コラム

新動画サービス「Paravi」の挑戦 背景にあるテレビ局の危機感とプライド

新動画サービス「Paravi」の挑戦 背景にあるテレビ局の危機感とプライド

テキスト
後藤美波

TBS×日経×テレビ東京×WOWOWが動画配信でタッグ

新たな動画配信プラットフォーム「Paravi」が4月1日にサービスを開始した。

Paraviは、東京放送ホールディングス、日本経済新聞社、テレビ東京ホールディングス、WOWOW、電通、博報堂DYメディアパートナーズの6社によって発足した株式会社プレミアム・プラットフォーム・ジャパンが運営。サービス内容は月額925円(税込999円)のSVOD(定額制動画配信サービス)を中心に、都度課金型のサービスも併用し、各社の番組やTBS×日経×テレビ東京×WOWOWの4社の共作・競作によるコンテンツを配信していく。

日本におけるSVODは、dTV、U-NEXTといった日本発のサービスが大きなシェアを占めているほか、Hulu、Netflix、Amazonプライム・ビデオなどの海外のサービスも浸透してきている。またSVODではないが、在京民放5社が運営するキャッチアップサービス「TVer」も3月に間動画再生数が過去最高の3800万回を突破するなど定着しつつある。

そんな中、Paraviは動画配信サービスとしてはやや後発となる。なぜ今、TBS、日経、テレビ東京、WOWOWがタッグを組み、新たなサービスを始める必要があったのか(TBSはTBSオンデマンド、WOWOWはWOWOWメンバーズオンデマンドという独自のVODサービスを持っているほか、テレビ東京はNetflixと手を組んでオリジナドラマを製作している)。

Paraviを運営する株式会社プレミアム・プラットフォーム・ジャパンの担当者の言葉を交えながら、サービスの特徴や他のSVODとの違いを探っていきたい。

目指すは「テレビコンテンツの価値の最大化」

今、新たな動画配信サービスを立ち上げる狙いについて、担当者は次のように語る。

「ひと言で申し上げると『テレビコンテンツの価値を最大化』することです。テレビというコンテンツの伝送形態が、生活の多様化によって合わなくなってきている状況ですが、決してテレビコンテンツが見られなくなったわけではありません。クオリティーの高いテレビコンテンツは、タイムフリー、プレイスフリー、デバイスフリーという状況下におけば、今でも多くの人にご覧いただけます」

近年はインターネットの利用時間が増え、決まった時刻に決まった場所で見なくてはいけないテレビに不自由を感じる若者の「テレビ離れ」が進んでいるとも言われるが、そうした状況への危機感と共に、柔軟な視聴環境さえ整えれば需要はまだまだある、というテレビコンテンツの質へのプライドも窺える。

また、ただコンテンツをプラットフォームに流すだけでなく、テレビではとりにくい視聴データの収集ができるといった利点も強調。

「テレビ局がコンテンツプロバイダーとして他のプラットフォームにコンテンツを提供しているだけでは、視聴データを含めて各種ログ情報を得ることが出来ません。視聴者に対しより良い番組を届けるためにも、これらログ情報のフィードバックはとても重要になります。こうした点から自分たちで配信という伝送路を確保する必要性を感じたためです」

既存の動画配信サービスにもテレビ局製作のコンテンツは配信されているが、ParaviではTBSやテレビ東京、WOWOWが自ら立ち上げたサービスだからこそ、プラットフォームとして、配信のデータ収集を自ら行なえる。

ユーザーデータの活用については明かせない部分が多いようだが「現状は『このコンテンツを見た方は、こちらもよく見ています』という『レコメンド機能』は実装しません。我々はレコメンド機能よりも、もっと違うアプローチでユーザにコンテンツを届けたいと思っています」と意気込む。

そのアプローチの1つとして、エンタメ・カルチャー情報を扱うテキストメディア「Plus Paravi」を同時創刊。配信されているドラマの制作背景や制作過程の裏話を丁寧に見せることが、ドラマファンが作品に「より前のめり」に没頭できる要素と捉え、出演キャストの過去作品の紹介や他の活動情報との連動といったなども行なっていくという。

新作から過去作まで、国内最大級のドラマアーカイブ

Paraviでは、サービス開始時からTBSとテレビ東京の新作ドラマやバラエティー、アニメ、経済ニュース、ドキュメンタリー番組などのキャッチアップ配信を実施。またTBS、テレビ東京、WOWOWの過去のドラマに加え、映画やスポーツ、さらにはTBSラジオ、ラジオNIKKEIと連携したラジオコンテンツも配信する。

なかでも一番の売りは「国内最大級のドラマアーカイブ」。日本のドラマアーカイブをセールスポイントとして打ち出す背景について担当者は「他の配信プラットフォームと差別化するために、国内テレビ局の3局が集まったという強みとして、『国内ドラマ』にフォーカスしました」と明かす。

『SPEC』や『花より男子』『JIN-仁-』といった人気シリーズや『アンナチュラル』『逃げるは恥だが役に立つ』などの話題作を世に放ってきたTBSと、「ドラマW」で放送される骨太のオリジナルドラマに定評のあるWOWOW、そして深夜ドラマを中心に人気作を揃えるテレビ東京。ドラマアーカイブのラインナップは期待できそうだ。

『アンナチュラル』ダイジェスト映像

国内ドラマの配信本数については順次権利処理をして増やしていく予定で、古い作品でもVTRとして残っていて権利処理ができたものについては積極的に配信していくという。また「特にTBSは、新作に限らず過去作品についても、権利処理が終了し配信可能となったタイトルについて、すべて掲載していくことを目標としています」と担当者は語る。

実際現在のParaviの再生回数ランキングを見てみると、『アンナチュラル』『SPEC』『カルテット』『ケイゾク』『JIN-仁-』など大半を国内ドラマが占めている。

またTBSの新ドラマ『あなたには帰る家がある』出演者特集として、中谷美紀や玉木宏が過去に出演したドラマや映画がまとめられているなど、現在放送中のドラマとの連動も行なわれている。

国内ドラマの再評価・再発見

現在配信されているドラマのラインナップを見るだけでも懐かしい作品が多くあるが、今後膨大な国内ドラマアーカイブが構築されていくことで、過去のドラマの再発見・再評価に繋がることも期待したい。Netflixなどでは過去作のリブート作が新たにオリジナルコンテンツとして製作され、配信されているケースも多くあるが、国内のドラマでもそういった動きが見られるかもしれない。

「過去のドラマの再発見、再評価はまさにParaviの目指すところですので、積極的に展開してまいります。リブート作品については、現段階ではそこまで具体的なお話はありませんが、ご要望が出てくる可能性は十分にあります」

なお海外ドラマや洋画の配信本数は現時点では少ないが「まだ始まったばかりですので、今すぐに結論は出せませんが、海外ドラマ・洋画のニーズが高ければ積極的に対応していきたい」としている。

オリジナル作品第1弾は、SPECサーガ完結篇『SICK'S 恕乃抄』

ドラマのアーカイブだけでなく、Paraviオリジナル作品も製作。サービス開始と同時に配信されたのが、『SPEC』の完結篇となる『SICK'S 恕乃抄』だ。

TBSの動画配信サイト・TBSオンデマンドでは、『SPEC』が累計売上1位、『ケイゾク』が2位なのだという。戸田恵梨香と加瀬亮のコンビが人気を博した『SPEC』は、2012年から2016年までTBSオンデマンドの累計再生数で5年連続1位を記録した人気作。

そのシリーズ最新作であり、完結篇となる『SICK'S 恕乃抄』では木村文乃と松田翔太がタッグ。新たに紡がれる物語をParaviで独占配信している。

『SPECサーガ完結篇「SICK'S 恕乃抄」~内閣情報調査室特務事項専従係事件簿~』予告映像

1話が1か月で完結する「ピンチョス配信」はスマホ向けドラマの新機軸となるか

この『SICK'S 恕乃抄』の配信には「ピンチョス配信」と呼ばれる独自の配信方法を採用している。

「ピンチョス配信」とは1~2分のシーンだけが毎日配信され、1話が1か月かけて完結。完全パッケージは月末に配信されるという編成方法だ。1~2分のシーンだけだと移動中などにスマートフォンで気軽に見ることができる一方で、従来のテレビドラマや、全話が1日で一気に配信される他の動画配信サイトの視聴方法に慣れ親しんでいるユーザーにとってはやや物足りなくも感じそうだ。

ファンの多い人気シリーズの新作であり、新サービス最初のオリジナルコンテンツである『SICK'S 恕乃抄』にこのような思い切った配信方法を取り入れたのは、「スマホ向けドラマ」への狙いがある。担当者は次のように明かす。

「かつてない、スマホ向けのドラマの形を検討した結果です。映画全盛時代からテレビの黎明期に移行したことにより、ドラマは、劇場で観る2時間程度の単発作品から、お茶の間で毎週決まった時間に観る30分~50分の連続形式に形を変えました。作品への集中度も変化し、映画と比べてセリフやナレーションも多くなりました」

「そして今、スマホで映像コンテンツを観る時代が訪れた時、求められるのは『ハイクオリティだけど短いコンテンツ』ではないか、との仮説を立てたわけです。人気が高く、続編が望まれているシリーズの新作を、映画並みの作りこみで、思いっきり短く毎日連続配信したら、どのように観ていただけるか?その視聴と反響の分析を通して『スマホ向けドラマの形』を新たに創造していけたら、と考えております」

ドラマは今やテレビドラマだけでなく、TwitterドラマやYouTubeドラマなど様々でプラットフォームで発信されている。作り手はユーザーのライフスタイルの変化にあわせて視聴環境やデバイス、放送尺などの試行錯誤を迫られているが、スマホ時代のドラマのあり方の1つとしてParaviはこの「ピンチョス配信」を提案する。

『SPECサーガ完結篇「SICK'S 恕乃抄」~内閣情報調査室特務事項専従係事件簿~』 ©TBS
『SPECサーガ完結篇「SICK'S 恕乃抄」~内閣情報調査室特務事項専従係事件簿~』 ©TBS

テレビ以上に映像を身近に楽しむ存在へ

最後に、これまでテレビに親しんできた視聴者にとってParaviがどんな存在になってほしいか、という問いに対しては「我々のブランド『Paravi』の名称に思いが全て込められています!!!」との答えをいただいた。

Paraviロゴ
Paraviロゴ

Paraviは「近い将来、視聴者の支持が『テレビからパラビへ』と広がっていく存在になりたい」との意図から命名されたという。ギリシャ語で「近い」を意味する「Para」と、「Vision」を組み合わせた造語で、「Televisionの『Tele』には『遠い』という意味があるが、今までのテレビ以上に、映像をもっと身近に楽しめる体験を提供したい」との思いが込められている。

インターネットの発展によってテレビはかつての影響力を失い、エンタメ業界は激しい可処分時間の奪い合いを繰り広げている。Paraviの挑戦は日本のテレビコンテンツがテレビの枠を超えて現代を生き残るための闘いの1つである。

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