コラム

『ダークナイト』ジョーカーの純粋さが問う善悪と正義の危うさ

『ダークナイト』ジョーカーの純粋さが問う善悪と正義の危うさ

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小野寺系
編集:矢澤拓(CINRA.NET編集部)
(メイン画像:『ダークナイト』 ©Warner Bros. Entertainment Inc.)

「純粋なカオス」であろうとするジョーカーの圧倒的存在感

いくつも存在するバットマン映画のなかで、人気の高いクリストファー・ノーラン監督による『ダークナイト』三部作。その中でさらに圧倒的に評価されている作品といえば、宿敵ジョーカーとバットマンの戦いが描かれる、2008年公開の2作目『ダークナイト』である。

本作が支持を集める最大の理由は、ジョーカーの圧倒的な存在感にあるといえよう。映画やテレビドラマ、アニメやゲーム作品において、ジャック・ニコルソンやマーク・ハミルなど、様々な俳優がジョーカー役を演じているが、ヒース・レジャー版は、裂けた口や乱雑で剥げかけたメイク、振り乱した髪の毛、疲弊しているように見えながら切迫した態度でいることなど、その鬼気迫る印象は、コミック風の悪役キャラクターを演じているというより、生(なま)の人間のリアリティを感じさせる。くわえて、ヒース・レジャーが映画の完成を待たずして急死した事実も、この役柄にさらなる影を落としているといえるだろう。

本作でジョーカーは、自身が語るように純粋なカオス(混沌)であろうとしている。命をかけてまでバットマンや警察、果てはマフィアなどの善悪全方位をおちょくり、苦心して手に入れた札束の山を躊躇なく燃やしてしまう。決まった目的がないからこそ、その神出鬼没な行動は読みがたく、バットマンや警察は常に先手をとられ、ついには最悪の事態が起きてしまう……。

クリストファー・ノーラン監督『ダークナイト』は9月28日にフジテレビ「土曜プレミアム」で地上波放送予定

9.11以降、ブッシュ政権下のアメリカの「正義」を問う

内容を追っていくと、ジョーカーには目的がないとはいえ、実はテーマのなかでは「人々の真の姿を暴き出す」という役割があるということが、次第に分かってくる。本作には、ゴッサム・シティを守るふたりの正義のヒーローが登場する。クリスチャン・ベール演じるバットマンと、アーロン・エッカート演じるハービー・デント地方検事だ。高潔な姿勢によって悪を駆逐しようと奮闘するデントの姿を見て、正義とはいいながら不法な自警活動によって悪と戦っていたバットマンは引退を考えるようになる。

だがジョーカーの出現は、このふたりの「正義」を危ういものにしていく。街を救うはずのバットマンは他国まで出向いて戦闘を行ない、密かに街の全域に住む人々を最新のレーダーで監視するという違法な手段に出るし、ハービー・デントもまた、事件関係者を私的に尋問し、銃を向けて脅すという、おそろしい行動に出てしまう。

映画『ダークナイト』予告編

これは、製作当時のアメリカの状況を映し出す風刺でもある。9.11テロ事件以降、アメリカ政府は他国に軍事攻撃を行ない、CIAがテロ容疑者を拷問したという疑惑が持たれたり、軍の兵士が捕虜を虐待する事件が起こった。そして、ブッシュ政権下で国民のメールや電話などを監視するというのも、実際に起こったことである。だから本作は、そんなアメリカの狂態をバットマンやハービー・デントというかたちに置き換えて描いた、アメリカの是非を問う映画として見ることもできる。

ジョーカーはたしかに狂っているのに違いない。だが、コウモリのコスチュームに身を包み、夜な夜な悪人を成敗していくバットマンもまた、正常である保証はない。そしてここで新たに出現するのは、ものごとのふたつの面を象徴するような、狂気にさいなまれていったキャラクターであるハービー・デントだ。市民にとってもバットマンにとっても「正義」の象徴であった人間が、個人的な理由によりその行動を変えていく光景は、人々の善悪の判断基準に本質的な問いを投げかける。正義か悪か、正常か異常か。アメリカの「正義」がそうであるように、それは見る人物の立場や角度によって異なってしまうものだ。

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番組情報

『土曜プレミアム・映画「ダークナイト」』

2019年9月28日(土)21:00〜23:30にフジテレビ系で放送
監督:クリストファー・ノーラン
脚本:ジョナサン・ノーラン、クリストファー・ノーラン
原案:クリストファー・ノーラン、デヴィッド・S・ゴイヤー
出演:
クリスチャン・ベール
マイケル・ケイン
ヒース・レジャー
ゲイリー・オールドマン
アーロン・エッカート
マギー・ギレンホール
モーガン・フリーマン

作品情報

『ジョーカー』

2019年10月4日(金)から全国公開
監督:トッド・フィリップス
脚本:トッド・フィリップス、スコット・シルバー
出演:
ホアキン・フェニックス
ロバート・デ・ニーロ
ほか
配給:ワーナー・ブラザース映画

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