コラム

CINRA MAIL MAGAZINE連載コラム『全裸』2010年2月配信分(vol.261~264)

CINRA MAIL MAGAZINE連載コラム『全裸』2010年2月配信分(vol.261~264)

武田砂鉄
2010/04/09

vol.263 「友達の友達を友達にするべきか」2010冬(2010/2/15)

全裸

「友達の友達」が非常に有名な賞を受賞した。さて、どうしよう、方法としては「友達の友達」から「友達」に近づけて、あいつはやると前から思ってたよと澄まし顔をかましてみることも出来るのだけれども、この選択はとりわけ誰に何をもたらすわけでもないので、ひとまず一晩そのままにした。翌朝、新聞に彼の名前を見つけた。そういえば、「友達の友達」でいくのか、「友達」でいくのか、決めかねていたのだと思い起こす。冷凍されたご飯をチンしてお茶漬けをかっ込みながら、もう一度その記事を見る。ペラッペラのチラシで見かけていた名前が更にペラペラの新聞紙に載った途端、高尚な感触を得ている。政治経済スポーツ文化テレビラジオと彼の名が、おんなじ所に居る。

奥歯にすきっ歯があるもので、お茶漬けを食べると、必ず米粒がそこに忍び込む。食べ終わった後に、下先でレロッとやらないと歯磨き時に発掘されてしまい、こうなると、ややデンプン化した米粒と歯磨き粉とが妙に仲良くネチャネチャと、口内が形容しがたい中間生成物を仕上げてしまう。だから、かならずレロッと取る。今朝はどうもレロッが上手くいかない。「友達の友達」の受賞記事を見ているからだろうか。この手の新聞記事は、あらゆる余分を排除する。事実をいかに淡々とさせるかを突き詰めていく。感情が入り込んでいる箇所が一カ所も無い。めでたいのだが、めでたくなくてもいい、という佇まいだ。しかし、だからこそ高尚な感触が得られるのだろう。

ここはひとつ、「友達の友達」で行こうと、心に決めた。何だか一大決心をした時のような気持ちの解れがやってくる。決して「俺の友達がさあ」とは言わないぞ、と。言ったとしても「俺の友達の友達がさあ」にするぞ、と。でもそれじゃあ誰も興味持ってくれないじゃないかと、独りほくそ笑む。奇妙な決断がこうして自己完結する。

出かける前、歯磨きをしていると、歯の奥から米粒がこぼれて、ネチョネチョっと口内が粘り気に包まれる。結局、取るのを失念していた。お、これは決断し切れていないなと、自省を促す。オマエまだ、「俺の友達がさあ」のラインを諦めきれていないのではないか。そういえば5年くらい前だったか、お笑い芸人になった後輩に、満面の笑みで「そんなに仲良しでしたっけ」と言われた時の事を思い出した。そう、そんなに仲良く無かったのだった。あれは、独特の敗北感だった。有名になると、いろんな人が近づいてくるという。「友達」が途端に増えるという。しかし、その申し出をする側にも、躊躇はある。葛藤はある。自粛もあれば、冒険もある。友達ぶる、というのは、それなりに手間のかかる決断だ。今回、僕はそれを見送った。英断か憶断か分からないけども、簡潔な新聞記事に姿勢を正して、そう結論付けたのだ。

嘘をついた。どういうことか。僕はこれを、その「友達の友達」が読んでくれているかもしれないと期待して書いている。この堂々巡りは、自慰行為ながら、果てが無い。

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教室でも放課後でも負け続けたこと、弱さ故に大事な友達も傷つけてきたことーー振り返るほど情けなさでズタズタになってきた自分達の青春を全部吐き出しながら、だからこそ今まで裏切らず側にいてくれた人を離さず抱き締めて生きていきたいのだと表明する1stアルバムが『サンキュー・マイ・フレンド・アンド・マイ・ファミリー』だ。ブッチャーズ、eastern youth、NUMBER GIRLを抱き締めて離さない号泣ファズは変わらぬまま、アルバムタイトルの通り「誰に何を歌いたいのか」に重心を置いた結果としてバンドサウンドが撚られ、歌がグッと前に出た。汗と唾を撒き散らす激情の成分はやや減ったが、あなたと友達になりたい、友達との絆を目一杯歌いたい、だからまずは自分達が素っ裸になってあなたと向き合いたいという意志がスウィートなメロディに乗って突き抜けている。「たったそれだけ」をたったひとりに伝えるためにもんどり打つ、バンドの核心がそのまま映し出されたMV。端からライブの中核を担ってきた名曲がさらに躍動している。(矢島大地)

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