「ゲーム音楽」はなぜ多くの音楽家を虜にする?神曲と共に考察

「Hyperdub」が手がける日本のゲーム音楽コンピ『Diggin In The Carts』

tofubeatsやTom-H@ck、kz(livetune)といった新しい世代の音楽家たちが「ゲームミュージック」からの影響を公言している。そのことにより、これまでゲームミュージックを「音楽作品」として意識することのなかった人たちの間でも、「ゲーム音楽には、知られざる名曲がたくさん眠っている」という事実が、一昔前よりも広く認知されるようになった。とはいえ、そういった人たちが自らの「好みのゲーム音楽」を、その大海からピックアップするとなると、これまた至難の技。「届くべき人の元に届かない」という状態は相変わらず続いていた。

11月17日、そんなゲームミュージックを取り巻く状況を変えるかもしれない作品が発表される。英国のエレクトロニックミュージックレーベル「Hyperdub」からリリースされる『Diggin In The Carts』は、1980年代後期から90年代中期にかけて、日本のゲームミュージックシーンから生まれた「神曲」ばかりを集めたコンピレーションアルバムだ。日本のゲームミュージックの歴史やその魅力を紹介する同名のドキュメンタリー(2014年)が発端となり、制作された一枚である。

『Diggin' In The Carts』キービジュアル / 11月17日、恵比寿LIQUIDROOMではライブイベント『RED BULL MUSIC FESTIVAL TOKYO 2017 presents DIGGIN' IN THE CARTS 電子遊戯音楽祭』が開催される
『Diggin' In The Carts』キービジュアル / 11月17日、恵比寿LIQUIDROOMではライブイベント『RED BULL MUSIC FESTIVAL TOKYO 2017 presents DIGGIN' IN THE CARTS 電子遊戯音楽祭』が開催される(公演情報を見る

『Diggin In The Carts』は、BurialやLaurel Haloなど、先鋭的なアーティストを数多く輩出してきたHyperdubのヘッドであるKode9と、ドキュメンタリーの監督を務めたニック・ドワイヤーによるセレクト。それだけに、エレクトロニックミュージックと日本のゲームミュージックが、いかに強く結びついているかを探る上でのヒントに満ちた内容となっている。

YMOとの関係から紐解く、ゲーム音楽とエレクトロニックミュージックの親和性

ゲームミュージックとエレクトロニックミュージックの親和性の高さは、Yellow Magic Orchestra(以下、YMO)が大流行した70年代まで遡る。シンセサイザーやボコーダーなどの電子楽器を駆使した音楽と、社会現象にもなったゲーム『スペースインベーダー』(1978年)を初めとする日本のゲームサウンドは、互いに影響を受け合いながら発展を遂げてきた。

たとえば、『スペースインベーダー』と『サーカス』(1977年)のサウンドを用いたYMOの楽曲、“コンピューター・ゲーム“インベーダーのテーマ””と“コンピューター・ゲーム“サーカスのテーマ””(共に1978年の1stアルバム『イエロー・マジック・オーケストラ』に収録)はその最たる例だろう。

Yellow Magic Orchestraの『イエロー・マジック・オーケストラ』を聴く(Apple Musicを開く

その後も、YMOのリーダーである細野晴臣はコンピレーションアルバム『ビデオ・ゲーム・ミュージック』(1984年)で編曲とプロデュースを手がけ、『パックマン』や『ゼビウス』といった、当時のアーケードゲームの音楽を紹介。70年代~80年代のYMOとゲームミュージックは、非常に近い距離にあったのだ。

では、音楽家たちがゲームミュージックに魅了されるのはなぜなのか? 70年代~80年代に普及した8ビット / 16ビットのゲーム音楽では、限られた数のチープな音色をいかに組み合わせるかがポイントだった。

クラシックやロック、ジャズ、レゲエ、あるいは抽象音楽などをいかに表現するかが勝負であり、その工夫こそがゲームミュージックの持つ「他にはない魅力=オリジナリティー」となっていった。ゲームミュージックが多くの音楽家を魅了する点はそこにあると言える。

Kode9も認めた、ゲームミュージックの名曲たちを聴く

本作『Diggin In The Carts』にも、PC-8801、MSX、MSXturboRといった8ビット / 16ビットパソコンから、ファミリーコンピュータ、PC エンジン、スーパーファミコンといった家庭用ゲーム機まで、全34曲のゲームミュージックを収録している。

たとえば、コナミ(現・コナミデジタルエンタテインメント)のサウンドチーム「コナミ矩形波倶楽部」による“Mazed Music”(『グラディウス』 / 1985年)や、中潟憲雄の“Big Mode”(『源平討魔伝』 / 1986年)、伊藤真澄の“Tactics 4”(『スーパーロイヤルブラッド』 / 1991年)などを聴くと、3~4つ程度の音色が、ウネウネと曲がりくねった別々の道を進みながら、近づいたり交差したりしながら有機的なサウンドスケープを紡ぎあげている。

かと思えば古代祐三による“アイトス~テンプル”(『アクトレイザー』 / 1990年)は、まるでオーケストラのように電子音を積み重ね、重厚なアンサンブルを高らかに奏でている。

古代祐三
古代祐三 / “アイトス~テンプル”を聴く(SoundCloudを開く

また、細井聡司の“Mister Diviner”(『The 麻雀・闘牌伝』 / 1993年)では、スティーヴ・ライヒをも想起させる寄せては返す波打ち際のようなシーケンスフレーズを聴くことができる。


“Mister Diviner”を聴く(SoundCloudを開く

OPN、Thundercat、Flying Lotusら、現代電子音楽シーンのスターたちに影響を与えたゲーム音楽

ちなみに、こうした当時の日本のゲームミュージックは、時を経て再び世界中から注目を集めているようだ。Oneohtrix Point Neverが、2010年に「ダニエル・ロパティン」名義でリリースしたアルバム『Chuck Person's Eccojams Vol.1』は、日本のゲームミュージックに多大なる影響を受けた「ヴェイパーウェイヴ」と言われるジャンルの先駆けと言われ、彼が手がけた映画『Good Time』(2017年)のサントラも、そうしたサウンドの延長線上にある。

また、『Diggin' In The Carts』のラジオ番組に出演したThundercatは、『ソニック・ザ・ヘッジホッグ』(1991年)、『モータルコンバット』(1992年)、『ストリートファイターII』(1991年)をフェイヴァリットに挙げ、自分の音楽がいかにゲームミュージックから影響を受けているかを語っている。

Thundercat『Drunk』収録曲

さらに、先日公開された映画『ブレードランナー 2049』(2017年)の前日譚『ブレードランナー ブラックアウト 2022』のサントラを手がけるFlying Lotusも、『Diggin' In The Carts』のドキュメンタリーでゲームミュージックの魅力を語っている。

ゲームミュージックとは、アーティストが「内なるもの」を表現する場ではなく、「演出に必要なBGM」を提供する場である。しかし、むしろその徹底したクラフトマンシップから生まれた音楽は、結果的に他のどんな音楽よりも過激で、多くの音楽家を魅了し続けている。本作は、そんなゲームミュージックの魅力が、届くべき人のところに届くための一枚なのだ。

『Diggin In The Carts』ジャケット
『Diggin In The Carts』ジャケット(Amazonで見る

リリース情報
V.A.
『Diggin In The Carts』(CD)

2017年11月17日(金)発売
価格:2,376円(税込)
BRHD-038

1. コナミ矩形波倶楽部 - Opening - [コズミックウォーズ]
2. コナミ矩形波倶楽部 - Mazed Music [グラディウス]
3. 中潟 憲雄 - Big モード [源平討魔伝]
4. 蓮舎 通治 - Hidden Level [ソロモンの鍵]
5. コナミ矩形波倶楽部 – 植物惑星のテーマ[グラディウス 2]
6. 斎藤 学 – 荒野にて [シャティ]
7. コナミ矩形波倶楽部 - Equipment [ゴーファーの野望 エピソードII]
8. コナミ矩形波倶楽部 - BGM 3 [モトクロス マニアックス]
9. 山中 季哉 - Visual Scene 1&2 [妖獣機甲兵ワードラゴン]
10. ゴブリン・サウンド – オープニング [飛装騎兵カイザード]
11. 新田 忠弘 – 暗雲 [サークII]
12. 古代 祐三 – アイトス~テンプル [アクトレイザー]
13. コナミ矩形波倶楽部 – アガルタへの道 [魍魎戦記MADARA]
14. 川田 宏行 – エレキマン王 [ワルキューレの伝説]
15. 田島 勝朗 - Exercise [メガパネル]
16. ゴブリン・サウンド – ゲームオーバー [飛装騎兵カイザード]
17. コナミ矩形波倶楽部 - Beyond The Terminus [クォース]
18. 海野 和子-ZUNTATA- 水とあわのWALTZ [ミズバク大冒険]
19. 齋藤 博人 - Main Stage BGM 1 [タイムクルーズ II]
20. 渡部 恭久-ZUNTATA - Area 26-10[メタルブラック]
21. 齋藤 博人 - Site 3-1 (Torrid City)[メタルストーカー]
22. 新田 忠弘 - Metalエリア [幻影都市]
23. 齋藤 博人 - Site 6-2 [メタルストーカー]
24. 伊藤 真澄 - Tactics 4 [スーパーロイヤルブラッド]
25. ゴブリン・サウンド – 自軍フェーズ(State 12/14) [ヴィクセン357]
26. 吉田 博昭 – 狂森 [超次元竜ドラゴンガン]
27. コナミ矩形波倶楽部 – 海中ダンジョンのテーマ [エスパードリーム 2 新たなる戦い]
28. テクノソフト - Shooting Stars [サンダーフォースIV]
29. 細井 聡司 - Mister Diviner [The 麻雀・闘牌伝]
30. 石川 淳 - Main Theme [アルカエスト]
31. 長井 和彦 - Keel [ゴールデンアックス・ザ・デュエル]
32. 石橋 浩一 - Bad Data [デザエモン]
33. 藤田 靖明 - What Is Your Birthday? [タロットミステリー]
34. 半澤 一雄 - Oblivious Past - [エイリアンソルジャー]

イベント情報
『RED BULL MUSIC FESTIVAL TOKYO 2017 presents DIGGIN' IN THE CARTS 電子遊戯音楽祭』

2017年11月17日(金)
会場:東京都 恵比寿 LIQUIDROOM
出演:
Kode9 x Koji Morimoto AV
Chip Tanaka
Ken Ishii Presents Neo-Tokyo Techno('90's Techno Set)
OSAMU SATO Presents LSD REVAMPED(LIVE)& SPECIAL VJ:TEAM LSD(OSAMU SATO、KAZUHIRO GOSHIMA、ICHIRO TANIDA)
Quarta 330
Yuzo Koshiro x Motohiro Kawashima
Konx-Om-Pax: Visual interpretation to Kode9 x Koji Morimoto AV and Yuzo Koshiro x Motohiro Kawashima live
Carpainter(Live Set / TREKKIE TRAX)
hally Presents HALLY COLLECTIVES(hally、Saitone、ヨナオケイシ、細井聡司、三宅優、杉山圭一、Rolling Uchizawa)
GONNO presents beyond the chip sounds – Special DJ SET –
料金:前売3,500円
※20歳未満は入場不可



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