LINE MUSIC高橋明彦と柴那典が語る、持続可能なアーティスト支援

エンターテイメント業界が大きな打撃を受ける現在。アーティストたちの持続可能な活動にどうリスナー側は貢献できるのか。今回、LINE MUSIC取締役COOの高橋明彦が、音楽ジャーナリストの柴那典と対談。

約6000万の楽曲やMVを、各楽曲につき毎月1回まで広告なしで無料フル再生ができる「独自フリーミアム」モデルをリリースしたLINE MUSIC。そのリリースの背景には、無許諾アプリに対する問題意識があったという。アーティストにしっかりと還元される音楽の聴き方や、ストリーミングの意義とは。正解を語るのが難しいこのタイミングだが、少しでも探っていきたい。

※この取材は東京都の外出自粛要請が発表される前に実施しました。

単に萎縮するだけでなく、どうやって音楽を支援していくかの議論をしたい。(高橋)

―この取材を行っている3月9日現在、お二人は、今のエンターテイメントにまつわる状況をどう見ていますか。

:新型コロナウイルスが世界中で感染拡大している今、正直、楽観的なことや明るいことはいえないタイミングであるのは間違いないと思います。社会全体が非常事態となっていて、音楽業界も、特にライブエンターテイメント業界に大きな逆風が吹いている。ここまでの苦境は過去に例を見ない。

高橋:今は全てが萎縮してストップしてしまっていますね。音楽に限らず広範囲に大きな影響を受けている。その中でも、それぞれがやれることを探っています。LINEというプラットフォームの中でも、状況の変化にあわせて、できることを探している。過去に事例がない状況の中で、対応が問われていると感じます。それぞれの個人ができることは限られるので、社会やプラットフォームがサポートする流れを作っていかないといけないと思います。ただ、出口が見えないのが一番つらいところですね。

左から:柴那典、高橋明彦(LINE MUSIC)

:そうですね。密集した状況で集団感染が生じるのがわかっている現状で、ライブやイベントが中止や延期になるのは仕方がない。しかし、たとえばBAD HOPが横浜アリーナで無観客ライブをやったことで1億円の借金を抱えたように、主催者側がそのことで多額の負債を負ってしまう。経営が成り立たなくなるライブハウス、生計が立たなくなるアーティストや音楽関係者も出てくると思います。僕自身、いくつかのイベントがキャンセルになって、仕事は減っています。ライブハウスの苦境もとても心苦しい。ただ、明確な答えがない状況の中で、こうすれば正解だということをいえるタイミングではない。誰もがそれぞれの立場でどうすればいいのかを探っている。非常時だからこそ価値観が問われる。そういう状況に直面しているんじゃないかと思います。

高橋:ただ、その中でも音楽の話は止めちゃダメだと思うんですね。基本的にはこの問題を真正面から捉えて危機感を共有しようという話はあっていいと思いますし、実際に起きてしまっていることも含めて、厳しい状況であるのは間違いない。でも、そんな中でも単に萎縮するだけでなく、どうやって音楽を支援していくかの議論はすべきだし、我々としても引き続き、議論していきたいと思います。

高橋明彦(たかはし あきひこ)
LINE MUSIC取締役COO。2000年ヤフー株式会社入社。その後、リクルートを経て、2011年にネイバージャパン(現:LINE株式会社)へ。新規事業を担当する事業戦略室に所属し、LINEスタンプの立ち上げを経て、2013年より音楽事業を担当。2014年のLINE MUSIC株式会社を設立し、2015年同社取締役に就任、現在に至る。

―そのあたりについて、柴さんはどう思っていますか?

:2011年3月の東日本大震災の直後にサカナクションの山口一郎さんにインタビューしたことがあったんです。あのときも非常事態で、社会全体が揺るがされた。そのときに彼が「自分は音楽の復興を考えたい」といっていたのがとても印象的だった。つまり、飲食や観光などいろんな業界に影響が出ているけれど、やはり音楽やエンターテイメントに携わる人間は、その持っている本来の価値を改めて考えないといけない。ただ、音楽ビジネスを巡る状況は10年前と今とでちょっと違う印象があるんですよね。2011年は「CDが売れない」「この先、音楽業界は真っ暗闇だ」「アーティストはどうやって食っていくのか」みたいなネガティブな論調が支配的だった。対して、今はライブやイベントへの打撃は大きいけれど、音楽ビジネスが構造的な問題を抱えて縮小していくというムードはない。日本ではCDがまだ市場の大半を占めているので音楽ソフト市場全体の推移は横ばいですが、ストリーミングサービスが普及し大きな伸びを見せている。

高橋:そうですね。5年前、10年前と違って、今はポジティブな要素がいくつかある。海外の音楽市場もここ数年で大幅なプラスになっている。今の難局を乗り切れば、再び伸びていく可能性もある。そういうことをベースに話をすることができると思います。

:文化への支援と補償は間違いなく必要になってくると思いますが、長期的な視野で考えると、音楽文化そのものの灯火が消えていくとはまだ思えない。LINE MUSICのようなストリーミングサービスの普及はそう感じさせる一つの希望になっているとは思います。

柴那典(しば とものり)
1976年神奈川県生まれ。ライター、編集者。音楽ジャーナリスト。ロッキング・オン社を経て独立。雑誌、WEB、モバイルなど各方面にて編集とライティングを担当し、音楽やサブカルチャー分野を中心に幅広くインタビュー、記事執筆を手がける。

独自フリーミアムは、広告を入れることによるデメリットを慎重に考えました。(高橋)

―LINE MUSICは今年初頭に無料ユーザーでも全楽曲をフル再生できる「独自フリーミアム」を導入しましたが、反響はいかがでしょうか。

高橋:おかげさまでとても好評をいただいています。誰でも、好きな曲を聴きたいと思ったタイミングで聴くことができる、それぞれの楽曲を月1回ずつなら無料で聴けるというのがLINE MUSICによるフリーミアムのコンセプトだったので。こんなときだからこそ、みんなに好きな曲を聴いて癒やされてほしい。音楽との出会いがあってほしい。そういう意味ではやってよかったなと思います。

:多くの人にとって自宅で過ごす時間が増えたことで、デジタルコンテンツの需要が高まっているというのはあると思います。ただ、それだけでなく、LINE MUSICのフリーミアムのコンセプトが世の中に受け入れられるものになっているという面は大きいんじゃないかとも思います。というのも、正直、最初にニュースを聞いたときに「フリーミアムってこんなやり方があったんだ」と感じたんです。なにより驚いたのは、広告がないということ。やっぱり無料で提供されるコンテンツは広告とセットであるというのが一つの固定観念になっていたので。

―LINE MUSICのフリーミアムに広告を導入しないというのはアイデアの根幹にあったんでしょうか。

高橋:世界的にも無料プランの多くは広告とセットなんですよね。ただ、今回に関しては、我々は広告を入れることによるデメリットを慎重に考えました。それは、ユーザー体験を損なうという意味でのデメリットと、アーティストに受け入れてもらいにくいという意味でのデメリットの2つがある。

つまり広告を入れると今のラインナップ全てを実現するのは難しいんです。かつ我々はオンデマンドを維持したかったんですね。ユーザーが聴きたい曲を聴きたいタイミングで聴けるサービスでないといけない。かつラインナップを維持したい。そこが我々の考えた条件でした。

:他のサービスの無料ユーザープランでは、無料ユーザーは広告つきでシャッフル再生になるものもありますよね。無料プランに提供される楽曲のラインナップを減らしているものもある。

高橋:オンデマンドでラインナップを維持した形でのサービスを実現しようと思うと、広告は入れられないんです。バランスが悪くなってしまう。その中で回数制限というアイデアが浮かびました。それが結果的に月1回ということになった。ここは我々が交渉を頑張ったところです。月が変わったらリフレッシュして1度聴いた曲もまた聴けるので、繰り返しユーザーに来てもらえる。そういう体験を繰り返す中で、いつでも好きな曲を聴くことができる。「月に1回だけ」というと体感的に少ないと感じる人もいると思いますが、あくまで1曲につき月1回なので、全ての曲を聴ける網羅性に注目してもらいたいと思います。

:たとえばThe Beatlesをデビューアルバムから順に聴いていくことだってできるんですよね。サザンオールスターズだってDREAMS COME TRUEだってそれができる。中学生や高校生でも、気に入ったアーティスト、偉大なアーティストをイチから全部聴ける。これはめちゃくちゃ豊かな文化環境だなって思います。

高橋:ストリーミングサービスのよさは、聴きたいものをすぐに聴けるというところにもあるんですね。そうやって音楽で自分の生活を彩ることができる。それも30秒の試聴ではなく全ての曲がフルで聴ける。たとえばテレビ番組で見たのをきっかけに気になったらすべて聴けるし、そこで好きになったらCDやレコードを買ったり、ライブを体験したりしてほしい。そういう巨大な図書館のような音楽ライブラリにいつでもアクセスできるというのを体験してほしいと思います。

好きな曲を聴くだけでも、アーティストの応援につながります。(高橋)

―LINE MUSICのフリーミアムはMusic FMなどの無許諾アプリへの対抗になるという見方もありますが、そのあたりはいかがでしょうか。

:Music FMのなにが問題かって、もちろん違法性もありますが、音楽のためにならないというのが大きいんですよね。正規のサービスではないですから、どれだけ聴いてもアーティストに還元されない。それでは結果的に音楽文化をしぼませていってしまう。CINRA.NETの記事を読んでいる人にMusic FMを使ってるようなリテラシーの低い人はいないと思うんですが、それでも改めてちゃんと啓蒙していければと思います。たとえば、もし友だちにMusic FMを使っている人がいたら注意する、とか。

高橋:今のような時代になって、アーティストや音楽をちゃんと支えないといけないという意識は、これまで以上に高まったと思うんですよ。そんな中でMusic FMのようなアプリは害悪に近い。ライブやイベントを自粛せざるを得ない状況に陥って困っているアーティストのためにならない。そこは対比できるかと思います。

―LINE MUSICなどの音楽ストリーミングサービスは再生回数に応じてアーティストに収益が還元されるんですよね。

高橋:そうですね。そこはきちんとユーザーの人たちに伝わってほしい部分です。再生回数でカウントされるので、つまり、聴けば聴くほど応援になる。

:たしかにそうですね。こうした状況で苦境に立っているアーティストに対して、些細かもしれませんがリスナー側からの支援になる。その方法として好きなアーティストの曲を聴くことって、なんの負担にもならないし、むしろファンだったら当たり前にやってることじゃないですか。

高橋:聴くことが応援につながるということは強くいいたいですね。そこがLINE MUSICを含めたストリーミングサービスと無許諾アプリとの大きな違いでもある。

:フリーミアムになったLINE MUSICでは無料ユーザーが聴いた再生回数の分もアーティストに還元されるんですか?

高橋:もちろん還元されます。

:無料で聴いたとしてもそれが還元されるということは、LINEがその分を支出しているということですか?

高橋:そうです。そこはLINE MUSICが担保します。それがMusic FMへの対抗というメッセージでもある。Music FMを使い続ける人は「無料だから」「これでも十分」というんです。けれどLINE MUSICは無料ユーザーでも広告なしで再生できて、アーティストへの還元もちゃんと行う。だからMusic FMを使うのはやめて正規のサービスで楽しんでほしい。

:インターネットスラングで「情強(=情報強者)」「情弱(=情報弱者)」という言葉がありますよね。かつては「正規じゃないアプリやサービスを使える抜け道を知っているのは情報強者」みたいなことを考えている人もいた。でも、今の世の中ではそういう考え方が一番ダメだと思うんです。無許諾で、リスクのあるサービスを、わざわざ探して使う。これはあえていいますけれど、違法性があるとわかっていて無許諾のアプリを使う人もいるんですよ。でも、こういうフリーミアムのサービスが提供されている以上、Music FMのような無許諾アプリを使うほうが「情報弱者」だと思うんですよね。音楽文化に害をなしているという意味でも無許諾アプリを使用する人には現在の状況を理解しようとしてほしいです。

高橋:我々は、胸を張って使えるサービスを作りたかったんです。このことで結果的にMusic FMのようなアプリが淘汰されて、音楽業界全体がちゃんとしたエコシステムでまわっていく。音楽を聴くことがちゃんとアーティストのためになる。もちろんそのときにLINE MUSICを選んでくれればうれしいですが、なによりアーティストに還元しようという価値観が定着する流れの一つになればいいかと思います。

―ストリーミングのサービスは各社ありますが、LINE MUSICの特徴はどんなところにあると思いますか?

:一番大きいのはハードルの低さだと思います。たとえばサービスに登録するためにアカウントを作ることも「むずかしい」とか「よくわからない」と感じてしまう人もいる。クレジットカードを持っていない人もいる。そういう人もLINEを使っていればそのままLINE MUSICを使える。友だちのプロフィールページにあるBGMをタップするだけで曲が聴ける。その手軽さが一番大きいと思います。

高橋:まだまだストリーミングサービスの価値が可視化されていないと思うんです。それをもっと沢山の人たちに提供したい。そのフックを探しているところです。今回のフリーミアムはその一つのハードルを超える仕掛けになったと思うんですが、もっと音楽にアクセスしたくなる形やストーリーを提供したい。音楽好きな人だけでなく、世の中のすべての人々の生活や行動の中に、音楽ストリーミングサービスにアクセスしたくなるタッチポイントを演出できるかがポイントになると思います。たとえば朝起きたら音楽を聴きたくなるように、音楽との出会いが自発的に増えていく装置としてLINE MUSICが世の中に浸透していくといいなと思います。

:高橋さんがおっしゃったように、大事なことって、生活の中にどれだけ音楽が根づくかということなんですよね。音楽ビジネスにまつわる話をしていると、どうしても「業界が~」とか「市場が~」みたいなことをいいがちなんですけれど、目指していくのは、音楽文化が豊かになること。ストリーミングサービスはあくまでその一つのツールだと思うんです。

この数年で、「最近のJ-POPではこういう曲が流行っている」という了解事項が広く共有されるように変化したと思います。(柴)

―生活の中に音楽が根づくためにはどんなことが考えられますか。

:僕は犬を飼っているんですが、近所の公園を散歩するときに会うのがきっかけになって、地元の方々と仲良くなったんです。そういう人との話の中で音楽の話題が出てくることがある。「こないだラジオで紹介してた曲、よかったよ」とか「こないだあのアーティストの来日公演に行ったんだけど」みたいにいわれたりするんです。それはすごく嬉しいことで。音楽ファンの間だけでなく、地元の井戸端会議とか、会社員のランチとか、学生の放課後とか、そういう日常の話題に音楽の話が出てくるというのが、すごくいいんですよね。

「話題性」という言葉を使うと、マスメディアでの露出やソーシャルメディアの拡散みたいな、プロモーションとかマーケティングの戦略めいたことばかりイメージされがちだけど、むしろ生活の中で話題になることを指すほうが本質的だと思うんです。そういう意味では、僕はLINEを「日本最大の井戸端会議プラットフォーム」だと思うんで、そこに音楽のストリーミングサービスがあることが大きい。

高橋:そうですね。おっしゃるとおり、その装置になりたいなと思います。特にLINEに関してはプロフィールBGMの機能もあるし、LINE着うた®もある。そういうコミュニケーションの機能を強化していきたいと思っています。友だちと音楽を語るためのフックやきっかけを演出する。それが音楽業界にプラスになるんじゃないかと思ってやっています。かつてはCDランキングでどんな曲がヒットしてるかみたいなことがわかりやすく可視化されていたので、それが話題性になったところはあったと思うんですけれど。

―ヒットチャートの変化に関してはどんな風に見てらっしゃいますか?

:これは僕の仮説なんですが、ひょっとしたら、今の音楽シーンは1990年代初頭に重ね合わせられる部分があるんじゃないかと思っているんです。

―というと?

:1990年代初頭というのは、1980年代なかばに登場したシングルCDが登場してから少し経った頃で。当時の日本の音楽シーンでなにが起こったかというと、新しいフォーマットの普及と共に新しいヒット曲が生まれるようになったんですね。1980年代はアイドルの全盛期で、テレビの歌番組がその主戦場だった。そこから次第に音楽を聴くメディアがCDに替わっていったことで、ドラマタイアップなどを契機にして、実力派のシンガーソングライターやバンドがヒットの担い手になった。曲自体が持つ波及力がヒットの原動力になって、それをカラオケで歌うことが新しい娯楽として広まった。そう考えると、Official髭男dismの“Pretender”も、King Gnuの“白日”も、ドラマや映画の主題歌なわけじゃないですか。そして、あいみょんもそうですが、アイドル的な人気よりも曲自体が持っているパワーがヒットの原動力になっている。そういう点でも、1980年代から1990年代の変化と2010年代から2020年代の変化に共通点があるといえるんじゃないかと。あくまで、仮説ではあるんですけどね。

Official髭男dism“Pretender”(LINE MUSICで聴く

King Gnu“白日”(LINE MUSICで聴く

高橋:ヒットのきっかけに1990年代回帰が見られるかもしれないというのは面白いですね。アイドル全盛の時代から曲のよさに注目が集まる時代に変わって、そのフックとしてドラマや映画がある。ただ、当時との違いはオリコンチャートのようなCDランキングがその話題性をブーストさせているわけではないということですね。

:そうなんですよ。やっぱり一つのわかりやすい数字の基準があったときに、それが現象として一気に加速すると思っていて。1990年代に「ミリオンヒット」という言葉が生まれたのはその象徴だと思います。でも、今はその代わりに「1億回」という再生回数の数字が新しいヒットの基準になりつつある。

高橋:ストリーミングの再生回数という客観的なデータが機能しはじめているわけですね。

:『ヒットの崩壊』(講談社現代新書)を刊行したのは2016年なんですが、あの本の「はじめに」に「『最近のヒット曲って何?』と聞かれて、すぐに答えを思い浮かべることのできる人は、どれだけいるだろうか? よくわからない、ピンとこないという人が多いのではないだろうか」と書いたんです。CDのランキングを見ても世の中で流行っている曲がなにかわからない。それが「ヒットの崩壊」だという導入だった。でも、今の世の中ではその前提はずいぶん変わりましたよね。Official髭男dismの“Pretender”も、あいみょんの“マリーゴールド”も、King Gnuの“白日”も、「最近のJ-POPではこういう曲が流行っている」という了解事項として広く共有されるようになった。ここは5年間で随分変わったと思うんです。

あいみょん“マリーゴールド”(LINE MUSICで聴く

高橋:変わりましたね。柴さんがおっしゃったことって、今、みんなが体感していると思います。5年前、10年前のヒット曲は思い浮かばないけれど、最近のヒット曲は思い浮かぶ。みんなが知っている。これは音楽の潮流が復活してきている感じがしますね。ムーブメントが生まれて、音楽の勢いが復活してきたことと軌を一にしている。

:やっぱり話題性というのは社会性につながると思うんです。それによっていろんな物事が動いていく。そういう意味でヒットが可視化されたのは喜ばしいことだと思うんですね。

高橋:客観的な数字で示されることで、「売れた」という事実が瞬間的に終わるんじゃなく、ちゃんと話題として波及していくということですね。ストリーミングサービスのランキング上位にある曲は長くヒットし続けていく。YouTubeやTikTokも含めて、ヒットを生み出してそれを話題性につなげる装置が整ってきているんだと思います。

:ただ、ヒット曲が生まれることだけが重要だとは思わないです。一つの対象に興味が集中して「ヒットしないと意味がない」みたいになってしまうとしたら、それはそれで文化の多様性がとぼしくなってしまう。それは負の側面として意識しないといけない。でも、1990年代がそうだったように「売れているもの」が明らかになると、それに対してのカウンター意識も生まれる。結果として全体が盛り上がるならそれはとても望ましい。

高橋:今は少し前と比べて豊かな音楽エコシステムが生まれてきているというのはいえるかもしれないですね。

:あと、ポジティブな話をするなら、ストリーミングサービスがアーティストにとって長く音楽活動を続けるための下支えになっているところもあると思うんです。一回売って終わるCDと違って、ストリーミングサービスは過去の楽曲が再生されることが継続的な収益につながる。アーティストが地道に活動を続けることで、旧譜が注目を集めるきっかけが増える。

高橋:ストリーミングサービスのよさはそこにもありますね。長く活動しているアーティストにとっては、新しいファンの獲得もしやすい。そういう意味での新しいサイクルが生まれていると思います。

―これから先の見通しについて、お二人はどんな風に考えてらっしゃいますか?

:10年前、5年前によくいわれていたのは「CDが売れないからミュージシャンはライブで食っていく」だったんですね。それが音楽業界の基本的な価値観になっていた。でも今は、新型コロナウイルスの感染拡大のせいでライブでの収益がなくなって、ミュージシャンが大きな打撃を受けている。それは事実ですが、少なくともファンが好きなアーティストの曲を聴き続けることが、アーティストへのサポートになる。過去作品も含めて視聴することが、それぞれの音楽活動のサステナビリティーにもつながる。長期的な視野に立てばちゃんと未来はあるんです。だからこそ、これからのアーティストにとっては「長く聴かれる名曲を作る」ということが大事なポイントになると思います。

高橋:我々としては、先ほどの話の中でも出ましたが、LINEというプラットフォームの中でいかに音楽の話題を出してもらうかを注力しています。それぞれの生活の中に音楽を浸透させていくために、もっと音楽が話題のネタになるような仕組みを考えています。そこから手軽に、かつ健全に音楽を聴けるようになり、そして広がっていくーーそれが我々の目指す一つの形です。グローバルなサービスも様々にありますが、LINE MUSICは日本ならではのやり方を模索していきたいと思っていますね。

サービス情報
LINE MUSIC

日本発の音楽ストリーミングサービス。さまざまな音楽を楽しめるだけでなく、楽曲をLINEでシェアしてトーク画面で再生できるなど、LINEならではの新しい音楽体験を届けている。

プロフィール
高橋明彦 (たかはし あきひこ)

LINE MUSIC取締役COO。2000年ヤフー株式会社入社。その後、リクルートを経て、2011年にネイバージャパン(現:LINE株式会社)へ。新規事業を担当する事業戦略室に所属し、LINEスタンプの立ち上げを経て、2013年より音楽事業を担当。LINE MUSIC株式会社設立後、2015年同社取締役に就任。現在に至る。

柴那典 (しば とものり)

1976年神奈川県生まれ。ライター、編集者。音楽ジャーナリスト。ロッキング・オン社を経て独立。雑誌、WEB、モバイルなど各方面にて編集とライティングを担当し、音楽やサブカルチャー分野を中心に幅広くインタビュー、記事執筆を手がける。主な執筆媒体は「AERA」「ナタリー」「CINRA」「MUSICA」「リアルサウンド」「NEXUS」「ミュージック・マガジン」「婦人公論」など。「cakes」にてダイノジ・大谷ノブ彦との対談連載「心のベストテン」、「リアルサウンド」にて「フェス文化論」、「ORIGINAL CONFIDENCE」にて「ポップミュージック未来論」連載中。著書に『ヒットの崩壊』(講談社)『初音ミクはなぜ世界を変えたのか?』(太田出版)がある。

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