New Orderの復活作に見る80年代レイヴカルチャーとEDMの関係

ロックとダンスミュージックを融合させた先駆者として、未だ数多くのフォロワーを生み出し続けているNew Orderが、実に10年半ぶりとなる復活作『Music Complete』を発表する。「ダンスレコードを作ろう!」を合言葉に制作されたという本作には、イギー・ポップ、THE CHEMICAL BROTHERSのトム・ローランズ、THE KILLERSのブランドン・フラワーズといった豪華なゲスト陣が参加し、1980年代を今にアップデートしたようなアッパーなダンストラックが数多く収録された、手応え十分の仕上がりとなっている。では、なぜNew Orderは今再びダンスレコードへと向かったのか。現代のEDMカルチャーとの接点から、その理由を紐解いてみた。

世界中のダンスアクトに影響を与え続けている、1980年代レイヴカルチャーの申し子

僕らはなぜいつの時代も「ダンス」に捉われ続けるのだろうか? バンドシーンを覗いてみれば、フェスで盛り上がるシンプルな4つ打ちに対して侃々諤々の議論が交わされ、一方クラブシーンに目を移せば、こちらもEDMの世界的な盛り上がりに対して、肯定派と否定派が真っ二つに分かれて意見をぶつけ合っている。いずれにしろ、僕らはいつまで経っても「ダンス」に恋い焦がれているに違いない。

New Order が実に10年半ぶりとなるオリジナルアルバム『Music Complete』を完成させた。今から35年前、前身バンドであるJoy Divisionのカリスマチックなフロントマン、イアン・カーティスの自殺によって、残されたメンバーが始めたこのバンドは、1982年に後のセカンド・サマー・オブ・ラブの拠点となる地元マンチェスターのクラブ「ハシエンダ」のオープンに資金援助をすると、ロックとダンスを見事に融合させたセカンドアルバム『POWER, CORRUPTION & LIES / 権力の美学』を83年に発表し、その後マンチェスターの顔役として君臨することになる。代表曲“Blue Monday”で味わうことのできる高揚感とメランコリーの同居は、その後も世界中のダンスアクトに影響を与え続けている。


90年代には中心人物のバーニーことバーナード・サムナーが元THE SMITHSのジョニー・マーと共にELECTRONICを結成するなど、メンバーそれぞれがソロを中心に活動するも、2001年に復活作『Get Ready』を発表し、2005年の『Waiting For The Soren's Call』と合わせ、よりバンドサウンド的な作風を展開。その後は事実上の解散状態に突入し、バーニーは2007年にNew Orderのメンバーでもあるフィル・カニンガムらと共にBAD LIEUTENANTを結成するなどしたものの、2011年に中心人物の一人であったピーター・フック抜きでの活動再開を発表。バーニーとフィル、初期からのメンバーであるスティーヴン・モリスに加え、活動を休んでいたジリアン・ギルバートが復帰し、さらにはBAD LIEUTENANTのレコーディングに参加していたトム・チャップマンを迎え、5人編成で待望の新作を発表することとなった。

New Order 撮影:Nick Wilson
New Order 撮影:Nick Wilson

「こんなNew Orderが聴きたかった!」と誰もが快哉を叫ぶであろう、大充実の復活作

『Music Complete』の最大の特徴は、80年代のバンド最盛期に回帰したような、ダンスレコードだということ。フィルが「その場を取り巻く雰囲気は『ダンスレコードを作ろう!』ということだった。その場で語られたのは本当にそれだけだったんだ」と語っているように、彼らは再び「ダンス」と真正面から向き合い、見事にそれを2010年代仕様にアップデートして見せたのだ。

実際にアルバムを聴いてみると、オープニングの“Restless”こそ、ややメランコリックなバンド路線で、こちらの期待に肩透かしを食らわせるものの、THE CHEMICAL BROTHERSのトム・ローランズがプロデュースした2曲目の“Singularity”は、アッパーなダンスビートが高揚感を誘う一曲で、いかにもNew Orderらしいシーケンスも印象的。前半はそのままダンサブルな曲が続くが、中盤の“Stray Dog”にはイギー・ポップがリーディングで参加し、深みのある声を披露しているのも聴きどころ。ちなみに、バーニーがイアン・カーティスと初めて会った日に一緒に聴いたレコードが、イギー・ポップの『Idiot』だったというエピソードは、イギーがNew Orderにとっていかに重要な人物であるかを表すのに十分であろう。


中盤では00年代に培ったバンドサウンドを聴かせ、懐の広さを示すと、こちらもトムが参加した“Unlearn This Hatred”から再びアッパーなダンストラックが続き、ラストはTHE KILLERSのブランドン・ブラワーズを迎えた強烈にキャッチーな“Superheated”でアルバムは華々しく幕を閉じる。「こんなNew Orderが聴きたかった!」と誰もが快哉を叫ぶであろう、大充実の復活作だと言っていいのではないだろうか。

EDMカルチャーは言わば、現代におけるレイヴカルチャーの復権である

では、なぜ彼らはこの10年半ぶりの新作において、再び「ダンス」へと向かったのか? そこからはやはり、近年のEDMの世界的な盛り上がりとのリンクを感じずにはいられない。実際彼らは2012年の復活ライブ以降、断続的にツアーを続け、同年の3月には今や世界的なEDMフェスティバルに成長し、昨年日本にも上陸を果たした『Ultra Music Festival』の本家であるマイアミ版に出演を果たしている。こうした場で彼らのダンストラックが熱狂的に迎えられた手応えから、再びダンスレコードへと向かったというのは、想像に難くない。

しかし、EDMがアメリカをはじめ、世界中で爆発的な盛り上がりを見せる一方で、その音楽性に対しては「中身がない」と批判的な意見を述べるミュージシャンが多いことも事実である。実際、トム・ローランズにしても、EDMに対しては「完全に型にはまっていて、本当に退屈。そもそも、自分たちとは全く関係ないところで起きているカルチャーだ」と辛らつな言葉を述べている。おそらくは、バーニーも音楽性に対しては似たようなコメントを口にすることだろう。しかし、バーニーは現象としてのEDMに対しては、案外好意的なのではないかとも思うのだ。

なぜなら、EDMカルチャーというのは、言ってみれば、現代におけるレイヴカルチャーの復権であり、そして、その源流にいるのがNew Orderであるからだ。こちらもトムがプロデュースしているNew Orderの“Here To Stay”が使われ、1980年代後半から90年代初頭のマンチェスターの狂騒が描かれた映画『24 HOUR PARTY PEOPLE』(2002年)を見てもらえればよくわかると思うが、80年代のNew Orderは文字通りパーティー三昧の享楽的な時代を過ごし、スペインのイビザ島でレコーディングされた89年の『Technique』で初のチャート1位を獲得するも、結果的にここがメンバー間の軋轢の始まりとなっている。つまり、最高の瞬間も最低の瞬間も経験したレイヴカルチャーへの憧憬を、今のEDMカルチャーに重ね合わせている部分が、少なからずあるのではないかと思うのだ。

80年代のダンスミュージックと、00年代のバンドサウンドを併せ持った「完全版New Order」の誕生

そして、80年代のレイヴカルチャーと、現代のEDMカルチャーの最大の違いが、ドラッグの有無である。EDMが世界的に成功したのは、ドラッグなどの危険なイメージを徹底的に排除したからで、『Ultra Music Festival』や『HARD Fest』などの大型イベントが「Festival」という名称を用いているのも、すでにカルチャーとして定着している「Festival」のイメージを流用する目的があったようだ。EDM系フェスの会場の特徴であるド派手なセットにしても、つまりはドラッグ抜きで別世界を体験するために必要なもの。実際、『Ultra Music Festival』『Tomorrowland』と並んで、世界3大EDMフェスの1つとされ、来年の日本上陸も決定している『Electric Daisy Carnival』の主催者パスクアーレ・ロテラは「大人のためのディズニーランドを作りたい」という発言をしていたりもする。

バーニーは現在還暦も間近の59歳で、さすがにドラッグは卒業し、クリーンな生活を送っていることだろう。そんなバーニーにしてみれば、今のEDMカルチャーに対して、当時のレイヴカルチャーとの違いに少しだけメランコリックな気分になりながらも、その光景を年相応に楽しんでいるに違いない。そして、だからこそ、New Orderはそんな現代にめがけて、今再びダンスレコードを作ろうと思ったのではないだろうか。

New Order『Music Complete』ジャケット
New Order『Music Complete』ジャケット

『Music Complete』というアルバムタイトルは、日常的な生活音や電子音などを混ぜ合わせて再構成する現代音楽のジャンルの1つ、「Musique concrete」をもじったものだという。これはつまり、80年代のダンスミュージックと、00年代のバンドサウンド、どちらの要素も併せ持った「完全版New Order」という力強い意味合いを持つものだろう。しかし、「Musique concrete」を「日常」とするならば、それをもじった「Music Complete」を「非日常」と捉えることも可能なはず。それはまさに、かつてのレイヴカルチャーを、現代のEDMカルチャーに重ね合わせた言葉のようにも思える。“Blue Monday”=「憂鬱な月曜日」から始まったNew Orderの足跡は、35年という時を経て、再び享楽的な週末へ、心躍る金曜日の夜へとたどり着いたのである。

リリース情報

2015年9月23日(水)発売
価格:2,484円(税込)
TRCP-200

1. Restless
2. Singularity
3. Plastic
4. Tutti Frutti
5. People On The High Line
6. Stray Dog
7. Academic
8. Nothing But A Fool
9. Unlearn This Hatred
10. The Game
11. Superheated
12. Restless – Extended Bonus Mix(ボーナストラック)

プロフィール
New Order (にゅーおーだー)

マンチェスター出身。前身のバンドは、ジョイ・ディヴィジョン。’80年、イアン・カーティスの自殺によりジョイ・ディヴィジョンは活動停止を余儀なくされ、バーナード・サムナー、ピーター・フック、スティーヴン・モリスの残された3人のメンバーでNew Orderとして活動を開始。デビュー・アルバム『ムーヴメント』(‘81年)をリリース。’85年にリリースされたシングル「ブルー・マンデー」は大ヒットを記録、12”シングルとして世界で最も売れた作品となった。所属レーベルのファクトリー・レコードが地元マンチェスターに設立したクラブ、ハシエンダ発のダンス・カルチャーは、マッド・チェスター、セカンド・サマー・オブ・ラヴといった世界を牽引した音楽シーンを生み出した。2007年、オリジナル・メンバーのピーター・フック(b)がバンドを脱退。2014年、MUTE移籍が発表され、2015年9月23日『ミュージック・コンプリート』をリリース。



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