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三島由紀夫が本当になりたかったのは劇作家? 『金閣寺』の世界

三島由紀夫が本当になりたかったのは劇作家? 『金閣寺』の世界

萩原雄太
2014/02/07

2014年、年明け早々、三島由紀夫が1963年のノーベル文学賞候補であったことが明らかになった。戦後の日本文学を代表する文豪として、衝撃の割腹自殺から40年以上を経ても、その名前を燦然と文学界に輝かせている三島由紀夫。『仮面の告白』『豊饒の海』『潮騒』と、緻密な構成と耽美的な文体で描かれた彼の小説は、幅広い読者を獲得し、日本のみならず海外での評価も高い。

小説家としての功績ばかりが注目されている三島だが、じつは『鹿鳴館』や『サド侯爵夫人』など多くの戯曲作品を執筆している。また、劇作家だけにとどまらず、文学座に在籍し、自ら演出や出演も果たすなど、演劇に対して並々ならぬ熱意を燃やしていた。そんな熱意を受け継いだ演出家・宮本亜門、そして柳楽優弥の主演によって、今年4月『金閣寺』が再演される。三島由紀夫にとって演劇とは何だったのだろうか? 今回の再演をきっかけに、彼の「演劇人」としての側面を浮かび上がらせてみよう。


実際のところ、三島由紀夫は舞台で何を描き出そうとしていたのか?

ファミレスの店員で、まあもちろんバイトで、さいとうさんっていう女の子がいて、そのファミレスのほとんど平日は朝のシフトにわりと毎日入ってる人なんですけど、その人の、話から、します。(チェルフィッチュ / 岡田利規『フリータイム』)
とんだお招きね。馬の稽古のかえりに、ちょっと立寄ってくれ、というたってのお頼みだから、こうしてはじめてのお宅に伺ってみれば、思う存分待たせてくださるんだわ。(三島由紀夫『サド侯爵夫人』)

これら2つは、いずれも「演劇」の脚本だ。後者が発表されたのは1965年。一方の前者は2008年に発表されたもの。どちらかと言うと、岡田の言葉遣いのほうが、我々にとって親しみやすく、三島の言葉遣いはあまり日常的に使われる言葉ではない。しかしこれは40年という時の経過が生み出したものというよりも、両者が舞台の上でなにを描こうとしているかの違い、あるいは「人間」をどのようにして捉えているかの違いだろう。岡田は前述のようなセリフで「何気ない日常に潜む過剰なイメージ」を描き出そうとした。では、三島はどんな舞台表現を念頭にこのセリフを書いていたのだろうか?

幼い頃から「芝居の世界」に憧れ、思春期の衝動として歌舞伎や能の世界に魅せられていく

芝居好きの祖母からしょっちゅう観劇の感想を聞かされ、「世の中にはそんな素晴らしいものがあるのか」と、幼少の三島は芝居の世界への憧れを募らせていく。しかし、子どもの教育に悪いという方針から、はじめて歌舞伎座に連れて行ってもらえたのは三島がようやく中学1年生になった頃。そこで観た作品は『忠臣蔵』だった。

大序の幕があいたときから、私は完全に歌舞伎のとりこになった。それから今まで、ほとんど毎月欠かさず歌舞伎芝居を見ているわけであるが、何と言っても旺盛な研究心と熱情を持って見たのは、中学から高校の時分であり、当時メモした竹本劇のいろんな型や要所要所やききゼリフは、今でもよく覚えているほどだ。(『芝居の媚薬』所収『私の遍歴時代』角川春樹事務所刊)

その後、能の世界にも触れ、ますます舞台芸術の世界にどっぷりとハマっていった三島。まるで「キース・リチャーズのファズギターが世界を変えた」とアツく語るロック少年のそれのように、三島は思春期の衝動として歌舞伎や能の世界に魅せられていったようだ。だが、意外にも現代演劇にその足は向いていない。

外国の台本は手あたり次第に読んだが、翻訳劇を見る気は起こらず、季節はずれの郡虎彦の戯曲などに夢中になっていた。(同)

三島にとって舞台芸術の魅力とは、歌舞伎や能などの様式がもたらす美の結晶。日本人が、日本人の身体で外国人を演じる翻訳劇は魅力に欠けたものに映ったのだろう。

『金閣寺』(2011年)
『金閣寺』(2011年)

「こんなに面白いことがあってよいものだろうか、というのが当時の私の正直な感想であった」(三島)

そんな三島の演劇デビュー作となった戯曲が『火宅』という一幕物だ。当時、三島は24歳。処女長編作『仮面の告白』を執筆し、すでにその名を文壇に轟かせていた。だが、川端康成の応援を受け、数々の小説を執筆してきた三島が、いざ戯曲を執筆しようにも「私は四百字の原稿用紙1枚をセリフで埋めるのすら、おそろしくて出来なかった(『私の遍歴時代』)」という。「七転八倒の苦しみで」三島は、ようやく原稿用紙30枚あまりの作品を書き上げる。そして、それが雑誌に掲載されると、俳優座から上演依頼が舞い込んだ。その初演の夜、三島はすっかり舞い上がってしまったようだ。

小説は書いたところで完結して、それきり自分の手を離れてしまうが、芝居は書き了(お)えたところからところからはじまるのであるから、あとのたのしみが大きく、しかも、そのたのしみにはもはや労苦も責任も伴わない。こんなに面白いことがあってよいものだろうか、というのが当時の私の正直な感想であった。(『私の遍歴時代』)
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イベント情報

『金閣寺-The Temple of the Golden Pavilion-』

2014年4月5日(土)~4月19日(土)
会場:東京都 赤坂ACTシアター
演出:宮本亜門
原作:三島由紀夫
出演:
柳楽優弥
水橋研二
水田航生
市川由衣
ほか
料金:S席8,500円 A席6,000円 U-25チケット4,500円(チケットぴあにて前売販売のみ取扱い、25歳以下対象、当日指定席券引換、平日限定、要身分証明書) 高校生以下2,500円 ※4月5日(土)18:30、6日(日)13:30公演のみ対象(チケットぴあにて前売り販売のみのお取扱い、高校生以下対象、当日指定席券引換、要学生証)

プロフィール

三島由紀夫(みしま ゆきお)

1925年、東京生まれ。本名、平岡公威(きみたけ)。194年東京大学法学部を卒業後、大蔵省に入省するも9か月で退職、執筆生活に入る。1949年、最初の書き下ろし長編『仮面の告白』を刊行、作家としての地位を確立。主な著書に、1954年『潮騒』(新潮社文学賞)、1956年『金閣寺』(読売文学賞)、1965年『サド侯爵夫人』(芸術祭賞)等。1970年11月25日、『豊饒の海』第4巻「天人五衰」の最終回原稿を書き上げた後、自衛隊市ヶ谷駐屯地で自決。

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