高田純次はなぜ面白いのか? 適当なのに、人間臭くて一理ある

「役作りのために、髭を生やし始めたよ。まだ、役は来てないけど」

以前働いていた出版社では高田純次の本を刊行していて、それは決して出版社を代表する一冊ではないのだけれど、何度か繰り返された採用面接で「弊社刊行の本で面白かった本は?」と聞かれる度に高田純次の本だと即答していた。隣り合う人々は、多分ちょっと無理をして翻訳の哲学書を挙げたり、純文学の小説の感想をちょっと頑張ってドラマティックに述べていたりしたのだが、こちらは少しも無理をせずに、すらすらと高田純次の魅力を答えてみせた。だから採用されたわけではないだろうが、高田純次の姿を見かけると、「好き」という感情の中に、未だに「感謝」が混じる。

人様に就職面接のアドバイスをするほどその世界を知り尽くしているわけでもないが(すっかり知り尽くした感じでアドバイスしている人を見かけると赤面する)、あれはおそらく、頭に思いついたことをそのまま言えばいいのであって、相手に気に入られようと会社の気風を予測したり擦り寄っていこうとしたりすると、「こいつ無理してんな」という冷たい評価が浮上するのだと思う。

高田純次にはいくつもの名言があるが、中でも頭に染み込んでいるのが「役作りのために、髭を生やし始めたよ。まだ、役は来てないけど」というもの。思いついたことをそのまま言うのが高田純次であり、その思いついたままの言葉に、ひょっとしたら哲学的なメッセージが込められているのではないかと真剣に考え込ませることもできるのが高田純次の言葉である。無理をしてはいけないのだ。

『高田純次のセカイぷらぷら サンディエゴをぷらぷら編』より ©BS12 トゥエルビ / D:COMPLEX
『高田純次のセカイぷらぷら サンディエゴをぷらぷら編』より ©BS12 トゥエルビ / D:COMPLEX

高田純次の「適当」には一理ある

役が来ていないのに役作りのために髭を生やす、とはどういうことだろうか。そこに存在していないものに対し、その存在を予期して、行動を起こす。これはつまり、やがておとずれる未来を予期した行動であり、小学生の頃、先生から口を酸っぱくして言われたものの、あまりに抽象的で実行に移せなかった「先のことを考えて行動しましょう」を実践している大人、ということなのだろうか。

学校の近くにある交差点では、急に車が出てくることが多いから、止まらなきゃダメだよ、と先生から何度も言われる。でも、車はそんなに飛び出してこないから、なんだ大丈夫じゃんとダッシュで渡るようになる。実際に危ない場面もあったのだけれど、そうやって先生から命令されると、子供はひとまず命令に歯向かってみたくなる。

高田純次は、長いこと、「適当」と言われる。適当をテーマにした本も複数冊出している。でも、高田純次の「適当」の中には、一理ある。普通、一理ある、という状態は、命令や指示の中に存在するもので、「あの人はああやって偉そうに言ってくるけど一理ある」という使われ方が多い。適当な発言の中に一理あるというのはちょっと珍しい。「仕事が楽しくない人へ」へのメッセージを求められた高田純次は、こう述べている。

「仕事が楽しくないときは、楽しくするしかないんじゃないかな。どうするかは分からないけど。俺自身はほとんど楽しくなかったことがないから。きつかったことはあっても、まあそのうち終わるしね」(高田純次『適当論』)

『高田純次のセカイぷらぷら ハワイをぷらぷら編』より ©BS12 トゥエルビ / D:COMPLEX
『高田純次のセカイぷらぷら ハワイをぷらぷら編』より ©BS12 トゥエルビ / D:COMPLEX

人って、人に対して、そんなに興味はない

上記の高田の言葉は元も子もない意見だし、姿勢として単なる理不尽でもあるのだが、なぜか核心をついているようにも聞こえる。働くってそういうもんだよね、とか言い出しそうになる。そもそも仕事とは何か、といった命題で問いかけてくること自体が虚無なのだよ、との思いが滲む返答は、世の中の多くの物事はこのようにして、真面目に答えるよりも適当に答えたほうが真理に近づくのかも、と思わせる。

『高田純次のセカイぷらぷら ハワイをぷらぷら編』より ©BS12 トゥエルビ / D:COMPLEX
『高田純次のセカイぷらぷら ハワイをぷらぷら編』より ©BS12 トゥエルビ / D:COMPLEX

先ほどから「~そうになる」とか「~かも」とはぐらかしてばかりいるが、世の中の物事は、ズバリ回答を出せる物事ばかりではない。むしろ、世の中は「適当」な態度と波長が合っているのではないか。

「適当」が、世の中と波長が合っちゃっている感じは、高田純次が街をブラブラするだけの番組『じゅん散歩』(テレビ朝日系)を見ていれば分かる。これまでの街歩きの番組では、芸能人は必死になって素人の反応を引っ張り上げようとしたし、素人は必死に芸能人に合わせようとした。普段は交わらない双方が必死に落としどころを模索してこわばる感じがいくつもの番組で続き、視聴者は、その手のものに疲れを感じていた。

高田純次は、その「こわばり」が生まれる前に放り捨ててしまう。ズケズケと踏み込んで、さっさと退散する。その潔さが心地よい。人って、全員に対して興味があるわけではない。だからこそ、たまに興味を持った人にはしっかり興味を示していく。結果、高田純次の街歩きって、予想以上に人間臭い。

もはや、どこを訪ねていようが構わない

BS12 トゥエルビで放送されていた『高田純次のセカイぷらぷら』から、『ハワイをぷらぷら編』と『サンディエゴをぷらぷら編』がDVDで発売される。いざ見てみると、日本のそこら辺を歩いている時と何ら態度は変わらない。変わらないのがいい。

地ビールを飲めば「普通のほうがいい」と拗ねて、地元の名産「バターモチ」を食べても「磯辺焼きのほうがいい」と放り、おすすめの場所として「カイムキ」という地名を聞けば「それは東向き? 西向き?」と質問を投げる。相手が困惑している顔を見たら、ケタケタ笑いながら、すぐに次の話題に移る。「BS12をご覧のみなさん、ケビン・コスナーです」といった、それ以上広がるはずもない挨拶も健在。それ以上広がらないからこそ必要なのだ。

『高田純次のセカイぷらぷら サンディエゴをぷらぷら編』より ©BS12 トゥエルビ / D:COMPLEX
『高田純次のセカイぷらぷら サンディエゴをぷらぷら編』より ©BS12 トゥエルビ / D:COMPLEX

『高田純次のセカイぷらぷら サンディエゴをぷらぷら編』より ©BS12 トゥエルビ / D:COMPLEX
『高田純次のセカイぷらぷら サンディエゴをぷらぷら編』より ©BS12 トゥエルビ / D:COMPLEX

街を歩いている最中、ふと見かけた時計の時刻を確認してから、自分の腕時計を見て、「この時計、5分進ませてるな」とつぶやく。どうでもいい。でも、高田純次好きを長年やっていると、こういう瞬間を欲する。こういう瞬間に立ち会うと、よし、見てよかったと思う。この感想は、製作者の意図とは絶対に外れるだろうけれど、もはや、どこを訪ねていようが構わないのだ。

ハワイにしろ、サンディエゴにしろ、そこにいる現地の人たちは積極的に高田純次に絡んでくる。日本を歩き回るより、相手が前のめりだ。ちょっと控えめな人に無謀に突っ込んでいくのを得意としているから、その前のめりにたじろぐシーンも多い。だがその前のめりを受け止めることによって、高田純次の適当さが、より純化した形で披露されている感じはある。キラウエア火山に出向いて、これだけ火山の具体的な情報が耳に入ってこないのってなかなか異例である。

『高田純次のセカイぷらぷら ハワイをぷらぷら編』より ©BS12 トゥエルビ / D:COMPLEX
『高田純次のセカイぷらぷら ハワイをぷらぷら編』より ©BS12 トゥエルビ / D:COMPLEX

どこへ行っても、いつも通りを保持している。だがそこには、冒頭に記したように、高田純次が「先のことを考えて行動しよう」を実践している大人である可能性が残されている。なんたって、オファーが来る前から役作りのために髭を生やすのだ。これだけずっと適当な発言を重ねて、それが薄っぺらく映らない。この話術は何なのか。この話術、就活生なんかにはピッタリという気がするが、そんなのもちろん適当に言ってみただけである。

リリース情報
『高田純次のセカイぷらぷら サンディエゴをぷらぷら編』

2018年3月2日(金)発売
価格:3,240円(税込)
PCBP.12382
<特典映像>
JAL CAさんのお仕事・出発前編
2018新春SPより:メルボルンの街で高田さんストリートアートに挑戦!

『高田純次のセカイぷらぷら ハワイをぷらぷら編』

2018年3月2日(金)発売
価格:3,240円(税込)
PCBP.12381
<特典映像>
JAL CAさんのお仕事・機内編
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プロフィール
高田純次 (たかだ じゅんじ)

昭和22年1月21日東京生まれ。O型。東京デザイナー学院卒業。71年に「自由劇場」の研究生となるが、1年後イッセー尾形氏らと劇団を結成。その後4年間サラリーマン生活をし、'77年に劇団「東京乾電池」に参加。1989年に独立し、(株)テイクワン・オフィスを設立。



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