『ヨコハマ カルチャーガイド』 -街から生まれるクリエイティブ-

『ヨコハマ カルチャーガイド 街から生まれるクリエイティブ』vol.7 非成長の時代に、横浜市が文化を支援する理由

社会に繋がる窓口になるようなコラボレーションや出会いを誘発する場所であるべき

ハンマーヘッドスタジオを語るうえで忘れてはならないのが、Aゾーンに入居するスタジオニブロールの矢内原充志さん。『前向き!タイモン』で『岸田國士戯曲賞』を受賞した矢内原美邦さん率いるアートグループ「ニブロール」で衣装を担当するなど輝かしい実績を持ちながらも、2011年からは独立して自身のメンズブランド「MITSUSHI YANAIHARA」を設立し、新しいチャレンジを始めたアーティストです。

ハンマーヘッド Aゾーン

「舞台衣装など非日常なものづくりを15年間ほど続けている中で、街ゆく人が日常に着るような服をデザインしていないという思いがどこかにあったんです。ディレクション業なども増え、仕事も安定してきていましたが、もう一度原点に帰って制作に臨みたいと思い、ハンマーヘッドスタジオで勝負することに決めました」。

敢えてゼロ地点に戻ってきた矢内原さんは、それゆえにハングリーであり情熱的。新・港区の副区長を務め、先日青山のスパイラルで開催された自身の作品展のフライヤーデザインを天野さんに依頼するなど、この場所の利点をフル活用している一人です。そうした矢内原さんの意欲は、住民会議に提案したプロジェクト「50/50 YOKOHAMA」というコンセプトにもよく表れています。

「デザインやアーティスト、企画業など多様な入居者がスペースをシェアすることの意義を考えた時に、社会に繋がる窓口になるようなコラボレーションや出会いを誘発するような場所であるべきだと思っています。多種多様なクリエイターたちが接点を見つけて外に発信するために、共存のあり方を模索していくのが『50/50 YOKOHAMA』というプロジェクトなんです。そうでなければ、自分のアトリエに閉じこもっていればいいわけですから」と言います。

矢内原美邦さんさらに「2年間という限られた時間の中で僕たちができることは、ここを拠点にしながら、それぞれがクリエイティビティを発信していくこと。そして、発信するにあたって他ではありえない協業の仕方をしていくことです。ハンマーヘッドスタジオの中で思想を醸造して、期限が終わった後に外枠がなくなってもコミュニティーが残るようにしていきたい。『ハンマーヘッド出身』ということがブランド化し、終了後もコラボレーションしていく関係ができたらいいですね」と、ハンマーヘッドに対して人一倍強い思いを語ってくれました。

若いクリエーターとの交流も活発だといい、著名、無名に関わらずフラットな関係で制作に臨める雰囲気が形成されつつあると言います。「僕なんか作品展の準備で1か月間忙しく、廃人のようになっていたから、若い人が気を使ってお菓子をもってきてくれるくらいですよ(笑)。でも、そろそろ若いクリエイターに『おっさんたちが勝負を賭けにきているんだから、君たちも死にものぐるいになりなさいよ』ということを言おうと思っています。安い賃料でアトリエを持てるからラッキーという発想ではなく、この素晴らしい環境を有効活用して、残りの1年半、覚悟を決めて勝負を賭けてほしい。ここにいる若い人たちの活動を見ていると、僕みたいなおっさんが今までの安定を捨ててきているのに、正直、『余裕だなー』と思うときもあります(笑)」。

そういった良い意味での「化学反応」が起こるのも、ハンマーヘッドの魅力なのでしょう。 顔が見える範囲にクリエイターが集まることの本当の意味を教えてくれた施設は他にもあります。『関内外OPEN!』でも見学することのできる「宇徳ビル ヨンカイ」をご紹介します。

宇徳ビル ヨンカイとは

「宇徳ビル ヨンカイ」

『北仲BRICK&北仲WHITE』からの流れを引き継いだ場所で、その後、「本町ビル シゴカイ」を経て2010年10月に現在の「宇徳ビル ヨンカイ」に移転。建築設計事務所や写真家、グラフィック、イラストなどを手掛ける17組が入居しています。横浜関内地区での新たな創造界隈拠点として活動を拡大中。

http://utokuyonkai.jugem.jp/

「宇徳ビル ヨンカイ」の中心的人物である設計事務所「オンデザイン」代表の西田司さんは、「利用されていない空間をクリエイターが利用して、さまざまな人を巻き込むような流れができれば不動産の付加価値もあがる」と横浜市の取り組みを評価。

「ビルの中で繋がりができ、新たなプロジェクトが発動することはもちろんのこと、外に対してスペースを開くことにより不動産の新しい使い方を見せることができます。横浜市では事務所を移転するクリエイター、事務所のオーナー双方を支援していますが、『自分のビルも空き室があるんだったら、こういう風に利用しよう』と思ってくれるオーナーが増えてくれれば」と期待しています。

西田司さん

実際に、西田さんは「宇徳ビル ヨンカイ」に入居するグラフィックデザイナーとインテリアデザイナーのクリエイティブデュオ「ノガン」と組み、中華街の入り口にある創造拠点「八◯◯中心」を誕生させました。『関内外OPEN!』で活動拠点の取り組みを知ったオーナーが、西田さんに依頼した結果です。

こうした広がりの中で、横浜の「創造界隈」というコンセプトが形成されています。

「街の中でハンマーヘッドのクリエイターとすれ違うこともあるのですが、そういったことが非常に重要。日常風景の中で自分とは畑違いのクリエイターと出会うことで、アウトプットされた作品を見るだけでは得られない交流が生まれるんです。また、一般の住民にとっても、街中にいるクリエイターを見て、『あの時、カフェで悩んでいた成果が、この建築物のデザインになったんだな』などと感じることができ、アートに親しみが持てるようになります。それが、ある界隈にクリエイターが集まることの価値なんです」。

横浜には制作の環境と創造的な交流が今まさに醸成されつつあります。細分化されている東京と違って、横浜ではまとまったコミュニティーを創ることができるサイズ感も魅力の1つなのでしょう。そのためには、もっともっとクリエイターを集めなければならないという実感のこもった言葉も聞こえてきました。

「横浜には真実とイミテーションがあって、そこが横浜の好きなところだ」と語った矢内原さんの言葉も印象的でした。活力があり、何かが生まれつつある街には、いつもきっと最高と最低のものがひしめいています。

横浜から新たなクリエイティブシーンの胎動が聞こえてきているのは、これまで見てきた通り。今まさに何かが起こっている現場を見逃さないためにも、『OPEN YOKOHAMA 2012』『関内外OPEN!』にぜひ足を運んでみてください。海風を感じながらそぞろ歩けば、きっと面白い発見があるはずです。

関内外OPEN!とは

alt="関内外OPEN!"

10月26日(金)〜28日(日)に横浜で活動する総勢170組のデザイナー、建築家、アーティストの仕事場を期間限定で一斉公開!「ハンマーヘッドスタジオ 新・港区」や「宇徳ビル ヨンカイ」をはじめとするオープンスタジオや、横浜の待ちを巡るツアープログラム、旬のクリエイターたちによるプレゼンテーション大会など、横浜の地で活動するクリエイターたちを紹介するイベントです。

http://kannaigaiopen.yafjp.org/
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