椿昇×松倉早星 反逆のアートフェアが描こうとする京都の未来図

アーティストが作品の前に立ち、購入者と、直接作品について話し合い、購入のための交渉を行う。『ARTISTS' FAIR KYOTO 2020』は、アーティストが主導する、国際的にも稀な仕組みを実施しているアートフェアだ。

開催地となる京都は、この数年で世界有数の観光都市となったが、いっぽうで乱開発やオーバーツーリズムの問題も膨らんできている。歴史と文化の根付く街のなかで、アートに関わるとはどんなことなのか? 今後、どのような未来図を描くことができるのか? 『ARTISTS' FAIR KYOTO 2020』ディレクターを務めるアーティスト・椿昇に加え、『ARTISTS' FAIR KYOTO 2020』のアートディレクターを担当する松倉早星、そして今回の出品作家である前田紗希、黒川岳の4名に話を聞いた。

京都が面白いのは、小さな街のなかにすごい変な人たちがうじゃうじゃいて、過密にごちゃまぜになってるところ。(松倉)

―松倉さんは、『ARTISTS' FAIR KYOTO』(以下、『AFK』)の初回からアートディレクションを担当してらっしゃいます。どのような経緯でプロジェクトはスタートしたのでしょうか?

松倉:「『AFK』ってものを始めるんだけど、やらない?」って、椿さんから相談を受けたのが最初です。椿さんのアナーキーで怒りのあるモチベーションが、以前から好きだったんですよ。だから、その感覚をそのままグラフィックにしたら面白いと思いました。

小綺麗に収まらずに、この先に何が起こるかわからない、いままでにない状況を作れるものにしようと。ロゴなどのデザインは、グラフィックデザイナーの三重野龍くんと一緒にやっているんですけど、「こんなデザインにして」とか「こんな世界観を作って」みたいな振り方は極力避けて、反逆感を出すことを大事にしました。

椿:反逆感が僕のイメージ(笑)。たしかにね。

左から:松倉早星、椿昇

2020年2月29日(土)、3月1日(日)開催『ARTISTS' FAIR KYOTO 2020』
2020年2月29日(土)、3月1日(日)開催『ARTISTS' FAIR KYOTO 2020』(サイトを見る

―その反逆って、何に対するものなんだと思いますか?

松倉:たとえば海外のアートフェアをいくつか見てますけど、すごくきれいにショーケース化されていて、だんだん飽きてくる。一方、京都が面白いのは、この小さな街のなかにすごい変な人たちがうじゃうじゃいて、過密にごちゃまぜになってるところ。『AFK』もそれを体現するべきだと思ったんです。反逆感というのは、そういう部分なのかなと。

それで毛細血管を血が逆流する状態をスキャンしたデータで、ロゴは作ったんですね。つまり反逆=逆流、という(笑)。

松倉早星
1983年北海道富良野生まれ。立命館大学産業社会学部卒業。東京・京都の制作プロダクションを経て、2011年末ovaqe inc.を設立。2017年7月より、プランニング、リサーチ、クリエイティブに特化したNue inc設立。代表取締役就任。これまで領域を問わないコミュニケーション設計、プランニング、戦略設計を展開し、国内外のデザイン・広告賞受賞多数。

椿:整然としたものを作れるデザイナーはたくさんいるんですよ。でも、それって今の現代美術と同じで、手筋が先に読めてぜんぜん面白くない。コンテクストが先にあるのがわかるし、ありきたりな合理性に縛られていて退屈。だからそれを外しながら、基本がきっちりできている人にお願いしたい、と思ってお声がけしたんです。

椿昇
京都造形芸術大学芸術学部美術工芸学科教授。アメリカ同時多発テロ事件をきっかけとした「UN APPLICATION PROJECT」、東日本大震災復興のための「VITAL FOOT PROJECT」など、時勢を受け、様々なプロジェクトを展開してきた。長年にわたってアート教育にも携わり、京都造形芸術大学美術工芸学科の卒展をアートフェア化、内需マーケット育成のためにアルトテックを創設。アートを持続可能社会実現のイノベーションツールと位置づけている。

『AFK』や京都造形芸術大学でやってることは長い道のりの一部にすぎない。(椿)

―現状は、退屈なものが散見される、と。

椿:基本がなってない仕事が世の中多すぎる。お茶の世界がきちんと大成してるのは、千利休がやったような基本が現在にまできちんと共有されていて、かつそれを崩そうという暴れる知性があるからでしょう。これができている人、今は本当に少ない。

―そういった不満は『AFK』をやるモチベーションにもつながっていそうですね。過去のインタビューでも、椿さんはアートやそれを取り巻く状況について、かなり辛口に語っています。

椿:アートに限らず社会支援を行うことが一種の流行になっているけれど、たいがいの金持ちは「いや、俺はパトロン的な活動に憧れているんだよねー」くらいでとどまっている。それじゃあダメでしょう。

やっぱり教養が身体化していないとダメだと思う。付け焼き刃な勉強だけでは、生まれたときからたくさんの蔵書やご先祖から何代にもわたって連綿と伝わる文化に囲まれて育ってきた海外のコレクターにはかなわない。

『ARTISTS' FAIR KYOTO 2019』会場風景 撮影:前端紗季
『ARTISTS' FAIR KYOTO 2019』会場風景 撮影:前端紗季

『ARTISTS' FAIR KYOTO 2019』会場風景 撮影:前端紗季
『ARTISTS' FAIR KYOTO 2019』会場風景 撮影:前端紗季

椿:かつての日本では身体化した教養を持っていた人たちがいたけれど、第二次世界大戦で失われてしまった。それをもう一度つなぎ直すには300年はかかると思う。だから『AFK』や、僕が教えている京都造形芸術大学でやってることはものすごく長い道のりの一部にすぎない。

松倉:そう考えると簡単に妥協できない、ってところはありますよね。今回もインビテーション(招待状)が刷り上がってきたんですけど、イメージしたものと違っていたので、さっそく刷り直すことになりました(苦笑)。

椿:3回目ともなるとね。『AFK』の象徴みたいになってるドットアーキテクツ設計の単管パイプの空間も、初回に比べて前回はがっちり作りすぎて全然揺れなくなってた。

『ARTISTS' FAIR KYOTO 2019』会場風景 会場デザイン:dot architects(ドットアーキテクツ) 撮影:前端紗季
『ARTISTS' FAIR KYOTO 2019』会場風景 会場デザイン:dot architects(ドットアーキテクツ) 撮影:前端紗季

松倉:さすがの仕事でしたよね。

椿:でもあまりに安定しすぎても反逆感が薄れちゃうので困る(笑)。だから「無理やり3階を作って揺り戻そう!」とかそんな話ばっかりしてるね。

不安なのは、このペースでやっていくと、どこかで面白いアーティストが枯渇するんじゃないかってことです。(松倉)

―そういった風に、既存の状況に対して「それで正しいのか?」とつねに疑問を投げかけることが、椿さんのディレクションと作品の特徴という印象があります。

椿:言語化できない塩梅や感性を大事にしたい。アートってそれで成り立ってるんだからね。アートは、最高の非言語のコミュニケーションツールだから。全部を言葉で説明できないからこそ、コレクターは作品を買っちゃうんですよ。でも、今のアートシーンって「こういうのが見れますよー。こういうことを言ってるんですよー」っていうタイプの展覧会ばっかりじゃないですか。

―入場料に見合った満足を提供するような、品質保証感のある展覧会は増えていますね。それらはけっしてレベルが低いわけではないですし、お金がかかっているだけあって満足度も高い。でも、あらかじめ与えられるものがわかっていて観に行くのであればエンターテイメント作品で十分というか……。

椿:それは世界中で起こっている現象で、知っているもの、記号化されたものだけが好まれて売れていく。でも、記号化できない、言語化できない、説明できない、写真に撮っても「映え」もしない。そういう隙間にあるようなものこそが本当は人の心を動かすってことを知らなければいけないですよ。

だからコレクターには「他の人が買っている流行のものを俺は買わない」とか「誰も買わないものを俺は買う」とか、そういうマインドを持ってアートに向き合ってほしいね。

松倉:やっぱり反逆(笑)。

『ARTISTS' FAIR KYOTO 2019』会場風景 撮影:前端紗季
『ARTISTS' FAIR KYOTO 2019』会場風景 撮影:前端紗季

椿:『AFK』が大事にしてることがまさにそれだから。リベラルアーツの教養を基盤にして、どのように作品を見るか、知るかってことをセットにしてコレクターや観客に説得工作でアタックしている感じ。

言ってみれば、現代の牢獄からの「人質救出作戦」! みんなが草間(彌生)さんや奈良(美智)さんの作品を欲しがる状況から、富裕層を楽器ケースに入れて逃亡させるわけ!

―タイムリーなネタ(苦笑)。

松倉:広告の世界もどんどんそうなってますよ。僕はもともとそこにいたからなおさら思うんですけど、「消費すること」自体を商品にして売っているのは好きじゃないんです。

それに対して、『AFK』は毎年必ず「こいつすごいな! でもアートがなかったら、この人どうなっちゃうんだろう」みたいな若い作家が現れるのでワクワクするし、自分の好奇心も更新されていく感じがあります。ただ不安なのは、このペースでやっていくと、どこかで面白いアーティストが枯渇するんじゃないかってことです。

椿:同じ心配をしてるよ。ただ、今年の『AFK』の動向を見ていると新しい動きを感じるね。昨年から始めた公募枠の倍率が前年比で2倍くらいになっていて、中堅のメジャーな作家もエントリーするようになっている。

しかも海外……中東のアーティストからも問い合わせが来ている。この動きを見ていると来年以降は、もっと公募の枠を広げてよりコンペ的な性格のものにしていってもいいなと思っています。

―そこも『AFK』の独自性かもしれないです。会期中はアーティスト自身が購入者と直接話し合うシステムになっているから、アーティストが自主性を持ちやすい環境だと言えます。ふつうのアートフェアはギャラリーやキュレーターが主導するかたちですから。

椿:つまり、上からではなく基盤であるアーティストからの国際化。ボトムアップの国際化だね。3回目の開催を控えているこの時期に未来のことを言っちゃうんだけど、将来的には資金を獲得してウェブでの販売システムを作りたい。

松倉:それは最初から話し合っていましたよね。本当に作りたい。

椿:ネットで作品を購入するシステムはすでにあるけれど、便利さに与しないものを実現したいね。例えば、ペルセウス流星群が出ている3時間だけオープンしてゲットできるとか。そういうイベント性を持たせるとマーケット的にもめっちゃ盛り上がるだろうし、買う側にしても次の開催時期を知るためには天体観測表で調べる必要がある(笑)。

松倉:アートとはまた別の知識も持たないと買えない(笑)。でも、そういう風に誰もが自分で知恵と技術を持って生きていく時代になっていくべきだ、っていう感覚は強くありますね。

『ARTISTS' FAIR KYOTO 2019』会場風景 撮影:前端紗季
『ARTISTS' FAIR KYOTO 2019』会場風景 撮影:前端紗季

頑固さと根性はアーティストにとって重要なんです。逆に器用になんでもできる子はほとんど大成しない。(椿)

―出品作家であるお二人からも話を聞きたいと思います。どういう経緯で今回参加することになったのでしょうか?『AFK』は、若手アーティストを、中堅以上の作家が推薦するアドバイザリーボードのシステムを採用していますね。

前田:私はもともと京都造形芸術大学の学生で、椿さんからの推薦です。

前田紗希
1993年福井県生まれ。2015年京都造形芸術大学美術工芸学科油画コース卒業。作家が日常の中で感じ取る、物事の相対性や対比がトライアングルのフォルムとして画面に現れる。トライアングルは「隣り合うものによって答えが変わり、決して交わりはしない」という万物とその関係性の根本を主張する。

椿:前田さんは学部の卒業制作で学長賞を獲っているんですけど、当時、完全なダークホースだったんですよ。在籍していた美術工芸学科ではそれまでまったく注目されてなくて。

前田:選ばれたのはすごく意外でした。実際、自分の絵は良いと思ってたんですけど、学生のときはぜんぜん評価されてなくて(苦笑)。だから認められたことで自信が確固たるものに変わったというか。

前田紗希『19_14』

松倉:よかった!

前田:制作って孤独な作業ですし、安定してお金がもらえるわけでもないから精神的にかなりしんどいんです。そこで認めてくれる人が現れたのは素直に嬉しかったですね。

椿:僕らは獰猛なハイエナだから、すぐによさに気づくのよ。「これ早く食わな!」って(笑)。彼女は大学院には進まず、一度は地元にも帰って、就職しながら描いているんだけど、そういう頑固さと根性はアーティストにとって重要なんです。

逆に器用になんでもできる子はほとんど大成しない。前田さんのように、厳しい環境に身を起きつつ、作品に関しても「三角形」という限定的なモチーフを展開するなんて、ストイックで体力がなければできないこと。僕は飽き性だから絶対に無理!

前田:(笑)絵を描くのってすごく体力いりますからね。

アートや音楽のフィールドを利用して、自分のやりたいことをいかに広げていけるか。(黒川)

―黒川さんは誰からの推薦で?

黒川:自分は金氏(徹平)さんから話をいただきました。前田さんがおっしゃった体力については、彫刻をやっているので自分にも思い当たるところが多くあります。もともとは音楽をやっていたのですが、音と彫刻の接点を感じて、京都市立芸術大学の大学院美術研究科の彫刻専攻に入学しました。

黒川岳
1994年島根県生まれ。2016年東京藝術大学音楽学部音楽環境創造科卒業、2018年京都市立芸術大学大学院美術研究科修士課程彫刻専攻修了。自身が出会った様々なものの音や形、動きを注視し、それらを自らの身体で捉えようとする行為を繰り返す中で生まれる形や音、動きなどをパフォーマンスや立体、映像、プロジェクトなど様々な形式で発表している。

黒川:それまでせいぜい楽器を弾くレベルの話だったのが、彫刻は石を彫るとか、2トンの石を吊るとか、めちゃくちゃフィジカル(苦笑)。でも、それが自分のやりたいことには必要でしたから、色々な技術も習得しながら今に至るという感じです。

―音楽から彫刻に移るというのは、すごい転身ですね。

黒川:学部時代に所属していた専攻が、演劇や美術、社会学、人類学などと一緒に、複合的に音や表現を考えるというものだったんです。そこでは作品を作る人もいれば、場を作る人もいて、もともと横断的だった。ですから、アートや音楽そのものをやりたいというよりも、それらのフィールドを利用して、自分のやりたいことをいかに広げていけるか、が自分にとってのテーマでもあるんです。

黒川岳『listening to stone』

椿:僕もまったく同じなので共感します。プラットフォームを作りたいのであって、アートをやりたいわけじゃない。そしてアートをプラットフォームとして見ると、あちこちに隙間があって、それを利用してやれることってたくさんあるんだよ。京都市芸で教えている金氏さんも、そういった表現のフィールドの広さを視野に入れながら、そのハブになるような活動を自分でもしている。それはとても重要なこと。

黒川:関西は異なるフィールドの人の間の活発な交流があっていいなと思います。音楽なのか美術なのか判断つかないような表現がある。そして、だいたいどうやって暮らしているのかわからない人がたくさんいる(笑)。そういうところがすごくいいですね。

過密さを嫌って外に流れていったもの、弾き出されたものから、ディープでこだわりの強い表現がたくさん現れるはず。(松倉)

―京都にはワン&オンリーなミュージシャンを多数輩出してきた歴史がありますよね。いっぽう、最近の京都は再開発が進んで、どんどん均一化していっている印象もあります。

松倉:狭い街ですからね。観光や商業を目的にすると中心部はどんどん過密になっていって、京都なのにまるで渋谷みたいな状態になっていっている……というのが今なんだと思います。そういう状態から面白いものが出てくるかというと、なかなかそうはいかないんですよね。

むしろそういう過密さを嫌って外に流れていったもの、弾き出されたものから、ディープでこだわりの強い表現がたくさん現れるはず。空間現代ってバンドがやっているスペース「外」とか、とっても京都らしい。それから、そういう中心からちょっと離れたところ歩いていると、エリアごとにまったく違う特徴があるのにも気付きますね。

空間現代によるスタジオ、ライブハウス「外」

―左京区は学生やカルチャーの街という感じがありますし、上京の西陣なんかは職人の街という感じで。それぞれの場所にそれぞれの息吹がある。今日の取材場所である京都造形芸術大学にしても、山にへばりつくように建っていて独特な空気があります。

椿:創立者が追われてたどりついたのが瓜生山で、そこで大学を作ったらしいですよ(笑)。

―そういった意外な原点にも、反逆の精神が。

椿:ちょうど先日、京都精華大学の学長、ウスビ・サコさんと鼎談したんだけど、精華大は学長選挙のシステムも独特で、教員と職員と学生の投票で決まるんです。そんな大学聞いたことない。

彼は西アフリカのマリ共和国出身だから、マリのバンバラ語はもちろん、関西弁、中国語、英語、フランス語を操るきわめてグローカル(グローバル+ローカル)な人。そういう人物を、大学全体の総意で学長に選ぶんです。

そういう多様性が京都にはあると思うし、個々のクオリティーも高い。そういった表面にはなかなか見えてこないところに面白さと深さが、京都にはある。もちろん、よく言われるように京都人はいじわるで性格が悪いけども、そういう陰の部分もなければ京都ではないよ。「いけず」と言われつつ、意外と寛容で懐深いところもあるしね。

松倉:他の人が何やってるかけっこうわかるんですよね、京都って。飲み屋でベロベロに酔っ払ってる初対面の2人がじつはアーティスト同士だったり研究者同士だったりして、そこから「何かやろうか!」って盛り上がったりする。

そういうことを踏まえて考えると、この数年続いてきたホテルの建設ラッシュが下火になりつつある今こそ、面白いことが起こる気がします。何かするときは一緒にやるけれど、同時に他と違うことでなければやる気が起きないのが京都らしいところ。

前田:京都って塩梅が良いんですよ。歴史と文化のある街でありながら、だからといって新しい情報に遅れているわけでもない。

自分のやりたいように活動したり休んだりできるのがありがたい。この数年で観光客が激増して、これまでの環境が保たれていくのか不安もありますが。

黒川:大きな動きが続いていますよね。でも、そういう外からの目線を僕ら若い世代は妙に気にしすぎている気もします。

それに合わせて作品も、それを扱うギャラリーも、「売れそうな」方へと傾斜してきているかもしれない。京都が本来持っている感じと方向性が違うんじゃないか? という思いはあります。

若いアーティストは、年齢的にも近いコレクターと一緒に育っていって欲しいんです。同世代が共感して評価するものを作る。(椿)

―そういった状況を踏まえて、『AFK』は今後どんな展望を持っていけるでしょうか?

椿:僕はエコシステム(生態系)を作るための1つのパーツとして『AFK』を位置付けているんですよ。日本のアートって、時代ごとの偶然でたまたま海外キュレーターにピックアップされた1~2人の日本人アーティストを待望するようなところがいまだにある。

けれど、そんな彗星が落ちてくる確率に依存し続けても仕方ない。ローカルなところから作家が常に育っていける環境を作らなければダメ。

―『AFK』とほぼ同時期に椿さんが始めたのが「アルトテック」です。京都造形芸術大学のキャンパス内にありながら、他大学や専門学校出身の作家の作品を扱うビューイングルームやマネージメントオフィスのような役割も担っていると聞きました。とても特殊な場所だと思います。

椿:「特殊なところにしてくれ」って大学にお願いしたんですよ。だから、窓のすぐ外にお墓がある(笑)。この場所を薦められたとき「こんな端っこで申し訳ないんですが……」と、めちゃくちゃ恐縮されたんだけど、僕は端っこが大好きだから。お墓の横は風水的にも最高。

椿:この数年で、大学の卒業制作展にたくさんのコレクターや企業の人が来るようになったんですよ。それがどんどん加熱して、最近は卒制を制作中のスタジオにやってきて、絵の具が乾く前に「これ完成したら買うから」なんて人までいる。

そんな状況の中で、年間通して常に作品が観られる場所がなかったから、それを作りたかったんです。当初はビューイングルームと作品を置いておくストレージ(倉庫)として作ったんだけど、いつのまにか大学側が「大学院所属のコマーシャルギャラリー(作家と契約して作品を展示販売するギャラリー)です」と言っていて、僕らも「ええっ!?」って思っています。

―それだけ多くの人がやって来るからですよね。コレクターにしても、アートに関心を持ち始めた企業にしても。

椿:この時代のなかで、同じようなことを考えている人っていっぱいいるんですよ。だから場所と機会があればどんどんつながっていく。昔だったら高級車をコレクションするのがステータスだったけれど、いまはアートをコレクションしたい、若いアーティストを支援したいというマインドがいろんなところで渦巻いている。

これまでは70~80代の人が百貨店で美術品を買うという時代だったけれど、そういう世界はあと10年でなくなる。だから僕らが相手をしないといけないのは、30~40代の、自分でジャッジすることのできる若い経営者たちなんです。

年齢的にも近い、同じ時代を見てきたコレクターと一緒に、若いアーティストたちに育っていって欲しいんです。上の世代の評価に一喜一憂するのではなくて、同世代が共感して評価するものを作る。それが僕の徹底した思想。

松倉:そう考えると、『AFK』ロゴの逆流する血管のイメージは当たっていたのかもしれないですね。アートのインフラに新しい血管を通す、ということだから。

椿:どんぴしゃだったね。今回は会場も公募の人数も増えて規模は大きくなっていて、初回のようなインパクトのある何かを初めて仕掛ける感じではないかもしれない。でもさっき話したウェブ構想のように、次の何かを仕掛ける準備は着々としていて、継続性と恒常性のトライアルをするための可能性を示すようなものになると思っています。彗星のように現れては消えるものではなくて、続けるための戦略を見定めているところです。

イベント情報
『ARTISTS' FAIR KYOTO 2020』

2020年2月29日(土)、3月1日(日)
会場:京都府 烏丸御池 京都府京都文化博物館 別館、丸太町 京都新聞ビル 地下1階
時間:11:00~18:00

プロフィール
椿昇 (つばき のぼる)

京都造形芸術大学芸術学部美術工芸学科教授。アメリカ同時多発テロ事件をきっかけとした「UN APPLICATION PROJECT」、東日本大震災復興のための「VITAL FOOT PROJECT」など、時勢を受け、様々なプロジェクトを展開してきた。長年にわたってアート教育にも携わり、京都造形芸術大学美術工芸学科の卒展をアートフェア化、内需マーケット育成のためにアルトテックを創設。アートを持続可能社会実現のイノベーションツールと位置づけている。

松倉早星 (まつくら すばる)

1983年北海道富良野生まれ。立命館大学産業社会学部卒業。東京・京都の制作プロダクションを経て、2011年末ovaqe inc.を設立。2017年7月より、プランニング、リサーチ、クリエイティブに特化したNue inc設立。代表取締役就任。これまで領域を問わないコミュニケーション設計、プランニング、戦略設計を展開し、国内外のデザイン・広告賞受賞多数。

前田紗希 (まえだ さき)

1993年福井県生まれ。2015年京都造形芸術大学美術工芸学科油画コース卒業。個展に2017年『DUAL BLUE』(GALLERY TOMO ITALY,MAG / イタリア)、2019年(GALLERY TOMO / 京都)、2018年『アートフェア東京』(MISA SHIN GALLERY)等出展多数。作家が日常の中で感じ取る、物事の相対性や対比がトライアングルのフォルムとして画面に現れる。トライアングルは「隣り合うものによって答えが変わり、決して交わりはしない」という万物とその関係性の根本を主張する。

黒川岳 (くろかわ がく)

1994年島根県生まれ。2016年東京藝術大学音楽学部音楽環境創造科卒業、2018年京都市立芸術大学大学院美術研究科修士課程彫刻専攻修了。自身が出会った様々なものの音や形、動きを注視し、それらを自らの身体で捉えようとする行為を繰り返す中で生まれる形や音、動きなどをパフォーマンスや立体、映像、プロジェクトなど様々な形式で発表している。近年は音楽家やダンサー、パフォーマーとのコラボレーションによる作品制作も行う。



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