スティーヴ・マックィーンがロンドン中の7歳児を写す新プロジェクト始動

メイン画像:ロンドン、メイフラワー・プライマリー・スクールの3年生 ©Tate

映像作家・映画監督スティーヴ・マックィーンが、ロンドン中の7歳~8歳の子供たちのクラス写真を撮影するプロジェクトを始動させた。

『アカデミー賞』で作品賞を含む3部門に輝いた『それでも夜は明ける』をはじめ、『SHAME -シェイム-』『ハンガー』などの作品を手掛けているスティーヴ・マックィーン。映画制作を始める前から映像作家として活動し、1999年に現代アート賞『ターナー賞』を受賞したほか、2009年には『ヴェネチア・ビエンナーレ』にイギリス館代表作家として参加している。

スティーヴ・マックィーン ©John Russo

周囲の世界を意識し始め、アイデンティティーを形成し始める「7歳」の瞬間を捉える

ロンドンには現在2410の小学校があり、この9月に11万5千人の7歳の子供たちが新学期を迎えたという。この都市で生まれ育ち、現在も在住するマックィーンが新たに手掛ける『Steve McQueen: Year 3』は、ロンドンの小学校に通う全ての3年生(Year 3、イギリスの教育制度では7~8歳)の姿を写真に収めようというプロジェクトだ。

このプロジェクトでは、「小学校3年目」という時期を、一番身近な「家族」という領域を超えてより広い世界に意識的になる時期であり、子供の発達とアイデンティティーの形成においてマイルストーンになる1年間と捉えている。ワクワクした気持ちや不安、希望に満ちたこの瞬間を、生徒たちが教師と共に列に並んでフレームに収まる「クラス写真」という伝統的な手法を通して切り取ろうとする試みだ。

マックィーンは「この街を動かそうとしている人々を視覚的に映し出し、ロンドンの街とその未来を概観すること」とプロジェクトの背景にある想いを語る。そしてこういった試みは「とても重要であり、ある意味で急を要する」としている。これはイギリスのEU離脱問題とも無縁ではないだろう。

スティーヴ・マックィーンの小学3年生の頃のクラス写真。リトル・イーリング・プライマリー・スクールで1977年に撮影。中段左から5番目がマックィーン
『Steve McQueen: Year 3』の紹介映像

膨大なクラス写真はテート・ブリテンで2019年から展示。テート・モダンでは2020年にスティーヴ・マックィーン展

ロンドンにある全ての小学校は特設サイトからこのプロジェクトに登録できる。マックイーンの説明を受けたテートの写真家たちは今年の10月から来年の7月まで各学校を訪れ、クラス写真を撮影していく。

スティーヴ・マックィーンの出身校リトル・イーリング・プライマリー・スクールの3年生。2018年撮影 ©Tate

『Steve McQueen: Year 3』は、テート・ブリテンとロンドンのアート団体・Artangel、NPOのA New Directionのコラボレーションによって実現する。撮影された写真は2019年11月から2020年5月までテート・ブリテンでインスタレーションとして無料展示されるほか、多くの屋外アートプロジェクトを手掛けてきたArtangelによってロンドンの33地区全てで野外展示も行なわれ、美術館を訪れる人々だけでなく、街を行き交うロンドン市民にも、街の未来である子供たちの姿を目にする機会を与えるという。また2020年2月にはテート・モダンでスティーヴ・マックィーンの展覧会が開催される予定だ。

無料の教材や教育プログラムも配布。街の多様性と未来への眼差し

このプロジェクトは、ただのアートプロジェクトではなく教育的な目的も含んでいる。

参加した学校の生徒たちは、イギリスを代表する歴史的なアート作品が並ぶ美術館の中で自分たちの写真を見ることができる。またプロジェクトの核をなすテーマである帰属意識、アイデンティティー、シチズンシップについて生徒たちが学べる無料の教材やプログラムが用意されているほか、教師向けのガイダンスなども行なわれる。2019年春には、イギリス中の小学校が参加できる授業をライブストリーミングする予定だという。小学校向けの教材は特設サイトでダウンロード可能だ。

『Steve McQueen: Year 3』は、自身を取り巻く環境を理解し始め、アイデンティーを形成し始める子供たちのある特定の時期の記録である同時に、様々な人種の人々が暮らすロンドンの多様性を体現する。そしてそれはマックィーン自身が育った街の未来を写し出す試みでもあるのだ。



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