TBSテレビ系列各局が取材したドキュメンタリーを特集する『TBSドキュメンタリー映画祭2026』が3月13日から6都市で順次開催されている。
6回目を迎える今年の映画祭では、表現者を通して新たな感性に出会う「カルチャー・セレクション」、多様な生き方や新たな価値観を見つめる「ライフ・セレクション」、現代を取り巻く社会問題に迫る「ソーシャル・セレクション」の3つのテーマに、計16作品が並んだ。
「カルチャー・セレクション」で上映される『野島伸司 いぬ派だけど ねこを飼う』は、『101回目のプロポーズ』(1991)などを発表した脚本家・野島伸司に密着した作品だ。
野島の生い立ちや過去の傷、独自の脚本術などを通して、お茶の間のテレビドラマで社会問題やタブーを問うてきた彼のミステリアスな思考を探るとともに、真田広之、木村拓哉、桜井幸子ら俳優たちへの思いが明かされる。
今回の記事では、同作の監督を務めるほか、TBS報道局報道コンテンツ戦略室長として『TBSドキュメンタリー映画祭』を統括し、野島と20年来の親交のある津村有紀に、同作の実現に至った経緯や野島作品の魅力、表現者にとっての「承認欲求」などについて話を聞いた。
『野島伸司 いぬ派だけど ねこを飼う』予告編
「ありのままの姿と言葉を撮りたいと思ったので、居酒屋でお話を聞いていくスタイルを取りました」
─野島伸司さんとはもともと親交があったそうですが、出会った経緯についてまず教えてください。
津村有紀(以下、津村):20年くらい前、私がドラマの制作をしていた頃に、脚本を書いていただきたいと思ってアプローチをしたことがきっかけでした。
そのときは作品には結びつかなかったのですが、そこから親交を続けています。お仕事としてご一緒したのは今回が初めてでした。
『野島伸司 いぬ派だけど ねこを飼う』監督の津村有紀
─本作はこれまで密着取材がなかった野島さんに初めて密着するドキュメンタリー作品となりましたが、どのような経緯で実現したのでしょうか?
津村:以前、居酒屋でお話をさせていただいていたときに、野島さんが「自分の脳内には4人の人格がいる」みたいな話をされて。
その話を聞いていたら、直感的にこの場で私だけが聞いているのはもったいないと思ったんです。野島さんは、いままでメディアにもあまり出演していないためベールに包まれていますが、彼のユニークな考え方や独自の脚本術を残しておきたいと思い、密着取材の提案をさせていただきました。
─ほとんどが正対してのインタビューではなく、居酒屋のくだけた雰囲気のなかで話を聞いていったんですよね。
津村:野島さんと20年お付き合いしてきたなかで、ほとんど居酒屋での印象しかなかったんです。野島さんの日常、ありのままの姿と言葉を撮りたいと思ったので、居酒屋でお話を聞いていくスタイルを取りました。普段からお仕事の打ち合わせをされるときも会議室であらたまってというよりも、居酒屋でするほうが多いそうです。
『野島伸司 いぬ派だけど ねこを飼う』より
─1990年代を象徴する日本ドラマの脚本家としてではなく、彼の人間性自体に惹かれたと。
津村:そうですね。野島さんがどういうことを考えていらっしゃるのか、頭のなかを出していきたいと思ったので、生い立ちから話を聞いていきました。
ドラマの存在は広く知られていても、どういう経緯で書くようになったのか、どういう書き方をしているのか、創作者としての「野島伸司」はほとんど知られていないので、そういった部分も本人から直接聞きたいと思いました。
「野島さんの作品は、私たちの内側にある闇を鏡のように見せてきた気がしています」
─津村さんがこれまで、どのように野島さんのドラマに接してきたか教えてください。また、なぜ多くの話題を集めたと考えていますか?
津村:中学生ぐらいからずっと見てきましたが、当時から、表面的にはトレンディードラマっぽい明るめの作品と、深部を掘ったダークサイドの作品の両方があって、振れ幅がすごい脚本家だと思っていました。
でもあらためて見直してみると、例えば『高校教師』って「近親相姦」「タブー」みたいなワードが走りがちですが、コミカルな部分も多く、見やすく作ってある。明と暗が両方入っていて、観ている人の心を取り込むバランス感が優れていたからこそ、惹きつけたのではないかと思います。
─「登場人物を極限状況に置くことで、人間の本質や愛の存在を問うことを好む」と野島さんは語っていますが、津村さんは野島作品の魅力をどのように考えていますか?
津村:いい大学に行っていい車に乗るみたいなステレオタイプなものがもてはやされていた時代に、野島さんの作品は、私たちの内側にある闇を鏡のように見せてきた気がしています。「本当のことを言ってくれている」みたいな連帯感が視聴者と作品とのあいだで作られていたところが魅力なのかなと思います。
極限状態でボロボロになってもお互いを求め合う主人公たちの姿には、現代の聖書とでも言えるような、ギリシャ神話的な悲劇のようにも感じられる部分がありました。
時代の閉塞感の代弁者みたいな側面があったのかもしれないですよね。何かしら嘘っぽいものに対する本質を描いていくところが支持されたのだと思います。
『野島伸司 いぬ派だけど ねこを飼う』より
─作中では、野島さんの生い立ちや人生観が語られるとともに、それに関連した脚本作のセリフが表示されることで、彼自身と脚本作がどのようにつながっているか見えてきます。このように関連性を探ることは、当初から意図されていたのでしょうか。
津村:作りながら生まれたアイデアでした。作品のなかに作者の言霊や信念が出てくる部分はあると思っていて。常日頃から野島さんとお話させていただくなかで、ドラマの登場人物がよぎることがありました。
結果、あらためて生い立ちからいろいろなお話を聞かせていただいて、いっそうリンクしてくる部分を感じたので、このような構成を取りました。
「創作者や表現者にとって、やっぱり承認欲求って大切なものだと思います」
─津村さんは、インタビューやドキュメンタリーの魅力についてどのように感じていますか?
津村:インタビューは、撮る側も被写体側もお互いに自分を見つめる作業をしながら魂を出していく、ということだと考えているので大事にしています。
言葉だけではなく、表情なども含めて、インタビューをすることでいろいろなことを知れますし、インタビューを受ける側も話をすることで自分の頭のなかが整理されてくるとよく聞きます。
ドキュメンタリーは、やっぱり被写体と近くあれる。観ている人も何かしら自分の心とリンクすることがあって、自分の頭のなかで対話をしながら、内面を見つめ直せるような魅力があると思っています。
─『カラフルダイヤモンド〜君と僕のドリーム2〜』の舞台版では、前作に続いて脚本も担当されていますが、「脚本家」として津村さんが野島さんから受け継いでいるような部分はありますか。
津村:書き方などの具体的なことではないのですが、姿勢や着眼点、スピリットみたいなものを学ばせてもらっている気はします。野島さんの言葉って、おばあちゃんが孫に語り伝えていくような寓話的なところがあるんですよね。
「悪口を言ったら、結局、自分に返ってくる」という生きていくうえでの道徳や、「イラっとすることや嫌なことがあっても、金魚はすぐに忘れちゃうから、金魚を頭に思い浮かべるといい」みたいなことを想像豊かにおっしゃるんです。
そういうお話が、私自身のなかにさまざまな面で活きていると思います。
『野島伸司 いぬ派だけど ねこを飼う』より
─野島さんでも「一番恐ろしいのは忘れられること」であり、承認欲求が完全になくなることが死を意味する、と考えていることが印象的でした。特にSNS時代には「承認欲求」は悪とみなされがちですが、津村さんは創作や活動をする上での承認欲求についてどう考えていますか?
津村:創作者や表現者にとって、やっぱり承認欲求って大切なものだと思います。
野島さんの言う「承認欲求」には、自分のことを理解してもらいたいということだけでなく、もっと自分の考えや声を遠くまで届けたいという意味も入っているのではないかと思います。それがないと、表現も精練されてこないし、何かしらメッセージ性のあるものは作れない。
SNSで言われる「承認欲求」って、どこか打ち負かしてやろうとかマウントを取りたいという意味合いも含んでいますよね。混同されがちですが、そっちに向かってしまうと、それこそ悪口を言っちゃうと自分に戻ってくることにもつながりかねないという気がします。
─本作を通して、野島伸司という人物や彼の作品への印象が変わった部分はありましたか。
津村:「1年に10人しか会わない」とか、修行僧のように人とあまり接触を持たずに孤高に生きてらっしゃる雰囲気がありますが、じつは他者と深くつながることへの思いが奥底にあって、人間愛を大切にしている方なんじゃないのかなといっそう思いました。野島さんと『ひとつ屋根の下』のあんちゃんが、なんとなく勝手に重なって見えました。
- イベント情報
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『TBSドキュメンタリー映画祭2026』
3月13日から6都市で順次開催
東京:ヒューマントラストシネマ渋谷
3月13日(金)〜4月2日(木)
大阪:テアトル梅田
3月27日(金)〜4月9日(木)
名古屋:センチュリーシネマ
3月27日(金)〜4月9日(木)
京都:アップリンク京都
3月27日(金)〜4月9日(木)
福岡:キノシネマ天神
4月3日(金)〜4月16日(木)
札幌:シアターキノ
4月4日(土)〜4月10日(金)
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