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40年振りにやってきた巨匠画家『ウィレム・デ・クーニング展』

40年振りにやってきた巨匠画家『ウィレム・デ・クーニング展』

萩原雄太
撮影:相良博昭
2014/11/21

まるで、絵具を乱雑にぶちまけたかのようでもあり、インクの染みを使った深層心理テストのようでもあり……。1940年代後半にアメリカで起こり、アートの世界で高い評価を手に入れた「抽象表現主義」という絵画のムーブメントは、ジャクソン・ポロックやバーネット・ニューマンといった、数々のスター画家たちを世に送り出しました。現在でもその評価は非常に高く、オークションなどでは数十億円以上で作品が取引されることも珍しくありません。

そんな世界的に高い評価を確立した「抽象表現主義」絵画において、ジャクソン・ポロックとともに二大巨頭とされる画家がウィレム・デ・クーニング。若いころこそ看板描きなどの仕事をしながら苦しい生活を送っていましたが、キャリアを重ね「女性」という主題を描き始めるとその評価は急上昇。1950年代には、アメリカ美術界を代表する画家として広く世界中で知られるようになっていきました。

現在、ブリヂストン美術館で開催されている『ウィレム・デ・クーニング展』は、彼にとって絶頂期といえる1950~60年代にかけての作品35点が展示される展覧会。日本での大規模な個展はおよそ40年ぶりという貴重な機会に、今回はフリージャズピアニストのスガダイローさんをお招きしました。向井秀徳、七尾旅人、灰野敬二、MERZBOWといったミュージシャンのみならず、飴屋法水などのパフォーマーにまで「対決」を挑み、激しい即興演奏バトルを繰り広げるという、まさに現代の日本ジャズ界を担う奇才の目に、20世紀アメリカが育んだ抽象画家の作品は、どのように映ったのでしょうか?

(作品画像すべて:©2014 The Willem de Kooning Foundation, New York/ Artists Rights Society (ARS), New York/JASPAR, Tokyo   D0881)

狂気に満ちた女性像を描き続けたウィレム・デ・クーニング。心の底にあったのは、女性への恐怖心?

スガ:じつは、このウィレム・デ・クーニングという画家のことは、今回の展覧会があるまで知らなかったんです。でも、今日の取材の連絡をもらったときに、メインビジュアルに使われている『リーグ』を見て一発で気になって、「この本物を観れるのか!」とワクワクしながら今日は来ました。

スガダイロー
スガダイロー

と、期待に胸をふくらませてやってきてくれたスガさんは、そんな期待にせかされるように、足早に展示室に入っていきます。まず初めに展示されていたのは、今展覧会の中で一番古い作品である『マリリン・モンローの習作』。1951年に描かれたこの作品は、3枚の紙を貼り合わせて作られた、つり上がった眼や、赤と黄色の色使いが印象的な小品。なによりも、後に彼の代名詞となる「女性像」を主題とした最初期のものです。しかし、この作品を観ながら、スガさんの胸には疑問が湧いてきました。

スガ:なんだか、この絵を観ていると、女性に対する恐怖心のようなものを感じますね……。デ・クーニングは女性をずっと描き続けた画家ですが、本当に女性のことが好きだったのかな?

ウィレム・デ・クーニング『マリリン・モンローの習作』1951年 パステル・鉛筆、3点の素描で構成 42.5×24.6cm The Ryobi Foundation
ウィレム・デ・クーニング『マリリン・モンローの習作』1951年 パステル・鉛筆、3点の素描で構成 42.5×24.6cm The Ryobi Foundation

残された資料などによれば、デ・クーニングはかなり女遊びが激しく、そのイケメンなルックスで、数々の女性たちを虜にした伊達男。おそらく女性は大好きだったと思うのですが……。

しかし、スガさんの疑念は、展覧会への期待を掻き立てられた『リーグ』を目の前にするとさらに深まっていきます。新聞紙を下地として女性を描いたこの作品。題名になっている「リーグ」とは、描かれている女性の名前ではなく、画面右上に残された「League」の文字に由来しています。ブロンドの髪の毛、三角の眼、そして豊満な身体など、デ・クーニングが好んだ女性像の魅力を凝縮したような代表作です。

スガ:男性って普通、女性を可愛いものや美しいものとして描きがちですよね。でも、デ・クーニングの作品に描かれている女性はどこか狂気に満ちている……。画面の向こうから襲ってくるような気がしませんか? きっと、デ・クーニングの目には、女性たちがそういう風に映っていたんじゃないかな。

ウィレム・デ・クーニング『リーグ』1964年 油彩、板に貼られた新聞紙 76.5×58.7cm The Ryobi Foundation Collection
ウィレム・デ・クーニング『リーグ』1964年 油彩、板に貼られた新聞紙 76.5×58.7cm The Ryobi Foundation Collection

男性アーティストに与える「女性」の影響力とは?

そもそも、デ・クーニングは「ニューヨークにいる普通の女性を描きたい」と、女性をモチーフにした絵画にとりかかったそうです。けれど、芸術家にとって、時に女性はモチーフ以上の意味を持つもの。ジョン・レノンにとってのオノ・ヨーコ、岡本太郎にとっての岡本敏子など、「歴史の影に女あり」のフレーズを待つまでもなく、アーティストたちに強い影響をもたらした女性たちは少なくありません。

スガ:ピカソなんかも、奥さんが変わることで画のタッチがガラッと変わりますよね。僕も曲ができると、最初に妻に聴かせています。そのチェックを通過しないと、僕の曲は世に出ないんです。だって、一番身近な人から「あんまり良くないね……」って言われたら、世間に発表する気が一気に萎えるじゃないですか。だから、アーティストにとってパートナーはとても大切な存在なんです。

天才的な超絶技巧を持ち、あらゆるジャンルのアーティストと「対決」を繰り広げるフリージャズピアニストというイメージとは裏腹に、スガさんの作品には、それを支える奥様の影響があります。そして、女遊びが激しかったというデ・クーニングも、39歳のころに、弟子であったエレイン・フリードと結婚すると、意外にも生涯を添い遂げる関係になりました。おそらくデ・クーニングも、妻という身近な存在の励ましがあったからこそ、膨大な数の女性像を描き続けられたのでしょう。

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イベント情報

『ウィレム・デ・クーニング展』

2014年10月8日(水)~2015年1月12日(月・祝)
会場:東京都 京橋 ブリヂストン美術館
時間:10:00~18:00(1月2日を除く金曜は20:00まで、入館は閉館の30分前まで)
休館日:月曜(祝日の場合は開館)、12月26日~1月1日
料金:一般800円 シニア600円 大高生500円
※中学生以下無料

リリース情報

2014年7月2日(水)発売
価格:3,240円(税込)
VELVETSUN PRODUCTS / DQC-1297

1. Bolero / 山下洋輔 Solo
2. 時計遊戯 / スガダイロー Solo
3. Chiasma
4. Body & Soul
5. Spider
6. Kurdish Dance

スガダイロートリオ『GOLDEN FISH』(CD)
スガダイロートリオ
『GOLDEN FISH』(CD)

2014年10月13日(月)発売
価格:2,500円(税込)
VELVETSUN PRODUCTS / VSP-0009

1. 黒坊主、参り候
2. それでも地球は回っている
3. バージェス頁岩
4. 新しい朝
5. 雨ニモマケズ トニー・チャンティ/スガダイロー
6. 群青
7. 生命の迷路
8. GOLDEN FISH
9. ゆきゆきて円環
※スガダイローのライブ会場、ベルベットサン店頭、ベルベットサンストアの限定商品

プロフィール

スガダイロー

ピアニスト。1974年生まれ鎌倉育ち。洗足学園ジャズコースで山下洋輔に師事、卒業後は米バークリー音楽大学に留学。帰国後「渋さ知らズ」や「鈴木勲OMA SOUND」で活躍し、坂田明や小山彰太とも共演を重ねる。2008年、初リーダーアルバム『スガダイローの肖像』(ゲストボーカルで二階堂和美が3曲参加)を発表。自己のトリオでの活動のほか、向井秀徳、七尾旅人、U-zhaan、MERZBOWらと即興対決を行う。2011年に『スガダイローの肖像・弐』でポニーキャニオンからメジャーデビュー。2014年には、山下洋輔との真剣対決を収録したライブ盤『山下洋輔×スガダイロー』をリリースし、『題名のない音楽会』(テレビ朝日系)でも特集された。

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