不穏な時代にこそ輝く「現代陶芸」の魅力。日本の伝統文化がイギリスの現代アートに与えた影響

日本の伝統文化がイギリスの現代アーティストやキュレーターに与えた影響とは

カラフルに彩られたファッション、アニメ、先進的なテクノロジー。「かわいい」や「クール」が象徴する日本のポップカルチャーは、世界で注目を集め、音楽やアートの分野で様々なコラボレーションを生んできた。では、古くから続く日本の伝統文化はどうなのだろうか? 能や舞踏、陶芸など、日本で独自に育まれてきた表現。それらが異国のアートやコンテンポラリーダンスへと与えた影響を紐解くイベント『At the still point of the turning world… 回る世界の静止点で』が、2月21日、芝浦の「SHIBAURA HOUSE」(建築設計:妹島和世建築設計事務所)で開催された。

『At the still point of the turning world… 回る世界の静止点で』会場風景 Photo by Yukiko Koshima
『At the still point of the turning world… 回る世界の静止点で』会場風景 Photo by Yukiko Koshima

トークと上映、パフォーマンスからなるこのイベントの企画を行ったのは、質の高い展覧会を行なうことで有名なロンドンの「カムデン・アーツ・センター」のキュレーター、ジーナ・ブエンフェルドと、日本でさまざまな現代アートのプログラムを手がけるNPO法人アーツイニシアティヴトウキョウ[AIT/エイト](以下AIT)。イベントは、ジーナのトークで幕を開けた。昨年9月、AITによるキュレーター滞在研究プログラムの一環として来日したジーナは、2週間の滞在中、以前から興味があったという日本の伝統文化を調査。そして、もっとも深く印象に残ったのが『ヨコハマトリエンナーレ2014』で見た、イギリスのアーティスト、サイモン・スターリングの作品『鷹の井戸(グレースケール)』だったと語る。

『ノーベル文学賞』受賞作家でもあるアイルランドの詩人・劇作家の、ウィリアム・バトラー・イェイツが「能」の影響を受けて書いた戯曲『鷹の井戸』をもとに作られた同作品は、本物の能面、再現した舞台衣装などを展示。「能の静かな動き、フォルムと、それらとかけ離れた異国の文化が混ざり合うことで生まれる新しい表現に刺激を受けた」とジーナは語った。そして、このときの経験が、今イベントのテーマへとつながったと言う。

マスクの着用率とアニミズムが日本文化の特徴? イギリスではマイナーな「工芸」に取り組む二人の若いアーティスト

日本とは対称的に、イギリスの現代アートの分野では未だマイナーな存在だという「工芸」というジャンル。そんな周縁の表現とされる工芸で、陶の作品を制作するのが、同じAITのアーティスト滞在制作プログラムでイギリスから来日したジェシー・ワインとキャロライン・アシャントルだ。陶芸家の肩書きを持ち、さまざまな自伝や美術史にユーモアを交えた作品を多く手がけるジェシーは、「静寂な要素に惹かれ、あえて陶を素材に選んでいます」と語った。今回が初来日だという彼は、「自分も徐々に規律正しくなってきた気がする(笑)」と、日本人の真面目さ、そして「マスクの着用率に驚いた」と語り、マスクの上に2匹のかたつむりが居座る新作を発表。そのユニークな佇まいに、来場者は各々にカメラを向けていた。

ジェシー・ワインによる、マスクの上に2匹のかたつむりが居座る作品展示 Photo by Yukiko Koshima
ジェシー・ワインによる、マスクの上に2匹のかたつむりが居座る作品展示 Photo by Yukiko Koshima

一方、日本の伝統表現を語る上では切り離すことのできない「アニミズム」。すべてのものに霊魂が宿るというこの考え方に興味を持つのが、キャロラインだ。もともとは鍛冶工として経験を積んだ後に芸術を学んだという彼女は、ウールを用いた平面作品に加え、近年ではハンドバッグをモチーフにした陶による作品を制作。「人の顔や身体を彷彿とさせるかたちに惹かれる。ハンドバッグはその1つです」と語る彼女。来日後、わずか2週間の間に制作した6つの作品を展示した。

キャロライン・アシャントルによる作品展示 Photo by Yukiko Koshima
キャロライン・アシャントルによる作品展示 Photo by Yukiko Koshima

キャロライン・アシャントルのハンドバッグをモチーフにした作品(カムデン・アーツ・センターでのオープンスタジオにて) 2014年
キャロライン・アシャントルのハンドバッグをモチーフにした作品(カムデン・アーツ・センターでのオープンスタジオにて) 2014年

「ろくろの回転とそれを操る身体はダンスだ」。陶芸とパフォーマンスの思わぬ共通点

陶といってもその形態は様々だが、いわゆる一般的な陶芸制作に使用されるろくろの回転と粘土を操る身体に、ダンスに似た動きを感じたというキュレーターのジーナ。陶芸とダンスという、一見すると「静」と「動」の真逆の性質を持っていると思われがちな2つに潜む共通点は何か? それは、イベントのタイトル「At the still point of the turning world(回る世界の静止点で)」にも繋がっている。ジーナが影響を受けたというイギリスの詩人・劇作家の、T・S・エリオットの詩『Burnt Norton』の一節から引用されたこの一文は、「動」の中にある不変の性質、「過去・現在・未来」という時間を超えた永遠性について書かれたもの。今回のイベントでも、現代陶芸やダンスなどの表現を通じて、それに伴う「身体性」や「フォルム」について考察することとなった。

上映プログラムでは、ジーナによって選ばれた「能」と「舞踏」をテーマとした多様な短編映像が2部構成で上映された。映像作家のさわひらきや、振付家のトリシャ・ブラウン、サイモン・マーティンらによる作品の中には、一見すると、日本の伝統文化とはかけ離れたように感じさせるものもある。しかし、ジーナが指摘する「動き」や「フォルム」を意識すると、不思議にも通底する要素が浮かび上がってきた。そして、そんな解釈を示す集大成にも見えたのが、舞踏と現代アートの観点から作品を発表してきたミルドレッド・ランボーによるスカルプチャーパフォーマンスだ。極限まで抑えられた動作、徐々に崩壊していく粘土の壺と流れ落ちる水。東京の夜景を背景にして、無音状態が保たれた会場では、彼女の一挙一動が一層際立って感じられた。

映像上映プログラム アースラ・メイヤー『Last hours of ancient sunlight / 2010年』Photo by Yukiko Koshima
映像上映プログラム アースラ・メイヤー『Last hours of ancient sunlight / 2010年』Photo by Yukiko Koshima

ミルドレッド・ランボーによるスカルプチャーパフォーマンス 撮影:本宮曜

約6時間にわたって開催された今イベント。中盤のディスカッションでは、AITのキュレーター / 副理事長、ロジャー・マクドナルドから「現在、イギリスの多くのアーティストが工芸へと回帰しつつあるのでは?」という議題が持ち上がった。それに対しジーナは、「あくまで推測の範囲」と前置きをし、「コンセプチュアルアートへの抵抗としての、物質性への回帰」「経済状態の悪化」を原因として挙げた。低迷する社会経済の中では、規模の縮小をまぬがれないアートという文化。そんな状況において、工夫次第ではコンパクトかつコストを抑えて成立可能なものが受け入れられやすくなるという考えは、一理あるのかもしれない。しかし、ジーナの言うようにどこか不穏な時代において、人々は無意識のうちに工芸のもつ静けさや、原始的な物質性という要素を欲しているのではないだろうか? そして、そんな混沌とした世界の中で、静寂かつ不変的な性質を持つ日本の伝統文化は、ますます親和性をもって受容されていくのではないだろうか? 今回のイベントを通して、そんな兆しを強く感じた。

イベント情報
『At the still point of the turning world… 回る世界の静止点で』

2015年2月21日(土)15:30~21:00
会場:東京都 芝浦 SHIBAURA HOUSE
定員:50名
料金:無料
共催:NPO法人アーツイニシアティヴトウキョウ [AIT/エイト]、カムデン・アーツ・センター



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