「ミニシアター・エイド基金」深田晃司、濱口竜介らが記者会見

小規模映画館支援のためのクラウドファンディングプロジェクト「ミニシアター・エイド基金」の立ち上げにあたり、4月13日に記者会見が行なわれた。

新型コロナウイルスの感染拡大による緊急事態宣言や、補償が不明瞭な状況のなかでの自粛要請を受け、多くのミニシアターが閉館の危機に晒されている。そのような現状を背景に4月13日にMotion Galleryでスタートした「ミニシアター・エイド基金」では、1億円を目標金額に設定し、小規模映画館への支援を募っている。また同プロジェクトとも連携する「#SaveTheCinema」では署名活動を通じて政府への提言を進めており、4月14日までに10万筆を目標に署名を集めている。4月15日に各所に署名を提出する予定だという。

DOMMUNEにて配信のみで行なわれた「ミニシアター・エイド基金」の記者会見には、発起人である映画監督の深田晃司と濱口竜介、そしてアップリンク代表の浅井隆、俳優の斎藤工、渡辺真起子らが参加。出演者は全員リモートでの参加となった。

「行政の支援を待っていたら閉館してしまう映画館もあるかもしれない」

深田は「ミニシアター・エイド基金」の活動を始めた背景について、「ミニシアターが大変な状況にある中で、この1、2か月を乗り切れないという声がインターネットや当事者から聞こえてきた。#SaveTheCinemaは署名活動をして行政を動かそうと活動している。これはすごく重要なアクションで、むしろこういったことを日常からしてこなかったツケが今きているとも思っています。

一方で、行政の支援を待っていたら閉館してしまう映画館もあるかもしれない。だから同時に素早くアクションを起こせないかと考えた」と説明。

深田晃司監督

濱口は「名古屋・シネマスコーレの坪井副支配人のインタビューを読んで、我々映画監督にとっては呼んでいただいて、自分の映画もかけていただいて、館主やスタッフの方たちも知っている、そのような人たちが、1か月後、2か月後には職場を失ってしまうかもしれないという状況だとわかったので、極めて衝動的に動き始めた」と話し、深田と濱口がほとんど同じタイミングで動き始めたことから共に活動することになったと明かした。

濱口竜介監督

なぜミニシアターなのか? 理由は「緊急性と重要性」

さらに支援すべき対象が「なぜミニシアターなのか」という点について濱口は「緊急性と重要性」を挙げた。

「緊急性」については「ミニシアターはシネマコンプレックスのような場所とは違って、経営基盤が決して大きくない。この状況が長く続くと確実に経営が危機に陥ってしまう。本来は即刻支援が必要だが、この動きを始めた10日前くらいの時点で、政府が動く気配があまりなかった」と述べた。

そして「重要性」について深田は「ミニシアターは文化の多様性の面でとても重要。海外の映画人が日本に来て驚くのはミニシアターの存在なんです。これだけいろんな国のアート映画やマニアックな映画をこつこつと上映している映画館が日本中に存在している。さらに驚かれるのは、行政の支援がないのにこれだけたくさんのミニシアターが存在していること。そのおかげでハリウッド大作など娯楽性の高い映画だけでなく、ミニシアターに行けばいろんな国のいろんな時代の映画が比較的簡単に見ることができるという状況がぎりぎり保たれている。

いろんな文化、いろんな価値観に触れる環境が保たれているというのは、多様な社会を維持していくためにものすごく重要なこと。ミニシアターがあることは映画業界の問題だけでなく、広く社会の問題、民主主義の問題であると私は考えています」と話した。

クラウドファンディングは「最後の手段」。「当たり前になってはいけない」

また深田はクラウドファンディングは「最後の手段」であるとし、「これが当たり前になるべきでないと考えています。本来は文化予算、私たちが収めている税金によってセーフティーネットが作られてなければいけない。それがないから支援をしなくてはいけない」と強調。

行政の対応について「今はだんだんと遅ればせながら政府からの補償が出てきているが、手続きが煩雑だったり条件が複雑だったりすごく使いづらい。これも問題。本来有事の補償というのは避難所みたいなもの。地震が来た時に避難所がものすごく高い場所や、舗装されていない障害物が多い場所にあったらみんな逃げ遅れて大変なことになってしまいますよね。残念ながら政府の対応はそれ近い状況になってしまっている」と批判し、そういった状況の中で「映画ファンがまず互助しよう。まず手の届く範囲で助け合おうという、クラウドファンディングは大きな意味を持つんじゃないかと思っています」と述べた。

「ミニシアター・エイド基金」ロゴ

斎藤工、渡辺真起子も出席。映画館、ミニシアターへの愛情を語る

「ミニシアター・エイド基金」の賛同人を代表して出席した斎藤工は、「今は人命や医療、インフラにかかわることが最優先だとは思うが、これは長期戦になっていくと思う。長期戦になったときに戻ってくる場所、希望の一つがミニシアターだと思っています。僕はミニシアターで育ったと言っても過言ではない。スクリーンからいろんな景色を見せてもらった」とミニシアターへの愛情を語った。

さらに阪本順治監督と仕事をした際のエピソードに触れ、「阪本さんが自分の作品が上映される場所全てにお手紙を書いていらっしゃった。それくらい各劇場の支配人とネットワークがあって、これが日本映画の歴史なんだと思いました。各劇場が才能を発掘して育てているということを目の当たりにしました」と振り返り、「ミニシアターという場所が存続されることを心から願っている」と話した。

渡辺真起子も「思春期の頃や、自分の居場所が見つからない時に自分を迎え入れてくれたのが映画館だった。俳優は映画の現場でしか映画を作っているという感覚がなかったりもするが、その先にもっともっと道があって、それでやっと観客の方に届いていると思っているんです」「この先、事態が収束したときに新しい未来をどう生きていくのか。映画館は違う視点を分けあえるような場所なんじゃないかなと思うんです」と映画館への想いを涙を浮かべなから述べ、「ミニシアター・エイド基金」への支援を呼びかけた。

また斎藤、渡辺によって、賛同人である是枝裕和、河瀬直美、片渕須直監督からのコメントも代読された。

全国のミニシアター支配人が窮状を訴える。休館が長引くと閉館の危機

全国のミニシアターからは、東京の渋谷と吉祥寺、そして京都にもオープン予定のアップリンク、名古屋・シネマスコーレ、京都・出町座、大阪・シネ・ヌーヴォ、広島・シネマ尾道、大分・シネマ5の支配人らが出席。

シネマスコーレの副支配人・坪井篤史は「休館が1か月でもかなり苦しい。3か月休館が続くと必ず閉館に追い込まれるとわかっている」と明かしたほか、シネマ尾道の支配人・河本清順は「2月、3月くらいまではぎりぎりやっていけるかなという状態だったが、4月にはいって急激にお客さんがいなくなった。特にお年寄りの方々が映画館を支えてきた層なので、基盤がなくなる」と述べた。自主的に休業している館や、営業を続けている館など現状は様々だが、一様に苦しい状況を訴えた。

京都・出町座

映画に関わる人たちの暮らしを守るためのアクション

また濱口は「#SaveTheCinema」の活動にも触れ、「ミニシアター・エイド基金の目標金額は1億円だが、それを各映画館に分配しても、おそらく1か月、2か月分にしかならない。だから国に対するアクションとセットでなくてはいけない」とし、10万筆を目標としている署名への参加を呼びかけた。

さらに「映画という抽象的なものを今守ろうとしているのではなく、映画に関わる人たちの暮らしを守ろうとしている。暮らしはすべての基盤にある」として、この動きが「暮らしを守るためのアクション」であることを強調。

深田は「こういったことが起こる前から、私たちはメジャーやインディペンデントの垣根なく、まとまっているべきだった。ヨーロッパや韓国では、映画業界で資金や人材が循環するようになっているが、日本はそれができていなかった」と続け、「大手メジャーの映画人のみなさんもぜひ声を上げていただければ」と呼びかけた。

最後にアップリンク代表の浅井隆は「今回のことをきっかけに、映画をオンラインで観るのも面白いと発見した人もいるかもしれないけど、映画館で映画を見る面白さは、どんなにメディアやストリーミングの技術が発展しても絶対なくならない。

映画の多様性、文化の多様性を担保しているのが僕ら全国のミニシアターだと思う。もう一度、安全な状況になったら、街に出て映画館に映画を見にきて欲しいと強く思います。そのためには今回のミニシアター・エイドへの応援を強くお願いしたいと思います」と改めて支援を訴えた。

なお、会見後にはジェームス・ブラウン主演のドキュメンタリー映画『ソウル・パワー』がDOMMUNEにて無料配信。投げ銭方式のライブストリーミング上映という形で配信が行なわれた。

「ミニシアター・エイド基金」とは?

映画監督の深田晃司と濱口竜介が発起人となって4月5日に立ち上げを宣言。経営のひっ迫している小規模映画館を支援することを最大の目的としたプロジェクトとなる。

4月13日の開始時点では62団体68劇場が参加しており、4月17日まで新たなミニシアターの参加を可能としている。1運営団体あたり平均150万円の分配を目指し、目標金額は1億円に設定された。

支援のコースは、事態の収束後にミニシアターで映画を見るための「未来チケットコース」と、「思いっきり応援コース」の2パターン。3千円から500万円まで支援金額に応じたリターンが用意されており、リターンには有志の映画館で1年間、映画を1本千円で鑑賞できるパスポートや、「ミニシアター・エイド基金」特別ストリーミング配信サイト「サンクス・シアター」の全作品ストリーミングなどが並んでいる。

「サンクス・シアター」の視聴可能作品リストには、片渕須直監督 『この世界の片隅に』の未公開ドキュメンタリー、空族・冨田克也監督『バンコクナイツ』、山戸結希監督『おとぎ話みたい』をはじめ、柄本佑、草野なつか、染谷将太、諏訪敦彦、瀬田なつき、山田佳奈、三宅唱、横浜聡子らの監督作、そして発起人の深田晃司監督『東京人間喜劇』や濱口竜介監督『親密さ』もラインナップ。今後も本数は随時増えていくという。詳細はMotion Galleryのページから確認しよう。



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