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古川日出男と感じる『スピリチュアル・ワールド』展

古川日出男と感じる『スピリチュアル・ワールド』展

内田伸一
撮影:菱沼勇夫

裏テーマは明るいオカルト? テーマパークのように『スピリチュアル』を訪ねて回る小さな巡礼の旅を終えて

最後に本展の担当学芸員・石田哲朗さんも交えて、展覧会を振り返ってもらいました。写真を軸にした「スピリチュアリティ」にも様々なとらえ方がありましたが、そもそも古川さんは今回、どんな気持ちからこの取材を引き受けてくれたのでしょう?

古川:まず単純に恐山や津軽など、自分も行ったことのある場所の写真が多そうで、それらを僕と違う表現者がとらえるとどう写るのかに興味があったんです。もともとカメラというのは、撮る人が見たいものを引き出し、浮かび上がらせるところがある。つまりなにかを写すことは、自分の本当の姿をさらけ出すことにもなるわけです。物質性がなく、しかし世界を作っていると思われるスピリチュアルなものを確認したい衝動がそこに加わるとすれば、なおさらでしょう。今回は、いわば4次元的なスピリチュアル・ワールドを、2次元的な写真というメディア中心でとらえる点も興味深かったです。

古川日出男

石田:僕が嬉しかったのは、古川さんが作品を1点ずつ観るだけでなく、作品同士に色々なつながりを感じ取りながら観て下さったことです。じつは、展示作品を通して時代や場所を超えたリンク感覚を体験してもらえたら、というのが企画の1つの狙いでもあったんです。

古川:展覧会において、観衆はある流れの中にいるというのは、いつも思うことです。あの順序で観たから感じられたこともあると思う。最後の秘湯写真を観終えたとき、それがまた最初の作品、鈴木理策『海と山のあいだ』に通じるような感覚もありました。そこから広げて言うと、人が神や秩序のようにある種の絶対的世界観を設定する一方、その世界は再編できる、というのも重要な考え方ですよね。

高木庭次郎『白糸からの富士山』1910年代
高木庭次郎『白糸からの富士山』1910年代

「学芸員さんにとっても、こういう展示をあれこれ思索しながら組み立てるのが一番楽しいのでは?」と尋ねる古川さんに、石田さんは笑顔でこう答えてくれました。

石田:もともと、当館の収蔵写真にスピリチュアルな世界を扱ったものが少なからずあると感じていたことから企画したんです。僕自身、神社仏閣巡りが好きですが、特に信心深いわけでもなくて。たとえば神社って、実際に行くとなにかがあるわけではない。なにもない空間が信仰の場となり、その地域に精神的に根付いたものとして残っている。ではそこには一体何があるのか? そういったことにも興味がありました。

奈良原一高『ジャパネスク・禅・#11』 1969年
奈良原一高『ジャパネスク・禅・#11』 1969年

「聖域」「目に見えないもの」といったキーワードをちりばめつつも、どこか身近な存在として感じられる要素も多々あったこの展覧会。そのあたりは、古川さんの目にどう映ったのかも聞いてみました。

古川:たしかに「西の彼方に極楽浄土が……」みたいな世界だと、今の僕らにとってはいろんな意味で遠すぎますからね。特に1990年代以降、身近なスピリチュアリティというのが目立って語られてきた印象もあります。「あなたのオーラはなに色?」とかね。その意味ではこの展覧会も、富士山の写真などを除けば、マクロよりもミクロな視点があったとも思う。ちなみにスピリチュアルに「ワールド」を加えてタイトルにしたのは、どんな理由が?

石田:ある意味、テーマパークっぽいイメージにしたい思いがありました(笑)。一見、軽薄そうだけど、中身はガツンと迫ってくる展示にしたくて。じつは裏テーマは「明るいオカルト」で、といっても奇怪なイメージというより、「目で見たり、触れて感じることができないもの」という本来の意味においてです。それらを過度に神聖化したり、理屈っぽく考えたりするより、それぞれの感覚でスピリチュアルなものをとらえるきっかけになればとの想いがありました。

内藤正敏『婆バクハツ!』お籠りする老婆、青森県高山稲荷 1969年
内藤正敏『婆バクハツ!』お籠りする老婆、青森県高山稲荷 1969年

ところで、古川さんの小説にも神話的な要素が随所に感じられます。犬の視点で20世紀戦史をとらえ直す『ベルカ、吠えないのか?』、現代の東京で交錯する奇妙な群像劇『LOVE』、輪廻と流転の大叙述詩『南無ロックンロール二十一部経』など。しかしそこでの「スピリチュアリティ」は、崇め奉られ、ご利益を期待されるような何かとも異なります。むしろ突き放すような淡々とした語り口の中に、能動的な「スピリット」が息づく物語?

古川:ふつう小説は、現実からなにかを切り取るところから始まります。そこは写真家と近いものがあるのかもしれません。でも、僕は小説を書くとき、現実をシャットアウトしたくなることがある。物語を作るために、自分の内側で世界の源泉みたいなものを探り、そこから「現実」をジェネレート(発生)するんです。これはテクニックや経験値とは別領域なので毎回困難続きですが、おっしゃるようなものが僕の小説にあるとすれば、そこから生まれているのかもしれない。まさに小説の「聖域」とも言えますが、今回の出展作家たちもそうした営みに関わっている印象はありますね。

本展を短い言葉で表現するなら?との問いに「与えられた輪郭を持たない『スピリチュアリティ』を訪ねて回る、小さな巡礼の旅」と締めくくってくれた古川さん。さて、現代日本に生きる精神世界のピルグリム(巡礼者)たるあなたは、ここでどんな感覚に巡り合うでしょう? なお、古川さんは「来場者たちがこの巡礼を終えたあと、最初になにをやりたいと思うのか。それも、ちょっと気になりますね」と付け加えてくれました。たしかに、本当の始まりはそこからなのかもしれません——。

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イベント情報

平成26年度東京都写真美術館コレクション展
『スピリチュアル・ワールド』

2014年5月13日(火)~7月13日(日)
前期:2014年5月13日(火)~6月8日(日)
後期:2014年6月10日(火)~7月13日(日)
※会期中展示替えあり
会場:東京都 恵比寿 東京都写真美術館 3階展示室
時間:10:00~18:00(木・金曜は20:00まで)
出展作家:
渡辺義雄
石元泰博
鈴木理策
山城知佳子
東松照明
土門拳
土田ヒロミ
石川直樹
内藤正敏
奈良原一高
藤原新也
横尾忠則
三好耕三
休館日:月曜(月曜が祝日の場合は開館し、翌火曜休館)
料金:一般500円 学生400円 中高生・65歳以上250円(第3水曜日は65歳以上無料)
※小学生以下および障害者手帳をお持ちの方とその介護者、東京都写真美術館友の会会員は無料

アーティストトーク
2014年6月27日(金)
出演:三好耕三(本展出品作家)
時間:18:00~19:30(開場17:45)
会場:東京都 恵比寿 東京都写真美術館 1階アトリエ
料金:無料(本展覧会チケットをお持ちの方、定員50名)
※当日、午前10時より東京都写真美術館1階受付にて整理券を配布

プロフィール

古川日出男(ふるかわひでお)

1966年福島県生まれ。98年、日本人少年のアフリカ大陸での色彩探求譚『13』で作家デビューし、2001年発表の『アラビアの夜の種族』がジャンル越境型の奇書として読書界の話題を集める。06年、『LOVE』で三島由紀夫賞を受賞。その他の著書に軍用犬の視点から二十世紀の戦争史を描いた『ベルカ、吠えないのか?』、東北六県の700年間の歴史を徹底した文学的ハイブリディティで浮き彫りにする大著『聖家族』、東日本大震災直後の福島での旅が綴られる『馬たちよ、それでも光は無垢で』等がある。朗読活動も積極的に行ない、管啓次郎、小島ケイタニーラブ、柴田元幸と朗読劇『銀河鉄道の夜』を制作し国内各地で上演している。

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