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古川日出男と感じる『スピリチュアル・ワールド』展

古川日出男と感じる『スピリチュアル・ワールド』展

内田伸一
撮影:菱沼勇夫

「スピリチュアル」という言葉が身近に交わされるようになった現代。それは、溢れる物質や情報に疲れた人たちの癒しのキーワードなのか、または時空を超えて綿々と語り継がれた精神世界の復権か? 「見えないなにか」である超自然的世界を、写真表現を軸として紹介する意欲的な展覧会が、東京都写真美術館で開催中のコレクション展『スピリチュアル・ワールド』です。今回ご一緒するのは、ロックンロールと仏教が交錯する『南無ロックンロール二十一部経』など、時空を超えたリアリティーの中で神話的物語を紡ぐ小説家・古川日出男さん。稀代の語り部と共に、スピリチュアル世界の巡礼の旅に出かけます。

理屈よりも感覚でスピリチュアル・ワールドをめぐる「旅」

日々の執筆の合間をぬって美術館にやってきてくれた古川さんと、さっそく会場へ。今回の展覧会は、3万点を超える同館収蔵品の中から、「スピリチュアリティ」をコンセプトに選ばれた作品で編まれたものです。宗教文化や民間信仰もキーワードに含むものの、理屈よりも感覚でスピリチュアル・ワールドをめぐる「旅」のような企画。入り口すぐの作品は、それを象徴するような鈴木理策『海と山のあいだ』でした。作家の故郷でもある聖地・熊野で樹木のトンネルの向こうにある青空をとらえた写真は、神秘的な異界への扉を思わせます。

鈴木理策『海と山のあいだ 14』2005年
鈴木理策『海と山のあいだ 14』2005年

古川:この道の向こう側は海ですよね、きっと。あちら側の世界に行きたいけど、その手前で留まっているような感じもある。目に見えないもの、眼前の世界を超えていくことがスピリチュアリティだとすれば、それを写真というメディアでとらえようという展覧会なんですね。

作品と作品が時空を超えてワープし、つながる体験

最初のセクション「神域」では、秋山亮二が瀬戸内海にある厳島神社をとらえた『旅ゆけば…』(宮島の記念撮影)など、日本各地の信仰にまつわるシーンが登場します。この写真は1970年代に有名な大鳥居の前で記念撮影する人々を写した現代的なものですが、そのすぐ近くには同じ神社を1898年に撮影した幻想的な1枚も。

秋山亮二『旅ゆけば…』宮島の記念撮影 1970-71年
秋山亮二『旅ゆけば…』宮島の記念撮影 1970-71年

古川日出男
古川日出男

古川:それぞれ、陸地側と海側から撮っているのも面白い。秋山さんの作品は「メタ写真」というか、信仰対象の神社そのものではなく、そこを信仰している人の姿を撮っていますよね。同じ「神域」が対象でも、時代や撮り手によってとらえ方も違うのがわかります。

また会場には、明治期の3D表現と言えるステレオ写真『万国実体写真』から、神社仏閣をモチーフにした数点も。名所巡りの代用品という意味もあったのか、毎月さまざまな観光名所や世界各地の生活風俗の写真が、少しずつセットで発売されるシリーズものだったそうです。

古川:今でいうデアゴスティーニ的シリーズですかね(笑)。「実体写真」というネーミングと、こうした「聖域」の組み合わせも興味深いです。そして、こうやって展示全体を見ていくと、異なる視点のスピリチュアリティが違和感なくつながってくるのも面白いですね。

それは、続くセクション『見えないものへ』でも同様です。伊勢神宮を初めて外部の写真家として撮影した渡辺義雄と、そこから40年を経て撮影した石元泰博。両者のとらえた正殿を、古川さんはじっくり比べるように見つめます。

渡辺義雄『伊勢神宮』内玉垣南御門から蕃塀、瑞垣南御門を通して内宮正殿木階をみる 1953年
渡辺義雄『伊勢神宮』内玉垣南御門から蕃塀、
瑞垣南御門を通して内宮正殿木階をみる 1953年

古川:渡辺さんの写した伊勢神宮には、あちら側の世界を手前の世界から垣間見るような、最初の鈴木理策さんの熊野写真と呼応する1枚もありますね。ここに写る社殿そのものはもう「式年遷宮」(20年に一度、社殿を建て替える重要な行事)で存在しない。でも、細部をアップでとらえたものは、最近の無機質な建築と対照的に、生き物から力強い「かたち」を学んでいるのが感じられます。また、40年後の石元さんの写真は同じく伊勢神宮を撮っていても、より女性的で柔らかいイメージなのが不思議です。

他、冒頭でも登場した鈴木理策の熊野シリーズから、清逸な滝の情景をとらえた大型作品にも古川さんは見入っていました。

鈴木理策『海と山のあいだ6~8』2005年
鈴木理策『海と山のあいだ6~8』2005年

古川:実際こういう場にいったときって、そうそう言葉が出てこないと思う。で、今僕もちょうどその感覚になっていて(苦笑)、つまりそういう写真ですね。三連写真になっているのが、まるで配置されたスピーカーのようでもあり、音が聴こえるまで観てみようとか、あんまり近寄ると本能的な恐怖を感じそうだなとか、観る側のいろんな感覚と記憶を刺激します。

さらに、戦後日本を代表する写真家・東松照明が沖縄諸島で写した写真群もあります。中でも印象的なのは、浜辺から海の向こうへ伸びるの女性たちの腕をとらえた1枚。海の彼方にある異界と現世の間を魂が行き来するという「ニライカナイ」信仰を連想させます。

東松照明『太陽の鉛筆』西表島 1972年
東松照明『太陽の鉛筆』西表島 1972年

古川:「あちら側」に行こうというより、こちらへ呼び寄せているようでもあり、この腕の女性たちのほうが霊力がありそうです。「太陽の鉛筆」というシリーズ名も印象的で、東松さんのお名前=「照明」が人工灯だとしたら、そこから自然の光に向かっていくということ? また、祭事の仮面などを見ると、意外と遠く離れた東北文化に近いものも感じます。

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イベント情報

平成26年度東京都写真美術館コレクション展
『スピリチュアル・ワールド』

2014年5月13日(火)~7月13日(日)
前期:2014年5月13日(火)~6月8日(日)
後期:2014年6月10日(火)~7月13日(日)
※会期中展示替えあり
会場:東京都 恵比寿 東京都写真美術館 3階展示室
時間:10:00~18:00(木・金曜は20:00まで)
出展作家:
渡辺義雄
石元泰博
鈴木理策
山城知佳子
東松照明
土門拳
土田ヒロミ
石川直樹
内藤正敏
奈良原一高
藤原新也
横尾忠則
三好耕三
休館日:月曜(月曜が祝日の場合は開館し、翌火曜休館)
料金:一般500円 学生400円 中高生・65歳以上250円(第3水曜日は65歳以上無料)
※小学生以下および障害者手帳をお持ちの方とその介護者、東京都写真美術館友の会会員は無料

アーティストトーク
2014年6月27日(金)
出演:三好耕三(本展出品作家)
時間:18:00~19:30(開場17:45)
会場:東京都 恵比寿 東京都写真美術館 1階アトリエ
料金:無料(本展覧会チケットをお持ちの方、定員50名)
※当日、午前10時より東京都写真美術館1階受付にて整理券を配布

プロフィール

古川日出男(ふるかわひでお)

1966年福島県生まれ。98年、日本人少年のアフリカ大陸での色彩探求譚『13』で作家デビューし、2001年発表の『アラビアの夜の種族』がジャンル越境型の奇書として読書界の話題を集める。06年、『LOVE』で三島由紀夫賞を受賞。その他の著書に軍用犬の視点から二十世紀の戦争史を描いた『ベルカ、吠えないのか?』、東北六県の700年間の歴史を徹底した文学的ハイブリディティで浮き彫りにする大著『聖家族』、東日本大震災直後の福島での旅が綴られる『馬たちよ、それでも光は無垢で』等がある。朗読活動も積極的に行ない、管啓次郎、小島ケイタニーラブ、柴田元幸と朗読劇『銀河鉄道の夜』を制作し国内各地で上演している。

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