カンヌ、ベルリン、ヴェネチアの受賞作は? 2016年の三大映画祭を振り返る

日本では『シン・ゴジラ』『君の名は。』などのヒット作が話題を集めた2016年の映画界。アメリカでは12月12日に『ゴールデン・グローブ賞』の候補作が発表され、1月に控える『アカデミー賞』のノミネート作品予想にも拍車がかかってきました。

「世界三大映画祭」と言われる『カンヌ国際映画祭』『ベルリン国際映画祭』『ヴェネチア国際映画祭』には、今年も世界各国からバラエティーに富んだ作品が出品され、有名監督の新作映画から社会を切り取ったドキュメンタリーまで、賞を受けた作品もさまざま。来年日本公開を控える作品も数多くあります。では、今年の各映画祭の主要受賞作は何だったのか? 改めて振り返ってみましょう。

『第69回カンヌ国際映画祭』

1946年から毎年5月にフランス南部の都市カンヌで行なわれている『カンヌ国際映画祭』。出席者だけでなく報道陣にも厳しいドレスコードが設けられていることで知られ、昨年はフラットシューズを履いた女性が上映会への入場を拒否されたことで物議を醸しました。

今年の審査委員長はジョージ・ミラー。コンペティション部門には20作が出品され、ケン・ローチ監督の『わたしは、ダニエル・ブレイク』がパルム・ドールを受賞。ポール・バーホーヴェン監督『ELLE(原題)』や、『ヨーロッパ映画賞』で5冠に輝いたマーレン・アーデ監督の『Toni Erdmann(原題)』などは賞を逃しています。

オープニング作品は、ウディ・アレン監督の『カフェ・ソサエティ』。同作をはじめ、ジム・ジャームッシュ監督の『Paterson(原題)』『Gimme Danger(原題)』、ニコラス・ウィンディング・レフン監督の『ネオン・デーモン』、パク・チャヌク監督の『お嬢さん』と、映画製作に乗り出したAmazonによるAmazon Studio製作の作品が5本も今年の上映作品にラインナップされたことも話題に。また「ある視点」部門では、深田晃司監督の『淵に立つ』が審査員賞に輝きました。

コンペティション部門
パルム・ドール
『わたしは、ダニエル・ブレイク』(監督:ケン・ローチ)

『わたしは、ダニエル・ブレイク』 ©Sixteen Tyne Limited, Why Not Productons, Wild Bunch, Les Films du Fleuve, Britsh Broadcastng Corporaton, France 2 Cinéma and The Britsh Film Insttute 2016
『わたしは、ダニエル・ブレイク』 ©Sixteen Tyne Limited, Why Not Productons, Wild Bunch, Les Films du Fleuve, Britsh Broadcastng Corporaton, France 2 Cinéma and The Britsh Film Insttute 2016

イギリス北東部のニューカッスルを舞台にした作品。心臓の病で医者から仕事を止められるも複雑な制度に翻弄され、必要な援助を受けることができない59歳の大工ダニエル・ブレイクが、シングルマザーのケイティと交流を深め、貧困に苦しみながらも助け合って生きていこうと奮闘する様を描く。80歳を迎えたケン・ローチは、『麦の穂を揺らす風』に続く2度目のパルム・ドール。世界中で拡大する格差や貧困に苦しむ人々を目の当たりにし、一度表明した引退を撤回して同作を制作しました。日本公開日は3月18日。

グランプリ
『たかが世界の終わり』(監督:グザヴィエ・ドラン)

『たかが世界の終わり』 ©Shayne Laverdiere, Sons of Manua
『たかが世界の終わり』 ©Shayne Laverdiere, Sons of Manua

ジャン=リュック・ラガルスの戯曲『まさに世界の終わり』をもとにした同作は、自らの死期が近いことを家族に伝えるため、12年ぶりに帰郷した劇作家のルイを主人公に、再会した家族が感情をさらけ出して傷つけ合う様を描く作品。コンペティション部門の公式上映では7分間にわたるスタンディングオベーションを受け、ドラン監督は受賞式で「今日、僕は自分がなにものなのか?をようやく理解できました」と涙ながらにスピーチしました。日本では2月11日から公開。

監督賞
クリスチャン・ムンジウ(『エリザのために』)

『エリザのために』 ©Mobra Films - Why Not Productions - Les Films du Fleuve - France 3 Cinema 2016
『エリザのために』 ©Mobra Films - Why Not Productions - Les Films du Fleuve - France 3 Cinema 2016

2007年の『4ヶ月、3週と2日』でパルム・ドールを受賞したルーマニア出身のクリスチャン・ムンジウ監督による作品。暴漢に襲われて動揺する娘のイギリス留学実現のために、ある条件と交換に警察や試験監督に温情を与えてもらおうと奔走する父親の姿を描く。日本公開は1月28日から。

監督賞
オリヴィエ・アサイヤス(『Personal Shopper(原題)』)

『Personal Shopper(原題)』Photo Carole Bethuel
『Personal Shopper(原題)』Photo Carole Bethuel

5度目のコンペ部門出品にして初めて『カンヌ国際映画祭』で賞を受けたオリヴィエ・アサイヤス。セレブのパーソナルショッパーとして働く女性が、死んだ双子の弟の霊と交信するというあらすじ。主演は、アサイヤス監督の前作『アクトレス~女たちの舞台~』にも出演したクリステン・スチュワートが務めています。

脚本賞
アスガル・ファルハーディー(『The Salesman(英題)』)

『別離』『ある過去の行方』などの監督作を発表しているイランのアスガル・ファルハーディーによる作品。アーサー・ミラーの戯曲『セールスマンの死』を演じる若いカップルの物語。シャハブ・ホセイニが選出された男優賞と、脚本賞の2部門に輝いています。日本公開は現時点では未定。

女優賞
ジャクリン・ホセ(『Ma'Rosa(原題)』)

男優賞
シャハブ・ホセイニ(『The Salesman(英題)』)

審査員賞
『American Honey(原題)』(監督:アンドレア・アーノルド)

カメラ・ドール
『Divines(原題)』(監督:ウーダ・ベニャミナ)

『第66回ベルリン国際映画祭』

1951年から毎年2月にドイツ・ベルリンで行なわれている『ベルリン国際映画祭』。社会派の作品が集まることで知られ、今年は18作品がコンペティション部門にラインナップ。審査委員長を女優のメリル・ストリープが務め、オープニング作品はコーエン兄弟の『ヘイル、シーザー!』。名誉金熊賞にはライナー・ヴェルナー・ファスビンダー監督やマーティン・スコセッシ監督作などを多く手掛けたドイツの撮影監督ミヒャエル・バルハウスが選出されました。

日本からは黒沢清監督の『クリーピー』がベルリナーレ・スペシャル部門、ウェイン・ワン監督の『女が眠る時』がパノラマ部門に出品。また東日本大震災後の福島を舞台にしたドイツ映画『フクシマ・モナムール』がハイナー・カーロウ賞と国際アートシアター連盟賞を受賞。同作には桃井かおりも出演しています。

金熊賞
『海は燃えている~イタリア最南端の小さな島~』(監督:ジャンフランコ・ロージ)

『海は燃えている~イタリア最南端の小さな島~』 ©21Unoproductions_Stemalentertainement_LesFilmsdIci_ArteFranceCinéma
『海は燃えている~イタリア最南端の小さな島~』 ©21Unoproductions_Stemalentertainement_LesFilmsdIci_ArteFranceCinéma

難民や移民の玄関口であるイタリア最南端の島・ランペドゥーサ島を舞台にしたドキュメンタリー映画。命を危険にさらしながらヨーロッパを目指して地中海を渡る人々と島に暮らす住民たちの日常を、島で育つ12歳の少年・サムエレを中心に記録した作品です。

当時のイタリア首相マッテオ・レンツィは、今年3月に行なわれた移民政策が議題のEU首脳会談で「この映画を観たら、違った視点での議論ができるはず」と話し、同作のDVDを27人の全首脳に手渡したそう。日本公開は2月11日から。監督のジャンフランコ・ロージは、2013年に監督作『ローマ環状線、めぐりゆく人生たち』でドキュメンタリー映画として初めて『ヴェネチア国際映画祭』金獅子賞を受賞しています。

銀熊賞 審査員グランプリ
『サラエヴォの銃声』(監督:ダニス・タノヴィッチ)

『サラエヴォの銃声』 ©Margo Cinema, SCCA/pro.ba 2016
『サラエヴォの銃声』 ©Margo Cinema, SCCA/pro.ba 2016

2013年の『鉄くず拾いの物語』でも『ベルリン国際映画祭』で3部門に輝いたボスニア出身のダニス・タノヴィッチ監督による最新作。サラエボ事件から100年の式典を控える高級ホテル「ホテル・ヨーロッパ」を舞台に、一発の銃声によって引き起こされる騒動と、ジャーナリストや従業員らの運命が交錯する様を描く。同作は、パキスタンで大手企業が起こした粉ミルクによる乳幼児死亡事件をもとにした『汚れたミルク/あるセールスマンの告発』と共に、3月から東京・新宿シネマカリテで連続公開される予定。

銀熊賞 最優秀監督賞
ミア・ハンセン=ラヴ(『未来よ こんにちは』)

『未来よ こんにちは』ポスタービジュアル ©2016 CG Cinéma・Arte France Cinéma・DetailFilm・Rhône-Alpes Cinéma
『未来よ こんにちは』ポスタービジュアル ©2016 CG Cinéma・Arte France Cinéma・DetailFilm・Rhône-Alpes Cinéma

『あの夏の子供たち』『EDEN/エデン』などのミア・ハンセン=ラヴ監督による新作。独立した子どもを2人持ち、パリの高校で哲学を教えるナタリーが、突然の離婚と母の死から独り身になってしまうというあらすじ。孤独を受け入れて前に進もうとする主人公ナタリー役を演じたイザベル・ユペールは、『第82回ニューヨーク映画批評家協会賞』『第42回ロサンゼルス映画批評家協会賞』において、同作と『ELLE(原題)』の2作品で主演女優賞を受賞しました。日本公開は3月下旬を予定。

銀熊賞 最優秀男優賞
マジ・マストゥーラ(『Hedi(英題)』)

銀熊賞 最優秀女優賞
トリーヌ・ディルホム(『The Commune(英題)』)

銀熊賞 最優秀脚本賞
トマシュ・ヴァシレフスキ(『United States of Love(英題)』)

銀熊賞 アルフレッド・バウアー賞
『痛ましき謎への子守唄』(監督:ラヴ・ディアス)

銀熊賞 芸術貢献賞
リー・ピンビン(『長江図』)

『第73回ヴェネチア国際映画祭』

毎年8月から9月にかけてイタリア・ヴェネチアで行なわれる『ヴェネチア国際映画祭』は、1932年に創設された世界最古の映画祭。もとは国際芸術祭である『ヴェネチア・ビエンナーレ』の一部門としてスタートしました。

今年の審査委員長はサム・メンデス。コンペティション部門には、ドゥニ・ヴィルヌーヴ監督の『メッセージ』や、デレク・シアンフランス監督の『The Light Between Oceans(原題)』をはじめ、ヴィム・ヴェンダース、フランソワ・オゾン、テレンス・マリック、エミール・クストリッツァらの監督作など20作品が出品。

オープニングを飾ったのはデイミアン・チャゼル監督の新作『ラ・ラ・ランド』。日本からは石川慶監督の『愚行録』がオリゾンティ・コンペティション部門に正式出品されたほか、奥浩哉原作の3DCG映画『GANTZ:O』がアウト・オブ・コンペティション部門で上映されました。

コンペティション部門
金獅子賞
『The Woman Who Left(英題)』(監督:ラヴ・ディアス)

『The Woman Who Left(英題)』
『The Woman Who Left(英題)』

フィリピンのラヴ・ディアス監督による上映時間約4時間におよぶモノクロ作品。殺人の冤罪によって30年間投獄された女性が、自分を陥れた元恋人に復讐を果たそうとする物語。監督のラヴ・ディアスは今年の『ベルリン国際映画祭』コンペティション部門にフィリピン革命期を舞台にした上映時間8時間におよぶ作品『痛ましき謎への子守唄』を出品し、銀熊賞のアルフレッド・バウアー賞を受賞しています。

審査員大賞
『Nocturnal Animals(原題)』(監督:トム・フォード)

ファッションデザイナーのトム・フォードによる、『シングルマン』に続く長編2作目の監督作。オースティン・ライトの小説『ミステリ原稿』を映画化した作品で、元夫の名で書かれた小説を手にしたギャラリーオーナーの女性が、小説のショッキングな内容から次第に不安に襲われていく、というあらすじ。キャストはエイミー・アダムス、ジェイク・ギレンホール、マイケル・シャノンら。

銀獅子賞
『The Untamed(原題)』(監督:アマト・エスカランテ)

2013年の『エリ』で『カンヌ国際映画祭』監督賞を受賞したメキシコのアマト・エスカランテ監督によるSF映画。うまくいかない結婚生活を送っていた夫婦の日常が、隕石を発見したことをきっかけに一変する様が描かれます。

銀獅子賞
『Paradise(原題)』(監督:アンドレイ・コンチャロフスキー)

アンドレイ・タルコフスキー監督の作品に脚本で参加していることでも知られるコンチャロフスキー監督。『Paradise(原題)』は第二次世界大戦の時代を舞台にした作品。ロシア貴族出身でフランスのレジスタンスの一員であるオルガ、オルガの同志であるフランス人のジュールス、ナチス党員のヘルムートの3人の人生が交錯する様をモノクロームの映像で描き出しています。

ヴォルピ杯 男優賞
オスカル・マルティネス(『名誉市民』)

ヴォルピ杯 女優賞
エマ・ストーン(『ラ・ラ・ランド』)

脚本賞
ノア・オッペンハイム(『ジャッキー/ファーストレディ 最後の使命』)

審査員特別賞
『The Bad Batch(原題)』(監督:アナ・リリ・アミリプール)

マルチェロ・マストロヤンニ賞
ポーラ・ビール(『Frantz(原題)』)

今回紹介した作品の多くはまだ日本で公開されておらず、2017年の公開が待ち遠しい作品が目白押しです。また来年2月には次の『ベルリン国際映画祭』が開幕。アキ・カウリスマキ監督の新作『The Other Side of Hope(英題)』など10作品がコンペ部門に並んでいます。今年は三大映画祭のコンペ部門に日本の作品の姿が見られませんでしたが、果たして来年はどうなるのか? 来年の映画祭が楽しみです。



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