コラム

常田大希提供曲に隠れたジャニーズらしさ SixTONES“マスカラ”

常田大希提供曲に隠れたジャニーズらしさ SixTONES“マスカラ”

テキスト
矢野利裕
編集:原里実(CINRA.NET編集部)
2021/08/11

2020年1月に、YOSHIKI(X JAPAN)によるプロデュース曲“Imitation Rain”でデビューした、ジャニーズの6人組グループSixTONES。5枚目のシングル『マスカラ』は、表題曲がKing Gnu / millennium paradeの常田大希による楽曲提供で、発売前から大きな話題となった。

『マスカラ』を紐解く本稿を寄せてくれたのは、文芸と音楽が専門の批評家・矢野利裕。著書『ジャニーズと日本』(講談社)のなかで、「ジャニーズの楽曲は、つねに新しい表現を追求し続け、ポピュラー音楽の歴史を更新してきた」と述べ、自身を「その楽曲のレヴェルの高さに魅了されたひとり」とする矢野は、SixTONES、そして彼らの最新シングル『マスカラ』のなかに異なるふたつの方向性が内包されているのを見るという。

それは、ジャニーズが長い歴史のなかで守り育ててきた「ジャニーズらしさ」を維持しながらも、新しい時代のアーティストとして歌い、踊り、生きる姿。その難しさに挑むSixTONESというグループと楽曲の魅力に迫る。

アメリカ文化と日本文化の衝突から生まれた、奇妙で華やかな世界観——それがジャニーズの真骨頂

SixTONESの新曲についての原稿依頼が自分に来たのは、もちろん『ジャニ研! TWENTY TWENTY』(大谷能生・速水健朗との共著、原書房)や『ジャニーズと日本』(講談社)といった過去の仕事を踏まえていただいてのことだと思う。

ただこれら一連のジャニーズに関わる仕事が、自分にとって決定的に役割を終えたと感じるのは、2019年7月のジャニー喜多川の逝去によるところが大きい。というのも、筆者のジャニーズに対する語りは、戦後日本にアメリカ人として来日したジャニー喜多川の存在を中心化していたからだ。

ジャニー喜多川は、アメリカのショービジネスを日本で展開するにあたって、数々の特異な表現を生み出した。アメリカ文化と日本文化の衝突のなかで生まれた奇妙で華やかな世界観こそ、ジャニーズの真骨頂だといえるだろう。

そんなジャニー喜多川という異才がさまざまな歴史的条件のなかでつくり上げた世界観。それこそが、ジャニーズのジャニーズたるゆえんだ、という思いがやはり強くある。だからこそ、ジャニー喜多川の死によって、そのジャニーズ的な世界観を支える根拠がなくなったように思えてしまったのが、正直なところだ。

もっとも、晩年のジャニー喜多川がどれだけ個々の作品に関与していたかはわからない。上記のようなジャニー喜多川の独特なセンスを理解している内部スタッフが、ジャニーズ事務所のイメージとクオリティーをコントロールしていたようにも思う。

だとすれば、ジャニー喜多川の死後も彼の追求した表現のありかたは変わらずに続いていくのだ、という見方もできるだろう。ジャニー喜多川の死後、2020年1月22日に発売されたSixTONESとSnow Manの両A面デビューシングル『Imitation Rain / D.D.』のCDには、「Eternal Producer」という肩書きで「Johnny H. Kitagawa」とクレジットされているが、ここには、ジャニー喜多川の亡きあともジャニー喜多川的な世界観は存続するのだ、という強い意志を見ることができる。

YOSHIKIプロデュースによるSixTONESのデビュー曲“Imitation Rain”。Snow Manの“D.D.”との両A面というかたちで発売され、同日にデビューした

変化するアイドルのありかた。ひとりの市民として社会に関わることが求められる現代

他方、ジャニーズが変化を余儀なくされていることもまた事実だ。ここでいう変化とは、時代の変化のことである。ジャニー喜多川の逝去(に限らず誰の死も)だって、この時代の変化のなかにあると捉えることができる。

ジャニーズの話に限ってみても、例えば、嵐の活動休止(2020年)とSMAPの解散(2016年)とでは、その決定にいたるまでの道のりがかなり違った。そこでは、メンバーの意志がどのように尊重され・されず、どのように合意にいたったか・いたらなかったか、という点において、だいぶ異なった印象を与えた。

現在のアイドルは、芸能の人として社会から隔絶されるのではなく、むしろその人なりに社会に関わることが求められている。ひとりの労働者として、疲れたら休むしつらくなったら辞める。ひとりの市民として、自分の意志で仕事の内容を選ぶ。時事的なことでいえば、さまざまな意見が飛び交うコロナ禍の『東京オリンピック』に対して、どのようなかたちでコミットするのか・しないのか。パフォーマンス以前にその選択自体が、ファンからすれば注目すべきものになっている。

だとすれば、事務所からの仕事を唯々諾々とこなすのではない態度こそ、『東京オリンピック』以後、2020年代のアイドルにふさわしいありかたなのかもしれない。そして、それはもう、アーティストと呼ぶべき存在なのかもしれない。

ポスト・ジャニー喜多川期の象徴としてのSixTONES

最後の最後までインターネットへの進出をしなかったジャニーズ事務所において(筆者は、インターネットを拒否し続けた姿勢に好感をもっているが)、デビュー前からYouTubeのアーティストプロモでMVを公開していたSixTONESは、ポスト・ジャニー喜多川期の象徴ともいえるグループだろう。

当時のキャッチコピーは「ジャニーズをデジタルに放つ新世代」。もちろん、社長業に専念した滝沢秀明のプロデュース仕事という点でも、新時代のジャニーズグループであることを印象づけた。

インターネットを拒否して社会から隔絶するどころか、YouTubeを積極的に活用して、マスメディア以外でもメンバーの様子を見せていくのは、いまや多くのタレントや芸人と変わらない。良いとか悪いとかではなく、いまやジャニーズタレントもそういう時代のなかで活動しているということだ。

SixTONES<br>後列左から:森本慎太郎、高地優吾(高は「はしごだか」)、田中樹、前列左から:京本大我、ジェシー、松村北斗
SixTONES(過去の特集記事はこちら
後列左から:森本慎太郎、高地優吾(高は「はしごだか」)、田中樹、前列左から:京本大我、ジェシー、松村北斗

このように考えると、SixTONESとは、ポスト・ジャニー喜多川的であることが強く刻印されたグループといえる(同じことは、同日にデビューしたSnow Manにも当てはまる)。「ポスト・ジャニー喜多川」の意味するところは、「ジャニー喜多川」的な要素と「ポスト」的な要素というベクトルの異なるふたつの方向性を抱えるということだ。振り返れば、SixTONESの歩みは、たしかにそういうものだった。

SixTONESの初MV“JAPONICA STYLE”(2018年)は、YouTubeを通じて発表されたという点で「ポスト」感の強いものだったが、一方で、その楽曲のありかたは、シブがき隊“スシくいねぇ!”(1985年)あたりから嵐『Japonism』(2015年)まで連綿と続くジャニーズのお家芸であるジャポニズム路線そのものだった。

出自をアメリカにもつジャニー喜多川は、日本的なものを描くさいも、「外国から見た日本=ジャポニズム」というかたちで、いささか誇張された「和」のイメージを用いたが、“JAPONICA STYLE”はまさにそのような表現の延長にあるものだった。そんなジャニーズ流ジャポニズムの代表的なひとつがミュージカルと歌舞伎を融合させた『滝沢歌舞伎』だといえるが、その『滝沢歌舞伎』を背負っていた滝沢にとって、受け継ぐべきジャニーズの本質とは、なにより「ジャポニズム」だったのかもしれない。

滝沢のそのような方針は、滝沢歌舞伎のなかで披露されるSnow Manの「腹筋太鼓」のパフォーマンスや、ジャニーズJr.のグループ・Travis Japanによる舞台『虎者-NINJAPAN』の演出にも見ることができる。その意味で、YouTubeで発表された“JAPONICA STYLE”は、SixTONESの出発点として——“Imitation Rain”以上に、といったら失礼だが——たいへんふさわしいものだった。

SixTONES“JAPONICA STYLE”MV

常田大希の曲と歌詞を見事にモノにするSixTONESは、自立したアーティストに他ならない

長い前置きになってしまったが、そんなSixTONESの新曲“マスカラ”がリリースされた。楽曲提供をしたのはKing Gnu / millennium paradeの常田大希で、これは、SixTONESサイドからの要望で実現したものだ。SixTONESファンのあいだでもKing Gnuファンのあいだでも話題騒然となるなか発表された“マスカラ”は、最近のポップスでは珍しくないとはいえ、さすがの複雑な譜割りとピッチの高低で、ボーカル技術はかなり問われる曲である。

SixTONES“マスカラ”MV

とはいえ、実力派といっていいSixTONESはこれを難なく歌いこなしている、どころかむしろ、複雑なメロディーは6人のボーカルの個性が際立つように作用しており、その時点で常田楽曲との幸福な相互作用を感じる。このような個々のボーカルの存在感によって、アコースティックギターとユニゾンするサビのコーラスもひときわ盛り上がりを感じさせるのだ。

コーラスといえば、サビ後の<喰らえど喰らえど満たされぬ腹 / 打たれて打たれてびしょぬれのまま / ありきたりな毎日に足りて足りて足りない僕ら>と歌われるところなどは、喉でがなるような声の重ね合わせにKing Gnuを連想する。ジャニーズのアイドルは歌唱力に乏しくハモることもできない、なんていう物言いをいまだにする人は少ないと思うが、常田大希の曲と歌詞を見事にモノにするSixTONESは、ジャニーズアイドルという以上に、自立したアーティストに他ならない。

他方、アレンジもたいへん興味深いものだった。アコースティックギターの短いフレーズの反復と打ち込みのビートは、基本的には現行のR&B(とネオソウルの雰囲気を少し)を感じさせるものである。もっといえば、その淵源には、1999年のTLCのヒット曲“No Scrubs”が指摘できる。サンプリング元を短くループさせるようなトラックメイキングの発想で爪弾かれたアコースティックギターの音に打ち込みが入ってくる時点で、“マスカラ”にはとても上品で洗練されたR&Bの雰囲気を感じる。

女性3人によるR&Bグループ・TLCの“No Scrubs”。『グラミー賞』で最優秀R&Bグループ賞を獲得するなど大ヒットした

“マスカラ”は、KinKi Kids“硝子の少年”など「ジャニーズ哀愁ラテン」の系譜

もっとも興味深いのは、さらにそのあとの展開だ。そもそも、このイントロのアコギの音色、よくよく聴くとスパニッシュギターのような響きになっている。つまり、この曲は「R&Bに擬態したフラメンコ」なのではないか。実際、“マスカラ”は後半になるにつれて、スパニッシュギターがパーカッシブにかき鳴らされ、そこにカホンが乗るというかたちで、典型的なフラメンコの音楽スタイルが忍ばされている。

このように考えると、この楽曲の印象的なサビの振りつけであるエアギターも、一般的に想像されるようなエレキギターではなく、スパニッシュギターを弾いているイメージなのかもしれない。

“マスカラ”のサウンドは、全体的にハイブリッドなものだが、このフラメンコの隠しかたがとても面白かった。加えて、なにより興味深いのは、この隠されたフラメンコ要素が、例えば、KinKi Kids“硝子の少年”(1997年)やKAT-TUN“KISS KISS KISS”(2015年)などといったジャニーズの哀愁ラテンの系譜に、ひいては、ラテンの影響が色濃い歌謡曲の系譜につながっていくことだ。ここにも、「ポスト」「ジャニー喜多川」というふたつのベクトルを抱えるSixTONESの姿を見出したくなる。

ムード歌謡の名曲“別れても好きな人”(原曲はロス・インディオス&シルヴィア、1979年)。日本の歌謡曲は、ラテン音楽の影響を色濃く受けている(Apple Musicはこちら

長い歴史を背負って立つ、ジャニーズ新時代の旗手でいることの困難さ

カップリングの“フィギュア”についても。“フィギュア”は、ボカロP / アーティストのくじらによる楽曲である。ボカロPの起用に「ポスト」感を強く覚えるものの、楽曲はたいへん従来的なジャニーズらしさに満ちていると思った。

それはなによりボーカルのありかたにおいてである。サウス系ヒップホップ~2010年代のラップミュージックの影響下にあるだろうハイハットの連打はたしかにリズムの複雑さを演出しており、それは楽曲中盤のラップパートにいたってかなり先鋭的になる。

SixTONES“フィギュア”MV

とはいえ、この曲のボーカルは、“マスカラ”と比較したときかなり平易なものだろう。いや、これが平易だと思えること自体、日本のポップスのゆたかさを感じさせるのだけど、いずれにせよ、このメロディーとリズムのバランスはSMAPの『Mr.S』(2014年)や嵐の2010年代あたりの楽曲を連想させるもので、その意味でたいへんジャニーズらしい好曲だった。明るくポップな曲で、“マスカラ”と好対照をなしているといえる。

“マスカラ“も“フィギュア”も、それぞれの観点において興味深い曲だった。と同時に、この両曲を通じて、SixTONESが背負っているものの大きさを理解した気がした。ジャニーズらしさを維持しつつ、新しい時代のアーティストとなること。すなわち、「ポスト・ジャニー喜多川」の時代を生きること。

“マスカラ”のような曲を新曲としてA面にもってくるというバランスが、さしあたり現在のSixTONESにおける時代との向き合いかたということだろう。“マスカラ”“フィギュア”の2曲を通じて、まことに勝手ながら、ジャニーズ新時代の旗手でいることの困難さを痛いほど感じた。長すぎるジャニーズの歴史の最先端で、歌い、踊る姿にリスペクトを抱かずにおられない。

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リリース情報

SixTONES『マスカラ』初回盤A
SixTONES
『マスカラ』初回盤A(CD+DVD)

2021年8月11日(水)発売
価格:1,760円(税込)
SECJ-26~27

[CD]
1. マスカラ
2. Make Up
3. マスカラ -Instrumental-

[DVD]
マスカラ -Music Video-
マスカラ -Music Video Making-
マスカラ -Music Video Solo Movie-

SixTONES『マスカラ』初回盤B
SixTONES
『マスカラ』初回盤B(CD+DVD)

2021年8月11日(水)発売
価格:1,760円(税込)
SECJ-28~29

[CD]
1. マスカラ
2. フィギュア
3. フィギュア -Instrumental-

[DVD]
フィギュア -Music Video-

SixTONES『マスカラ』通常盤
SixTONES
『マスカラ』通常盤(CD)

2021年8月11日(水)発売
価格:1,100円(税込)
SECJ-30

1. マスカラ
2. フィギュア
3. Lost City
4. 僕が僕じゃないみたいだ (Dramatic Rearrange)

プロフィール

SixTONES
SixTONES(すとーんず)

2015年結成。ジャニーズJr.時代の2018年、ジャニーズグループ初となるYouTube公式アーティストチャンネルを開設し、海外では数億回の再生回数を誇るアーティストを起用している「YouTube アーティストプロモ」キャンペーンに「ジャニーズをデジタルに放つ新世代」というキャッチコピーのもと日本人初として大抜擢される。YOSHIKI(X JAPAN)プロデュースのロックバラード“Imitation Rain”で2020年1月22日にCDデビュー。2021年1月ファーストアルバム『1ST』をリリース。

矢野利裕(やの としひろ)

1983年生まれ。批評家、DJ。文芸批評・音楽批評など。著書に、『コミックソングがJ-POPを作った』(Pヴァイン)、『ジャニーズと日本』(講談社)、『SMAPは終わらない』(垣内出版)。

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