて、SF用語から取ったんですよ。アルバムタイトルを調べるなかで「コールド・スリープ」という言葉も知って、そこから曲を作りはじめたんです。

夜久:僕は初めて聴いたとき、面白い歌だなと思いました。悠太くんが書いた歌だから、生活に密着しているんだろうなと思ったし、SFなんだけど、生活のことを歌ってるんじゃないかって。そのなかに昔からみんなが思い描いていた希望もある。

―「生活に密着した歌」というのは、ここまでの話でも何度も出てきた言葉でもありますね。

折坂:起源を遡れば、「歌」って鑑賞のために生まれたんじゃなくて、生活や信仰のなかで生まれたわけですよね。生きること、生活することに一番近い表現が歌だと思っていて。時代によって音色やコードは違うけど、本質はそこにあって、それが僕らの考える「フォークミュージック」なんです。

夜久:自分の場合、社会に対して何かを歌うことはないけど、身の回りの小さいところからやれたらいいなと思っていて。あまり大きなことを言わずに。

松井:私は「歌いたいことがあって歌っている」というより、ただ「歌いたいから歌っている」という感覚のほうが強いんです。歌も生活の一部だし、意識せずとも生活を歌っているんだと思う。

折坂:でも、より社会に近いのは松井さんと夜久さんのほうなんですよ。僕は大きいことを歌いがちなんだけど、2人が話している日常のことのほうがよっぽど社会的だと思う。どういう人と会って、友達がどういう経験をしたか。俯瞰した視線から歌っているんじゃなくて、社会のなかで歌っている。そういう生活の実感のあるシンガーってあまり多くないと思うし、それは初めて会ったときにも感じたんですね。「この人たちはリアルなシンガーだ」って。

「僕は3人でキンチョールのCMに出たいんですよ」(夜久)

―だんだん3人の関係性が見えてきました。

折坂:僕はレーベルをやっていくうえで「今後どうやっていきたいの?」と考えるんだけど、歌うことの本質ってそういうことじゃないんですよね。歌って本来歌った時点で完結しているもので、その段階で目的を達成している。2人がやっているのはまさにそういうことであって、それって2人がマジの芸術家ということだとも思うんです。だからこそ他の人にないすごみがあると思うし、広く届くべきだと考えていて。だから僕は、「のろしレコード」においてはキュレーターみたいな感覚もあるんですよ。「この人、すごいでしょ?」という(笑)。

―「のろしレコード」は今後、どういった場所になっていくのでしょうか?

松井:私は自分のアルバムを作りたいと思っています。それぞれにやりたいことをやればいいんじゃないかな(笑)。

折坂:「のろしレコード」がやっていることが「歌研究会」だとすれば、それぞれの場所で自分の歌を深めていって、また集まったときにそれを持ち寄れればと思っています。利害や後ろ盾もなく、自分たちの思う「いい歌」をやり続けることが一番いいと思うんです。昨日も松井さんに「俳優やりなよ」とずっと言ってたんですけど。

松井:俳優、やりたいですね。今年は「ウンゲツィーファ」(本橋龍による演劇ユニット)という劇団の舞台にも出させてもらって。長期間同じメンバーで稽古して、本番はそれを再現するわけですけど、自分にとっても初めての体験で。私は喋るのが苦手なんですけど、舞台は話しているうちに本当に自分が経験したことみたいな気持ちになってくる。その感覚がすごく面白くて。

―夜久さんは今後の「のろしレコード」の活動について、いかがですか。

夜久:僕は3人でキンチョールのCMに出たいんですよ。

折坂:それ、ずっと言ってるよね(笑)。

夜久:昔からキンチョールのCMが好きで、3人で踊ったら楽しいんじゃないかと思っていて。それを経て、アメリカツアーをやりたい(笑)。

リリース情報
のろしレコード
『OOPTH』(CD)

2019年10月30日(水)発売
価格:2,500円(税抜)
NORO-005

1. コールドスリープ
2. チャイナガール
3. よるべ
4. さなぎ
5. 深い河
6. OOPTH
7. 道
8. ダイジョーブ

イベント情報
『のろしレコード リリース・ツアー』

2019年11月2日(土)
会場:大阪府 GANZ toi, toi, toi
ゲスト:金森幸介

2019年11月3日(日)
会場:京都府 UrBANGUILD
オープニングアクト:浪漫革命

2019年11月4日(月・祝)
会場:愛知県 名古屋 ブラジルコーヒー

2019年12月15日(日)、12月16日(月)
会場:東京都 晴れたら空に豆まいて

料金:各公演 前売3,300円(ドリンク別)

プロフィール
のろしレコード
のろしレコード

シンガーソングライター松井文、夜久一、折坂悠太によるレーベル。日本や世界のルーツミュージックを独自に咀嚼し、うたを追いかける旅人たち。それぞれ違った形の個性が集いこの時代ののろしを上げている。2018 年冬に行われたイベント「ことびらき」より、ハラナツコ(Sax)、宮坂洋生(コントラバス)、あだち麗三郎(Dr)をしたがえた「のろしレコードと悪魔のいけにえ」にも注目が集まる。



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