モーニングはみだし3兄弟@CINRA出張所

みうらじゅんが教える、「ない仕事」の作り方

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みうらじゅんが教える、「ない仕事」の作り方

インタビュー・テキスト:さやわか 撮影:三野新

俺がやってるこんなもんは全部、客観性があってやってることだから。

―漫画での表現もそうですけど、みうらさんは人のやっていないことをやろうとした結果、今のような活動に行き着いているんですね。

みうら:人のやらないことっていう意味では、俺は一番横尾忠則さんに影響を受けたと思いますが、たくさんすごい人たちを見てきた中で、その人たちがやらないことは何だ? ってそのことばかり考えてきました。今はネット文化もそうですし、基本はツッコミでしょ? 笑われることを自らやる人っていうジャンルが空いてることに気付きました。

―今や一般的に認知されたゆるキャラの場合も、同じ発想から生まれたのでしょうか。

みうら:うん。ゆるキャラは笑われてもいませんでしたから、12年くらい前は(笑)。

―みうらさんが興味を感じて集めるものには、何か基準があるのでしょうか?

みうら:俺は決してコレクターじゃないんです。収集癖は小さいときからあったけど、コレクターはそのままの状態でものを保管する人ですね。でも俺は、『マガジン』や『サンデー』を買ってきたら、すぐにスクラップ帳に貼って再構成したくてしかたがなかったんです。仏像スクラップを作ったときもそうでしたけど、気持ちはコレクターじゃなくて、編集者とかレイアウターなんですね。

みうらじゅんの収集物

―では、必ずしも集めるのが目的だというわけではないんですね。

みうら:違いますね。コレクターってオールオアナッシングでしょ。100個あるものは99個じゃしょうがないんです。それはある意味、狂ってて憧れましたけど、俺はそんなふうに自分を見失える才能がなかった。こう見えて、俺がやってるこんなもんは全部、客観性があってやってることだから。集めたものを通じて、何か違う世界を見たいんですよ。

好き嫌いでものごとを判断するのはやめたんですよ。

―なるほど。そこで何かを客観的に感じるために、ある程度の数を集めなければならないわけですね。

みうら:そうですね。あとはね、量と無駄な努力。無意味なもんでも、人は大量にあるものに弱いんですよね。一つひとつには興味を持たなくても、大量にあると、スゴイと錯覚しますから(笑)。大量にあるものを見ると、例え興味がなくてもその瞬間に常識が変わって「スゴイ!」ってなるんです。そうすると、今までなかった世界が何だかあるような気がしてくる。そうやって今までにあった常識を否定していくと、真理が少し見えてくるんです。

―その真理っていうのはつまり……。

みうら:今信じられている常識っていうのが、何度も裏返ってるということです。当時はゆるキャラという概念がありませんでしたから、地方自治団体に写真を借りようと思って電話しても「うちはゆるくない」って怒られたもんですよ。だから「ゆるキャラの『ゆ』っていうのは、ユニークって意味なんですよ」って嘘つきました(笑)。

―嘘も方便ですね(笑)。

みうら:かつて、かつて日本には八百万の神がいたように、そういうキャラクターもたくさん存在してることがわかったから、週刊誌に載せてもらおうと思ったんですよ。月刊誌じゃ紹介するのに到底追いつきませんから。いろんな編集部に持ち込んだんだけど、1年くらい放っとかれましたよ。白黒や半段だったらいいけどとか、囲み記事でなら、とか言われました。だから編集者を接待してね(笑)。

―自分が新たに作り出した価値観を世に広めるには、そういう営業努力がいるわけですね!

みうら:そうですよ。だって誰も知らないものに、向こうから依頼がくることは絶対ないですから。かと言って前例がないとわかってもらえないから、そういうものがさもあるように見せてごまかす努力をしてるんですよね。「一人電通」としては(笑)。後楽園遊園地でゆるキャラのイベントをやったりね、東京ドーム2DAYSってのもやりました。さもあるように見せるためにね(笑)。昔はそれを「スキマ産業」って呼んでたもんですけど、そうじゃなくて「ない仕事」はまた別の新しいジャンルなんだよね。

みうらじゅん

―「スキマ産業」よりも「ない仕事」の方が、なんとなく発展的な印象がありますね(笑)。

みうら:「仕事」って言葉が付くと、安心するでしょ。「ない仕事」っていうのは、般若心経における「空」と同じでね、あるように見えるだけで本当はないってね(笑)。

―では「ない仕事」のためではなく、根本的に「こういうものが好きだ」っていう基準はあるんですか?

みうら:あるときから、好き嫌いでものごとを判断するのはやめたんですよ。好き嫌いで判断してると、鈍るんです。「嫌だな」「違和感があるな」と思ったもののほうが、自分を洗脳していくのが面白いことに気付いて。それこそ『へうげもの』に響きが似てるけど、『いやげ物展』っていう展覧会を開いたんです。世の中で売っている土産物には、もらっても全然嬉しくないものがたくさんあるでしょ。それは「みやげ」じゃなく、「いやげ」だと。でも、そうすると自分でそれを好きになるために買わなきゃいけないわけで。観光地に行って「うわ、これいらねえなー」って思った瞬間、「俺が買うんだ!」ってスイッチを入れて、買う(笑)。土産物屋で木彫りのビーナス像が4万円くらいで売ってたんですが、「いらねえ、誰が買うんだろう」と当然思ったんだけど、もう後戻りできない。この部屋にあるラブドールだって70万もするんですよね。まだ一度もヤってません(笑)。ほんとはそんなに欲しくないんだけど、買うんだよ。

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書籍情報

『へうげもの』17巻(『モーニング』KC)

2013年9月20日発売
著者:山田芳裕
価格:580円(税込)
発行:講談社

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『キャラ立ち民俗学』

2013年3月26日発売
著者:みうらじゅん
価格:1,050円(税込)
発行:角川書店

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『アウトドア般若心経』

2007年10月29日発売
著者:みうらじゅん
価格:1,365円(税込)
発行:幻冬舎

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『いやげ物』

2005年7月7日発売
著者:みうらじゅん
価格:945円(税込)
発行:筑摩書房

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『モーニング』関連作品を連載中。

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