ラブリーサマーちゃん、真摯さを胸に語る ノイジーな世界に調和を

ラブリーサマーちゃん3枚目のフルアルバムは、その名も『THE THIRD SUMMER OF LOVE』。「セカンド・サマー・オブ・ラブ」が1980年代の商業主義的な音楽からの解放であったように、90年代のブリットポップが不況に苦しむ人々の心を解放したように、『THE THIRD SUMMER OF LOVE』は2020年を生きる人々の心を蝕む様々な構造から個人としての尊厳を取り戻し、解放するようなアルバムである。

2ndアルバム『LSC』のリリースからは約4年が経過し、その間に以前所属していたレコード会社を離れ、フリーランスも経験。かつてベッドルームから無邪気に自分の好きな音楽を発信していたラブリーサマーちゃんは、自らの目で世の中の現実をしっかりと見据え、その目線は確固たる主張を持った世界のシンガーソングライターたちともリンクしはじめた。4年間に起こった自身の変化と、楽曲に込めた想いについて、じっくりと話を聞いた。

ラブリーサマーちゃん
1995年生まれ、東京都在住の25歳女子。2013年夏より自宅での音楽制作を開始し、インターネット上に音源を公開。SoundCloudやTwitterなどで話題を呼んだ。2020年9月には待望の3rdアルバム『THE THIRD SUMMER OF LOVE』を発売。可愛くてかっこいいピチピチロックギャル。
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皮肉を言うより素直がいいじゃん。イギリスの音楽への愛を通じて見えた、ラブリーサマーちゃんの変化

―『THE THIRD SUMMER OF LOVE』はタイトルからして1980~90年代のUKロックに対する愛情が伝わってきますね。

ラブサマ:タイトルに関しては「ラブリーサマーちゃんの3枚目のアルバム」ってことで、駄洒落のノリでつけちゃったんですけど(笑)、私がUKロックに興味を持ったのは、中3でthe brilliant greenを好きになったのがきっかけです。

ただ、親が過干渉で、インターネットも禁止だったし、お金があると遊んじゃうからって、バイトの給料も全部没収されてて、音楽を聴くのも図書館でCDを借りるくらいしか方法がなかったんです。でも、高2~3くらいでグレて、世界を知るんですよ(笑)。その頃、同い年ですごく音楽に詳しい子とたまたま知り合いになって、音楽は音だけじゃなくて、文化的な背景も楽しむことができるものなんだって、その子から学びました。

―UKロックの魅力をどんなところに感じていたのでしょうか?

ラブサマ:どんなところに魅力を感じてるんでしょうか……(笑)。今でもなぜUKロックがピンとくるのかは解明できていないですけど、the brilliant greenはThe KinksとBlurをカバーしているので、やっぱりそれが大きいと思います。その2つは図書館にあったので、「私はイギリスのこの辺のロックが好きなんだな」ってことは何となく見当がついていて。「ブリットポップ」って言葉を知ったのはそのずっとあとなんですが、ブリットポップがどういう音楽性なのかは、当時からだいたいわかっていたと思います。

その頃私が好きだったCDの裏には「Creation Records」って書いてあることが多くて、でもインターネットが禁止だったから「Creation Records」がどんな会社なのかわからない。当時はEMIみたいな、イギリスのすごくデカい会社なのかなと思ってて(笑)。でもネット解禁後のある日調べたら、「1枚のCDで倒産するような会社なんだ!」って驚きました。

「Creation Records」はMy Bloody Valentine『Loveless』(1991年)をリリースするにあたり、主にメンバーであるケヴィン・シールズのサウンド作りへの偏執的なこだわりが原因で制作が長期化し、倒産寸前にまで追い込まれた

―今回のアルバムはマッドチェスターやブリットポップからの影響が色濃く感じられます。

ラブサマ:ブリットポップなんですかね……。私、「ブリットポップをブリットポップたらしめるものって何なの?」ってめっちゃ考えて、そのひとつはトラディショナルさなのかなと思ったんです。日本でいう歌謡曲っぽいメロディーとかニュアンスと同じようなもので、イギリスのトラディショナルさってあるんだろうなと思って。そういうトラディショナルさを持っていて、かつ、みんなで歌えるポップなギターの音楽。あとは「その時期に音楽をやっていた」っていうことくらいしか、ブリットポップの全バンドの共通項ってないなと思います。

―わかります。

ラブサマ:音楽的なことでもざっくりした共通項はあると思うんです。でもそれが全部「ブリットポップ」ってまとめられているのは、幅が広すぎると思う。だって、OasisとBlurって、使ってる楽器は一緒だけどやってることは全然違うし。

―対照的な2組と言ってもいいですよね。

ラブサマ:BlurとOasisを例にとってブリットポップの精神性を大別すると、<なるべく働かない方がいい まともな求人なんてないから(“Girls & Boys”)>と歌うBlurみたいなシニカルなスタイルと、“Live Forever”って曲を歌っちゃうOasisのようなド直球スタイルがあると思います。どっちがイギリスっぽいのかはわからないけど、トラディショナルっぽさで選ぶと、Blurの“Country House”がイギリスっぽいなと思いますね。

―今でこそひと括りに「ブリットポップ」って呼ばれてるバンドも、実際には一つひとつ全然違うっていうのはそのとおりだと思います。

ラブサマ:そうですよね。でも、レコードショップとかメディアがそこに名前を付けるわけじゃないですか? 最近だとシティポップなんかそうだと思いますけど、そうやって名前を付けて似て非なるものを同じものとしてパッケージングしてしまうことって、一部の人にとっては乱暴な行いかもしれない。

でも一方で、それを入口にして、いろんな音楽を楽しめたリスナーもいるし、そのシーンは盛り上がるじゃないですか。私自身はそういう「名前付け作戦」みたいなのには一度も仲間入りさせてもらったことがないから、ジト目で見てるって感じなんですけど(笑)。

―あはは。

ラブサマ:でも私、カテゴライズされたらされたでブーブー言うだろうから、これでいいと思いつつ、「カテゴライズをやめろ!」って言うつもりもなくて。カテゴライズされるのが嫌なバンドは嫌って表明すればいいだけかなと思います。

……なんかすごく素直なこと言ってますね(笑)。私、最近性格が変わったと思ってて、すごい素直な性格になったんですよ(笑)。今までは皮肉とか言う人が好きだったんですけど、「どうして皮肉を言わなきゃいけないの?」って気持ちになってて。

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「私を私として扱ってくれないのが嫌」ーーラブサマちゃんの日々の怒りの根幹にあるもの

―じゃあ今は、ブリットポップ時代のデーモン・アルバーンはダメなんだ(笑)。

ラブサマ:昔はデーモンがインタビューの質問を面白くかわしてるのが好きだったんです。そういうのを「気が効いてる」って思ってたんですけど、でも自分が同じことをするようになったら、「自分、嫌味ったらしいやつだなあ」と思ってすごく嫌になっちゃって……徐々に素直になったんです(笑)。

前は嫌なことがあってもチクッて風刺したり自嘲するようなBlurの歌詞が好きだったけど、今は真正面から泣いたりしてるほうが私向きかもって思います。

ラブサマ:あと最近、イギリス人の友達ができたんですけど、めっちゃいい子なんですよ。皮肉とか全然言わないし、思ったことは真っ直ぐ言うし、私が思ってたイギリス人のイメージと結構違うなと思って。

―去年初めてイギリス旅行をしたそうですが、そのときはどうでしたか?

ラブサマ:イギリスの音楽がすごく好きだからこそ、その背景を調べたりするなかで私の思うイギリス像ができあがってたんですけど、ギャップを感じましたね。寒々しくて、曇ってて、陰鬱な空気のレンガ造りの街……みたいに思っていたんですけど、実際行ったら快晴だし、それにみんな朗らかで。私の思ってた「イギリスらしさ」に対して、何も言えなくなっちゃいました。

―その話はすごく面白くて、それこそ僕自身1990年代は情報も少なかったから、「ブリットポップ」ってものをひと括りで受け取っていたけど、今はSNSの存在もあって、全体でひとつに見えていたものが、いろんな人たちの集合体なんだってわかる。それってすごく現代的というか。それで言うと、ラブサマちゃんの今回のアルバムも「個人」を見つめた作品だと思うんですよね。

ラブサマ:パチパチパチパチ(拍手)。本当にそうですね。私、いつもいろんなことに怒ってますけど、その根幹にあるのは全部それですもん。「私を私として扱ってくれないのが嫌」ってことだと思う。

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ラブサマちゃんの大きな変化の背景。そこには、自分の力ではどうしようもないことが理由で苦しい境遇に追い詰められている人たちの存在があった

―今の話は1曲目の“AH!”と2曲目の“More Light”に特に表れてる気がして。セルフライナーノーツも読ませてもらったんですけど、“AH!”はもともと映画『ファイト・クラブ』(1999年公開、監督:デヴィッド・フィンチャー)を見たことをきっかけに書いた曲だそうですね。

ラブサマ:前のアルバムは約4年前で、当時はまだ大学に入りたてだったし、「自分の力でどう生きていくか」みたいなことを考えてなかったし、すごく未熟だったんです。今もまだ未熟だけど、もっと何も考えてなくて。

でも今は、自分が何を考えて、何を選んで生きていくかってことに意識的になりはじめていて。以前は、生きていくときに自分が大切にしたい主義はどんなものなのか、なんとなくぼんやり思うだけでしたけど、周りを見渡したときにやばいなって思ったんですよ。

―何に対してやばいと思ったんですか?

ラブサマ:マキャベリストというか、自分と自分の周りがいい思いをして、その他の人たちが苦しんでも別にいいと思ってる人ってたくさんいるんだなって。「自分と周りが潤えばOKで、バカな人たちのことは知りません」みたいな排他的な側面が世の中にはたくさんあるんだって気づいたんです。

そういう主義の人がいることはしょうがないとも思うけど、でも私は、「持ってない」人たちも安心して生きていける世の中であってほしいと思っていて。だから、“AH!”は古典的自由主義が世の中にあることを認めつつ、私はそれは受け入れませんって表明している曲だと思います。

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―この4年の間に一人で活動する期間もあったなかで、今話してくれたような経済のシステムの存在に気づいていったのでしょうか?

ラブサマ:そうだと思います。この4年の間に大学を変えたり、レコード会社を離れたり、フリーランスになったりいろいろあったので。それまでは8年間お嬢様学校に通っていて、苦しんでいる人の存在が見えなかったんでしょうね。いじめとか、他人の悪意によって傷ついている人の存在は見えていたけど、そもそも貧しかったり、何かを持っていないために苦しい状況にいる人って、私の周りには全然いなかったんです。

でも、大学に入ったり、いろんな種類の友達ができるなかで、苦しんでいる人が世の中にたくさんいることを知って。もし私が王道な人生を生きていたら、気づかなかったのかもしれないけど、今の音楽業界は儲からないし、私自身、「持ってない」状況になりました。だから、人が感じているつらさに気づくようになったんだと思います。構造に由来するつらさがあるってわかった4年間でした。

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ノイズにあふれた世界でも、調和を信じたい。本当はいがみ合う必要がないはずの私たちだから

―2曲目の“More Light”に関して、ライナーノーツではTwitterでの誹謗中傷について触れた上で、「脆い精神にできるだけ寄り添いたい」と書かれていますね。

ラブサマ:CINRAさんって、『She is』でフェミニズムについてのイベントをやられていたり、ジェンダーに関して意識的なメディアだと思うんですけど、“More Light”は2年くらい前に、ちょうど「#MeToo」で世界が揺れ動いていたときに書いた曲で。

私、フェミニズムについて浅学で、語るのはまだ怖くてセルフライナーノーツには書けなかったんですけど、女性が虐げられてきた歴史は長いし、たくさんの人が苦しい思いをしてきたし、今もしている。それはすごく重いもので。ただ、女性が虐げられてきたのは、同時に男性も虐げられているからなのではないかとも思っていて……これって名誉男性的な考え方なんですかね?

―ラブサマちゃんは、ジェンダーに関係なく平等な世界のためには男性側が受けている「こうでなくてはならない」というプレッシャー(Toxic Masculinity=有害な男性らしさ)も同時に取り除く必要があると考えているということ?

ラブサマ:そうです。そこから解放させようっていうのが「メンズ・リブ」(もともとは「ウーマン・リブ」という1960年代に世界的に広がったフェミニズム及びジェンダーの原点とも呼ばれる運動があり、それを受ける形で生まれた考え方)っていうらしくて。私は女性なので女性の痛みはわかるけれど、男性になったことはないから男性の苦しみはわからない。なので、わかろうとしたいです。

フェミニズムを進めるときには男性と腹を据えて議論して考えることが必要不可欠だと思います。それなのに、いがみ合ってしまう。いがみ合ってしまう理由は様々だと思いますけど、そのひとつとして慣習的で規範的な「男らしさ」に囚われてしまった男性の存在があるのではないかと思います。

それに、何かがすごい勢いで盛り上がるときって、それをはじめた人は確固たる意志を持っていただろうし、切実に訴えている人がほとんどなのはもちろんですが、その人たちとは別に、流行りに乗っかろうって人も、「このお祭り騒ぎで私も人間としての厚みを出してやろう」みたいな考えの人もいる気がしていて。

―どんな議論や活動、運動であってもきっとそういう人はいるでしょうね。

ラブサマ:はっきり言っておきたいのは、男性も女性もそうじゃない人も、自分がやりたいと思うことをやって、やりたくないと思うことは拒否できて、尊厳を持って生きられる世の中であるべきだし、全員が全員そうやって生きていければいいと思うんです。

ラブサマ:でも、先ほど言ったように、どんな運動でもその規模が大きくなれば、何の思想もないのに憂さ晴らしのために流れに乗っかる人がいて、そういう人がインターネット上でいがみ合いを起こしてしまう。SNSの普及に伴って、今まで知り合う可能性の低かったクラスタ同士が容易に接触できるようになりました。それがいがみ合いを加速させ、可視化させていると思います。そうなると、どんなに大切な議論でも世間から見くびられてしまう。

そういうときに、余裕のある人は言い方を考えたり、やり方を考えたりしないと、どんどん世の中が寒くなると思って、“More Light”ではそういうことを歌おうと思ったんです。<オクターブ違いに重なる感情がいがみ合っている>っていう歌詞は、男女のことを指していて、私は男の人と女の人は本当は仲よくできるんじゃないかな? と思っているというか、祈っているから。

―それこそオクターブの音同士はきれいに重なるはずですもんね。

ラブサマ:オクターブって、世界中のどんな音楽にもあるそうです。たとえば「ドミソ」ってかなりポピュラーなハーモニーですけど、それがない音楽もある。でも、「オクターブがきれいに響く」っていう考え方がない音楽は世界中のどこにもないらしくて。なので、私たちもオクターブみたいに仲よしでいられたらなって、こういう書き方をしたんです。

どんなに嫌でも、めんどくさくても、音楽とともに生きていく心づもりができた日のこと

―“AH!”や“More Light”のような曲に今の時代や社会に対する目線を投影した一方で、ラブサマちゃん個人の経験や想いもちゃんと閉じ込められていることがこのアルバムに説得力を持たせているし、魅力的にしていると思います。特にラストの“ヒーローズをうたって”が印象的で、この曲はカラオケでアラン・マッギー(「Creation Records」の主宰者)と一緒にデヴィッド・ボウイの“Heroes”を歌ったことからできた曲だとか。それってどんなシチュエーションだったんですか?

ラブサマ:このアルバムは去年の5月に開催された『SOMEWHERE,』ってイベントからの影響がめちゃ濃くて、その通し券を買った人だけが行けるアラン・マッギーのDJイベントがあったんです。で、イベントに何回も通ってるうちに友達ができて、一緒にそのDJイベントに行って、アラン・マッギーからサインももらって。

ラブサマ:めちゃくちゃいいイベントだったからそのまま真っ直ぐ帰るのがつらくて、みんなでカラオケ行こうってなったんですけど、その友達のうちの一人がアラン・マッギーとFacebookを交換してて……アラン・マッギーがカラオケに来たんですよ。酔っ払いすぎて詳細は覚えてないんですけど(笑)。

―自分にとってのヒーローの一人と同じ時間を共有して、どこか報われたような感じがあったんですかね?

ラブサマ:今まで音楽をやってきたことが報われたというよりも……「Creation Records」の音楽を聴きながら過ごしてきた今までのことが思い返されて、「こういう日があるんだ……よし、生きていこう」みたいな感じ。

音楽って、いろんな作用があるじゃないですか? 心に作用するし、肉体にも作用するし、自分をコミュニティに所属させるって作用もある。音楽が今まで私にしてくれたことってめちゃめちゃ大きくて、そうやって音楽と一緒に生きてきたし、これからも生きていくのかもしれないと思ったら、その多くを作ってくれたアラン・マッギーに大感謝したくなって……っていう曲です。

―このアルバムを作ったことは、今後も音楽を続けていくための動機にもなった?

ラブサマ:本当にそうですね。レコーディングはつらすぎて、Twitterでもワーワー言っちゃって、やりたくないって思っちゃったりもするんです。疲れるし、めんどくさいし、すごく嫌なんですけど……カルマなんですよね(笑)。だから、どんなに辛くてもやらざるを得ないんです。

―でも、自分で作ったデモをバンドに落とし込んで、よりいいアレンジ、よりいい音色にブラッシュアップされたら、その喜びは大きいわけですよね?

ラブサマ:デモを作り終わったときが一番嬉しくて、そのあとはギュンギュン下がっていくんです。でも曲ができて、YouTubeとかにアップしてリスナーから反応が返ってきて、「この人はこういうふうに思ったんだ」ってことを知ると、また徐々に嬉しくなってきます。

たまにファンレターとかで「この曲を聴いて、こう思いました」みたいなのを教えてくれる人もいて、そういうときは世の中に出してよかったなってガチで思いますね。「人がいる」って思います。心で聴いてくれたんだなって、そういうときは嬉しいですね。

ラブリーサマーちゃん“サンタクロースにお願い”を聴く(Apple Musicはこちら

世界と私と音楽の関係性に考えを巡らせて。ラブリーサマーちゃんがあくまでもポップな音楽にこだわる理由

―『THE THIRD SUMMER OF LOVE』っていうタイトルはノリでつけたっていう話でしたけど、「セカンド・サマー・オブ・ラブ」が1980年代の商業主義的な音楽からの解放であったように、ブリットポップが不況で苦しむ人々の心を解放したように、このアルバムは経済やSNSといった現代の構造からいかに個人としての尊厳を取り戻し、解放するかがテーマになっているという意味で、リンクがあるように思いました。

ラブサマ:それはすごく納得できます。私、これまで自分の思ったことを自分の好きな音楽で歌うっていうことだけを目的にやってきたので、作品で訴えたいテーマとか意義って全然考えてなかったんです。でも私、「ラブリーサマーちゃん」として奨学金をもらって。「クマ財団」っていうところがやっている奨学金なんですけど、その財団は「クリエイティブの力で、世界を変えていく」っていうスローガンで奨学金事業をやってるんです。

面接で「あなたは社会に対してどんなことがやりたいんですか? あなたの制作の意義は?」って聞かれたんですよね。そのとき、周りには志の高い人が多くて、みんな本当に立派な意義を持って素晴らしい作品を作っていたけど、私は何も答えられなくてビビりました。たとえばテクノロジーを専攻してる人だと世の中に対してより実用的に貢献できるけど、それってアートが世の中で持ちうる意義とは質が違うじゃないですか?

―たしかに。

ラブサマ:でもやっぱり奨学金に受かりたいから、自分の作品の他者への意義を一生懸命探すんですよ。いろいろ考えたんですけど……「私の制作って自慰みたいなものだし、意義とか見つけられないな」って思いました。でもじゃあ、私はいろんな音楽が好きなのに、何でメロディーとか音像をポップにして、誰かを跳ね除けるレベルの固有名詞は排除して、みんなが聴きやすいポップスにしてるのかなって考えたときに、「人に聴かれる歌モノのフォーマットで音楽やってる時点で、聴いてくれる他者を意識しているのでは!?」と思いました。私は最終的には優しい世界になってほしいんだと思います。愛が何なのかは全然わからないけど、それが人に興味を持つことからはじまるっていうのはわかるんです。

だから私は、私の個人的なことに人がどれくらい興味を持つのか気になってるんだと思います。私が個人的な日記のような曲を書いて、そこら辺に置いておいたら、人は興味を持つのか、どういう関係性が生まれて、届いたり届かなかったりするのかが気になる。だから、聴いてもらいやすいポップミュージックに落とし込んでるのかなって思います。

ラブリーサマーちゃん“LSC2000”を聴く(Apple Musicはこちら

―途中のブリットポップの話でも出たように、どんなに大きなムーブメントでも、結局それを構成しているのはそれぞれ違った一人ひとりで。言ってみれば、その一人ひとりが興味を持ち合うことによって、結果的に、大きなムーブメントになるってことなのかなと思います。

ラブサマ:一人ひとり違うはずなのに、同じものを見て、同じ音楽を聴いて、一緒に体を動かすってマジでヤバくないですか? 今それができなくなってるから、特にそう思うのかもしれないですけど……私、卑屈だったから、みんなと踊るのとか拒否してたんですよ。「私の好きなものは誰かと共有したくない」みたいな感じで。

私にとってのロックって陰鬱めだったから、一人で聴くもので、「みんなと」って意味がわからなくて。でも、『SOMEWHERE,』に行って、友達ができて、馴染みの面々が毎週踊ってると「楽しい!」って思っちゃったんですよね。誰かと共有するのは嫌だと思ってたけど、結構いいかもって思ったし、同じものを見て、聴いて、一緒に踊るって、すごいなって思えるようになったことは私のなかですごく大きな変化ですね。

リリース情報
ラブリーサマーちゃん
『THE THIRD SUMMER OF LOVE』初回限定盤(CD)

2020年9月16日(水)発売
価格:3,630円(税込)
COCP-41239
※三方背ケース、初回盤限定ブックレット付

1. AH!
2. More Light
3. 心ない人
4. I Told You A Lie
5. 豆台風
6. LSC2000
7. ミレニアム
8. アトレーユ
9. サンタクロースにお願い
10. どうしたいの?
11. ヒーローズをうたって

プロフィール
ラブリーサマーちゃん

1995年生まれ、東京都在住の25歳女子。2013年夏より自宅での音楽制作を開始し、インターネット上に音源を公開。SoundCloudやTwitterなどで話題を呼んだ。2015年に1stアルバム『#ラブリーミュージック』、2016年11月にはメジャーデビューアルバム『LSC』をリリースし好評を博す。2020年9月には待望の3rdアルバム『THE THIRD SUMMER OF LOVE』を発売。可愛くてかっこいいピチピチロックギャル。

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