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生理痛は我慢しなくていい。宮島咲良が産婦人科医・宋美玄と語る、「なりたい自分」になるための選択肢

生理中は「なんだか気持ちが沈む」「無性にイライラする」など、精神的に不安定になるもの。ひどい生理痛で、生活や仕事に支障が出てしまうこともある。「仕方のないこと」、そう諦めて、我慢しながらやり過ごす人も多いだろう。しかし、これらの症状は、治療が必要な「月経困難症」(*1)の可能性もある。

さらに、「働く女性1956人の生理の悩みと仕事と生活」調査(*2)によると、女性が月経不調の影響を受ける日数は平均で毎月5日。年に12回(周期)月経があるとすると、年間約60日は不調を抱えながら過ごしていることになる。また、生理による症状が出ているときの仕事の生産性は、症状がないときと比べて約6割に低下するというデータも。婦人科疾患を抱える働く女性の医療費支出と生産性損失の合計は、年間6.37兆円にのぼるという。女性の健康課題は、もはや女性だけの問題ではないのだ。

フリーアナウンサーの宮島咲良さんも、かつては重い月経困難症に悩む一人だった。2020年には子宮内膜症と診断され、いまは仕事に復帰しながら、自身の症状や手術体験、婦人科受診の大切さを発信している。

今回はそんな宮島さんが、自身のレディースクリニックで日々患者を診察する傍ら、メディアで幅広く情報発信を行なう、産婦人科医の宋美玄先生と対談。医学的な観点から、しっかり生理を理解すること、場合によっては治療をすることの大切さを認識し、いつでも自分らしくいるための秘訣を探っていく。

20年以上苦しんだ生理痛。それが「当たり前」だと思っていた

―宮島さんは子宮内膜症(*3)と診断される前から、生理についてお悩みを抱えていらっしゃったとうかがいました。具体的には、どのような症状があったのでしょうか?

宮島:私は、小学校4年生と、割と早い時期に初潮を迎えたのですが、そのころから生理痛がひどくて。経血の量も多く、ナプキンから漏れてしまい服を汚してしまうこともありました。ずっと痛みを抱えつつ、婦人科にも行かずに鎮痛剤でしのぎながら、何十年も我慢して過ごしてきたんです。

いま思えば、あの痛みは異常だったと思います。でも、生理のたびに毎回毎回ひどい生理痛を経験して、鎮痛剤を飲み続けるうちに、いつしかそれが「当たり前」だと思って、不思議に思うこともなく過ごしていました。

―そもそも生理が起こるメカニズムと、生理痛を引き起こす仕組みについて教えてください。

:女性の体が第二次性徴を迎えると、赤ちゃんを産むための準備を始めます。子宮が赤ちゃんを宿せるように、毎月卵子を排出し、子宮内膜をフカフカに厚くします。毎月こうして体は妊娠の準備をしますが、実際に妊娠するのは人生に数度あるかないかですので、妊娠が起こらなかった場合に、赤ちゃんを迎えるために膨らませた子宮内膜を血液と一緒に排出する、これが生理です。

生理痛は、子宮内膜が剥がれ落ちるときに「プロスタグランジン」という痛みの物質が出たり、子宮内膜を押し出そうと子宮が収縮したりする場合に起こります。特に原因となる病気がないものを「機能性月経困難症」、子宮内膜症や子宮筋腫、子宮腺筋症などの特定の病気によって引き起こされる「器質性月経困難症」と呼び、子宮と卵巣が、妊娠のために毎月働いているだけで痛みを感じる人も多いです。

―宮島さんは生理のとき、日常生活においてどのような障壁が?

宮島:精神的に落ち込んだり、イライラしたりすることはあまりなかったのですが、生理のたびに大量の生理用品を持ち歩いたり、経血が出る感覚自体にすごくストレスを感じていました。それを経験することが、女性として生まれてきた罪のようにさえ感じてしまっていて。精神的に「闇」の期間であり、「病み」の期間でもありました。

仕事中に激しい痛み、それでも「婦人科に行く」という選択肢がなかった。宮島さんが語る後悔

:子宮内膜症と診断を受けられたときは、どんな状況だったのですか?

宮島:大人になってから生理痛に関する情報をだんだん得るようになって、もしかして子宮内膜症かも(*4)しれない……、と思い婦人科を受診しました。そのときは特に問題なかったのですが、数年たったあとで、急に下腹部に激しい痛みを感じて。当時ロケ中だったのですが、意識が遠のいてしまうくらいの、人生で一番の痛みでした。でも、周りを待たせているし、とにかく仕事をやり遂げないといけないと思ってしまって。鎮痛剤でなんとか痛みを抑えて、顔面蒼白のまま、やり投げのロケをしました(笑)。

:それは痛かったでしょう! すぐに病院に行かれましたか?

宮島:それが、しばらくしたら痛みも治まったので、翌日も仕事に行って、病院に行かなかったんです。それまで何十年も生理痛を我慢してきてしまったがために、「この痛みもきっと生理痛で、我慢すれば大丈夫」と勝手に思い込んでしまったんですよね。生理痛がひどいことを自覚していながら、自分のなかに「婦人科に行く」という選択肢がなく、放置してすぐに治療をしなかったことは、いまでも後悔しています。

:生理痛を含む月経時の諸症状には、治療が必要な疾患が隠れている場合があるんです。毎月生理痛で悩んでいる方には、ぜひ婦人科の受診をおすすめします。

宮島:私も自分が手術することになって初めて、生理痛のある人は将来的に子宮内膜症になるリスクが高いと知ったんです。もし知っていたらもっとちゃんと調べていましたし、手術をするに至らなかったかも……と思うと、いま生理痛がある方には、無視しないでほしいと伝えたいです。

誰でも気軽に婦人科に足を運んで大丈夫。生理痛があるならまずは相談を

―婦人科に足を運ぶべき、具体的な症状や基準はありますか?

:生理についてなど、気になることがある人なら誰でも婦人科を受診していいと思います。宮島さんが子どもだった頃は、いまのように「婦人科に行こう!」と叫ばれる時代でもなく、ピルに関する情報もあまりなかったと思うのですが、生理痛があるのなら、婦人科に相談するのが理想的。小6から高1までは子宮頸がんワクチン(*5)の無料接種の対象になっているので、それをきっかけにかかりつけの婦人科を見つけて、生理のことも一緒に相談できたら一番いいですね。

宮島:たしかに、少し前までは、気軽に婦人科に行くのが難しい時代でした。いまは当時に比べると、行きやすくなっているのかなって。

:それでも、痛みを我慢される方はまだまだたくさんいらっしゃいます。特に日本は、海外に比べて婦人科受診率が低いんです。

宮島:私のところにも、「生理痛がひどくて不安だけど、怖くて婦人科に行けない」、「周りの人の目が気になって行きづらい」など、婦人科への高いハードルを感じている方々からのメッセージがよく届きます。

:そういう方にこそ、婦人科を受診して楽になっていただきたいです。冒頭でお話ししたとおり、生理というのは、妊娠の準備をするために、体を毎月リセットしているだけ。「毎月赤ちゃんを迎える準備をしている」と言われても、まだ10代~20代前半の若い世代には、出産を考えていない方も多いですよね。そうなると、毎月生理が来ること自体、体にとっては負担になります。

ですから選択肢として、ピルを服用することで、排卵を抑えて子宮内膜をなるべく薄くして、生理の負担自体を減らすことも視野に入れてほしいなと。生理中は、経血がお腹のなかに逆流して、炎症を起こすことがあります。このような状態を放置すると子宮内膜症や不妊症(*6)を引き起こしたり、将来的に卵巣がんのリスクを上げたりする可能性があるので、少しでもその可能性を減らすために、月経困難症の場合はピル(*7)などでの治療を推奨しています。

月経困難症は、治せるもの。生理の回数は減らせるし、生理痛も和らげられる

―月経困難症を和らげる方法として、ピルのほかにはどのような方法があるのでしょうか?

:LEP(低用量エストロゲン・プロゲスチン配合薬)などのピルや、IUS(子宮内黄体ホルモン放出システム)、黄体ホルモン剤などさまざまですが、やはり、20~30代におすすめなのはピル。ピルはもともと避妊薬として日本に入ってきたものですが、今では月経困難症や子宮内膜症の治療薬として承認されているピルが多いです。治療薬として処方される一般的なピルは、28日周期で服用して月1回の頻度で生理のような出血を起こします。中には最大120日間連続服用が可能なピルもあり、より長い期間、継続的に負担を軽減できる可能性があります。ピルの服用によって不快な症状が軽減され、すごくハッピーに過ごしている方もたくさんいらっしゃるので、医師と相談しながら自分に合うピルを見つけることが大事です。

宮島:私はいま、子宮内膜症の再発防止のために治療薬を毎日服用しています。毎月生理が来なくなり、来ても以前と比べてかなり軽くなったので本当に楽になりました。激しい痛みを感じることも、経血の量に悩むこともなくなって、コンディションが安定するようになりました。毎月悩んでいたことがなくなっただけで、「第2の人生」と言っても過言ではないほど、人生が大きく変わったんです。

:多くの方のなかに、薬を飲まずに体をあるがままの状態にしておくのが一番健康にいいんだ、という考えがまだまだあると思います。そういう方々によくお話しするのが、「昔の女性には、毎月生理が来ていたわけではなかった」というお話。宮島さんのおばあさんの世代くらいだと、初潮は15歳くらいで迎えるのが普通でしたし、いまよりも栄養状態が悪く、痩せていた女性も多かったので、毎月生理が来ない人もたくさんいました。しかも出産年齢も当時と比べてだいぶ高くなって、出産人数も減ったので、生涯の月経回数は約9倍に増えたというデータもあります。

だから、ホモサピエンス1万年の歴史からすると、こんなに生理が来るのは不自然なことなんですよ。私たちのライフスタイルもどんどん変化しているので、何か気になることや体の不調があれば、医師と相談の上、薬を服用するのもひとつの選択肢です。

―宮島さんは、お仕事のときは生理とどう向き合われていたのですか?

宮島:私が担当しているレギュラー番組は、長時間撮影するものが多くて。しかも生放送なので、途中でナプキンを替えに行けないんです。生理が重い日に生放送が重なってしまったときは、多い日用のタンポンと、夜用のナプキンの両方を使用して出演していました。痛み止めを飲みながら生放送に出演して、終わったらトイレに駆け込んで……。衣装を汚してしまわないかも心配ですし、生放送中に経血の出る感覚があると、もう不安で集中できなくて。特に出産の予定や希望もなかったので、子宮や生理によって影響を受けることがただただストレスで、「なぜ毎月こんなに苦しまなければいけないのだろう」と思っていました。

:それはとてもつらいですよね!

宮島:毎月の予定を立てるときも、生理が来るタイミングを一番に考えて、その間はスケジュールを入れないようにして。ハードな仕事が生理の重い日に被っていると、何週間も前から憂鬱になっていました。

:生理周期で、仕事やプライベートを振り回されてしまう人は、すごく多いです。しかも、PMS(月経前症候群 *8)の症状もある方だと、不調の時期のほうが長いじゃないですか。今はさまざまな選択肢があるので、ベストな治療方法を患者さんに提示するのが、私たち産婦人科医の役目だと思っています。

婦人科系疾患を抱える働く女性の医療費支出と生産性損失は、年間6.37兆円とも。女性の健康課題は、社会全体の課題でもある

―女性特有の健康課題による生産性損失は、医療費支出と合計すると、年間約6.37兆円(*9)にものぼるというデータがありますが、それについてはどのようにお考えですか?

:生理中かどうかは見た目では判別できませんが、体の不調や痛みなどを抱えているので、いわばハンデを負っているのと同じ。毎月生理痛があるとなると、そのときのパフォーマンスにも影響しますし、痛みを抱えた状況で無理をするのは望ましくないです。

宮島:生理で休むことのハードルは、いまでもすごく高い気がします。生理休暇が導入されている企業も増えているようですが、それでも、実際に活用している人は少ないと感じていて。

:やっとこの数年で、企業が女性の健康課題に向き合い始めてはいるものの、宮島さんのおっしゃるとおり、生理休暇の取得率はいまだに1%ほど。(*10)生理休暇という制度自体は昭和20年代にできて、昭和40年代には4分の1くらいの女性が取得していたそうなのですが、男女雇用機会均等法ができてからは、取得する人が激減したようです。男女が平等に活躍すると言っても、女性特有の不調があることに変わりはないし、解決法もありますが、それを選ぶも選ばないも個人の自由。それぞれに体の自己決定権があるので、生理痛のつらい人は生理休暇を取得して休む、そういう選択が当たり前にできるようになればいいなと思います。

―宮島さんは、生理痛がひどかった時期、周囲の人に相談されていましたか?

宮島:つらいのが当たり前だと思っていたので、特に周りに言うこともなく……。女性の方ならまだしも、男性のスタッフさんに言っても困らせてしまうんじゃないかな、とも思ってしまって。私は子宮内膜症と診断されてからは、周りの方に言っていましたが、職場などでも、男性の上司に生理のことを伝えづらいという話はよく聞きますよね。

:患者さんのお話を聞いていて思うのは、男性は女性に「しんどいの、わかって!」と言われても、なかなか理解できないことが多いんです。生理痛や産後の不調、更年期などもそうですが、男性の共感性に訴えるのはなかなか難しくて。ですから、年間約6.37兆円の生産性損失と医療費支出を被っているとか、女性ホルモンがこれほど変動しているとか、数字やグラフで示すと理解してもらいやすいと思います。女性の健康の課題を無視することで、社会全体が不利益を被っているということを、お金や数字を例に挙げて訴える必要があると感じますね。

自分の生理のことは、自分にしかわからない。誰もがフラットに生理を語れる世の中に

宮島:逆に、生理のつらさを訴えたとき、男性は労わってくれても女性は理解してくれない、というケースもありますよね。男女関係なく、お腹が痛かったら休むのは当たり前。しんどいときに、「しんどい」と言える、そんな環境になったらなと思います。「今日ちょっと筋肉痛で……」と言うのと同じくらいの感覚で。

:わざわざ「今日生理でさー!」と声高に言う必要はないですし、生理のことをオープンにしたくない方ももちろんいるのですが、言い出せない雰囲気自体がなくなるといいですよね。

宮島:自分の症状がほかの人に比べてどうなのかって、なかなかわからないじゃないですか。学校や職場でも生理の話はしづらいし、親に相談しても「お母さんは我慢していたよ」とあしらわれてしまうと、私のように痛いのが当たり前だと思い込む方が増えてしまうのではないかと思うんです。ですから、生理の話を気軽にできる場所があったらいいと強く思います。

:特に、日本は若者が生理や性について学んだり、相談できたりする受け皿が少ないという課題を抱えています。小学校で生理のことを学ぶときに、男女が別の部屋に分けられた経験のある方も多いと思いますが、そこで生理がまるで秘め事であるかのような印象を抱いてしまうんでしょうね。それがきっかけで、生理の話題がタブー視されたり、揶揄の対象にされたりすることもあって。

宮島:最近は、男性も生理について話しやすくなってきているとは思うのですが、もっと話しやすくなればいいなと。女性も男性の体のことに詳しくたっていいし、同じ人間のことなので、男女関係なくもっとフラットに話せたらなって。

私が子宮内膜症の経験を発信するようになってから、ブログやSNSに、自身の生理についての悩みをコメントしてくださる方がすごく増えたんです。「誰かに聞きたくても聞けない」という方が多いのだと思います。

:宮島さんは、ブログやほかのメディアでご自身の経験を綴られていて。少し読ませていただいたのですが、その内容がすごくリアルなんですよね。いま、こうして、ここで、ご自身の経験を宮島さんがお話してくださるだけでも、たくさんの方が救われていると思いますよ。

宮島:そういっていただけると心強いです! 症状は人それぞれなので、私の話が100%みなさんの参考になるわけではないですが、まだまだネット上にも、患者が実際体験した「生の声」の情報が少ないと感じてます。多くの方の不安を少しでも減らせたらと思っているので、これからも発信し続けていきたいです。私のSNSが、生理について悩みを抱える方にとって相談できる場所になっていけばうれしいですね。

パートナー企業情報
バイエル薬品株式会社

バイエル薬品株式会社は本社を大阪に置き、医療用医薬品、コンシューマーヘルスの各事業からなるヘルスケア企業です。技術革新と革新的な製品によって、日本の患者さんの「満たされない願い」に応える先進医薬品企業を目指しています。
ウェブサイト情報
Women's Health Action×CINRAがお届けする、女性の心とからだの健康を考えるウェルネス&カルチャープラットフォームです。月経・妊活など女性特有のお悩みやヘルスケアに役立つ記事、専門家からのメッセージ、イベント情報などをお知らせします。
プロフィール
宮島咲良

1983年、東京都出身。タレント、フリーアナウンサー。テレビ番組のMCやリポーター、ラジオパーソナリティとして幅広く活躍。2021年、自身のSNSで子宮内膜症に罹患していることを公表して以降、自身の経験をブログや各メディアで積極的に発信している。大のスーパー戦隊好き。

宋美玄

産婦人科専門医、医学博士、丸の内の森レディースクリニック院長。大阪大学医学部医学科卒業。周産期医療、女性医療に従事する傍ら、テレビ、書籍、雑誌などで情報発信を行う。ベストセラーとなった『女医が教える本当に気持ちいいセックス』、近著『女医が教える オトナの性教育 今さら聞けない セックス・生理・これからのこと』など著書多数。



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