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内なる声はどこからやってくる?『内臓感覚―遠クテ近イ生ノ声』

内なる声はどこからやってくる?『内臓感覚―遠クテ近イ生ノ声』

内田伸一
撮影:佐々木鋼平
2013/05/17

「内臓感覚」と聞いて、何を連想しますか? 「心臓が高鳴る」「腹を割って話す」はたまた「肝の据わった人」などなど……? 生理的なものから感情・思考につながるものまで、誰にとっても身近で、しかし直接は目にすることのない存在。内臓は太古から続く宇宙・生命のリズムに共鳴する器官だとの考えもあります。これに美術の世界からアプローチしたユニークな展覧会が、金沢21世紀美術館の『内臓感覚―遠クテ近イ生ノ声』。巨匠から若手アーティストまで、また現代美術家から絵本作家まで、表現手法もバックグラウンドも多彩な13組の作品が「内臓感覚」をテーマに集結します。そこに浮かび上がるものを探ろうと、古都・金沢を訪ねました。

「生(せい / なま)の感覚」「痛み」「衝動」「無意識」……それぞれの内臓感覚

「内臓」という、ちょっとドキッとするキーワードをもとに、現代の様々な表現を巡るこの美術展。それぞれ個性の異なる展示室を作家ごとに割り当てて、彼らの内面から広がる作品世界にじっくり浸れるスタイルをとっています。

冒頭の展示は、これから始まる内臓感覚の世界の「キモ」となる核心を予感させるものでした。昨年この世を去った中川幸夫が生前手がけた、呼吸する美しい臓器のようなガラス作品。もともと流派に頼らない前衛生け花の作家として知られた彼は、ときにグロテスクにさえ見える花の美を追求する中で、生と死の核心に迫りました。そして、幼少時に患った脊椎カリエスが体型にも影響を及ぼしたという彼にとっては、自身の身体との対話も、創作と無関係ではなかったでしょう。今回は土門拳との交流で学んだ写真作品も出展されており、多様なコラボレーションでも知られます(舞踏家の大野一雄、写真家の荒木経惟、ファッションデザイナーの川久保玲など)。各界巨匠が共振したのも、彼の「生々しい」といってよい生命観と美学であり、それが今回「内臓感覚」世界への導入となっています。

中川幸夫『花神へ』1975年頃
中川幸夫『花神へ』1975年頃

続いて目を惹くのは、現代美術界における東西それぞれの巨匠女性作家2人の競演です。ルイーズ・ブルジョワは、六本木ヒルズの広場にそびえる巨大グモの彫刻でもよく知られる大作家。ここでは、天井から吊るされた一対の腎臓のようなオブジェ『花咲けるヤヌス』や、指や性器、また内臓のひだにも見える有機的フォルムのブロンズ彫刻などが並びます。少女時代に父親が自分の家庭教師と不倫関係にあったことが大きな心の傷になったとも言われるブルジョワ。本人は「痛みという主題こそが私の専門」と語っており、生前は地下スタジオにこもって創作することも多かったそう。最晩年のドローイング連作『家族』も含め、いずれも豊かな生命力と不安・畏れを同時に内包するような作品群。そんな彼女の内なる声に耳を澄ます、もとい、五臓六腑で感じとる一室です。

ルイーズ・ブルジョワ 展示室風景
ルイーズ・ブルジョワ 展示室風景

お隣の自然光溢れる空間に広がるのは、草間彌生の世界です。言わずと知れた、現在も最前線で活躍中の巨匠。今回はよく知られるカラフルな作品とは異なり、同展のテーマならではの構成です。本人所蔵の貴重な作品『雲』は、詰物をしたクッション状の物体を床一面に敷き詰めたインスタレーション。その一つひとつはタイトル通りの雲にも、あるいは内臓や思念にも見えてくる? そんな私たちの連想も、一緒にそこで漂うようです。

草間彌生『雲』1984年(部分)
草間彌生『雲』1984年(部分)

さらには、強迫的な緻密さで描かれる抽象画「ネットペインティング」シリーズの大作や、鏡の反射を利用して無限宇宙のような世界を見せる作品も。作家の内側から溢れ出る衝動、生への探求が静かに、しかし力強く迫ってきます。

草間彌生『鏡の部屋―愛は永遠に(No.3)』1964-86年(部分)
草間彌生『鏡の部屋―愛は永遠に(No.3)』1964-86年(部分)

なお、草間作品の多くはよく知られるように、自身が悩まされた幻覚体験とも密接に関係すると言われます。ここまで三作家の展示を見てくると、痛みや苦悩などと「内臓感覚」の関連も連想されます。ただ、それはけして特殊な状況下の人々だけが共有する感覚ではなく、むしろ(そうしたことで増強されたかもしれない)広い意味での生命の共通感覚と言えるのではないでしょうか。

もの言わぬ雄弁な作品群にふれた後は、実話に着想を得た、無意識をさまようような映像美とモノローグの物語世界へ。オランダ出身のサスキア・オルドウォーバースは、前後期にわけて2作品を出展・上映します。前期の『トレーラー(予告編)』は、引っ越した町の映画館で本当の両親を知る男の物語。紅一色の映画館や緑色の食虫植物のシーンはCGかと思いきや、映画館はミニチュアを水槽に沈めて、水中で撮影されたそう。ミニチュアの塗料が水に溶け出す様が不思議な映像美を生んでいます。「自分で手がけた物語やミニチュアには、私のエモーションが宿る」と語る彼女。虚実の境でゆれる心理が滲み出す様子には、「インナーボディ=内なる身体」への観察眼も感じます。なお後期(7月2日以降)は『プラシーボ(偽薬)』が登場。こちらは長年WHO(世界保健機関)で働いていると家族に嘘をつき続けた男にインスパイアされた作品です。

サスキア・オルドウォーバース『トレーラー(予告編)』2005年
サスキア・オルドウォーバース『トレーラー(予告編)』2005年

そして写真作家からは、近年大きな注目を集める志賀理江子が出展。『木村伊兵衛写真賞』も受賞した『カナリア』シリーズから60点を、部屋の四方全てに張り巡らせています。東北、シンガポール、オーストラリアで撮影された作品は、ストレートな写真から超常現象のような演出が施されたものまで様々。プリントされた作品は60点ですが、実際に撮影された写真は数千枚あるそうで、それらは部屋中央の床でフラッシュバックのように妖しく投影されます。映像と写真が競演する展示は、初の挑戦だとか。「写真は対象を知らなくても、またそれに直接触れなくても撮れてしまう恐ろしいメディア。そのジレンマも抱きつつ撮り続ける中で『これが何なのか』を知るよりも『私にとってどうだったか』を振り返ることにしてみた」とのことです。1/10〜1秒のシャッタースピードで撮影された写真を、一枚一枚それと同じ時間で映像として再生することで、分裂した時間が流れ出す。そこから彼女自身が、写真に再び近づく試みだといいます。

志賀理江子 シリーズ『カナリア』展示風景
志賀理江子 シリーズ『カナリア』展示風景

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イベント情報

『内臓感覚―遠クテ近イ生ノ声』

2013年4月27日(土)〜9月1日(日)
会場:石川県 金沢21世紀美術館
時間:10:00〜18:00(金、土曜は20:00まで)
出展作家:
ビル・ヴィオラ
オル太
サスキア・オルドウォーバース
加藤泉
草間彌生
志賀理江子
長新太
中川幸夫
ルイーズ・ブルジョワ
アナ・メンディエータ
ナタリー・ユールベリ&ハンス・ベリ
ピピロッティ・リスト
渡辺菊眞
休館日:月曜(5月6日、7月15日、8月12日は開館、5月7日、7月16日は振替休館)
料金:一般1,000円 大学生・65歳以上800円 小中高生400円

『オル太によるパフォーマンス』
金曜、土曜、日曜、祝日の開場時間中
会場:石川県 金沢21世紀美術館 展覧会会場内 光庭

講演会
『内臓感覚の歴史 ―肝苦り(ちむぐり)と汝狂さ(なぐるさ)のはざまで』
2013年6月29日(土)14:00〜15:30
会場:石川県 金沢21世紀美術館 レクチャーホール
講師:今福龍太(東京外国語大学大学院教授、本展カタログ寄稿者)
定員:80名
料金:無料(当日の同展観覧券が必要)

ワークショップ
『声の海をつくる』
2013年7月14日(日)16:00〜19:00
会場:石川県 金沢21世紀美術館 展示室ほか
講師:たむらひろし(BF.REC 代表取締役、ワークショップクリエイター、クラヤミノtones代表)
対象:中学生以上
定員:先着20名
料金:無料(当日の同展観覧券が必要)

『絵本を読もう』
2013年5月25日(土)、6月22日(土)、7月21日(日)、8月24日(土)各日11:00〜
会場:石川県 金沢21世紀美術館 メインエントランス
読み手:林和美
対象:子どもから大人まで
料金:無料

『小学生「内臓感覚」ワークショップ』
2013年8月22日(木)10:00〜12:00
2013年8月22日(木)14:00〜16:00
会場:石川県 金沢21世紀美術館 キッズスタジオ
対象:小学生
定員:各回先着15名
料金:無料(当日の同展観覧券が必要)

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