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『ヨコハマカルチャーガイド 街から生まれるクリエイティブ』非成長の時代に、横浜市が文化を支援する理由

これまでの6回は横浜のカルチャースポットを紹介してきた本連載ですが、今回は趣向を変えて、横浜という「都市」の取り組みをレポートします。詳しい方はご存知かもしれませんが、文化施設やイベントには、行政からの援助を受けて運営されているものも数多く存在します。では一体、行政はどういったことを考え、支援を行っているのでしょうか。

幕末から日本の玄関としての役目を担ってきた横浜は、海外の文化にいち早く触れ合い、日本の数ある大都市の中でも独自の個性を醸成してきました。欧米からの輸入文化が最初に花開いたこの街には、多くの文化的な営みが存在し、港町らしい明るく風通しの良い風土もあります。そうした既成の枠組みに捉われないリベラルな街としての個性は、横浜市という行政の取り組みにも浸透しているようです。

特にバブル崩壊後の2000年代に入ってからは、『横浜トリエンナーレ』の開催も含めた創造都市政策に力を入れている横浜市。新しい才能を育むためのクリエイター支援も積極的に行っているので、支援を受けているクリエイターたちは何を想っているのかも、合わせて取材してきました。クリエイターの制作場所を見学できる『関内外OPEN!』に先駆けて、一足先に創作の現場を覗いてみましょう。

取材・テキスト:宮崎智之(プレスラボ) 撮影:田中慎一郎

OPEN YOKOHAMAとは?

横浜ならではの「まち」の魅力、楽しさを発信し、横浜から新たなライフスタイルを提案するキャンペーン。2010年開催の『INVITATION to OPEN YOKOHAMA』から、2011年にタイトルを『OPEN YOKOHAMA 2011』と改め、2012年の今回は3回目の開催となります。

日本に数ある都市の中でも、とりわけカルチャーに力をいれている街、横浜。訪れる人それぞれに、おもいおもいの横浜の過ごし方を発見してもらうための取り組みを行っています。なかでも、今年は「創造都市」プロジェクトをピックアップ。歴史的建造物を利活用して驚きあふれるアート拠点を創り出し、さまざまなジャンルで活躍するアーティストやクリエイターを支援したり、街全体を巻き込んで街を魅力的に進化させていくなど、あちらこちらでユニークな取り組みを行っています。アートと人、古きと新しき、そして今と未来を繋ぐ、そんな「創造都市・横浜」の姿が『OPEN YOKOHAMA 2012』できっと見つかります。

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池田修(Bank ART 1929代表)

「持続的に成長するために、新しい価値や魅力を高め、発信していく」

クリエイターが集まる街として、すぐに思いつくのが横浜のお隣の東京です。しかし、最近ではあえて首都の中心部に事務所を構えずに、横浜を拠点にしてクリエイティビティを全国、そして世界に発信している作り手が増えています。

こうした背景には行政と民間が恊働し、クリエイターが過ごしやすい街作りを進めてきた歴史があります。横浜市は2007年に「アーツコミッション ヨコハマ(ACY)」を発足させ、先進的な芸術活動に上限200万円の助成金を出す支援や、物件を創造活動の拠点として整備するための「芸術不動産リノベーション助成」、クリエイターを臨海部の関内・関外地区に誘致する目的で金銭的に助成する「事務所等開設支援」などを行政の立場から進めています。開港のアイデンティティーを街作りに継承すべく、古い歴史建造物をストックして景観を保持しながら、それらをクリエイターとともに活用しているのです。

そのようなクリエイターを誘致する事業として先駆的な役割を果たしたのは、2005年に開催された『北仲BRICK&北仲WHITE』。森ビルが所有する、みなとみらい大通りの歴史的建造物2棟を1年半限定でクリエイター50組に開放。建築設計事務所として著名な「みかんぐみ」や、アーティスト・淺井裕介などが入居し、躍進の土台になりました。その後も関東財務局などが使用していた建物を横浜市が取得し、創造拠点「ZAIM」(音楽フェス『KAIKOO』の舞台にもなった)として活用する取り組みなどを行い、行政と民間がタッグを組んで発展を続けています。

北仲BRICK&北仲WHITE

一方で、なぜ横浜市がクリエイターの支援や誘致に力を入れるのか、という疑問を抱く人も多いのではないでしょうか? 例えば、クリエイターではなく大企業を誘致すれば法人税も入り、行政としては直接的なメリットを得ることができるからです。しかし、横浜市の立場は少し違います。「非『成長・拡大』の時代にあって、都市としての自立とサステナブルな成長を維持していくためには、人口などの都市の規模だけでなく、新しい価値や魅力を高め、発信していくことが求められる」と考えているのです。

「不可思議のものを抱え込むと、都市が包容力をもつ」

そうした横浜市のクリエイティブシティ構想に、民間の立場から関わってきたのが「BankART1929」代表の池田修さん。もともと池田さんは、都市に棲むことをテーマに美術と建築を横断するアーティスト集団「PHスタジオ」のメンバーとして活動し、代官山ヒルサイドギャラリーのディレクター等を務めてきた経歴の持ち主。「端から見ればクリエイターやアーティストは分かりにくい職業。でも、そういった不可思議なものを抱えることによって、都市が包容力を持つことに繋がり、活性化していくという側面もあるんです」と話します。

そもそもBankARTは、横浜市の文化芸術創造の実験プログラムとしてスタートし、現在も横浜市から年間約6,000万円の補助を受けている一方、「NPO法人BankART1929」として積極的に事業を興し、独自財源を生み出しながらアーティストやクリエイターの育成に力を注いでいます。横浜市の取り組みが特に意義深いのは、こうした公設民営の利点を活かしながら文化の土壌を作り出し、新しい芽を育んでいる点です。

「すぐに直接的な効果は望めないかもしれませんが、木を1本育てるのにも30年はかかります。30年間待ち続けて大木を育てる能力が、これからの都市には求められるでしょう。もちろん、撒いた種が30年後に育つ木なのかどうか見抜くことは必要になりますが」という池田さん。しかし実際は、行政が描く長期的なビジョンと、結果が問われる民間の努力が見事に合致し、早くも確かな形として実りを生み始めています。

そしてもちろん、アートが街と融合して、都市の活力となっていくためには彼らの活動が住民や他のクリエイターに開かれていることも重要。その1つの仕掛けとして横浜市が開催しているのが、10月26日〜28日の3日間限定で行われる『関内外OPEN!』です。このイベントは、横浜市が支援し、臨海部エリアで活動する170組のデザイナーや建築家、アーティストなどのスタジオを実際に覗けるというもの。期間中はワークショップやクリエイターによるプレゼンテーションなど参加型のイベントも目白押しです。横浜市やクリエイターの取り組みを知ることができる絶好の機会を前に、『関内外OPEN!』に参加する創造拠点を見ていきましょう。

「2年間で1人でも全国区のスターを世に出すことができれば成功でしょう」

今年5月にオープンしたばかりの、「ハンマーヘッドスタジオ 新・港区」は、2008年の『横浜トリエンナーレ』の会場として建てられた施設を、クリエイターやアーティストの拠点として活用したもの。先ほど紹介した「BankART1929」と「新港ピア活用協議会」が横浜市から委託されて運営しています。入居者は公募によって決まりましたが、審査基準は「先駆的、独自性の高い仕事を行っているかどうか」「横浜市が推進する創造都市構想に対しての理解があり、かつ恊働できるかどうか」というもの。2年間限定のシェアスタジオとして、50組のクリエイター、アーティスト集団が創造拠点を構えています。

運営の中心的な役割を担っている「BankART1929」の池田さんは、「ハンマーヘッドの評価は、最終的なここからから誰が輩出されたかにかかっている。2年間で1人でも全国区のスターを世に出すことができれば成功でしょう」と語ります。そのため、すでに世間的な評価が定まっているクリエイターだけではなく、今後、ブレークする可能性を秘めた若い創り手も意識的に受け入れたのだとか。「『2年間、安定して拠点を構えたい』と考えているクリエイターは採らなかった」という池田さんの言葉からも、ハンマーヘッドがクリエイティブシティ・ヨコハマを世界に発信する象徴的な存在になることへの意気込みが感じられます。

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