あの高級自動車ブランドが、デザインコンペに取り入れた「師弟制度」は、何をもたらすか

高級自動車ブランドが『ミラノデザインウィーク』でプレゼンテーションするものとは?

『LEXUS DESIGN AWARD』は今年で3年目を迎える、次世代を担うクリエイターの育成、支援を目的とした国際デザインコンペティション。毎年、受賞作品が『ミラノデザインウィーク』にて展示されるだけでなく、受賞者の中から複数組が国際的に活躍するクリエイターをメンター(助言者)としたコラボレーションを行い、そこで制作されたプロトタイプ作品を同じく『ミラノデザインウィーク』で展示するチャンスが与えられることから高い注目を集めている。今年は世界72か国から1000を超える応募が集まり、その中から来年4月の『ミラノデザインウィーク』の展示に向けて1月に発表される『LEXUS DESIGN AWARD 2015』入賞作品を選ぶ審査会が、南青山のスペース「INTERSECT BY LEXUS-TOKYO」で行なわれた。


世界中で活躍する多忙な審査員、メンターが東京に一堂に会しての審査会は今年が初めての試みで、審査員には伊東豊雄(建築家)、パオラ・アントネッリ(ニューヨーク近代美術館建築・デザイン部門シニアキュレーター)、アリック・チェン(香港の視覚文化博物館M+ Museumキュレーター)、バーギット・ローマン(designboom編集長)、アリス・ローソーン(デザイン評論家)、福市得雄(Lexus International President)といったそうそうたる6名が名を連ねる。また、メンターとしてアーサー・ファン(建築家、エンジニア)、ロビン・ハニキー(ゲームデザイナー)、ネリ・アンド・フー(建築家、デザイナー)、マックス・ラム(デザイナー)の4組が参加。豪華なメンバーの顔ぶれからも、「LEXUS」のデザインアワードに対する思い入れが伝わってくる。

『LEXUS DESIGN AWARD 2015』審査会の様子
『LEXUS DESIGN AWARD 2015』審査会の様子

世界最大の国際家具・デザインの見本市『ミラノサローネ』と同時期に行われる『ミラノデザインウィーク』は、企業が自社をプレゼンテーションする絶好の機会。LEXUSほどのブランドであれば、自社の売り物である「車」のデザインに関連したプレゼンテーションが可能なはずだが、LEXUSは過去3年にわたってブースの半分を、『LEXUS DESIGN AWARD』によって選出された若手デザイナーが作品を発表する場として提供している。しかも、コンペで募集されるのは「車のデザイン」ではなく、「社会を良くするデザイン」。グローバルブランドとしてLEXUSがここで発信しようとしているのは、一体どんなことなのだろうか。

アワードをきっかけに生まれる一流デザイナーとの師弟関係。相乗効果も期待できる「メンタリング制度」

審査会でもっとも盛り上がりを見せたのが、4組のメンターがそれぞれメンタリングしたい応募者を選び、その選定の理由をプレゼンテーションする場面。今年はプロトタイプを制作した4作品の中から、さらにミラノでのプレゼンテーションを経て、グランプリ作品が選ばれるため、選んだクリエイターに発展性はあるのか、良い点、弱い点はなにか。審査員を交えて活発な意見が交わされる。ディスカッション終了後、審査員で、『ニューヨークタイムズ』などで執筆するデザイン評論家のアリス・ローソーンに話を聞いたところ、こう話していた。

「昨年、メンターとやりとりをしながらプロトタイプを制作した2組の受賞者には、制作の過程で素晴らしい成長が見られました。同様の効果を期待し、今年はメンターを4組に増やしています。2年続けてメンターを務めるロビン・ハニキーやアーサー・ファンも、昨年がすごく楽しかったので、今年も参加したいと話していました。若い感性に触れることで、メンター自身も自分の考え方を研ぎ澄まし、感性をリフレッシュアップできるのです」

左から、アリス・ローソーン、バーギット・ローマン、ネリ・アンド・フー
左から、アリス・ローソーン、バーギット・ローマン、ネリ・アンド・フー

人を育てるためには、経験や出会いの場を良い形でもたらし、自発的な変化を待たなくてはいけない。多くのアワードが才能あるクリエイターを顕彰するにとどまっているのに対し、『LEXUS DESIGN AWARD』は、若いクリエイターと第一線で活躍するメンターの双方に、刺激と成長の機会を作り出すことで、具体的に人が育つ場を、アワードの構造内に作りあげているのだ。

ここから生まれる新たな才能と、既存のフレームを超えるデザインへの感覚は、社会を劇的に変えるかもしれない

『LEXUS DESIGN AWARD』のもう1つの大きな特徴は、応募作品の形態を特に制限していないところにある。2015年の募集テーマは「Senses=五感」だったが、アリス・ローソーンには、今年の応募作品にはある傾向が見られたと言う。

「『Internet Of Things』という言葉が頭に浮かびました。たとえばPCでレシピを検索すれば、冷蔵庫が『ミルクが足りない』『サラダを作るのであればチーズが足りない』といったことを判断して、マネジメントしてくれるような技術のこと。デジタルデバイス同士がインターネットを通じてコミュニケーションすることで、生活がさらに快適になるといった方法論を提案してくるデザイナーが多くいました。若いデザイナーが既存のフレームを超えたアイデアを考えているのは素晴らしいことです。私たちの将来の生活が良くなる可能性が、すでに始まっているのですから」

作品形態を限らないことで、よりダイナミックなアイデアが登場しやすいのも『LEXUS DESIGN AWARD』の魅力といえる。つまり、LEXUSが『ミラノデザインウィーク』で発信しようとしているのは、私たちの想像や認識のフレームを超えた「未来のデザイン」の可能性なのだ。

左からロビン・ハニキー、マックス・ラム、アリック・チェン、パオラ・アントネッリ
左からロビン・ハニキー、マックス・ラム、アリック・チェン、パオラ・アントネッリ

後列左から、アーサー・ファン、ロビン・ハニキー、ネリ・アンド・フー、マックス・ラム、1列目左から、パオラ・アントネッリ、アリス・ローソーン、バーギット・ローマン、アリック・チェン
後列左から、アーサー・ファン、ロビン・ハニキー、ネリ・アンド・フー、マックス・ラム、1列目左から、パオラ・アントネッリ、アリス・ローソーン、バーギット・ローマン、アリック・チェン

かつて、私たちの暮らしに便利さと快適さという劇的な変化をもたらした「車」というプロダクト。LEXUSブランドを世界で展開するトヨタ自動車は、かつて、繊維機械を生産する豊田自動織機の一部門としてスタートしたという歴史がある。もし豊田自動織機が、機能的で美しい繊維機械を作り、世に広めることのみに注力していたら、LEXUSもトヨタ自動車も存在しなかったかもしれない。そう考えれば、自社の製品である「車」にこだわらず、広く社会を快適にするデザインを振興しようという『LEXUS DESIGN AWARD』のあり方は、ある意味原点回帰とも言えるのだろう。そして、そこから生まれる新たなプロダクトは、人々の生活を劇的に変化させる可能性を常に秘めているのだ。いよいよ2015年1月に発表される、新しい才能の姿に期待したい。

イベント情報
『LEXUS DESIGN AWARD 2015』受賞者発表

2015年1月下旬オンラインにて発表予定

『LEXUS DESIGN AMAZING 2015 MILAN』

2015年4月
会場:イタリア ミラノ



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