東京が沸騰した夜。『六本木アートナイト』で見えた、街中ワークショップの可能性

例年に増して活気を見せた『六本木アートナイト』

毎年春の恒例となった一夜限りのアートの饗宴『六本木アートナイト』が、4月25日(土)、26日(日)に開催された。通算6回目となる今年も、六本木ヒルズエリアと東京ミッドタウンエリアを中心に、周辺の各美術館やギャラリー、六本木商店街などの街中がアートによって彩られ、大勢の人で賑わった。

大勢の人で賑わうミッドタウン館内 撮影:Hirofumi Tani
大勢の人で賑わうミッドタウン館内 撮影:Hirofumi Tani

中心エリアの1つである東京ミッドタウンでは、巨大アートや光を使ったパフォーマンスライブ、ギネス世界記録へ挑戦するチャレンジイベント、ワークショップなど、アートを五感で楽しめるイベントを多数開催。なかでも人通りの多いプラザB1Fのストリートでは、『Tokyo Midtown Award 2014』のアートコンペ受賞作家6組がオリジナルのアート作品を展示。連動して誰もが参加できるワークショップやパフォーマンスイベントも行われた。

参加者が殺到、骨だけの鮭が身体を取り戻していくワークショップ

東京ミッドタウンプラザB1F入口のランドマーク、安田侃(やすだ かん)による巨大な大理石のアートワーク『意心帰』の真上に展示されたのは、小林万里子の作品『世界で待ち合わせ』。「エコロジーの考えを、アートを手段に表現している」という小林は、生命と自然の循環やそれを破壊してきた人間の行いを、「サケの一生」をモチーフに、自ら染めた布や和紙、フェルトなどのパッチワークに刺繍を施して有機的に表現。

小林万里子『世界で待ち合わせ』 撮影:Hirofumi Tani
小林万里子『世界で待ち合わせ』 撮影:Hirofumi Tani

小林万里子『蘇れサケ!復活プロジェクト』ワークショップ風景 撮影:Hirofumi Tani
小林万里子『蘇れサケ!復活プロジェクト』ワークショップ風景 撮影:Hirofumi Tani

展示と連動して、『六本木アートナイト』に訪れた誰もが参加できるワークショップ『蘇れサケ!復活プロジェクト』も開催。骨だけになったサケが描かれた布をキャンバスに、さまざまな色で染められた布の切れ端を参加者が自由にアレンジして縫いつけることで、サケが次第に身体を取り戻していくというものだ。ワークショップをやるのは今回が初めてという小林は、「制作は地味な作業で、いつも一人でやっているので、人が集まるか不安でしたが、予想以上の人が参加してくれて驚きました」と、『六本木アートナイト』ならではのダイレクトな反応を実感。ワークショップ作品は小林がさらに手を加えて完成させ、5月に開かれる個展で展示する予定だという。

プロの似顔絵師が目を閉じて、似顔絵を描いてくれるパフォーマンス

アートがもたらす「気づき」をテーマにコンセプチュアルな作品を制作している加藤立は、展示作品『untitled story』とは別に、普段は上野公園で似顔絵を描いているプロの似顔絵師をキャスティングして、「1分間あなたの顔を凝視したあと、目を閉じ、似顔絵を描きます」というパフォーマンスを実施した。モデルとなる参加者は、似顔絵が描かれるあいだ、通常であれば「モデルが見られる」という立場から、「モデルが画家を見守る」立場へと関係性が逆転することに気づく。凝視した1分間で画家の脳裏に焼きつけられた顔が、どのようなイメージとして現れるのか。目を閉じて描く画家をじっと眺めるのも、描く様子を写真に撮るのも、そっとその場を立ち去るのも自由だ。

加藤立『目を閉じて絵を描く』ワークショップ風景 撮影:Hirofumi Tani
加藤立『目を閉じて絵を描く』ワークショップ風景 撮影:Hirofumi Tani

加藤立『untitled story』 撮影:Hirofumi Tani
加藤立『untitled story』 撮影:Hirofumi Tani

作家の加藤は、パフォーマンスを行った理由として、「これまでは、観客との接点は作品を通しての間接的なものだったので、今回は目の前のお客さんとライブなコミュニケーションという、新しい表現にチャレンジしました」と語る。「今度は上野公園でも再演もしてみたい。場所によって観客の反応も違うだろうし、ここで終わりではなくて何回もいろんな所でやってみたい」ということで、『六本木アートナイト』がきっかけで生まれた新しいパフォーマンスの今後の展開も楽しみだ。

「祈りの対象となる仏像も、消費物としての服も、仏教の『無常』の考えからみれば、いずれは朽ちて滅びていくという意味で同じもの」

仏像彫刻・修復家でもある大塚亨は、古典的な仏像彫刻の技法と表現を独自にアレンジして、オリジナルな木彫作品の展示、インスタレーションを行うアーティスト。この夜に展示された『Empty closet (m13)』は、普段当たり前に身につけている「服」を、仏像を制作するのと同じ素材(木材・漆・金箔)と古道具を使用して彫刻した作品。

大塚亨『Empty closet(m13)』 撮影:Hirofumi Tani
大塚亨『Empty closet(m13)』 撮影:Hirofumi Tani

大塚亨『私時間』プレゼンテーション風景 撮影:Hirofumi Tani
大塚亨『私時間』プレゼンテーション風景 撮影:Hirofumi Tani

「祈りの対象となる仏像も、消費物としての服も、仏教の『無常』の考えからみれば、いずれは朽ちて滅びていくという意味で等価なもの。逆に言えば、服を仏像と同じように、祈りながら作れば、昇華された物としての美しさが現れるのではないかと思いました。そこからあらためて自身が着ている服について、今までとは違った何かを感じてもらいたい」

と作品に込めた思いを語る。一見すると、商業施設のショーケースに収められた服のようだが、通りがかりの人々も、その「美」の仕掛けに気づくと、驚きの目をもって熱心に見つめていた。同時に、仏像彫刻に使う古いノミを骨董市で見つけた状態から再生する過程を、映像と現物で紹介する作品『私時間』も展示。こちらも「仏像も、美術作品も、古道具も等価値だ」という作家の考えが表れたプレゼンテーションだった。

これらユニークなアーティストに活躍の場を提供する『Tokyo Midtown Award』

前述したように、ワークショップ、パフォーマンスを行った作家たちは、いずれも2008年から毎年開催されているアートとデザインの2部門からなるコンペティション『Tokyo Midtown Award 2014』アート部門の受賞者たちだ。

『Tokyo Midtown Award 2014』グランプリ 原田武『群雄割拠』 撮影:Hirofumi Tani
『Tokyo Midtown Award 2014』グランプリ 原田武『群雄割拠』 撮影:Hirofumi Tani

『Tokyo Midtown Award』は、東京ミッドタウンの開発コンセプトである「JAPAN VALUE」(新しい日本の価値、感性、才能)を基軸テーマに、第一線で活躍するアーティスト、キュレーター、デザイナーなどを審査員に迎えて年1回開催されるコンペティション。アートコンペでは、模型を使ってのプレゼンテーションによる公開審査(2次)が特徴となっていて、受賞者6名には賞金に加えて、制作補助金100万円と作品発表のチャンスが与えられる。『六本木アートナイト』はその機会のうちの1つ。また、グランプリ受賞作家には副賞として海外のアートプログラムへの招聘も支援される。

主な応募要件は39歳以下であることで、テーマやジャンルは自由。今年も学生から一般まで、幅広く参加作品を募集している。2020年の『東京オリンピック』開催に向けて、日本のアートや文化の発信力への期待も高まる中、若い才能を応援する登竜門を目指す『Tokyo Midtown Award』から、明日を担うアーティストが発掘されることを期待したい。

イベント情報
『Tokyo Midtown Award 2015』アートコンペ

応募締切:2015年5月21日(木)

イベント情報
『六本木アートナイト2015 ストリートミュージアム』

2015年4月25日(土)、4月26日(日)
会場:東京都 六本木 東京ミッドタウン プラザB1F
参加アーティスト:
大塚亨
加藤立
小林万里子
住田衣里
原田武
山田弘幸
料金:無料



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