コラム

レディー・ガガ主演『アリー/ スター誕生』は「ポップ蔑視」なのか?

レディー・ガガ主演『アリー/ スター誕生』は「ポップ蔑視」なのか?

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辰巳JUNK
編集:後藤美波(CINRA.NET編集部)

男性ロックスターの「バッドなカッコよさ」崇拝にも一石を投じる

さらには「ロック主義」の解体の象徴だとする考察まで浮上している。The Guardianは、本作が「男性ロックスター崇拝の没落」を指し示す作品だと位置づけている。『アリー/ スター誕生』において、ジャクソンのアルコール中毒やドラッグ乱用、それらによる暴言は「明瞭な病気」として描かれる。そこには、典型的ロックスター描写につきものだった「バッドなカッコよさ」は存在しない。

代わりに描かれるのは、脆弱性とメンタル問題だ(この部分はポスト#MeTooの男性表現として高く評価された)。「不健全で暴力的な男性ロックスター」が理想とされる時代は終わった――そう感じさせる映画とも言えるだろう。ジャクソン自身が繰り返し歌ったように。

きっと来たんだ 古いやり方を葬り去るときが
―ブラッドリー・クーパー “Maybe It's Time”
劇中ブラッドリー・クーパー演じるジャクソンが歌う“Maybe It's Time”

今日の音楽シーンでは「ポップ=セルアウト」の主張は薄れつつある

ロック主義だろうとそうでなかろうと――その反応と議論含めて――『アリー/ スター誕生』は2018年アメリカの音楽シーンを映している。今日では、ポップを「セルアウト」とする蔑視、そしてロックこそ「本物の音楽」だとする主義思考は影を潜めつつある。ゆえに、そうした思想が感じられるヒット映画が出現したら批判的な議論が巻き起こる。

こうした音楽ジャンル論争とジェンダー問題が切り離しにくいからこそ、本作がセクシズムなのか、それとも優れた男性描写を含めたフェミニズム・ムービーなのかどうかも語られている。もしかしたら、こうした混乱や評論の多様性こそ2018年的なのかもしれない。

『アリー/ スター誕生』 ©2018 WARNER BROS. ENTERTAINMENT INC. AND RATPAC-DUNE ENTERTAINMENT LLC
『アリー/ スター誕生』 ©2018 WARNER BROS. ENTERTAINMENT INC. AND RATPAC-DUNE ENTERTAINMENT LLC

ガガが語る“Shallow”ヒットの要因。“Why Did You That?”は対照的存在

話を聞かせて、ガール 今の世界で幸せ? それとももっと欲しい?
探してるものはあった?
話を聞かせて、ボーイ 疲れてない? 心にあいた穴をうめることに それとももっと欲しい?
そんなにやり続けて つらくないの?
―レディー・ガガ&ブラッドリー・クーパー“Shallow”

実は、レディー・ガガ自身が本作の「ポップ蔑視」疑惑に返答している。彼女によると、渦中のポップソング“Why Did You That?”はジャクソンとのデュエット“Shallow”と対照にある存在なのだという。単純にポップとロックで反対、ということなのかもしれないが、別の解釈もできる。

『アリー/ スター誕生』のメイン曲である“Shallow”。『第61回グラミー賞』で4部門にノミネートしている

前者の楽曲は一方通行の主張だが、後者は対話になっている対称性がある。Varietyにおいて、ガガは“Shallow”のヒット要因には社会状況があると示唆している。カバノー最高裁判事承認問題が代表するように、2018年のアメリカ社会では男性と女性が互いの声を信じず、無視している。だからこそ、男と女が互いを尊重して意見を聞き合う“Shallow”が求められた――彼女はそう考えたようだ。

実のところ、映画自体も「相手の話を聞くこと/相手に正直に語ること」を重要とするストーリーになっており、そうできなかった後悔は音楽で表現される。普遍的なメッセージと言えるが、ガガの言う通り、社会の価値観が変動し衝突する今だからこそ強く求められた映画なのかもしれない。様々な捉えられ方をされている映画作品だが、あなたは劇中の「星」に何を想うだろうか。

『アリー/ スター誕生』サウンドトラック(Apple Musicはこちら

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作品情報

『アリー/ スター誕生』

2018年12月21日(金)から全国公開
監督:ブラッドリー・クーパー
出演:
Lady Gaga
ブラッドリー・クーパー
配給:ワーナー・ブラザース映画

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