怒りをエネルギーにしながら幸福を願う ルサンチマンの目指す音楽

平均年齢18歳のオルタナバンド・ルサンチマンが、1stミニアルバム『memento』をリリースした。アグレッシブなサウンド、その歌詞から、さぞ怒りや鬱憤を抱いているのだろうと思いきや、メンバーから出てきたのは「幸せになりたい」「絶望したくない」という言葉だった。ルサンチマンが目指す幸せなバンド活動とは? メンバー全員に聞いた。

ルサンチマンのアグレッシブなサウンドのルーツ。「バラバラの音楽を聴いてきたからこそ、引き出しがたくさんある」

―ルサンチマンってオルタナバンドと言われることが多いと思うのですが、ポストロックやマスロック、フォークやジャズだったり、いろんなサウンドが重なっていて。まず、どんなふうに曲を作っていくのですか?

北(Vo,Gt):基本的に僕が作詞作曲をしているのですが、まずは弾き語りのデモを作って、それをもとに4人でセッションして完成させていきます。僕としては「別にそこまでやらなくてもいいな」と思っていた音源でも、気づくと超いろいろ盛り込んでいて(笑)。盛り込みすぎかなと思って改めて聞いてみると、これがむしろ自分たちらしさかもといつしか思い始めるようになりました。

ルサンチマン(るさんちまん)
北(Vo,Gt)、クーラーNAKANO(Gt)、清水(Ba)、もぎ(Dr)からなる、平均年齢18歳の東京発オルタナディブロックバンド。2018年に結成、2019年にロッキング・オン主催のオーディション『RO JACK』で優勝し、『ROCK IN JAPAN FESTIVAL 2019』に出演。高校卒業を目前にした2021年3月31日に1stミニアルバム『memento』をリリースした。

清水(Ba):曲作りの時に「このバンドのこの曲の、こういうアレンジがあるよ」みたいに、自分たちが気になったフレーズを提示して、みんなで情報交換して参考にしながらアレンジを組み合わせていくよね。

:みんなバラバラの音楽を聴いてきたからこそ、引用できる引き出しがたくさんあって、それが良く作用しているのかなと思います。

ルサンチマン『memento』を聴く(Apple Musicはこちら

―みなさんどんな音楽がルーツなんですか?

:僕は中学時代から[Alexandros]やクリープハイプをよく聴いていました。高校に入ってからはtetoとかライブが熱いバンドに惹かれるようになって。日本語詞がすごく好きで、洋楽も聴かなきゃと思いつつあまり通ってこなかったんですよね。

清水:僕も中学くらいの時はRADWIMPSとかONE OK ROCKとかが好きでした。高校の頃はレッチリ(Red Hot Chili Peppers)を好きになって、洋楽にいってみたり、邦楽に戻ってきたり、いろいろ行き来して今に至る感じです。父がソウル系の音楽をいつも聴いていたのでその影響もあるかもしれません。

左から:クーラーNAKANO、清水、北、もぎ

クーラーNAKANO(Gt):僕は中学生の時にゲスの極み乙女。のMVを見て衝撃を受けてバンドをやろうと思いました。ボーカロイドも好きです。

もぎ(Dr):音楽好きになったのが小学生から中学生にかけてなんですけど、清水さんと同じようにRADWIPSとかONE OK ROCK、あとSEKAI NO OWARIとかに影響を受けてドラムを始めました。そこから、ドラム自体が好きになって、toeとかmouse on the keysとかLITEとか、ドラムが前面に出てくるインストバンドを聴くようになってめちゃくちゃ影響を受けました。

「尖っててとっつきにくいって思われたくないんです」(北)

―ルーツがバラバラななかで、みなさんが共通して持っているバンドとしての目標や、憧れってどういうものですか?

:僕は自分がボーカルということもあって、他のバンドのライブを観ていると、ボーカルが音楽だけじゃなくてMCでも観客を熱狂させる姿がすげえなと思っていて。バンドを始める前はそういうバンドをやりたいと思っていたんですけど、思ったより喋るのが苦手で……(笑)。だから、サウンドだけで「この人たち熱い!」って思わせられるバンドになりたいです。僕がMCできないのをみんなには許してほしい……。

もぎ:僕ら的にはちょっとMCしてほしいんですよ(笑)。

―してほしいんですね(笑)。

もぎ:それなりに、です! ほんと人並みにやってほしいくらいです。ライブをやるからには曲と曲の間で休んじゃうと、熱狂から平常心に戻ってしまうというか。僕自身も熱狂できる時間が最初から最後まで続いてほしいし、それをお客さんに感じてほしい。感動させるようなMCはしなくてもいいんで、熱狂の持続のために人並みにMCしてほしいですね(笑)。

:でも、よくバンド内でも話しているのが、まだまだ人生経験の浅い10代の僕らみたいな連中が「俺らの人生、込めて歌います」みたいなこと言っても、たとえば36歳の人が見たら「いや、俺、倍生きてるんだけどなあ」みたいな感じじゃないですか。

だから、こいつら若いし全然喋んないけど、サウンドはかっこいいんだなって思っていただけたら嬉しいなと思ってます。尖っててとっつきにくいって思われたくないんです。

清水:尖ってると思われたくないよね。やっぱり演奏でお客さんの心を奮い立たせたい。

:ルサンチマンの音楽は、普通の生活をしているただの人たちがやる特別かっこいい音楽でありたいなと思います。いい人とまで思われなくてもいいんですけど、とげとげしくて関わりづらそうとまでは思われたくないです。

NAKANO:ありのままを見てほしい感じはあるよね。

:うん、ありのままでいたい。MCとかで着飾りたくはないですね。あくまで音楽で着飾りたいです。

絶望が良い音楽を生む? 幸せでいたいと願うルサンチマンのジレンマ

―バンド名もそうですし、今作の楽曲も、現状や今いる居場所に対して不満や怒り、反骨心を抱いているのかなという感じがしていたんですけど、それはどうですか?

:僕がとりわけ怒りっぽいとかそういうわけじゃなくて、誰しもが鬱屈した怒りをどこかしらに持っていると思うんです。普段の生活ではそれを出さないし、わざわざ言わない。だから、音楽では「僕はこういう怒りを経験したことがあるんですけど、みんなどうですか?」って気持ちで曲を書いています。僕ら普段全然怒らないですよ。

清水:生きづらいとかもないよね。

もぎ:めちゃくちゃ楽しくバンドやってます。

―歌詞を読んでいると、もっと怒れる人たちなのかと思っていました。

:僕は怒りの感情も書いてるんですけど、もっと寄り添う曲も書きたくて、今回のアルバムでも怒りの曲と寄り添う曲を交互に入れているんです。怒りをはっきり歌うバンドが少ないから目立つのかもしれないですけど、蓋を開けてみるとこんな感じで、普通の人間が綺麗な部分だけじゃなくて怒りも書いてるってだけなんじゃないかなと思います。

―悲しみや怒りがもの作りの原動力になっている人もいると思いますし、不幸であることが好きな人もいると思うんです。どちらかというとルサンチマンもそういうタイプなのかなと思っていたので意外です。

:僕は幸せでいたいんですよ。でも、メンバーみんな、特にもぎから「おまえは絶望したほうがいい曲書ける」って言われて、自分でもたしかにそうかもしれないと思いました。僕は絶望したくないんですけど、嫌なことがあるほうが案外いい曲が書けるなって気づきつつあって……リード曲の“ニヒリズム”も超絶望した時に書いた曲なんですよ。

―ジレンマですね。

:ジレンマです。ただ僕は幸せになりたい……。

もぎ:そのジレンマ、悲しすぎるだろ。

:マジで悲しい。

「絶望が北の才能のトリガーなんじゃないかと」(もぎ)

―もぎさんはなんで北さんが絶望したほうがいいと思ったんですか?

もぎ:“ニヒリズム”を聴いた時に、この曲はやばいなと思ったのが大きいですね。それで、絶望が北の才能のトリガーなんじゃないかと。

:“ラル”とか“だらしない歌”も怒りよりは、寄り添いたいと思って書いた曲なんです。でも、“ラル”だったらバイト嫌だよなあって話だったり、“だらしない歌”も世の中の多数決の感じ嫌だよなあ、ふたりだけでいいよねって話だったり、ヘイトから寄り添いに繋げる曲ばっかりなんで、完全にハッピーな曲は作れないんじゃないかなって思っています。

もぎ:そういうところがお客さんに響くんじゃないかなと思うんですよね。「私もそう思うことあるな」って言ってくださったりする方も多いから、北にはこれからも悲しい気持ちになってほしい。

:ひどい(笑)。

―清水さんとNAKANOさんもそう感じてるんですか?

清水:いや、そんな絶望しなくていいんじゃないですか(笑)。

NAKANO:北には常々幸せでいてほしいと思ってますよ。

もぎ:全員北には幸せになってほしいと思ってるよ。

―もぎさんが言うのは説得力ないですね(笑)。

:(笑)。よくよく考えてみたら、やっぱりめっちゃ幸せって時は意外とないかもしれない。まあ、幸せじゃないほうがいいのかもしれないですね。今話してて思ったけど、それでいい気がしてきました。

「バンドやめたいとまではいかないですけど、ちょっと休みたいなくらいに思ってて」(北)

―ちなみに、“ニヒリズム”を書いていた時はなぜ絶望していたのですか?

:高1の冬くらいに作った曲で、当時の絶望なんてそんな大したものではないんですけど、高校初めての年でなかなか馴染めないクラスになっちゃって。軽音部でもぎとNAKANOと、清水さんじゃなくて他のベーシストとバンドを組んで、最初は本当に4人とも全然仲良くなかったんです。曲作りもうまくいかないし、それぞれが自分のやりたいようにやりたいっていう感じだったんで、バンドやめたいとまではいかないですけど、ちょっと休みたいなくらいに思ってて。

:恋愛もうまくいかなかったし、テストも最悪だったし、何もうまくいかず、細かいことが積み重なりすぎて、自分を奮い立たせないとダメだと思って書いた曲です。歌詞は全然明るくないんですけど、自分自身へ向けたファイトソングです。

―もぎさんとNAKANOさんは、そのなにもうまくいっていない状態の北さんを見ていたんですよね?

もぎ:見てました。おもしろいのが、そのクラスにNAKANOがいたっていう……(笑)。

NAKANO:しかも席が隣だった。僕は北に対してリスペクトしかなかったんですけどね。

:思い返したら本当に申し訳ない(笑)。NAKANOは当時メガネでめちゃくちゃオタクみたいな感じで……どこを機に仲良くなったんだろうね。やっぱ清水さんが入ってからかな?

もぎ:清水さんが入ってすべてがいい方向に入ったよね。

清水:俺が先輩だったのが良かったのかな。僕が入った当時の雰囲気はすごく良かったよね。その頃の雰囲気を忘れないためにも、今でも僕に対して敬語を崩さないって決めています。

:せっかく清水さんが入ってくれて状況が良くなったのに、距離を詰めすぎるとまたバンド内でのバランスが崩れると思って。だから、先輩後輩の関係は保ちつつバンドをやっていこうよって決めました。

―バンド内のパワーバランスがうまくいかないことが北さんの絶望の一端になっていたからそこらへんは敏感になりますよね。

:ほんとそうですね。だから今は本当にやりやすいです。

怒りを怒りのままにしないために。「怒るだけだったらただ精神力が削られるだけだからもったいない」

―今作は高校時代にできた曲も含みつつ、“アンチドペル”“ラル”“メメントモリ”と新曲が3曲入っていますよね。それぞれいつ頃に書いたんですか?

:“アンチドペル”は去年の2、3月くらいに弾き語りの状態ができたのですが、完成したのはいちばん最後。“メメントモリ”は、コロナ禍で自分のなかで人生観が変わるくらい怒る出来事があって作ったので、いかつめで新しい感じの曲になっています。“ラル”はいちばん最後で、シンプルにいい曲を作ろうと思ってできた曲です。

―“メメントモリ”ができた、人生観が変わるほどの出来事っていうのは?

:僕の友人の親がネグレクトみたいな感じの人で、その人と一悶着あったんです。こんなクソみたいな大人がこの世にいるんだ、最悪だなと思って。曲名も、最初“メメントモリ”じゃなくて“クソ大人”だったんですよ。

もぎ:北がこんなエグい歌詞書くことないなと思って、「なんか嫌なことあったの?」って聞いたらそういう話でした。

:そのクソ大人に向けて書いた歌詞なので、その人の精神レベルに合わせるくらい稚拙な言葉をあえて使ったイメージなんです。この曲は作ろうって思って作ったというよりは、ぶつけようのない行き場のない怒りをどうしようかなと思って、ギターを持っていたらできました。

―やっぱり絶望とか怒りのエネルギーが大きいんですね。とはいえ幸せになりたいとも言っていましたが、バンドとしてはどういう幸せに向かっていきたいですか?

もぎ:僕は音楽ができることが幸せなので、今でも十分幸せなんです。これがちゃんと仕事になってきたら本当に幸せだなと思います。

:僕は全部うまくいきすぎてもおもしろくないなって思うんですよね。たとえばオーディションだとかコンテストだとかで勝ったらもちろん嬉しいけど、負けて悔しい思いをしたらその思いで曲を作れる。いろんな過程も含めてトータルで幸せだと思うので、この調子でやっていけばきっと幸せになれるだろうなと思っています。

清水:僕も北くんと同じようなことを考えていて。このバンドで場数を踏んでいって、自分たちのことを好きでいてくれる人がいろんなところから集まってきてくれて、最終的に大きくなりたい。SNSでバズって一気に飛び級するアーティストさんもいらっしゃって、それもすごくいいなあと思うんですけど、僕たちはじわじわ成長していく下積みの過程も楽しみたいと思っています。

NAKANO:僕は北と清水さんみたいに長い目で考えたりできない人間なので、瞬間瞬間でバンドをやって楽しいとか、ギターを弾けて楽しいなと思っているので、それが続けられたら幸せだなと思います。

―そんななかで普段は外に出さない怒りや鬱憤を音楽で表現していくのはなぜですか?

:怒って得することってないじゃないですか。それを唯一利用できる場ってバンド、特にルサンチマンの音楽なのかなと思うんです。怒るだけだったらただ精神力が削られるだけだからもったいない。どうせなら音楽に落とし込んでリサイクルできたらお得だなと思ってます。

リリース情報
ルサンチマン
『memento』(CD)

2021年3月31日(水)発売
価格:2,200円(税込)
BER-1003

1. ニヒリズム
2. 老いても
3. アンチドペル
4. だらしないうた
5. メメントモリ
6. ラル
7. 卒業(BonusTrack)

プロフィール
ルサンチマン (るさんちまん)

北(Vo・G)、クーラーNAKANO(G)、清水(B)、もぎ(Dr)からなる、平均年齢18歳の東京発オルタナディブロックバンド。2018年に結成、2019年にロッキング・オン主催のオーディション「RO JACK」で優勝し、「ROCK IN JAPAN FESTIVAL 2019」に出演。高校卒業を目前にした2021年3月31日に1stミニアルバム『memento』をリリースした。



記事一覧をみる
フィードバック 25

新たな発見や感動を得ることはできましたか?

  • HOME
  • Music
  • 怒りをエネルギーにしながら幸福を願う ルサンチマンの目指す音楽

Special Feature

Crossing??

CINRAメディア20周年を節目に考える、カルチャーシーンの「これまで」と「これから」。過去と未来の「交差点」、そしてカルチャーとソーシャルの「交差点」に立ち、これまでの20年を振り返りながら、未来をよりよくしていくために何ができるのか?

詳しくみる

JOB

これからの企業を彩る9つのバッヂ認証システム

グリーンカンパニー

グリーンカンパニーについて
グリーンカンパニーについて