New Order、Coldplay、The Strokes…「名画」を使用した印象的なアルバムジャケット10選

音楽を聴いていて、スマホ画面のジャケット写真に「あれ、この絵どこかで見たような……」と感じたことはありませんか? じつはそれ、教科書にも載るような有名な絵画かもしれません。

ストリーミングが主流のいま、CDの大きなジャケットを手に取る機会は減りました。しかしスマートフォンの小さな画面で目にするアートワークの印象は、以前にも増して重要になっています。一瞬で目を奪い、記憶に残るビジュアルが求められているなかで、名画を使用したジャケットの存在感は大きいですよね。

レコードジャケットに名画や美術作品を使用する例は、古今東西さまざまあります。たとえば、Coldplayが革命の名画を借りてきたり、New Orderが花の静物画でダンスミュージックを彩ったり、新世代のラッパーWestside Gunnがルネサンス絵画をストリートに持ち込んだり。そんな「名画ジャケット」に注目してみると、アートと音楽がもっと面白くなるかも。

この記事では「名画ジャケット」を10作品をピックアップして、アートと音楽両面から解説していきます。アートと音楽が共鳴する「名画ジャケット」の世界へようこそ。

セロニアス・モンク『Misterioso』(1958年)

絵画:ジョルジョ・デ・キリコ『予言者(The Seer)』(1915年)作品画像を見る

前衛的ジャズの巨人セロニアス・モンクによるライブ盤『Misterioso』は、彼の抽象的でミステリアスな演奏が詰まった名作。そのジャケットには、20世紀美術の異才デ・キリコによる『予言者』が使用されています。古代風の遺物と目隠しをした人物が佇む構図は、夢と現実のあいだを彷徨うような作品世界を象徴しています。

ロッド・スチュワート『A Night on the Town』(1976年)

絵画:ピエール=オーギュスト・ルノワール『ムーラン・ド・ラ・ギャレットの舞踏会』(1876年)

ロッド・スチュワートのアルバム『A Night on the Town』のジャケットには、フランス印象派の巨匠ピエール=オーギュスト・ルノワールの名作『ムーラン・ド・ラ・ギャレットの舞踏会』がアレンジして使用されています。この絵画は、19世紀末のパリ・モンマルトルにあるダンスホールでの賑やかな社交場面を描いており、当時のパリの活気と人々の楽しげな様子が表現されています。

アルバムの内容は、スチュワートの特徴的なハスキーボイスとともに、ロック、ポップス、バラードなど多彩な楽曲が収録されており、特に“Tonight's the Night (Gonna Be Alright)”はBillboard Hot 100で1位を獲得するなど、大きな成功を収めました。

New Order『Power, Corruption & Lies』(1983年)

絵画:アンリ・ファンタン=ラトゥール『薔薇の籠』(1890年頃)

19世紀フランスの静物画を採用したジャケットは、政治的なアルバムタイトルとのギャップが印象的。ニューウェイブ期のNew Orderがシンセとギターを融合させたダンサブルなトラックが揃います。デザインは当時ファクトリー・レコードの専属デザイナーだったピーター・サヴィルが担当し、花と電子音楽という対比の妙が光ります。

Susumu Yokota『Symbol』(2004年)

絵画:ジョン・ウィリアム・ウォーターハウス『ヒュラスとニンフたち』(1896年)

ジョン・ウィリアム・ウォーターハウスはイギリスの画家。ギリシャ神話の英雄ヒュラスが水の精ニンフたちに誘惑される場面を描いていて、幻想的で神秘的な雰囲気が特徴です。

アルバム『Symbol』は、チャイコフスキーやサン=サーンスなど、クラシック音楽のサンプルを多用し、アンビエントでドリーミーなサウンドスケープを構築。ウォーターハウスの絵画と同様に、現実と幻想の境界を曖昧にするような音楽性が魅力で、リスナーを夢幻的な世界へと誘います。

Coldplay『Viva la Vida or Death and All His Friends』(2008年)

絵画:エウジェーヌ・ドラクロワ『民衆を導く自由の女神』(1830年)

フランス革命を描いたドラクロワの名画をそのままジャケットに使用。アルバムは、クラシックやアンビエントの要素を取り入れた壮大なサウンドが特徴で、アルバムを代表する楽曲“Viva La Vida”は没落した王の視点から語られます。絵画と楽曲がともに「力と終焉」をテーマにしている点が印象的です。

Have a Nice Life『Deathconsciousness』(2008年)

絵画:ジャック=ルイ・ダヴィッド『マラーの死』(1793年)

アメリカの2人組バンド・Have a Nice Life。1stアルバムとなる同作では、フランス革命期の象徴的な絵画『マラーの死』を暗く加工し、ジャケットに使用しています。アルバムはゴシックロック、シューゲイザー、ポストロックなどの要素を融合させたダークで実験的な作品で、死や存在の意味を深く探求しています。DIY精神に溢れた制作背景と、深遠なテーマが共鳴し、カルト的な人気を誇る作品です。

Fleet Foxes『Fleet Foxes』(2008年)

絵画:ピーテル・ブリューゲル『ネーデルラントの諺』(1559年)

ジャケットに選ばれたのは、寓意と諷刺に満ちた中世ネーデルラント絵画。Fleet Foxesの音楽は、コーラスを多用したフォークロックで、牧歌的でスピリチュアルな響きを持ちます。混沌とした日常の中に神話的な詩情を見出す姿勢はブリューゲルの世界観と一致します。このセルタイトルアルバムは、Bella UnionおよびSub Popからリリースされたデビュー作。

The Strokes『The New Abnormal』(2020年)

絵画:ジャン=ミシェル・バスキア『Bird on Money』(1981年)作品画像を見る

ジャン=ミシェル・バスキアの作品『Bird on Money』をジャケットに採用。この絵画は、ジャズサックス奏者チャーリー・パーカーへのオマージュであり、バスキアの音楽への敬意が表れています。アルバムは、バンドの原点回帰と新たな挑戦が融合した作品で、バスキアのアートと同様にエネルギッシュで多層的な魅力を持っています。

Westside Gunn『Pray for Paris』(2020年)

絵画:カラヴァッジオ『ゴリアテの首を手にしたダビデ』(1609~1610年)

ルネサンス期の宗教画をストリートに落とし込んだのは、ファッションブランド「オフホワイト」の設立者でありルイ・ヴィトンのメンズウェアのクリエイティブディレクターを務めたファッションデザイナーのヴァージル・アブロー。ハードなビートと豪奢なリリックで知られるWestside Gunnが、アートとヒップホップを結びつける象徴的なアルバムに仕上げました。客演にはTyler, The CreatorやFreddie Gibbsらが参加し、アート志向とラップの融合が話題に。

Billy Woods『Aethiopes』(2022年)

絵画:レンブラント・ファン・レイン『2人のムーア人』(1661年)

アフロディアスポラの歴史を描いた実験的なヒップホップ作品。レンブラントが描いた黒人モデルの姿をそのままジャケットに採用し、過去と現在、ヨーロッパとアフリカをつなぐコンセプトに。アンダーグラウンドなビートに乗せて、植民地主義、宗教、家族といった重いテーマを詩的に掘り下げます。プロデュースはPreservation。

今回の記事で紹介したのは、「名画ジャケット」のごく一部。こうした作品は、まだまだたくさん存在しています。アルバムジャケットという小さなキャンバスは、時にアーティストの世界観を視覚的に補完するものとなり、時にリスナーを美術館へと誘う導線にもなりうるのです。

あなたのお気に入りのレコードやプレイリストの中にも、もしかすると見覚えのある絵画が潜んでいるかもしれません。その背景を知ることで、音楽の響きが少し変わって聞こえてくる――そんな楽しみ方もまた、アートと音楽の豊かな関係性の一部と言えるでしょう。



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