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菊地成孔と行く『日本近代音楽の150年』展

菊地成孔と行く『日本近代音楽の150年』展

内田伸一
撮影:豊島望
2013/11/07
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いまから150年前、この日本ではどんな「音楽」が鳴っていたのか? 長い鎖国の終わりを告げる黒船軍楽隊の響きに始まり、西洋との出会いは政治、教育、娯楽とも絡み合いながら、日本の音楽を激変させていきました。そして、そこには、今日のポピュラーミュージックに直結するトピックも見えてきます。その様子を楽器、楽譜、レコード音源から関連アートまで304点を揃えて伝えるのが東京オペラシティ アートギャラリーで開催されている『五線譜に描いた夢 ─ 日本近代音楽の150年』展。今回はミュージシャンの菊地成孔さんをゲストに、このユニークな音楽の展覧会を体験。彼が「クラシック以外の音楽が好きな人たちこそ見るべき」と語った、発見にあふれる体験を紹介します。

文明開化の渦中における「日本近代音楽」の産声

開国以降、現代までの日本近代音楽の変遷をたどる4章構成の同展覧会、第1章はずばり「幕末から明治へ」。展示室入り口で観客を出迎えるのは、当時、日比谷野外音楽堂での演奏会を撮影した写真です。日比谷野音といえば、菊地さんにとっても豪雨のDCPRG復活ライブ(2010年)など、縁のある場所。現在「野音」といえば今年90周年を迎えた大音楽堂ですが、この小音楽堂がまず1905年(明治38年)に誕生しました。日本が近代国家を目指す歩みの中で生まれた軍楽隊などが、ここで定期演奏会をしたそうです。

東京日比谷公園音楽堂 国立国会図書館提供
東京日比谷公園音楽堂 国立国会図書館提供

菊地:黒船で上陸したアメリカの軍楽隊や、宣教師が伝えた讃美歌が日本の音楽に影響を与えたと話には聞いていましたが、実資料や楽器があると生々しくそれを感じとれますね。当然それまでにも隠れキリシタンなどを通して西洋音楽の影響はあったんでしょうけど、開国でそれがドカンと開いたというか……。ところで今回は明治学院大学の「日本近代音楽館」からの資料が中心だそうで、そもそもなぜこういった資料が明治学院大学に集まったんですか? 東京藝大でも慶応でも国立音大でもなくっていうのが面白い(笑)。

「それはですね」と答えてくれる心強い案内役は、同展監修者の1人、日本近代音楽館の岡部真一郎副館長(明治学院大学芸術学科教授)です。

岡部:もともとは音楽評論家の遠山一行さんが、日本近代音楽の研究・資料収集のため私財を投じて自ら設立した「遠山音楽財団」付属図書館を前身とする旧「日本近代音楽館」なんです。数十万点規模に増えた資料を然るべき機関に寄贈しようとなり、2010年に明治学院大学に移管されました。同大学の起源は、ローマ字表記のヘボン式でも知られるJ・C・ヘボンが1863年に横浜で開いた「ヘボン塾」です。その塾では英語で讃美歌が歌われていましたが、のちに日本語に訳されるようになりました。日本語で洋楽を歌う最初の試みとして、初期の讃美歌集や音楽関係の訳語編集は、日本の近代音楽史にも大きく関わる存在だったんです。

菊地成孔
菊地成孔

本展は、そんな日本近代音楽館の50万点に上る所蔵資料を中心に、全国から集めた資料304点で構成。第1章では、明治維新以降の日本が、近代式軍隊の設立において必然的に軍楽隊を導入することになった経緯や、教育にも音楽を導入しようと西洋の旋律で唱歌を作り出した流れを示す資料、さらに鹿鳴館(外国の賓客や外交官を接待するための社交場)での音楽会の様子を記録した錦絵や、畳部屋でバイオリンと尺八がセッションする様子を描いた『和洋合奏之図』(1906年頃)などが展示されています。

菊地:おぉ、こんな絵も残ってるんだ。ずっと後の時代に、異国趣味として西洋の楽曲に邦楽器を取り入れる試みがやり尽くされますが、この絵からはとにかく純粋に、新しい音楽を吸収しようという感じが伝わってきますね。

彭城貞徳『和洋合奏之図』1906年頃 長崎県美術館蔵
彭城貞徳『和洋合奏之図』1906年頃 長崎県美術館蔵

和音が美しく響く「純正調オルガン」に、今と変わらぬ日本人らしさを見る

一方で、日本人独特の発想もみられます。菊地さんが大きく反応したのは、見たこともない並びの鍵盤を持つ1台のオルガン。ドイツで音響学を学んだ田中正平が考案した「純正調オルガン」です。純正律とは、各音の周波数が正確に整数比になる音階。そのため和音がとても美しく響くのですが、転調するととたんに和音が濁ってしまいます。そこで転調を織り交ぜる演奏でも和音がある程度奇麗に聞こえるよう、1オクターブ中に音程を等間隔に並べたのが、現在主流の「平均律」。純正調オルガンはそこを妥協せず、なんと鍵盤の形を変化させることで、純正律の転調演奏を実現した発明品とも呼べる楽器です。

菊地:(実物と解説を交互に見ながら)ふんふん……これは展示第1章での「カマシ」としては相当な一品ですね(笑)。純正律で自由に弾けるピアノを作るには、鍵盤の数を増やさなきゃいけない。当然の理屈だけど、実際作っちゃったものがドンと目前にあるとインパクトがすごいです。ヘルムホルツ(音響学の分野で有名な科学者)に師事した日本人が開発したっていう武勇伝も、知らなかったけどいいですねぇ。

「純正調オルガン」1936年 国立音楽大学楽器学資料館蔵
「純正調オルガン」1936年 国立音楽大学楽器学資料館蔵

岡部:当時のドイツ皇帝の前でも演奏し絶賛を受けたそうで、ある発想を技術力でそのままカタチにしてしまうのは、日本人らしいという気もしますね。もともと西洋由来だったものをベースに、彼らにはなかった発想と技術力で進化させる。そこには後のソニーやパナソニックが電化製品で見せた才能に近いものも感じます。

田中正平採譜『長唄 越後獅子』1910年 明治学院大学図書館付属日本近代音楽館蔵
田中正平採譜『長唄 越後獅子』1910年 明治学院大学図書館付属日本近代音楽館蔵

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イベント情報

『五線譜に描いた夢 日本近代音楽の150年』

2013年10月11日(金)〜12月23日(月・祝)
会場:東京都 初台 東京オペラシティアートギャラリー
時間:11:00〜19:00、金・土曜11:00〜20:00(いずれも入場は閉館30分前まで)
休館日:月曜(祝日の場合は翌火曜)
料金:一般1,000円 大学・高校生800円 中・小学生600円

『ミニコンサート』

『第1回 幕末・明治の器楽曲』(※終了しました)
2013年11月2日(土)13:00〜、15:00〜
会場:東京都 初台 東京オペラシティアートギャラリー
演奏楽曲:
瀧廉太郎“憾””“”メヌエット”
幸田延“ヴァイオリンソナタ 変ホ長調”
ほか

『第2回 明治のうた』
2013年11月9日(土)13:00〜、15:00〜
会場:東京都 初台 東京オペラシティアートギャラリー
演奏楽曲:
瀧廉太郎“荒城の月”
岡野貞一“故郷”
ほか

『第3回 西洋の音・日本の響き』
2013年11月16日(土)13:00〜、15:00〜
会場:東京都 初台 東京オペラシティアートギャラリー
演奏楽曲:
萩原朔太郎“機織る乙女”
宮城道雄“春の海”
ほか

『第4回 大正ロマンのうた』
2013年11月23日(土・祝)13:00〜、15:00〜
会場:東京都 初台 東京オペラシティアートギャラリー
演奏楽曲:
スッペ『ボッカチオ』から“ベアトリ姉ちゃん”
山田耕筰“からたちの花”
ほか

『第5回 しのびよる軍靴の音』
2013年11月28日(木)14:00〜
会場:東京都 初台 東京オペラシティビル3F 近江楽堂
演奏楽曲:
橋本國彦“斑猫”
松平頼則“フリュートとピアノのソナチネ”
ほか
定員:100名(要整理券)

『第6回 昭和の戦時歌謡』
2013年12月7日(土)13:00〜、15:00〜
会場:東京都 初台 東京オペラシティアートギャラリー
演奏楽曲:
古賀政男“丘を越えて”
林伊佐緒“出征兵士をおくる歌”
ほか

『第7回 新時代のメロディ』
2013年12月14日(土)13:00〜、15:00〜
会場:東京都 初台 東京オペラシティアートギャラリー
演奏楽曲:
團伊玖磨“花の街”
武満徹“翼”
ほか

『第8回 戦後の器楽曲』
2013年12月20日(金)14:00〜
会場:東京都 初台 東京オペラシティビル3F 近江楽堂
演奏楽曲:
黛敏郎“BUNRAKU”
三善晃“弦楽四重奏曲第3番『黒の星座』”
ほか
定員:100名(要整理券)

料金:各公演 無料(当日の展覧会入場券が必要)

プロフィール

菊地成孔(きくち なるよし)

ジャズメンとして活動 / 思想の軸足をジャズミュージックに置きながらも、ジャンル横断的な音楽 / 著述活動を旺盛に展開し、ラジオ / テレビ番組でのナビゲーター、選曲家、批評家、ファッションブランドとのコラボレーター、映画 / テレビの音楽監督、プロデューサー、パーティーオーガナイザー等々としても評価が高い。「一個人にその全仕事をフォローするのは不可能」と言われる程の驚異的な多作家でありながら、総ての仕事に一貫する高い実験性と大衆性、独特のエロティシズムと異形のインテリジェンスによって性別、年齢、国籍を越えた高い支持を集めつづけている、現代の東京を代表するディレッタント。2011年、ジャズの名門レーベルimpulse!からDCPRG名義で『Alter War In Tokyo』を発表。主著はエッセイ集『スペインの宇宙食』(小学館)、マイルス・デイヴィスの研究書『M/D〜マイルス・デューイ・デイヴィス3世研究』(河出新書 / 大谷能生と共著)、レギュラーはTBSラジオ『菊地成孔の粋な夜電波』など。最新アルバムはJAZZDOMMUNISTERS『BIRTH OF DOMMUNIST〜ドミュニストの誕生』(ビュロー菊地)。

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