実力派、ReiとAnlyの共演。弾き語りで生々しく伝えた音楽の価値

音楽の歴史を知る人にしか奏でられない音がある

9月1日、大阪umeda TRADにて、ReiとAnlyによる一夜限りのコラボライブ『Sing N' Play』が開催された。二人のシンガーソングライターの共通点と言えば、ブルースやクラシックロックなどの音楽がルーツとして根ざしていることだ。Reiは、4歳からアメリカでクラシックギターを触りはじめ、小学生の頃にはジャズブルースのバンドでプレイするなど、幼少期から、誰しもが一度観れば驚くほどの確かな技術を磨き続けてきた。

一方でAnlyは、沖縄本島からフェリーで30分ほど行ったところにある伊江島で生まれ、インターネットもない環境のなかで父親が好きなブルースやロックを聴きながら育ち、2年前に上京、メジャーデビューを果たした。両者とも、フェイバリットアーティストに、エリック・クラプトンを挙げている。

AnlyとRei、ともにCINRA.NETにて過去にインタビュー取材を行ったことがあり、特にReiは、何度か主催イベントに出演してもらったこともあるが、Reiと話していると、たまに「この人は人生2度目なのではないか?」と疑いたくなることがある。というのも、彼女は現在24歳であるが、ときに、音楽家としても一人の人間としても、熟した人からしか出てこないような奥深い言葉を話してくれるのだ。そんなReiの言葉で、今もずっと記憶に強く残っているものがある。

「ブルース」とはなにか?――「ブルーズというのは『真っ白なTシャツ』みたいなものだと私は思うんです。その人の肌の色や顔の表情、ネイルだとか小物だとか、一人ひとりの個性が表れるし、同時に力量も試される音楽」(「聴いた人をシビレさせるRei。4歳で渡米後、話せない苦悩を武器に」より引用)。

Reiが「真っ白なTシャツ」と表現するブルースから派生した音楽のヒストリーを取り入れながら、今を生きる人たちに響くポップスを書いて歌うReiとAnly。この日は、どちらもサポートミュージシャンなどを入れない、たった一人だけの弾き語りで演奏されたが、まさにそれぞれの音楽的な力量やルーツの奥深さ、そして生き方が丸裸の状態で表現されたステージとなった。

ステージ上は、部屋とガーデンを描くようなインテリアで飾り付けされていた(撮影:森好弘)
ステージ上は、部屋とガーデンを描くようなインテリアで飾り付けされていた(撮影:森好弘)

力強い歌声で、考えや想いを素直に届けるAnly

最初に登場したのはAnly。1曲目“Boys blues”の第一声目から、その声のパワーに圧倒させられる。AnlyとReiの出会いは約2年前だそうだが、当時からReiはAnlyのことを「力強い歌声だな」と感じていたと、途中でReiが話していた。

そんなAnlyの声の魅力に引き込まれながら、<矛盾だらけのこの世界 なにが正義かわからない><助けてくれるのは ほこりくさい ブルースだけで>という言葉が耳に入ってくる。Anlyが高校生の頃から歌っているというこの曲は、まさに音楽の価値や力を生々しく伝える『Sing N’ Play』のオープニングに相応しいように思えた。

Anly(撮影:森好弘)
Anly(撮影:森好弘)

冒頭から強烈なインパクトを残したあと、三つ編みを揺らしながら“Bye-Bye”を歌い、キュートな一面を見せる。このギャップもまた、Anlyのずるい魅力だ。3曲目では、スキマスイッチとのコラボソング“この闇を照らす光のむこうに”を一人で歌い上げる。<やさしさとは「ゆるす」ということ>という言葉を、美しくビブラートのかかった声で会場の後ろまで届かせ、その後はアカペラで歌い続けていった。

インタビュー時に、「エド・シーランを見て、ギターにループペダルをつなげて演奏するようになった」と話してくれたが(マキタスポーツが語る、今のJ-POP界においてAnlyが特別な理由)、ループペダルを使いながら、エド・シーランのカバー“Don’t”から自分のオリジナル曲“Coffee”へとつなげていくパフォーマンスは圧巻。最後は、物心がつく前に亡くなったお兄さんのことを想って歌った最新曲“北斗七星”で締めくくった。

撮影:森好弘
撮影:森好弘

サウンドの工夫と、人の感情を表す言葉の追究を続けるRei

Reiももちろん、ギター1本だけで登場。ロマンティックな夢想と給料日の現実を歌った“Pay Day”や、人間から溢れ出る多彩な感情を表した作品『CRY』の収録曲“MOSHI MOSHI”などを披露していく。

『CRY』のリリースツアーは、ベース、キーボード、ドラムも交えた編成で行い、カラフルな音でエンターテイメント性の高いステージを見せていたが、この日は一人だったことで、よりReiのギタープレイの迫力、一音一音を綺麗に鳴らしていく指の滑らかさ、パーカッシブな演奏手法などが際立っていた。Anlyがループペダルを使って、ギターとマシーンを掛け合わせることで生まれる多様な面白さを見せた一方で、Reiは終始、ギター1本の可能性の大きさを伝えるパフォーマンスだった。

Rei(撮影:森好弘)
Rei(撮影:森好弘)

そして、冒頭でも述べたようなReiの熟した言葉が、ギターの音に乗って届けられる。たとえば、6曲目“Long Way to Go”では、<最大のEnemyは老いでも権力でもないや><Feeling satisfied with yourself>(訳:自分の生き方に納得していたいから)と、Reiの人生観を素直に表現。

それまではReiも椅子に座って演奏し、オーディエンスも聴き入るような姿勢を見せていたが、後半は“JUMP”“BLACK BANANA”など、ギターと言葉の組み合わせで、耳触りの「心地よさ」と「違和感」を絶妙なバランスで感じさせるサウンドを鳴らしていく。このテクニックと感性も、Reiが追究し続けているもので、抜群のギタープレイの技量を持っているだけでなく、日本語も英語も使いこなすことのできる彼女だけが、シンガーソングライターとして実現できる音楽の形である。

撮影:森好弘
撮影:森好弘

コラボステージから見えた、二人が個性やコンプレックスを昇華させた美しさ

この日は、二人のコラボも披露された。1曲目が、Led Zeppelin“Stairway to Heaven”、そしてもう1曲が、チャック・ベリー“Roll Over Beethoven”のカバーだ。Reiは、Anlyから“Stairway to Heaven”をリクエストされたときに、「この曲きたか……!」と思ったことを漏らした。2曲ともに、オーディエンスは二人のプレイと歌声に釘付けで、曲が終わると大きな拍手が湧くとともに「CDに焼いて!」という声も挙がるほど。ずっと、何度でも、見入っていたい、聴き入っていたいと思わせてくれる、貴重なまでに濃厚な時間だった。

撮影:森好弘
撮影:森好弘

撮影:森好弘
撮影:森好弘

この日印象的だった場面のひとつは、Anlyのステージの途中、“Manual”を演奏する前のMCだ。この曲はAnlyが高校時代、地毛の茶髪を「染めている」と勘違いした先生に怒られて、イライラしたときに作った曲だと話し、「みなさん、そのままで美しいんです」と言い放って、歌に入っていった。

Reiも、自身が日本語も英語も中途半端であることがコンプレックスだった時期に、音楽でコミュニケーションを取ることで人との距離を縮めることができたと話すが、そういった周囲と馴染まない自分の個性やコンプレックスを、音楽を通して自分の魅力へと昇華させていき、人に幸せや楽しさを与えている二人の姿は、実に美しかった。この先も二人は、自身の生き方を、豊富な音楽知識を持つ人からしか生まれ得ない深くて多彩な音像に乗せることで、我々リスナーの心を洗ってくれるのだろう。そう思わせられる、弾き語り=『Sing N' Play』の舞台だった。

撮影:森好弘
撮影:森好弘

イベント情報
『Sing N' Play』

2017年9月1日(金)
会場:大阪府 umeda TRAD
出演:
Anly
Rei

イベント情報
Anly
『Anly Live Tour 2017 ☆北斗七星☆』

2017年10月10日(火)
会場:宮城県 仙台 LIVE HOUSE enn 2nd

2017年10月11日(水)
会場:栃木県 HEAVEN'S ROCK宇都宮 VJ-2

2017年10月14日(土)
会場:福岡県 Queblick

2017年10月15日(日)
会場:広島県 BACK BEAT

2017年10月19日(木)
会場:愛知県 名古屋CLUB QUATTRO

2017年10月20日(金)
会場:大阪府 梅田CLUB QUATTRO

2017年10月24日(火)
会場:東京都 渋谷CLUB QUATTRO

イベント情報
Rei
『Rei Acoustic Tour “Mahogany Girl”』

2017年12月3日(日)
会場:富山県 Dobu6

2017年12月16日(土)
会場:愛知県 名古屋 K.Dハポン -空き地-

2017年12月17日(日)
会場:兵庫県 神戸 煉瓦倉庫k-wave

2017年12月23日(土・祝)
会場:福岡県 LIV LAVO

2018年1月14日(日)
会場:東京 自由学園明日館 講堂

2018年1月20日(土)
会場:宮城県 仙台forsta

2018年1月21日(日)
会場:北海道 札幌 PROVO

2018年1月26日(金)
会場:静岡県 浜松 PUBLIC CAFE BAR PARK/ING
ゲスト:奇妙礼太郎

2018年1月27日(土)
会場:京都府 紫明会館

プロフィール
Anly
Anly (あんりぃ)

1997年(平成9年)1月、沖縄・伊江島生まれ。沖縄本島からフェリーで約30分、北西に浮かぶ人口約4,000人、風光明媚な伊江島出身シンガーソングライター“Anly(アンリィ)”。中学卒業までPCもインターネットも家にはなく、情報が閉ざされた南の島で、音楽好きの父が持ち帰るブルースやロックのCDを聴き、ギターをオモチャ代わりに爪弾く日々を過ごす。島には中学までしかないため、高校進学の為に転居した那覇市内で弾き語りライブをスタート。高校を卒業した年、2015年11月にドラマ『サイレーン』主題歌に大抜擢、『太陽に笑え』でメジャーデビュー。デビュー前には黒板チョークアートで話題となった大塚製薬「カロリーメイト」CMにも起用される。アコギ1本で空気を一変させる力を持つ、今一番注目されるシンガーソングライター。

Rei (れい)

シンガー・ソングライター / ギタリスト。幼少期をNYで過ごし、4歳よりクラシックギターをはじめ、5歳でブルーズに出会い、ジャンルを超えた独自の音楽を作り始める。2015年2月、長岡亮介(ペトロールズ)を共同プロデュースに迎え、1st Mini Album『BLU』をリリース。FUJI ROCK FESTIVAL、SUMMER SONIC、RISING SUN ROCK FESTIVAL、SXSW Music Festival、JAVA JAZZ Festivalなどの国内外のフェスに多数出演。2017年7月、CD+MUSIC BOOK『CRY』のリリース。7月8日フランス・ベルフォールで行われたフェス『Les Eurockeennes』に出演、7月14日より初東名阪ワンマンツアー『CRY BABY TOUR 2017』を開催。2017年12月より初のソロアコースティックツアー『Rei Acoustic Tour "Mahogany Girl"』を行う。



フィードバック 0

新たな発見や感動を得ることはできましたか?

  • HOME
  • Music
  • 実力派、ReiとAnlyの共演。弾き語りで生々しく伝えた音楽の価値

Special Feature

Crossing??

CINRAメディア20周年を節目に考える、カルチャーシーンの「これまで」と「これから」。過去と未来の「交差点」、そしてカルチャーとソーシャルの「交差点」に立ち、これまでの20年を振り返りながら、未来をよりよくしていくために何ができるのか?

詳しくみる

JOB

これからの企業を彩る9つのバッヂ認証システム

グリーンカンパニー

グリーンカンパニーについて
グリーンカンパニーについて