King Gnu常田が語る、ロマンと人生観 妻夫木聡が「大人」を問う

「音楽をこの時代にやっているということは、ロマンを追っていなきゃできない」――King Gnu常田大希がサッポロ生ビール黒ラベルのCMに登場

サッポロ生ビール黒ラベルのCMシリーズ「大人エレベーター」。2010年にスタートし今年10周年を迎えるこのCMは、「大人を旅する不思議なエレベーター」に乗り込んだ俳優・妻夫木聡が、各階で自分の生き方を持つ大人たちと出会い、対話する人気シリーズ。エレベーターの階数は登場する人物の年齢を表しているが、今回、その「大人エレベーター」の27階に、King Gnuやmillennium paradeなどで活動する音楽家の常田大希が登場、妻夫木からの問いに常田が答えた全10パターンのCMの放送がスタートすることとなった。

妻夫木聡が常田大希に、「たった1曲で人生は変わると思いますか?」と問う。サッポロ生ビール黒ラベルCM『「大人エレベーター」 27歳 たった1曲で篇』を見る(サイトを見る

常田大希(つねた だいき)
あらゆるカルチャーを呑み込む若き日本人アーティスト。ロックバンド・King Gnu、主宰プロジェクト・millennium parade、クリエイティブブレーベル「PERIMETRON」などでの活動で知られる。2019年1月にKing Gnuのメジャーデビューアルバム『Sympa』をリリースし、同年末には『第70回NHK紅白歌合戦』に出場。2020年1月には2ndアルバム『CEREMONY』をリリースした。

このCMを見て、「常田大希は、どんな場所に行っても、常田大希なのだなあ」と、まず思った。どこか無骨な、それでいて上品さも帯びた佇まい。相手の顔を見るときの、目を細める仕草。瞬間的に見せる、恥ずかしそうな笑顔。本人は喋ることを得意とは思っていなさそうだが、それゆえか、じっくりと吟味して言葉を選び、置いていくような喋り口調。ぼそぼそとした口調でもあるが、選び取られた言葉は明瞭で、ストンと、耳に入ってくる。

私は2度ほど取材の現場で対面したことがあるだけだが、私自身が実際に体感したことのある、常田大希が纏う静けさ、穏やかな物腰、その固有の色気のようなものは、なにも変わらず、このCMからもダイレクトに伝わってくる。

テレビだろうがなんだろうが、どこにいても、この男は、この男。ただただ、リアル。この10本のCMから浮かび上がってくるのは、無駄な装飾のない、ひとりの男としての常田大希の姿だ。このCMがテレビで流れるたびに、彼の言葉を聞こうと、いろんな家庭の、いろんなお茶の間にいる人々が耳を澄ます様子が目に浮かぶ。

常田:音楽をこの時代にやっているということは、ロマンを追っていなきゃできない。

妻夫木との対話においてそう語る常田大希は、「熱狂を奏でる音楽家」とCMのなかで語られている。もっともな表現だと思う。

サッポロ生ビール黒ラベルCM『「大人エレベーター」 27歳 自分では最高篇』を見る(サイトを見る

2018年、“Flash!!!”と“Prayer X”が世に出る頃に私が初めて常田に単独インタビューをしたとき、彼はこんなふうに語った。

常田:King Gnuに関しては、「ポップスを作る」ということに特化していると思います。社会との結びつき、時代とのリンク……そういうものがないと、ポップミュージックは意味をなさないし、面白くないと思うので。(中略)10代の頃は、もっと崇高なものを目指していたんです。時代とは関係のない、普遍的な美しさやかっこよさを目指すタイプの人間だった。でも、考えを突き詰めていって思ったのは、結局、時代性を纏ってない音楽が大衆的な熱狂を生むのは不可能なんだ、ということだったんですよね。
(「King Gnu常田大希の野望と目論み 次の時代を見据える男の脳内」より)

常田大希の作る音楽が、2020年代の日本で巨大な熱狂を巻き起こしている理由。常田自身の言葉をもとに考える

あれから2年の月日が経って、King Gnuは、常田大希は、見事に有言実行したと言っていい。彼らのこの2年間の躍進については、わざわざここに書き記す必要がないくらい、多くの人の知るところだろう。今回の「大人エレベーター」のCMのなかでも、先述のインタビューにおける発言に紐づくような、常田の哲学を感じさせるシーンがたびたび出てくる。たとえば、「かっこよさって、なんですか?」と妻夫木に問われた常田は、こう答える。

常田:俯瞰して、斜に構えて世界を見ちゃってる……それにもちょっと、飽きてきたというか。やっぱり、中心で世界を見て、突っ走るほうが、かっこいいと思いますね。

また、「時代とは?」という問いには、こう返す。

常田:なにを「今」やるべきなのかは、意識します。それを考えないと、熱狂というものは伴わないと思うので。

ここで大事なことは、常田が「時代性を纏った熱狂」を音楽に求めたとき、その野心は、決して「時代に当てにいく」とか、「どうやってバズらせるか」といった戦略性によって正当化されるものではなかった、ということだ。

むしろ、そういったものとは乖離した場所で、彼は自分自身の歴史や哲学に実直に向き合いながら、時代に「合わせる」のではなく、時代を「突き刺す」音楽を作り上げた。……といっても、彼自身がどのくらいの達成感を今の段階で抱いているのかは、私には知る由もないが。

King Gnu『CEREMONY』(2020年)を聴く(Apple Musicはこちら

サッポロ生ビール黒ラベルCM『「大人エレベーター」 27歳 格好よさ篇』を見る(サイトを見る

しかしなぜ、「ロックバンドはもう古い」とか、「そもそも音楽で食っていくことはもうできない」といった論調もあったなかで、彼は彼のすべきことを、成し遂げることができたのか? 上記の2018年のインタビューで、彼はこうも語っている。

常田:最近、俺らの周りでは特に、チルな感じのアーティストが多い気がするんですよね。音楽が細分化してしまって、もはや個人的な楽しみになってしまっているような気もするし、昔は音楽が大きく担っていた熱狂が、いろんなカルチャーに散ってしまっている感じもする。(中略)でも“Flash!!!”は、俺が子どもの頃に憧れたロックバンドのかっこよさや熱狂を自分という現代のフィルターに通している曲なんです。そういう曲を世に出すことは、自分にとってすごく重要なことだし、King Gnuが今後どういう曲を作っても、「King Gnuっていうのはこういうバンドだぞ」って帰ってくることができる曲だなって思う。
(「King Gnu常田大希の野望と目論み 次の時代を見据える男の脳内」より)

King Gnuは、結果として、日本のポップスの可能性を、またロックバンドとしての可能性を広げ、推し進めることとなった。しかし、そうした先進性とは裏腹に、常田大希にとってKing Gnuにおける創作活動とは、「帰る」という言葉こそが、しっくりと当てはまるものなのかもしれない……と、このとき、私は彼の話を聞いたあとに思った。

このインタビューでは、1990年代のOasisをも引き合いに出しながら、自らが求めるポップス像を語った常田。彼はなにも、「新しいこと」をやろうとは思っていなかった。むしろ彼は、「帰ろう」としていた。自分の記憶に、自分の歴史に。

常田にとってKing Gnuとは、果てのない「帰路」のようなものなのではないか? 結果として、King Gnuの音楽に込められた「郷愁」こそが、多くの人々の心を捉えたのだと、私は思う。彼らの音楽の、激しさの奥にある温かみには、聴く者を「ここにいていいんだ」と肯定するような優しさがあった。

「映画で言うと、常田大希さんは今、どの辺りですか?」――妻夫木聡の問いに対して、常田の答えは?

2019年、私が担当したメジャーデビューアルバム『Sympa』リリース時のメンバー全員インタビューで、常田はこう語っている。

常田:俺は、ロックって「若者の音楽」だと思うんです。たとえば、俺が10代の頃にNirvanaやArctic Monkeysのようなバンドに抱いていた感情や魅力がある。(中略)そういうものって、自分にとってすごく重要なものなんですよね。自分自身が若い頃に聴いていた音楽、あるいは、その時代において若者が聴く音楽は、ものすごい求心力を持つものだと思うし、その求心力こそが「ポップス」だと思うんです。どれだけいろんな音楽を要素として取り入れようとも、常にKing Gnuは、そういう「若さ」ゆえのエネルギーを孕んでいたいと思います。最近は「語法」としてポップスを取り入れただけのバンドも多いと思うんですけど、King Gnuは、そういうものでありたくないですね。
(「King Gnuが泥臭さと共に語る、若者とロックバンドが作る『夢』」より)
King Gnu『Sympa』(2019年)を聴く(Apple Musicはこちら

妻夫木聡が常田大希に「青春とは?」と問う。サッポロ生ビール黒ラベルCM『「大人エレベーター」 27歳 他人の曲篇』を見る(サイトを見る

表面的な「新しさ」を纏うことは、ある意味では、容易い。難しいのは、自分がどこからやってきて、どこに帰っていくのか……そんな、自分自身の歴史と記憶に向き合い、心の奥底にある郷愁の在り処を知ることである。それを真正面から見据えていた常田大希という男は、それゆえに、この予測不可能に変動し、揺れ動く世界と時代に、まるで風穴を開けるように突き刺さった。

芸術は、報告書や予言書である前に、まずは詩であるべきだ。それは、優れた詩が、ときに、人々に今を報せ、未来を予言することがある、ということである。2018年のインタビュー記事のリード文(インタビューの前にある序文)で、私は「King Gnuは、存在自体がまるで一篇の詩のようである」と書いたが、今だってそう思う。

King Gnu(左から:井口理、新井和輝、常田大希、勢喜遊)
サッポロ生ビール黒ラベルCM『「大人エレベーター」 27歳 人生が二度あれば篇』を見る(サイトを見る

最後に、このCMのなかの妻夫木と常田との対話で、個人的に、とても印象的だった問答を書き記しておこう(これ以外にも「一番大切なものは?」など、魅力的な問答がたくさんあるのだが)。

妻夫木:映画で言うと、常田大希さんは今、どの辺りですか?

常田:まだちょっと、構想段階ですね。

妻夫木の「人生が二度あれば?」という問いに対して、常田は「考えたことないですね。来世はちょっときついですね、人は」と答えた。

妻夫木にこう問われた常田は、笑いながら答える。彼は、彼自身に対して「完成した」と思う日はくるのだろうか? 映画はどこでクライマックスを迎えるのだろうか? 彼自身、きっとそんなことはなにも予測してはいないだろう。ただ、「今」を生きている。なにかを作りながら、なにかを思い出しながら。彼はとても魅力的な音楽家であり、人間であると、改めて思う。

サッポロ生ビール黒ラベルCM『「大人エレベーター」 27歳 時代とは篇』を見る(サイトを見る

オンエア情報
サッポロ生ビール黒ラベルCM「大人エレベーター」第35弾

2020年3月28日(土)より放映

プロフィール
常田大希 (つねた だいき)

あらゆるカルチャーを呑み込む若き日本人アーティスト。ロックバンド・King Gnu、主宰プロジェクト・millennium parade、クリエイティブレーベル「PERIMETRON」などでの活動で知られる。東京藝術大学にて西洋音楽を学んだのちに、アメリカで行われている『SXSW2017』や、『FUJI ROCK FESTIVAL』『GREENROOM FESTIVAL』『Mutek』など国内外多数のフェスに出演し頭角を現わす。映画やドラマの音楽監督、adidas、New Balance×Chari Co、Beams、Numéro×Emporio Armaniなどへのファッションフィルムの楽曲提供、アメリカ版『Pokemon』、『血界戦線』といったアニメーション作品への参加など、活動は多岐に渡る。



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