コラム

米歴史家が語る、警察の暴力と黒人の歴史。そしてBLM運動

米歴史家が語る、警察の暴力と黒人の歴史。そしてBLM運動

テキスト・翻訳
空音央
編集:後藤美波(CINRA.NET編集部)

ジョージ・フロイド氏の殺害事件を発端に、全米、そして世界へと波及した「ブラック・ライブズ・マター運動」。「ブラック・ライブズ・マター(黒人の命は大切だ)」の言葉は2010年代前半から叫ばれ始めたもので、警官による黒人への暴力や殺害事件は今回の事件のみならずこれまでも多発している。今回の抗議運動が激化してから、トランプ米大統領は違法な略奪行為などを引き合いに出して武力による取り締まりも辞さない姿勢を示した一方、平和的なデモは現在も各地で続いている。

本稿では、ニューヨーク在住の翻訳家・映像作家の空音央氏の協力によりアメリカの調査報道メディア「The Intercept」の許可を得て、同メディアのポッドキャスト「Intercepted with Jeremy Scahill」で今回の抗議運動勃発直後の6月3日に公開された歴史家キーシャ・ブレイン氏のインタビューを訳出して紹介する。警察の暴力に抗ってきた黒人の歴史や1919年に起きた人種暴動事件「赤い夏」について、ジャーナリストのアイダ・B・ウェルズのこと、抗議運動の戦略にまつわるさまざまな文脈などについて解説されている。当初メディアでも特にセンセーショナルに取り上げられがちであった一部の略奪行為などをどう捉えるかといった点も議論されており、アメリカにおける黒人に対する長い人種差別の歴史に連なるものとして、今回の事件を考えるための視点が示されている。

キーシャ・ブレイン氏は、アフリカ系アメリカ人の歴史や現代アフリカ人ディアスポラ、女性学やジェンダー学を専門とした歴史家で、現在はピッツバーグ大学で歴史学の准教授、ハーバード大学でW・E・B・デュボイス特別研究員として多岐にわたって活動している。African American Intellectual History Societyの代表も務め、20世紀初頭から半ばにかけて市民権・人権闘争において日本の活動家との協力関係を築いてきた多様な黒人女性グループの思想とアクティビズムに焦点を当てた著作を執筆中だという。インタビュアーはジャーナリストのジェレミー・スケイヒルが務めている。またインタビューの最後に、翻訳を担当した空氏により、事件から2か月経った現在のアメリカの状況やこの2か月の間に起きた変化について綴ってもらった。映像作家である氏の視点から、「ブラック・ライブズ・マター運動」の背景を知るのに役立つ映画作品も紹介されている。なぜこのような人種差別が存在し続け、現在の事態に発展しているのか? どうすれば差別に加担せず、その撤廃に向けた力となれるのか? その答えに近づくには、歴史を遡り、学び続け、さまざまな視点や当事者の声に触れることが必要不可欠だと思う。本稿もその一助となれば幸いだ。

(メイン画像:Justin Berken / Shutterstock.com)

公民権運動の時代を思い起こす。今回の運動との相似点

※以下は2020年6月3日にポッドキャスト「Intercepted with Jeremy Scahill」で配信されたインタビューの訳出
Originally published on June 3, 2020. Translated from English and republished with permission from The Intercept, an award-winning nonprofit news organization dedicated to holding the powerful accountable through fearless,adversarial journalism. Sign up for The Intercept 's Newsletter.

ジェレミー・スケイヒル:まず、アメリカで現在進行中の幅広い反乱が起きている理由について説明していただけますか?

キーシャ・ブレイン:いくつかの要因があると思います。まず、一つはコロナウイルス。このパンデミックは、他の人種と比べ黒人のコミュニティに対する影響がひどく、そんななか、ジョージ・フロイドが殺害された動画が出回った時、私たちが長い間感じてきたフラストレーションを再燃させたのではないかと私は感じています。世界的なパンデミックが続くなか、誰もこのような政情不安が起こることを予想しなかった。むしろ逆に、パンデミック中は、警察の暴力や残虐性の連鎖から一時的にでも脱却することができるかもしれないと思った人が多かったのではないかと思います。

しかし、すぐにこれがいかに楽観的な考え方かということがわかりました。コロナ禍においても、またもや黒人がターゲットにされ、マスクをしないからという理由でバスから強制的に排除されたり逮捕されたりしています。同時に、社会保障や物資が行き届いていないのも黒人のコミュニティが多いというのが現状です。(訳注:コロナ禍のロックダウンが緩くなると同時に立夏の暖かい気温が訪れたニューヨークでは、多くの人々が公園やビーチに群がった。それを受け、1000人ものニューヨーク市警察の警察官がソーシャルディスタンスを規制するために動員されたが、白人が多く住む高所得地域と黒人などの有色人種が多く住む他の地域とで対応があからさまに違うことが指摘され物議を醸した。特に、ソーシャルディスタンシングを守っていないにもかかわらず、白人には丁寧にマスクを配っている警官の写真と、距離を保っていないことで警官に殴られた黒人の写真が比較され、ニューヨーク市警が批判の対象となった)

そのうえ、今年は大統領選挙がある年。これからこの国の最高権力者になる人に対して、これらの問題と取り組むように強く訴えるため、諸問題を表面化させる必要があると多くの人が思っています。明らかに今の大統領はこれらの問題に取り組む姿勢を見せていません。ですが、これらの議題の重要性を主張することによって、少なくとも民主党候補者には警察の残虐性や暴力、今まさに起こっている警察による殺害事件など緊急を要する課題の問題対処のための取り組みを考えてもらうことができます。

ドナルド・トランプ米大統領 photo: Andrew Cline / Shutterstock.com
ドナルド・トランプ米大統領 photo: Andrew Cline / Shutterstock.com

スケイヒル:歴史の研究者として、国や州など、政府による対応をどのようにお考えですか?

ブレイン:公民権運動とブラックパワーの時代を思い起こします。今の状況を見てキング牧師やローザ・パークスを引用する人が多いことにいささか皮肉を感じてしまいます。というのも、ほとんどの人の印象として、公民権運動の時代は人々が一丸となって白人至上主義に対抗し、黒人の政治的権利を推進した意気揚々とした時代として語られることが多いからです。確かに、それは事実で、公民権運動によって具体的に様々な権利を勝ち取ることができました。ですが、同時に公民権運動も、現在進行中の一連の抗議活動と同じように、運動に反対する対抗勢力がいたということはあまり語られていません。運動家が集まって何かを成し遂げようと邁進すれば——例えば、ミシシッピ州のフリーダム・サマー運動で運動家が黒人の投票権登録を支援・推進した時のように——メディアは「外部による扇動者だ。北から来た人々が扇動している。この地域にそぐわない視点を無理やりミシシッピに持ってきてコミュニティを分断している」などという論調で書き立てます。

そして今、まさに抗議活動や反乱が至る所で起きており、人々は警察の暴力や残虐行為に注意を向け、これらの事件に終止符を打つよう呼びかけていますが、州や国は「これは地域的な問題でも我々の問題でもない。外部の人々がコミュニティに入り込んできて外からの要求を押し付けている」と問題をすり替えます。歴史的な成功例としてみる公民権運動でも、当時は人々に軽蔑されていたという点においても、公民権運動の時代は今回のデモと相似します。現在も似たようにデモに対するフラストレーションが蓄積し、批判的な立場をとっている人が多いものの、20~30年後はもしかしたら公民権運動の時と似たような歴史的認識になっているかもしれません。もちろん、最終的に今の運動が抑圧の構造を覆すことにつながれば、ですが。私はできると期待しています。

今では敬愛される人物として語られるキング牧師もまた、様々な抵抗に直面していた

スケイヒル:この国の白人、特にトランプ政権の報道官などが白人の視点から修正され縮小されたキング牧師の思想を武器化しようとしていますね。特定の抗議者の世論的支持を下げるためにキング牧師の偉業が使われていることに関してどうお考えですか?(訳注:現ホワイトハウス報道官であるケイリー・マクナニーは、キング牧師の言葉を文脈を無視した形で引用し、警官を受け入れる者こそが真っ当な抗議者の姿だと主張した)

ブレイン:こういうことはしょっちゅう起こります。今ではキング牧師は敬愛される人物として語られますが、彼が活動し運動を引っ張っていった時代は違いました。現在のメディアがデモ活動を批判するように、当時の主流メディアもキング牧師の活動を批判していました。2020年の今、多くの人がキング牧師を誰からも愛され受け入れられた非暴力的な社会運動の先駆者であり、尊敬すべき人物だという印象を持っていることはとても興味深いことです。しかし、実際には彼もまた様々な抵抗に直面していたのです。同時に、ほとんどの人が認めたがらないですが、キング牧師の実際の政治的思想は想像以上に幅広く、その中に、警察の暴力や残虐性に対する批判も含まれています。前述したように、キング牧師の言葉を引用し、「キング牧師をモデルに、町へ出ずあまり事を荒立てないようにしよう」と事態の鎮静化を促していますが、彼はこのような問題に関して妥協しませんでした。キング牧師は、現在でも我々が取り組んでいるような問題に対し声を上げることを躊躇しませんでした。

photo: hkalkan / Shutterstock.com
photo: hkalkan / Shutterstock.com

スケイヒル:主流メディアの注目の的となっている、反乱やデモ抗議の際に起こる器物破損や店舗の破壊に関してどう思われますか? これらに対する大げさなリアクションは歴史から目を背けていると私は思います。1960年代の歴史的文脈からロドニー・キング事件が引き金となった1990年代のロサンゼルス暴動にかけて、反乱と器物破損はどのように議論されてきましたか? 国や州の暴力、それから黒人指導者の暗殺などが起こる際、なぜそのようなことが起こるのか、歴史的な背景を説明してください。

ブレイン:自由を勝ち取るための戦いにおいて、人々は使える手段は使わざるを得ない、という事を理解しなければならないと思います。どういうことか? 自由を勝ち取る戦いでは、様々な選択肢や戦略があり、法律改変にフォーカスする人たちもいます。歴史的に全米黒人地位向上協会(NAACP)などが良い例です。他にも、学生非暴力調整委員会(SNCC)など、実際にコミュニティに入り、投票を促す草の根的な運動にフォーカスする人たちもいます。そして、ブラックパンサー党のように、武装自衛を推す過激なアプローチをとる活動家もいます。そういった活動家は黒人のコミュニティが自衛することが重要だという認識で、アメリカ合衆国憲法修正第一条と修正第二条が黒人にも適応されることを主張しました。(訳注:アメリカ合衆国憲法修正第一条とは表現の自由、報道の自由、平和的に集会する権利などを担保するもの。修正第二条は武器を保有し携帯する権利のこと)

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