ファッションをもっと自由に。ドリアン・ロロブリジーダが煌びやかに話すドラァグクイーンの魅力

ジェンダーに縛られることなく、ファッションをもっと自由に、もっと自分らしく楽しめる世界をつくりたい。そんな思いを実現すべく、プライド月間である6月にNFTファッションブランド「asitis・アズィティス」が立ち上がった。

asitisが注目するのは、自分らしい表現を実際に楽しむアーティストやパフォーマーたちの視点や感性だ。その創造性と独自性をデジタルファッションに落とし込み、住む場所や国籍を問わず、ジェンダーレスに自己表現できる場づくりを目指している。そんなデジタルコミュニティの構築に向け、第一弾企画として自由な性表現を体現するドラァグクイーン3名をデザイナーに迎え、NFT上で3つのコレクション各1,000点の限定発売を開始した。

今回は、デザイナーのひとりで、同性愛者であることを公言しているドリアン・ロロブリジーダに取材を行ない、ドラァグカルチャーの歴史や魅力、ドラァグクイーンにとっての「服」の役割、さらにメタバースとの親和性や、デジタルファッションがもたらす可能性などについて話を訊いた。

性の「らしさ」なんて、かき消してしまえ。100年前に誕生したドラァグカルチャー

─ドリアンさんをはじめ、華やかなファッションとメイク、そしてユニークなキャラクターを持つドラァグクイーンの方々が注目を浴びています。そもそもドラァグクイーンとは、どのような存在なのでしょうか?

ドリアン:「ドラァグクイーンとは何か」という質問は、ある意味観念的な質問でもあるのだけれど、わかりやすくお答えすると、クラブシーンを中心に活動する「パフォーマー」にあたります。主に男性が女性らしい格好をしたり、大仰なメイクをしたりして、ショータイムには色々なパフォーマンスをしてフロアを盛り上げる。そのようなかたちのパフォーマンスをメインにお仕事する人たちのことですね。

─ドラァグクイーンの「ドラァグ」には、どのような意味が込められているのでしょうか?

ドリアン:まず、よくお薬のほうの「ドラッグ(drug)」と勘違いされる方もいらっしゃるんですけれど、綴りが少し違うんです。「ドラァグ」は英語で「drag」。直訳すると「引きずる」という意味なんです。そう呼ばれるようになった理由については諸説あるんですけれども、男性が女性物の大仰なドレスの裾を慣れない足取りでズルズルと引きずりながら歩いて移動した様子から、「ドラァグクイーン」という名前が生まれたというのが、有力な説になっていますね。

最近ではそれに加えて、「引きずったドレスの裾で、男らしさや女らしさの境界線をズルズルとかき消してしまおう」というメッセージを込め、さまざまな方が各々の世界観を表現しながらドラァグクイーンとして活動されていらっしゃいます。

─ドラァグカルチャーの歴史について教えてください。

ドリアン:ドラァグカルチャー自体は、最初に欧米のクィアの人々が集うクラブシーンから生まれ、ひとつの表現様式として確立されてきたもの。その歴史は古く、1960年代、70年代にはある程度広まっていたといわれています。日本のクラブシーンにドラァグカルチャーが渡ってきたのは、1980年代後半から1990年代頭にかけて。その頃から、日本人のドラァグクイーンが次々と誕生していきました。

─日本のドラァグカルチャーにはどのような特徴があると感じますか?

ドリアン:日本の場合、見た目にもパフォーマンスにも、どことなく日本特有の美意識やユーモアが滲み出ているような気がします。歌舞伎や能、宝塚など、異性装でパフォーマンスをするという文化が昔から日本にはあって、そういった既存の文化に新しい文化の魅力を取り込んでいった結果、日本らしいドラァグカルチャーがこの30年ぐらいで醸成されてきたのかなと思います。

「なんてかっこいいんだろう」という感動から、ドラァグクイーンの道に進んだ

─ドリアンさんご自身は、何をきっかけにドラァグクイーンとしての活動を始めたのでしょうか?

ドリアン:20年前の高校3年生の頃、リアルでドラァグクイーンに出会ったことがきっかけでした。その当時、近所に住むゲイのお姉さん方数人の仲良しグループがありまして、そこに仲間入りさせていただいてちょこちょこ一緒に遊んでいたんです。

ある冬の日、仲間内でカラオケのパーティールームを貸し切って、ちょっと女装して遊んでみようよってなって。そのメンバーのなかに1人ドラァグをかじったことがある方がいらっしゃったの。そしてその方がフルメイクでドラァグクイーンとして登場したのを見たとき、もう本当に感動して「なんてかっこいいんだ!」って、雷が落ちたような衝撃を受けたんですね。

ドリアン:それから「自分でもやってみたいな」と思って、そのお姉さんにメイクの仕方を習ったり、大学生になってからは新宿二丁目で昔ながらの美しいものや上質なものを教えていただいたりしながら、当時日本で活躍されていたたくさんのドラァグクイーンの方々のポスターやフライヤーを参考にメイクの研究をして、見よう見まねで始めたんです。

しばらくは趣味として、友達の家とか、年に1度開催されるゲイパレードだとか、大学の学園祭とかで勝手に女装して練り歩いていたというかわいいものだったのですが。思えばその頃に吸収したことが、いまの自分なりの美学につながっている気がします。

─その頃はまだ、ドラァグクイーンのドリアン・ロロブリジーダではなかったのですね。

ドリアン:そうですね。ドリアン・ロロブリジーダが生まれたのは、忘れもしない2006年の冬でした。当時、新宿二丁目のとあるクラブで、大御所のドラァグクイーンを審査員に迎えて、新人や若手のドラァグクイーンのなかからグランプリを決めるイベントが開催されたんです。そんなイベントに、「ドリアン・ロロブリジーダ」という名前で出てみたら、初登場にして優勝。会場でも「何なんだあいつは」と話題になって、そこからお仕事もいただけるようになって……なんやかんやで活動17年目に突入しました。

─活動を続けていて感じる、「ドラァグクイーンの魅力」とは何でしょう?

ドリアン:先ほども申し上げたとおり、ドラァグクイーンは女性性を誇張する表現を通して、男らしさとか女らしさに押し込めようとする人たちや考え方を揶揄して、笑い飛ばすことができる存在です。そこが魅力であり、役割のひとつかなと思っていますね。

─たしかに、「男性らしさ」や「女性らしさ」といった概念を超越していると感じます。

ドリアン:そう。ドラァグクイーンは女性性を消費しているとか、侮辱しているという批判を受けることもあるんですが、決してそうではないんです。ドラァグクイーンって、それぞれのスタンスや目指す理想像が本当に多種多様で、人によってはレディー・ガガやビヨンセになりたい人もいれば、特にモデルはいないけれど往年の大女優みたいな風格を醸し出したい人、原宿系のようにカラフルで個性な世界観を表現したい人、そういうのもなくとにかく美や奇妙さを追求し続ける人などがいます。

─ドリアンさんご自身は、どのようなスタンスなのでしょうか?

ドリアン:自分の場合は、いわゆる「女性的であること」や「女性の格好を強調すること」にはあまり興味がなく、ときには人ですらない格好をすることもあります。どれかひとつに固めずに、万華鏡のようにさまざまな世界観に挑戦する。そこにドラァグクイーンとしての美学を感じています。

─ドリアンさんはこれまでも、創造的なルックで巷を驚かせ、魅了されてきたと思います。新しいルックを考えるときに、大切にしていることはありますか?

ドリアン:破壊力、ですかね。英語圏では、悪趣味なまでに過度に、やりすぎなくらい誇張することを「camp」というのですが、それは私が求めるドラァグクイーン像には欠かすことのできない要素なんです。そういう悪趣味のなかにある「美しさ」だったり、やり過ぎのなかに見える「品」だったり。

たとえば今日の衣装は「青色吐息」がテーマですけれど、この指につけている大げさな指輪だって、明らかにトゥーマッチだし偽物だけれど、そのなかにどこか本物を感じるんです。ブラックジョークが混ざり込んだひねくれたユーモアを最大限に生かして、破壊力のある一石を投じたい。そんな思いを込めていますね。

─ドラァグクイーンにとって、衣装にはどのような役割があると思いますか?

ドリアン:衣装はメイク、ヘア、パフォーマンスなどと並んで、ドラァグクイーンを構成するうえで欠かせない要素のひとつ。目立つための自己表現の一環として考えることもできれば、ご覧いただく方々に楽しんでいただくためのものと考えることもできます。

自分の場合、たとえば「最近変な格好ばっかりしているな」って思ったら、逆にものすごいクラシカルなドレスを着て「ほら美人だろう!」ってやったりしてますね。ほどよく期待を裏切りながら、ポジティブな気持ちを持ち帰ってもらえる衣装であることをいまは大事にしていますね。

その一歩を踏み出すことができたら、私たちは何者にでもなれる

─近年、LGBTQ+の権利に関する議論が活発化しています。まさに時代の転換期に置かれているいま、当事者としてどのような空気感を感じていますか?

ドリアン:数十年前までは世界的にも、LGBTQ+を含む性的マイノリティの人たちは「いないもの」として扱われていました。そこから時間をかけて少しずつ「そういう人たちもいるんだ」「そういう人たちも生きやすい世の中にしていかなきゃいけないんだ」という意識が浸透し、さまざまなルールや仕組み、サービスが生まれてきています。欧米に少し遅れて、日本でもだんだんとそうした動きが広がりつつあることを感じています。

特にエンターテインメントや水商売の世界においては、すでにオネエタレントの方々が活躍されていらっしゃって、ドラァグクイーンもフィーチャーされることが多く、先んじて認知が広がっていると思います。けれども視野を広げると、かたやパフォーマンスをしていない、いわゆる会社勤めをされているような一般の社会で暮らしていらっしゃる方たちが生きやすい環境は、まだまだ整いきっていないとも感じます。

─たしかに、日常の世界ではいまもジェンダーを意識したり、慣習に捉われたりすることが少なくありません。

ドリアン:何かの出来事をきっかけに、すべての課題がぱっとクリアになったり、みんながみんな納得する答えや仕組みができたりすることはなかなかありません。これまでも、進んだと思ったら揺り戻しがあって、それを繰り返しながら、ちょっとずつ前進してきました。今後、セクシュアリティに限らずさまざまなマイノリティの方々も含め、みんなが暮らしやすい社会をつくっていくためには、多くの人がいまある課題に目を向け、関心を寄せることが大切ですよね。

「何者にでもなれる」。ドラァグカルチャーとメタバースの共通点

─「asitis」ではそんなしがらみに対し、ファッションという切り口からデジタル空間で自分らしさを切り拓く新しい試みをスタートしました。第一弾のデザイナーを担当することになったとき、どのように感じましたか?

ドリアン:普段はリアルな場で活動することが多いものですから、最初にお話をいただいたときはそりゃぁ困惑しました(笑)。「アートならまだしも、ドラァグクイーンの衣装がNFTとしてリリースされるってどういうこと?」「どんな人が買うの?」「何に使うの?」って。

けれど、asitisのコンセプトやつくりたい世界観について聞いていくうちに、「ドリアンを使って何かしてごらんよ」というチャレンジングな気持ちになっていきました。実際にどんな人にどんな活用をされるのか、いまから楽しみですね。

─バイアスが多い実社会では、自己表現になかなか踏み出せない人も多いなか、購入した衣装をメタバースに持ち込むことは、新しい居場所づくりのきっかけになっていきそうです。

ドリアン:そうですね。特にドラァグクイーンとして大切にしている「素敵な装いをすると、何者にでもなれる」という観念と、メタバースの自由さはすごくリンクしていると思っています。バーチャルな世界なので制限もありませんし、自分が着たいものを身につけることにもすごく親和性が高いだろうと思います。

シーンを騒がせたクワガタファッションをNFTで。一度きりの人生を謳歌するきっかけに

─今回出展している「Insect」という作品は、どのようにして生まれたのでしょうか?

ドリアン:「Insect」は、ドラァグクイーンとしてデビューしたての頃の、ドリアン・ロロブリジーダを代表する作品です。当時は衣装をデザイナーの方にオーダーするほどお金の余裕もなく、けれどバイタリティだけは溢れんばかりにあって。いかにお金をかけずに自分が表現したい世界観がつくれるか、いろいろな店をまわって素材を集めて、バットマンのキャットウーマンがキャットスーツをつくるときのように一心不乱に衣装をつくっていました。

asitisのTwitterより

ドリアン:この衣装は「クワガタになりたい。そして森を背負いたい」という衝動を叶えるべくつくりあげたもの。ただクワガタの被り物を着るのではなく、全身アミタイツにして男性的な肉体を見せびらかすようにしました。股間には小さなクワガタを乗せてみたり、そんな試行錯誤がすごく楽しかったです。

実際にクラブシーンでも、マーガレットさんという大御所ドラァグクイーンに目をつけてもらって、お立ち台に上がらせていただいたりしてね。その頃の印象が強いのか、いまだに「ドリアンといえばクワガタ」と思ってくださるかたもいらっしゃるみたいです。思い入れがありますし、自信を持って「自分の作品です」と言える作品はこれだと思い、提案しました。

─メタバース上では、どういう人にこの衣装を着てほしいと思いますか?

ドリアン:この衣装って皆が楽しめると思うんです。ジェンダーも関係なくクワガタになれる、夏にピッタリの衣装だと思います。クワガタは「ドラァグクイーンは女装をするもの」という固定観念にも疑問符を投げかけるものなので、常識や偏見から外れていくことの楽しさを味わいたい方におすすめしたいですね。

─asitisがどのような存在になっていったらいいと思いますか?

ドリアン:出発点はNFTですから、まずはアートとして作品を持つことを楽しんだり、自分が着たらどうなるだろうと想像してみたりというちょっとした一歩から、自由の道へと踏み出せるところがasitisの魅力だと思います。ただ、個人的にはそこで満足して終わってしまうのはちょっともったいないなと思っていて、バーチャルで感じた「何にでもなれるんだ」っていうポジティブな気持ちの変化を、ぜひリアルにも生かしていただけるといいのかなと思っています。

たとえば、「今日はちょっと攻めたデザインを着てみよう」とか「いつもは使わない色に挑戦してみよう」とか、下手でもいいから変化のためのさらなる一歩を踏み出してみることで、バーチャルでもリアルでもさまざまなシナジー効果やコミュニケーションが生まれるはず。そうすることで「asitis」が目指す、誰もが自由な性表現を行なえる世界に近づけるんじゃないかなと思っています。

─最後に、自分らしいファッションを楽しみたいと思っている人たちのためにメッセージをお願いします。

ドリアン:人生は一度きり。他人は自分の人生の責任なんて取ってくれないので、「誰かのため」「誰かの目が気になるから」と、「誰か」を主語にして諦め続けていると、結局最後には「誰かのせい」にしちゃう。ですからまずは主語を「自分」に取り返して、「自分がどうしたいか」と自分の心のご機嫌にしっかり耳を傾けていただいて、自分で選択していくことが大切です。やってみたいとか、素敵だなと思うご自身の感情を、ご自身の手でしっかり育ててあげてみてくださいね。

プロフィール
ドリアン・ロロブリジーダ

ドラァグクイーン。2006年冬に開催されたドラァグクイーンコンテストで初登場にして優勝をかっさらい、人々の注目を浴びて華々しくデビュー。その後、数々のクラブイベント、アーティストのコンサートやPV、ファッションショーやCM・映画などに出演。180cmのスレンダーなボディに20cmのハイヒールと巨大なヘッドドレスを装着し、圧倒的な存在感を放つ。また、女装の衣装やメイクをしない男性シンガー「マサキ」としても、定期的にライブ活動を行なっている。



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