『アニエラフェスタ』などに見る、脱・都市化したアニメシーン

楽しみ方が多様化するアニメシーン。それでも付きまとう「都市と地方の格差」

アニメといえば日本のポップカルチャーの代名詞。そして、その文化的価値は、作品の質の高さや視聴者層の多さといった要素だけに還元されない。

むしろ、アニメというジャンルが、二次創作、アニソン、コスプレ、コラボカフェといった、隣接するほかのカルチャーを接合するハブとして機能していることが昨今かなり重要な観点になっている。ただし、こうした「アニメを楽しむ方法」の多様化によって、改めて、筆者のような「地方のアニメファン」はもどかしさに直面することになる。

アニメとも関わりの深いコスプレ文化
アニメとも関わりの深いコスプレ文化

地デジ化以降の衛星放送のチャンネル拡充、あるいはストリーミング配信の普及といった視聴環境の変化によって、確かに「作品を楽しむ」という点については都市と地方の格差が少なくなっている。しかし、「アニメを楽しむ」ことの意味が拡張されてもなお、別の格差は残り続けていると言っていい。

『コミケ』はあいかわらず二次創作を楽しむ人々にとって憧れのイベントでありつづけているし、地方のアニメファンは、大都市でたびたび開かれるコラボカフェや、店舗限定のイベント、あるいはアニラジ(アニメ関連のラジオ放送)の公開録音に行く機会もなかなかない。こう書くと些細なことのように思われるかもしれないけれど、ファンにとってはそれだけのためにスケジュールと資金を毎回捻出し、遠征を組む一大事なのだ。

ゼロ年代以降に増加した、アニメの力で地方を盛り上げるイベント

とはいえ、必ずしもすべてのイベントが大都市一極集中の傾向にあるわけではない。「アニメを楽しむ」ことの多様化のさらに別の側面として、「地方への分散」もまた、徐々にではあるが進んでいる。

具体的に言えば、2007年『らき☆すた』(監督:山本寛、武本康弘)以降、メディアなどから大きな注目を集めた「聖地巡礼」。埼玉県久喜市の鷲宮神社は、同作に登場する神社のモデルになった「聖地」のひとつ。熱心なアニメファンが訪れるようになったことで、参拝客が9万人からなんと30万人単位へと激増。以降、『らき☆すた』にちなんだイベントもさかんに行われだした。もちろん、それまでもアニメファンの「聖地巡礼」自体は珍しくないが、『らき☆すた』と鷲宮神社の事例はメディアでも多く取り上げられ、アニメカルチャーによる町おこしが活発に行われるきっかけを生んだ。

長野県で開催されたアニソンフェス『アニエラフェスタ2017』の様子
長野県で開催されたアニソンフェス『アニエラフェスタ2017』の様子

また、ひとつの作品にとどまらず、アニメや漫画を扱った総合的な地方イベントもゼロ年代末から2010年代に入って数多く開催されている。たとえば、2009年から開催されている徳島県の『マチ☆アソビ』だ。当初は年3回、現在は年2回ずつ開催され、2018年秋で21回目を迎えるが、2017年の19回目のイベントでは8万3千人以上が訪れ、徳島県の調査によれば、経済効果は約7億3千万円にも及んでいる。

『マチ☆アソビ』の開始以降、『京都国際マンガ・アニメフェア』(2012年~)や『アニメ・マンガまつりin埼玉』(2013年~)をはじめ、北海道、富山県、栃木県、熊本県などでアニメや漫画をフィーチャーした地方でのイベントが次々と立ち上がり、現在もコンスタントに開催されている。

長野県で開催されたアニソンフェス『アニエラフェスタ2017』の様子
長野県で開催されたアニソンフェス『アニエラフェスタ2017』の様子

こうした流れの中で注目したいのが、アニソンの果たす役割だ。アニメイベントではアニソン関連の企画が必ずと言っていいほど目玉として組み込まれるし、『Animelo Summer Live』『ANIMAX MUSIX』『リスアニ!LIVE』のいわゆる「アニソン3大フェス」の隆盛を追いかけるように、地方でもアニソンフェスが開催される動きが出てきた。

仙台放送による『みちのくアニソンフェス』(2012年~)やテレビ金沢による『かなざわアニメソングフェス』(2016年~)といった、地元メディアが主催する、コンスタントに開催されるイベントが2010年代以降に登場。

あるいは、『電刃/DENPA!!!』などのイベントを通じてゼロ年代半ばから盛んになった、アニソンをクラブカルチャーの視点から楽しむ「アニクラ」という文化から出発した『Re:animation』(2010年~)のように、都市型野外イベントから徐々に規模を拡大し、山梨県での野外フェスに発展したものもある。

長野県で開催されたアニソンフェス『アニエラフェスタ2017』の様子
長野県で開催されたアニソンフェス『アニエラフェスタ2017』の様子

地方でアニソンを盛り上げる新興イベント『アニエラフェスタ』

その中で、9月1日に開催される『アニエラフェスタ』は、長野県で開催される唯一の野外アニソンフェスだ。2017年に初年度を迎えたばかりの新興フェスながら、充実したラインナップと周辺カルチャーへの目配せのある企画に、地方を拠点とするアニソンフェスとしての気概が感じられる。昨年は台風の直撃を受けたものの、規模縮小を経て開催にこぎつけた本イベント。2018年の第2回では、会場を白馬村から佐久市・駒場公園へ移して開催に臨む。

『アニエラフェスタ2017』のダイジェスト映像

主なラインナップは、白井悠介や真田アサミといった長野県出身の人気声優アーティストから、Yun*chiやいとうかなこ、妄想キャリブレーションらアニソンファンには馴染み深いアーティスト、アイドルまでを揃えている。

『アニエラフェスタ2017』でのYun*chiのステージ
『アニエラフェスタ2017』でのYun*chiのステージ

『アニエラフェスタ2017』の様子
『アニエラフェスタ2017』の様子

また、同人誌やハンドメイド作品を扱うフリーマーケットや、コスプレイベント『acosta!』とのコラボレーションで実施される、駒場公園内のさまざまなロケーションを貸し切っての撮影会も目玉。さまざまなアクトによるアニソンライブやDJだけではなく、アニメにまつわるアクティビティーを同じ機会に楽しめるという点で、複合的なアニメイベントとなっている。

地方アニソンフェスは、「アニメを楽しむ」ことの多様化がもたらした、「聖地巡礼」などと並ぶ、地方とアニメの関わり方のひとつだ。これらのフェスが、地方とアニメを結びつけ、全国にカルチャーを根付かせるイベントとして、息の長いものになることを期待したい。

『アニエラフェスタ2018』ポスター
『アニエラフェスタ2018』ポスター(サイトを見る

イベント情報
『アニエラフェスタ2018』

2018年9月1日(土)
会場:長野県 佐久市 駒場公園
出演者:
小林太郎
白井悠介
RY's
やのあんな
Yun*chi
MYTH & ROID
真田アサミ
妄想キャリブレーション
いとうかなこ
Zwei
AKINO with bless4
西沢幸奏
焦茶(イラストレーター)
マフィア梶田



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