
『愛の不時着 オリジナル・サウンドトラック』(日本盤)ジャケット
韓国ドラマを彩る重要な構成要素「OST」。音楽市場でも大きな影響力を持つ
ポップカルチャーはジャンルを横断して楽しんでこそ、視点が広がり、知識が深まるという醍醐味があるだろう。現在、日本において韓国カルチャーは過去になかったほど、音楽、映画・ドラマ、文学、ファッション、食までジャンルを跨いで親しまれている。中でも今年の『ユーキャン新語・流行語大賞』でトップテンに選出された『愛の不時着』を筆頭にした韓国ドラマは象徴的だった。そんな韓国ドラマにおいて、ストーリーやキャストに劣らず重要な構成要素となっているのが、韓国では通称「OST」と呼ばれるオフィシャルサウンドトラックだ。
韓国のドラマにおけるOSTの役割は日本のそれとはやや異なる。日本のドラマでは1曲の挿入歌が初回から最終回まで毎回流れることが多いが、韓国の場合は1話放映されるたびに、新たなOST楽曲が発表されることも多く、1つのドラマにつき10曲以上のOSTが制作されることも稀ではない。K-POPアイドルの参加も多く、グループアイドルのメンバーがソロとして実力を発揮できる場にもなっている一方、ドラマ側としては人気アーティストのOST参加が視聴の呼び水になる側面もある。
OSTは音楽市場における影響力も絶大だ。本稿執筆時までの2020年の47週分の韓国の公式ヒットチャートを振り返ってみると、トップ10にランクインしたOST楽曲は14曲あり、そのうちIUの“Give You My Heart”(『愛の不時着』)、Gahoの“Start”(『梨泰院クラス』)、チョ・ジョンソクの“Aloha”(『賢い医師生活』)、チョン・ミドの“I Kew I Love”(『賢い医師生活』)の4曲が1位を獲得している。また、最近はドラマだけでなくウェブトゥーン(ウェブ上で読める漫画)からも『趣向狙撃の彼女』のOSTが2曲トップ10入りするヒットを記録した。もはやOSTは韓国の音楽シーンで一つのジャンルを形成しているのだ。
『梨泰院クラス』のOST、Gaho“Start“
こうしたOSTの影響力はインディシーンでも例外ではない。インディシーンの規模が小さい韓国では、ドラマOSTへの参加は、インディの枠を超えたブレイクへの足掛かりとしても期待される。例えば人気バンド、Jannabi(ジャンナビ)はデビュー初期の約1年半の間、大ヒットドラマを多数放映しているケーブルテレビ局tvNのドラマ5作でOSTに参加しており、それがブレイクのきっかけになった。OSTはまさにドラマを通して、リスナーに幅広いジャンルのアーティストと接続する機会を作っているのだ。
ここでは人気ドラマのOSTに参加した韓国のインディアーティストに注目し、Jannabi、OOHYO、10cm、SWJA(ソヌジョンア)、O3ohn、Cheeze、LEENALCHIといったベテランから注目の若手まで7組を紹介する。日本で幅広い韓国カルチャーが親しまれているいまこそ、本記事も新たなミュージシャンとの出会いのきっかけになれば幸いだ。