『ヨコハマ カルチャーガイド』 -街から生まれるクリエイティブ-

『ヨコハマ カルチャーガイド 街から生まれるクリエイティブ』vol.7 非成長の時代に、横浜市が文化を支援する理由

 クリエーターの野心が交差する「ハンマーヘッドスタジオ 新・港区」

「ハンマーヘッドスタジオ 新・港区」

ハンマーヘッドスタジオ 新・港区

2012年5月18日オープンした、2年間限定のクリエイターの活動拠点。ハンマーヘッドクレーンに象徴されるように横浜のフロンティア精神の原点である新港ふ頭にそびえます。時代を切り開いていくクリエイターたちが集積し、日常をともにし、世界に発信する無限の可能性を秘めた場所は、いつの日か横浜に根ざし、横浜を超え、都市そのものに豊かな表情を与えることが期待されています。

http://shinminatoku.bankart1929.com/

Aゾーン「『場所』ができることによって挑戦する姿勢が保てる」

ハンマーヘッド Aゾーン

ハンマーヘッドの中は、A〜Dゾーンに分かれています。Aゾーンは、みかんぐみ、コンテンポラリーズ / 柳澤潤などによる建築で、複数のブースと回遊式の木製歩廊がそのまま残されています。木製歩廊は2階建ての高さにあり、空中を散歩するように、クリエイターの制作スペースを眺められるユニークな造り。入居者には、横浜臨海部のニュースを発信するヨコハマ経済新聞、大野一雄、土方巽、ピナ・バウシュのアーカイブ資料を公開するダンスアーカイヴ構想などが名を連ねます。

ハンマーヘッド Aゾーン

今年横浜で行われた舞台芸術フェスティバル『Dance Dance Dance』のロゴデザインなどを手がける「un-public house」のデザイナー天野和俊さんは、横浜の馬車道にクライアントワーク中心の事務所、東京の恵比寿に打ち合わせスペースを構えていますが、「課外活動」の場としてハンマーヘッドスタジオに身を寄せています。「物件が好きで、場所にインスパイアされることが多いのですが、何かが変わり、自分を持ち上げてくれそうな雰囲気をハンマーヘッドスタジオに感じた」といいます。

天野和俊さん課外活動といっても、取り組む姿勢は真剣そのもの。「これまでも本業とは別に、椅子などのプロダクトを制作するなどの活動をしていたものの、忙しくてなかなか手をつけられなかった。でも、『場所』ができることによって挑戦する姿勢が保てる。2年間で何かを始められる体制を整えていきたいです」と話してくれました。

横浜市の取り組みについては、「未完成な部分はあります。だけど街を活性化させる起爆剤としてクリエイターを支援することに、とても可能性を感じています。現在ではインターネットなどの発達によって場所に縛られずに仕事ができるようになってきているため、東京の中心街だけではなく横浜にもっともっとクリエイターが集まってもいいと思う。さらに密度が高まれば質も高まっていくので、これからも継続してほしいです。外部のクリエイターたちから見て、『いいな、横浜』『シーンがあるな』と羨ましがられるようにしたい」と落ち着いた物腰ながらも情熱的な眼差しで語ってくれました。

Bゾーン 雑多な集まりによる化学反応

ハンマーヘッド Bゾーン

続いてBゾーン。藤村龍至による「MEDIA HOUSE」や、発砲スチロールで創った開発好明+FADS ART SPACEのスタジオなど、クリエイティビティの高い建築が目をひきます。入居者は、さとうりさや汎用動力研究所 / 牛島達治など、作家経験の豊かなクリエイターから、地域や場所に根ざした活動を軸とするnitehi worksなど、雑多な集まりにわくわくさせられる空間になっていました。

ハンマーヘッド Bゾーン

Cゾーン「さまざまなアーティストが集まるこの場所で、アートが社会とどう向き合うのか模索していきたい」

ハンマーヘッド Cゾーン

Cゾーンはゆったりとした空間が広がり、『横浜トリエンナーレ』の際に制作されたアート作品もところどころそのまま残してありました。日本の現代アートを代表する某氏のチームが取材当日に制作を行っているなど、クリエイターにとってはこれ以上ないほどの刺激的な雰囲気です。

中村恩恵Cゾーンにダンススタジオを持つ中村恩恵さんは、『ローザンヌ国際バレエコンクール』で受賞するなど海外で活躍した後、2007年に活動の拠点を日本に移しました。『芸術選奨文部科学大臣賞』など数々の受賞歴を持ち、新国立劇場の委託作品を手掛けるなど、国内外で評価の高い舞踊家・振付家です。「私にとってハンマーヘッドスタジオとは、活動の枠組み自体を自分たちで創り出し、新しい角度からアートを考える場。普段は劇場など、すでに整備された環境の中で、できあがった作品を観客に示すのが基本ですが、それだけでは視野が狭くなってしまうと感じていました。さまざまなアーティストが集まるこの場所で、アートが社会とどう向き合うのか模索していきたいです」といいます。

ハンマーヘッドスタジオが面白いのは、こうした様々な分野のアーティスト / クリエイターが単に1つの場所に集まっているだけはなく、その中で「住民会議」と呼ばれる入居者同士の話し合いの場が設けられていることかもしれません。舞台芸術の世界で活躍している中村さんも「自分たちがどのようなことを社会に発信していこうか議論する中で、それぞれこだわりを持ったアーティストたちからの意見を聞き、『こういうものの見方があるんだ』と、たくさんの刺激を受けている」と話してくれました。

ちなみに以前はオランダを拠点に活動していたが中村さんは、発電所関連の施設があった場所を、アーティストの力で運用していく事業の立ち上げに携わった経験もあるそうです。「私はそこに入居せずに日本に帰国してしまったのですが、社会にアートを開いていくというコンセプトはハンマーヘッドにそっくり」だとか。

Dゾーン ハンマーヘッドを通して見えてくるものとは

ハンマーヘッド Dゾーン

建物の一番奥まで進んでいくと、Dゾーンに到着。ここには、入居者同士が交流を深められるよう90席のソファーが設置されている「ハンマーヘッドキッチン」があるほか、『瀬戸内国際芸術祭』や『全国都市緑化フェア』などパブリックアート界隈で活躍する松本秋則さん、村上隆率いるカイカイキキ所属のタカノ綾さんなどが入居し、切磋琢磨しながら創作に励んでいます。

そしてDゾーンを抜けて外に出た喫煙所からは、そびえ立つ「ハンマーヘッドクレーン」が望めます。眼前に開ける太平洋を日々感じながら制作するクリエイターたち。それぞれの思惑はあるものの「ハンマーヘッドを通して横浜を盛り上げていきたい」というビジョンは共通していました。

ハンマーヘッドクレーン
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