アジカンが「ライブの時代」に新たな挑戦。建築家とコラボした総合芸術なロック体験

建築家とコラボした、スペクタクルなライブ体験のはじまり

横浜アリーナに足を踏み入れると、ステージの上には形も大きさもバラバラな、白い立方体がいくつもそびえ立っている。そのいくつかの上にマイクスタンドやドラムセットが置かれている。

ASIAN KUNG-FU GENERATION 撮影:山川哲矢
ASIAN KUNG-FU GENERATION 撮影:山川哲矢

開演時間を少し過ぎて、暗転。心臓の鼓動のような電子音のSEの中、メンバーがステージに登場する。そしてドラムが最初のビートを叩いたその瞬間に、真っ白なステージセットがガラリと変貌を遂げる。ドローイングで描かれた風景が映し出され、バンドは不思議な奥行きを持ったその空間の中で演奏する。

全国30か所を巡るASIAN KUNG-FU GENERATIONのツアー『Wonder Future』。その4日目として行われたこの日の公演で彼らが見せたのは、今までに体験したことのないようなスペクタクルなライブだった。プロジェクションマッピングの手法を用いて投射されたドローイングは、旅のスケッチや、記憶の風景を描いた作品をまとめた『幻想都市風景』などで知られる建築家の光嶋裕介によるもの。アジカンの数多くの映像作品集を手がける鶴岡雅浩が映像監督として加わり、光嶋の絵をどのようにライブに導入するか検討を重ねていったという。とても革新的なステージだった。

それが一体どんな感じなのかは、言葉を尽くして説明するより、先日公開されたティザー映像を見てもらったほうがわかりやすいだろう。


そこで、この記事では、なぜ彼らがこういうツアーを行っているのか、その意図を読み解いていきたい。

アジカンというロックバンドが強く意識した、「総合芸術」としてのライブ

最初に結論を言うと、今回のツアー『Wonder Future』の演出は、彼らの新作アルバムのテーマや内容と深い部分でつながっている。そこが何より重要なポイントだ。単にプロジェクションマッピングを用いたから目新しいとか、建築家とコラボするのが斬新とか、そういうことでは全然ない。

先日、ミシマ社のウェブ雑誌「みんなのミシマガジン」で公開された後藤正文と光嶋の対談によると、後藤はアルバムのレコーディング前の段階で、すでに光嶋にステージ設計の依頼をしていたという。そして光嶋もアルバム『Wonder Future』の楽曲を繰り返し聴きながらドローイングを描いていった。音楽と建築という、互いにリスペクトしつつも全く分野の異なる二人のクリエイターがタッグを組むことで、今回のツアーの舞台は作り上げられているのだ。

ASIAN KUNG-FU GENERATION 撮影:山川哲矢
撮影:山川哲矢

そしてそれは、アジカンが建築家によって「空間芸術」として作られたステージに立ち、そこで「時間芸術」として音楽を奏でた、ということでもある。つまりはロックバンドが「総合芸術」としてのライブを強く意識して行ったということなのだ。

「架空の街」から放たれる、あなたへのメッセージ

まだツアーが始まったばかりなのでセットリストの詳細な記述は避けるが、披露したのはニューアルバム『Wonder Future』からの楽曲が中心。そこに加えて“リライト”や“君という花”などの代表曲、そして“ネオテニー”など過去のアルバムからのレアな楽曲を披露する。新作の曲だけでなく、全ての楽曲でステージが鮮やかに照らされ、ときにカラフルに、ときにサイケデリックに舞台が彩られる。“Planet of the Apes / 猿の惑星”では巨大な岩壁が現れ、“深呼吸”では水中の光景が現前するなど、曲の世界観がステージセット全体に広がる。

ASIAN KUNG-FU GENERATION 撮影:山川哲矢
撮影:山川哲矢

メンバーは、後藤正文(Vo,Gt)、喜多建介(Gt,Vo)、山田貴洋(Ba,Vo)、伊地知潔(Dr)にサポートキーボードの下村亮介(the chef cooks me)を加えた五人編成。意外だったのは、アレンジやサウンドが新作とは違う方向性だったこと。アルバム『Wonder Future』は、Foo Fightersのスタジオでレコーディングした一枚だ。そこに詰まっているのは、ラウドで筋肉質で生々しい音。だから、ライブでも無骨なアンサンブルを見せてくれるのかと思っていた。実際には、下村を含めた五人の演奏は、むしろ包容力と広がりのある感じ。同じ楽曲でも、アルバムとはかなり違って聴こえた。

後藤正文(ASIAN KUNG-FU GENERATION) 撮影:山川哲矢
後藤正文(ASIAN KUNG-FU GENERATION) 撮影:山川哲矢

そして、サウンドの方向性が変わっているぶん、浮かび上がってきたのは、新作が表現しているテーマ性やコンセプトの部分だった。アルバムは「架空の街」をテーマにしている。ジャケットも、これまで全てのアートワークを担当してきた中村佑介のイラストではなく、真っ白なジャケットにバンド名とアルバム名だけがエンボス加工で刻み込まれたシンプルなものになっている。初回限定特典ではオリジナルのペンも付属していた。つまりは「あなたが未来を描いてほしい」というメッセージが、そこに込められていた。

ASIAN KUNG-FU GENERATION『Wonder Future』ジャケット
ASIAN KUNG-FU GENERATION『Wonder Future』ジャケット

前述の対談によると、光嶋にステージセットを依頼したレコーディング前の段階で、アルバムを真っ白なジャケットにすることも決めていたという。つまり、今回の真っ白な立方体がそびえ立つステージ、そしてそこに映し出される「幻想都市」の風景も、そのメッセージとリンクしたものなのだと思う。

「ライブの時代」に問われる、ワンマンツアーの価値

そして、アンコールへ。このツアーではアンコールの時間帯のみ観客による撮影が許可されており、沢山の人たちがスマートフォンを掲げてステージに向ける。本編に比べて、いくぶんリラックスしたムード。MCで後藤正文は「来年、結成20周年になるんです」と告げ、出会った頃のエピソードを挟みつつメンバー紹介をする。最後に「アジカンもあとちょっと、何年か、いやクソジジイになるまで続けようと思います」と告げて、大きな喝采を浴びていた。

後藤正文(ASIAN KUNG-FU GENERATION) 撮影:山川哲矢
撮影:山川哲矢

約2時間半のステージ。最後にまるでエンドロールのようにステージに沢山の文字が映し出され、ギターの残響が鳴り終わるその瞬間まで、スペシャルな空間は続いていた。

ASIAN KUNG-FU GENERATION 撮影:山川哲矢
撮影:山川哲矢

今は「ライブの時代」である。CDよりもライブのほうが大きなマーケットになっている。特にここ最近は日本各地で行われるフェスの数も急増し、音楽ファンにとっても、そこがカジュアルにいろんなバンドに出会うための場になっている。しかし、だからこそ、ワンマンツアーというものの価値をどう高めるか。彼らが見せてくれたのは、そういう挑戦でもあったと思う。少なくとも、この『Wonder Future』ツアーでアジカンが見せようとしているのは、フェスやイベントでは体験できないような、1つの「総合芸術」として練り上げられたステージだ。

『ASIAN KUNG-FU GENERATION Tour2015「Wonder Future」』横浜アリーナ公演 会場風景 撮影:山川哲矢
『ASIAN KUNG-FU GENERATION Tour2015「Wonder Future」』横浜アリーナ公演 会場風景 撮影:山川哲矢

ツアーは10月まで続く。より完成度は増していくはずだ。期待していいと思う。

イベント情報
『ASIAN KUNG-FU GENERATION Tour2015「Wonder Future」』横浜アリーナ公演

2015年7月18日(土)
会場:会場:神奈川県 横浜アリーナ

『ASIAN KUNG-FU GENERATION Tour2015「Wonder Future」』

2015年7月28日(火)
会場:愛媛県 松山市民会館 大ホール

2015年7月29日(水)
会場:香川県 サンポートホール高松 大ホール

2015年8月24日(月)
会場:神奈川県 鎌倉芸術館大ホール

2015年8月25日(火)
会場:神奈川県 鎌倉芸術館大ホール

2015年8月29日(土)
会場:石川県 本多の森ホール

2015年8月30日(日)
会場:新潟県 新潟県民会館

2015年9月2日(水)
会場:埼玉県 大宮ソニックシティ 大ホール

2015年9月5日(土)
会場:静岡県 アクトシティ浜松

2015年9月6日(日)
会場:静岡県 富士市文化会館

2015年9月11日(金)
会場:岩手県 大船渡リアスホール

2015年9月13日(日)
会場:福島県 いわきアリオス

2015年9月18日(金)
会場:鹿児島県 鹿児島市民文化ホール第一

2015年9月20日(日)
会場:福岡県 福岡サンパレス ホテル&ホール

2015年9月22日(火)
会場:広島県 上野学園ホール

2015年9月23日(水)
会場:岡山県 倉敷市民会館

2015年9月25日(金)
会場:兵庫県 神戸国際会館 こくさいホール

2015年10月2日(金)
会場:岐阜県 長良川国際会議場

2015年10月4日(日)
会場:愛知県 名古屋国際会議場センチュリーホール

2015年10月9日(金)
会場:大阪府 オリックス劇場

2015年10月10日(土)
会場:大阪府 オリックス劇場

2015年10月12日(月)
会場:宮城県 仙台サンプラザホール

2015年10月15日(木)
会場:東京都 東京国際フォーラム ホールA

2015年10月16日(金)
会場:東京都 東京国際フォーラム ホールA

2015年10月24日(土)
会場:沖縄県 沖縄市民会館大ホール

料金:各公演5,940円
※3歳以上、要チケット

『ASIAN KUNG-FU GENERATION Tour 2015「Wonder Future」- Latin America』

『SUPER JAPAN EXPO』
2015年11月14日(土)
会場:チリ サンティアゴ Movistar Arena

2015年11月15日(日)
会場:ブラジル サンパウロ Teatro Carioca

2015年11月18日(水)
会場:アルゼンチン ブエノスアイレス Teatro VORTERIX

2015年11月20日(金)
会場:メキシコ メキシコシティ Plaza Condesa

リリース情報
ASIAN KUNG-FU GENERATION
『Wonder Future』初回限定盤(CD+DVD)

2015年5月27日(水)発売
価格:3,996円(税込)
KSCL-2587/8

[CD]
1. Easter / 復活祭
2. Little Lennon / 小さなレノン
3. Winner and Loser / 勝者と敗者
4. Caterpillar / 芋虫
5. Eternal Sunshine / 永遠の陽光
6. Planet of the Apes / 猿の惑星
7. Standard / スタンダード
8. Wonder Future / ワンダーフューチャー
9. Prisoner in a Frame / 額の中の囚人
10. Signal on the Street / 街頭のシグナル
11. Opera Glasses / オペラグラス
[DVD]
1. Easter / 復活祭(Music Clip)
2. Standard / スタンダード(Music Clip)
3. Recording Documentary @ Studio 606 & Rock Falcon Studio

ASIAN KUNG-FU GENERATION
『Wonder Future』通常盤(CD)

2015年5月27日(水)発売
価格:3,146円(税込)
KSCL-2589

[CD]
1. Easter / 復活祭
2. Little Lennon / 小さなレノン
3. Winner and Loser / 勝者と敗者
4. Caterpillar / 芋虫
5. Eternal Sunshine / 永遠の陽光
6. Planet of the Apes / 猿の惑星
7. Standard / スタンダード
8. Wonder Future / ワンダーフューチャー
9. Prisoner in a Frame / 額の中の囚人
10. Signal on the Street / 街頭のシグナル
11. Opera Glasses / オペラグラス

プロフィール
ASIAN KUNG-FU GENERATION
ASIAN KUNG-FU GENERATION (あじあんかんふーじぇねれーしょん)

1996年、大学の音楽サークルにて結成。2002年、インディーズレーベルより『崩壊アンプリファー』をリリース。2003年4月、同作がキューンミュージックより異例の再リリースとなり、メジャーデビュー。同年より新宿LOFTにて『NANO-MUGEN FES.』を立ち上げ、2004年からは洋楽アーティストも加わり、会場も日本武道館、横浜アリーナと年々規模を拡大し、2012年の夏には横浜アリーナ2DAYSにて10回目となるフェスを開催した。これまでに7枚のオリジナルフルアルバムをリリース。2013年、デビュー10周年を迎え、9月には横浜スタジアム2DAYSにて、10周年記念ライブを開催。後藤が描くリアルな焦燥感、絶望さえ推進力に昇華する圧倒的なエモーション、勢いだけにとどまらない「日本語で鳴らすロック」でミュージックシーンを牽引し続け、世代を超えた絶大な支持を得ている。

光嶋裕介(こうしま ゆうすけ)

建築家。一級建築士。1979年、米ニュージャージー州生まれ。少年時代をアメリカや日本で過ごし、中学はカナダ、イギリスに滞在。高校から再び日本に。2011年、思想家・内田樹氏の要望に応え「宴会ができる武家屋敷」(合気道の道場兼自宅)として《凱風館》を神戸に完成させ、若手建築家の登竜門であるSDレビュー2011に入選。2012年、《レッドブルジャパン本社オフィス》の内装を担当。首都大学東京都市環境学部助教(2012-2015)のほか、桑沢デザイン研究所および大阪市立大学で非常勤講師をつとめる。著書に『みんなの家。~建築家1年生の初仕事~』(アルテスパブリッシング)、『幻想都市風景』(羽鳥書店)『建築武者修行―放課後のベルリン』(イースト・プレス)、『死ぬまでに見たい世界の名建築なんでもベスト10』(エクスナレッジ)がある。



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