アーティストと作品、そして鑑賞者。三者に、「見る」だけではなく、「コレクションする」だけでもない、新たな関係性があるとしたら?――そんな問いを投げかける催しが、東京駅直結のオフィスビル1階にあるアートセンター「BUG(バグ)」で開かれている。
2025年12月中旬から開催されている『バグスクール2025:モーメント・スケープ』は、「アーティスト・作品・鑑賞者」の関係を新たな視点から問い直すことを掲げたプロジェクトだ。
このプロジェクトの特徴は、鑑賞者が出展アーティストと密に交流でき、さらにその関係性のうえで「有機的な」作品購入が促されていること。そんな取り組みから、アーティスト・作品・鑑賞者、それぞれのあいだに何が生まれるのか。BUGと協働して『バグスクール』を開くインディペンデントキュレーターの池田佳穂は「展覧会で一つのナラティブを見せるというより、あくまで「学び場」であってほしいという思いがあります」と語る。
元森美術館の学芸員であり、オルタナティブなアートシーンにも精通する池田。そんな池田が示す『バグスクール』とは、一体どんなものなのだろうか? 本稿では、池田へのインタビューと展示レポートを通して、『バグスクール2025:モーメント・スケープ』を紐解いていく。会期は2026年2月8日(日)まで。
アーティスト・作品・鑑賞者の「あいだ」に生まれるものとは?
2023年9月にオープンしたBUGは、株式会社リクルートホールディングス(以下、リクルート)が運営するアートセンターだ。同社の社会貢献事業として、アーティストやアートワーカー、そして多様な来場者にとって新しい視点・人・物事に出会える開かれた場所を目指している。
そんなBUGで、2025年12月17日から開かれている『バグスクール』。池田佳穂のキュレーションによって、今年で3回目の開催だ。
この『バグスクール』が中心に据えているのが、「鑑賞・体験・購入」という3つの柱。具体的には「鑑賞」をグループ展が担い、「体験」を参加型プログラム、「購入」を展示作品の購入が担っている。
「鑑賞」パートに位置付けられるのが、7人のアーティストによる作品群の展示。タイトルの「モーメント・スケープ」は、「瞬間(Moment)」と「風景(Scape)」を組み合わせた言葉だ。日常のなかで積み重なる経験や、ふとしたときに生まれる感覚的な気づきなど、さまざまな「瞬間」を手がかりに、生や生活のあり方を捉え直したいという思いが込められている。
また「体験」パートでは、出展アーティストによる参加型プログラムを開いている。展示作品と地続きのパフォーマンスや、アーティストの制作背景を体験できるワークショップなど、多彩なプログラムが用意されている。「購入」パートとして、展示作品の購入も可能だ。参加型プログラムを組み合わせれば、アーティストの背景や個性を知ったうえで作品購入できる機会となる。ちなみに本展は作品売上の半額が作家に還元され、もう半額が「セーブ・ザ・チルドレン」に寄付されるチャリティプロジェクトでもある。作品の購入体験が、社会貢献にも結びつくというわけだ。
これら3つの要素を交差させ、鑑賞者が自ら感じて考えることや、アーティストとのあいだに思いがけない対話や発見が生まれる可能性を重視している。展示の鑑賞、プログラム参加、そして作品購入を通じて、アーティストの多彩な実践に来場者の視点が重なり、「風景」のように開かれた場をかたちづくることを目指す——その意味で『バグスクール』とは、アーティストと来場者、どちらにとっても「学びの場」なのだ。
さて、今回の展覧会や参加プログラムは一体どんなものになっているのだろう? キュレーターの池田佳穂に、たっぷり語ってもらった。
キュレーター、池田佳穂に聞く——あくまで「学び場」であってほしい
―池田さんが『バグスクール』を手がけるようになった経緯とは?
池田佳穂(以下、池田):リクルートさんがやってきたチャリティプロジェクトの流れを引き継ぎつつ、BUGで現代アート作品を展開してほしいという依頼を受けて、第1回目から『バグスクール』のキュレーションを担当してきました。当初は「大人数で祝祭的に行うアートフェアのような形」というオーダーだったんですが、これまで自分がオーガニックなキュレーションのスタイルを取ってきたこともあり、私から違うかたちを提案させてもらったんです。
池田佳穂(いけだ かほ)
インディペンデントキュレーター。2016年より東南アジアを中心に、アート・コレクティブ、DIYカルチャー、カルチュラル・アクティビズムの調査を行う。森美術館でアシスタントとして経験を積み、2023年春に独立。現在は、山中suplexの共同プログラムディレクター、およびアートセンターBUGのゲストキュレーターを務める。近年の主な展覧会およびラーニング事業の企画に、『バグスクール2024:野性の都市』(BUG、2024年)、『一人で行くか早く辿り着くか遠くを目指すかみんな全滅するか』(山中suplex、2024年)、『神戸六甲ミーツ・アート2024 beyond』(兵庫、2024年)などがある。そのほか、『T3 NEW TALENT』(T3 PHOTO FESTIVAL TOKYO)キュレーター部門に選出。国際芸術センター青森[ACAC]公募AIR2025ゲスト審査員。シャルジャ・ビエンナーレ16 キュレータープログラム参加。
―オーガニックなキュレーションとは?
池田:作品をオブジェクトとして見るだけじゃなく、ワークショップやラーニングといったプログラムと合わせて、どんな人が観に来てくれるのか、どう鑑賞者と関係性を結ぶか、というところまで設計したキュレーションが、森美術館にいた頃から私の関心領域なんです。それにリクルートさんが長らく続けてきたアート支援も踏まえると、ただ作品を販売するアートフェアとは違うフォーマットがあるんじゃないかと。そこで「体験」を軸に「鑑賞」と「購入」に乗り出せる企画であれば、現代アートの新しいフレームを提示できると考えたんです。
―そんな「鑑賞」パートを担う展示空間ですが、とくに工夫した点はありますか?
池田:展示空間のすぐ隣にBUG Cafeが併設されているので、カフェスペースとギャラリースペースの境界をグラデーションにしてつなげようと試みています。もともとBUGはガラス張りで視覚的にもオープンだし、カフェがあるから入りやすいはずなのですが、展示を観に来る層とカフェを利用する層がかなり違う。そのため鑑賞体験をより多くのお客さんに開こうと、展示空間の入口付近に毎年「ラーニングスペース」を設けています。カーペットを敷いてテーブルを置いているので、カフェのドリンクを持ち込んで休憩することもできるんです。
ラーニングスペース
池田:またラーニングスペースには、出展作家の推薦図書などを置いた本棚も用意しています。作品だけではなく、書籍からもアーティストの思考や関心を読み取れるようにするためです。
「販売」のポイントとしては、購入した作品を部屋に飾ったらどう見えるかわかるように、お部屋のインテリアを意識したポップアップなインスタレーションにしました。いつもワークショップやパフォーマンスもここでやっているんですよ。さらに今年は、カフェの格子壁と同様の素材で展示空間の什器をつくりました。またカフェの壁面も展示スペースとして活用することで、ギャラリーとカフェを回遊できるようになり、BUG全体が展示空間として立ち上がるように意識しています。
―キュレーションのコンセプトについても聞きたいです。出展作家さんは7人で、タイトルは「モーメント・スケープ」ですよね。
池田:『バグスクール』の特徴として、展覧会で一つのナラティブを見せるというより、あくまで「学び場」であってほしいという思いがあります。だから、テーマに対してさまざまな視点からアプローチできるように、できるだけバリエーションのあるポリフォニックな構成になっています。
そのうえで「モーメント・スケープ」では、自分の生活や生のあり方を捉え直すために「瞬間」と「風景」 にフォーカスしました。制作のヒントとして、アーティストとは「Pile of Moment(積み重なる瞬間)」と「Catch Moment(とらえる瞬間)」という2つのキーワードを共有したんです。前者は「日々の経験や思考の蓄積が、私たちの営みをかたちづくっていること」、後者は「感覚をひらくことで、普段とは異なるものの見方が可能になること」をイメージしています。
これらの解釈はアーティストに委ねました。どちらか1つを起点にする人もいれば、2つを行き来しながら制作する人もいました。もちろん、こうしたテーマに興味を示してくれるであろうアーティストを選びました。若手アーティストはもちろん、ダンサーとして活動するAokidさん、長年インドネシアのバリ島を拠点に活動しているKANOKO TAKAYAさんや、普段はデザイナーとして活動している𠮷田勝信さんなど、いわゆるオルタナティブな作家が集まっていて。私自身も並走しながら、彼 / 彼女たちがキーワードを頼りに新しい試みに乗り出してくれることを期待しています。
参加者とアーティストが「学び合う」プログラム。行き交う人々の「生」に目を向けて
―本展の肝でもある参加型プログラムはどのようなものなのでしょう?
池田:各作家が2回以上実施するので、全部で20個以上のトークやワークショップなどのプログラムが展開されます。基本的に無料になっていて、会期が2か月弱あるので、3日に1回くらいは会場で何かしらのプログラムが行われているはずです。
プログラムの前提として、私は「ラーニング」という言葉が好きなんですよ。「エデュケーション」という言い方だと、先生から生徒へ一方的に知識が伝えられる印象になりますが、ラーニングにはみんなで平等に学び合うニュアンスがあります。参加者側の主体性を重視しているわけですね。そのためアーティストには、単純に技法を教えるのではなく、制作の手前を共有してみんなで意見交換したり、作家が新しくやりたいことにチャレンジできたりするようなコンテンツを準備してもらっています。
―なかでも池田さんが注目しているプログラムはありますか?
池田:もちろんすべておすすめなんですが、今回から「食」にフォーカスしたプログラムを用意しています。2024年にインドのナガランド州に滞在した陶芸家の坂本森海さんは、ご当地料理「ナガカレー」をモチーフにしたインスタレーションを展示中。関連して、実際にナガカレーをつくる料理教室を開きます。さらに、本来、陶芸とは日常の食事で使われるものであるという考えから、東京駅周辺にある都市の凹み(たとえば側溝など)やカケラに粘土をくっつけて焼成し、その容器に生地を流し込んでパンを焼くワークショップ『東京駅をパンにして食べる』も楽しみです。街の凹み型のパンを食べられます(笑)。
坂本森海の展示風景。奥は、豚を燻製する『囲炉裏』
他にも天然アスファルトで制作した写真原版を展示している𠮷田勝信さんは、ワークショップ『光の採集と複製』を「光を採集する」「光を複製する」という2回のシリーズとして行います。まだ𠮷田さん自身も手探りの実験的な技法をシェアすることで、参加者はアーティストとフラットな関係で感光の仕組みを検証することができるんです。
あるいは、ダンサーのAokidさんはワークショップ『何か作りたかった、なりたかった私、が、東京を作ってきたんだった。』 を4回も実施しますし、滞在制作のように通うそうなので会場によくいると思います(笑)。このように、全体として「ラーニング」の要素がかなり強くなっていますね。
𠮷田勝信『Specimen: Lumen #011 BUG Leaf』(2025年)
Aokidの展示風景より
―今回で『バグスクール』は3回目の開催になりますが、1回目からどのように変化してきたのでしょう?
池田:展示タイトルは1回目が「うごかしてみる!」、2回目が「野性の都市」で、今回が「モーメント・スケープ」。統一感がないんです(笑)。はじめに「まずは3回やってみましょう」とオファーをもらったので、どうしてもシリーズ化したくなったんですが、あえてそれをやめて。もちろん企画の大枠やそのなかで大事にしていることは変えていませんが、それぞれ別のテーマを立てた方が、多様な来場者に来てもらうきっかけになったり、何らかの可能性が広がったりすると考えたんです。
池田:初年度は『バグスクール』を立ち上げたばかりで、そもそもBUGという施設もできたばかりだったので、まずはギャラリーや企画そのものを「うごかしてみる」ことを想定しました。また参加型プログラムに身体性を持たせたかったので、体を「うごかしてみる」とかけて『バグスクール』のファーストステップとしました。
2回目の「野性の都市」では、BUGや『バグスクール』の体制は整ってきたものの、東京駅直結のスペースであることにまだ向き合いきれていなかったし、本来アートセンターは周辺の環境に開かれるべきだと思っていたので、「都市」をテーマに設定します。そして3回目となる「モーメント・スケープ」では、この場を行き交う人々に目を向けようと考え、「瞬間」というテーマから日常生活を送る人々の生をすくい上げるようなコンセプトにしました。だから、BUGの成長とともにテーマを選んできたようなイメージです。
―いまのアートシーンにおいて、池田さんが『バグスクール』ならではだと考える独自性はありますか?
池田:プロジェクトのフレームで言うと、展示と販売、そして参加型プログラムが同居している企画はほかにはあまりないと思います。もちろん参加型プログラムが充実したアートフェアもありますが、あくまで販売の補強や演出のためのものが多い印象です。『バグスクール』ではできる限り、そこをフラットにしたいと思っています。
それに『バグスクール』がコミュニティ化してきているのがおもしろい。ラーニングやワークショップにたびたび参加してくれる方が多く、メンバーも学生から会社員、アーティストまで多様です。それは固定化した共同体というより、ゆるやかにつながった学びのコミュニティという感じ。たとえば初回のイベントでお客さんとして来ていた学生さんが、2回目にアシスタントとして関わりたいと申し出てくれて、鑑賞プログラムをつくってもらったこともあります。コミットする人がBUGで何かできる可能性もあるということは、作品をともなう企画ではなかなか見られない光景かもしれません。
―最後に、これから展示に来てプログラムに参加したり作品購入を考えたりしている人にメッセージをお願いします。
池田:展覧会の鑑賞も、ほとんどの参加型プログラムも無料なので、ぜひ気軽に何度も立ち寄ってみてほしいです。会期中に変化していく展示でもあるので、きっと、来るたびに新しい発見があると思います。
7人の作家による展示をレポート——それぞれの「モーメント・スケープ」
BUGへ入ると、まずカフェの延長のようにラーニングスペースがある。テーブルやソファ、本棚、スタンドライト、そして額装された絵画やオブジェ。それらがプライベートな部屋のなかのような居心地を演出している。コーヒー片手にくつろいでもいいし、ここでさまざまなプログラムも行われるそうだ。
エントランスでまず目に飛び込んでくるのは、ダンサーのAokidによる薄いブルーの壁面。身体の感覚を起点とするドローイングや映像作品が散りばめられている。まるでAokidのプレイグラウンドだ。作品展示に加えて、来場者との共有地としてこの空間は開かれている。会期中にはアーティストが滞在制作のように会場に通い、日常的な練習から大胆なアクションまで実践。それらの痕跡が積み重なることで、唯一無二の風景が立ち上がるかもしれない。
Aokidの展示風景より
カフェと同じ素材を用いた仮設壁を抜けると、リトグラフ技法を使って版画作品をつくるアーティスト、芦川瑞季の展示が広がる。芦川のモチーフは移り変わる埋立地の風景。主に東京の埋立地で取材した風景を具体的に抽出しながら、それに紐づく自身の感覚や記憶の断片をドローイングとして描き加えている。そうしたさまざまな「モーメント」がリトグラフという不可逆な手法で一枚の版に統合されているのだ。空間には埋立地にある橋などの構造物を参考にした展示什器を設置。参加型プログラムは、BUG周辺の風景から身近な素材を用いて「使い道のない公園」をつくるワークショップだ。
芦川瑞季の展示風景より
湾曲したタペストリーのようなテキスタイル作品は、タツルハタヤマによるもの。本展では「帰り道」をテーマに、道中で咲く草花や生息する生物、そしてそれらを取り巻く風景をモチーフに、布のはぎれが縫い合わせられている。壁面には写真作品や詩もあわせて展開。参加型プログラムでは、たくさんの布のなかから思い思いに好きなものを選び、DIY精神で身につけるものを制作してみるワークショップ『DIYファッションスナップ』が開催された。
タツルハタヤマの展示風景より
向かいの八木恵梨によるインスタレーション作品には、スタッフが紐を引くと手形のオブジェが勢いよくテーブルを叩く仕掛けが施されている。モチーフは整理する盤上を象徴する「テーブル」と、予測不可能な他者を表す「半魚人」だ。手形がバンっと音を立てる「瞬間」の様子は、誰かの怒りのメッセージとも、一種のちゃぶ台返しとも受け取れる。絵画作品や「きゅうりの駒」、装飾されたトングなど、シュールなイメージが連鎖して独自の物語を立ち上げている。参加型プログラムは八木の考案した遊びを参加者と一緒に発展させていく『怒りとテーブルマナー』。
八木恵梨『半魚人の手』(2025年)、『きゅうり』(2025年)、『人魚の尻尾を持つ男』(2025年)
八木恵梨の展示風景より
ギャラリーの奥には、インドネシアを拠点に活動するKANOKO TAKAYAの作品が展示されていた。角には背骨をモチーフとした彫刻。BUGの高い天井への応答だという。レジンや粘土を固めたり研磨したりと、多様な素材や技法を試みながら肉感的で有機的なかたちの立体を制作している。マーブル柄のレリーフ『Core Bloom』や抱き枕みたいな作品『Lie with me』もおもしろい。参加型プログラムでは、粘土で自分の「相棒」をつくる『“Kone-Kone Tsuru-Tsuru Making 私の相棒”ワークショップ』が開かれた。
KANOKO TAKAYAの展示風景より
坂本森海は、陶芸の制作過程に関わる土や火、窯、食といった要素を、陶器のみならず映像やパフォーマンス、ワークショップなどいろいろな出力で表現するアーティストだ。2024年、インド北東部のナガランド州に滞在した坂本は、現地の日常食である「ナガカレー」に出会う。そこでは生きた豚の屠殺や囲炉裏での燻製といった光景が日々の生活のなかにあったそうだ。本展では豚と同程度の重量の粘土を用いて「生かす/殺す/窯にする/食べる」という行為を試みたアニメーションや、日本で暮らすナガ人へのインタビューをもとに制作した映像、そして焼き上げた窯などから構成されたインスタレーションを展開している。
坂本森海の展示風景より
坂本森海『黒陶の豚』(2025年)
坂本の展示空間は出口につながっていて、幕をくぐってカフェに出る。そのカフェ側の壁を使って展示されているのが、𠮷田勝信の作品だ。𠮷田はカフェスペースの全面ガラスから降り注ぐ自然光に着目。「光の採集」をテーマに、自ら採集したアスファルトを使って写真原版を制作し、展示空間には実験過程の資料に加え、光を複製し続けるカメラ・オブスキュラや原版を設置した。数千万年もの時間を内包する天然のアスファルトを用いると同時に、会期中も現在進行形で光を採集し続けることで、「Pile of Moment(積み重なる瞬間)」と「Catch Moment(とらえる瞬間)」両方のキーワードを行き来している。
𠮷田勝信の展示風景より
野外から見た𠮷田勝信の展示風景。光を複製し続けているカメラ・オブスキュラが外を向いて並んでいる
カフェの座席を通り抜けてラーニングスペースへ戻る。こうして鑑賞してきた本展は、各アーティスト独自のアプローチに開かれた、ポリフォニックな場を創出していた。いっぽうで「モーメント・スケープ」というテーマに則った芯のあるキュレーションに貫かれていたのもたしかだ。とはいえ同時に、このプロジェクトは鑑賞者の身体を介在させる余地があるとも感じた。それはおそらく、展示を鑑賞するだけでなく、ラーニングプログラムに参加したり作品を購入したりすることによって、より密にコミットできるよう意図的に残された「のり代」なのだろう。
『バグスクール』の歩みに耳をすませば、そこで響いている多種多様な足音に気づくことができる。そこから「鑑賞・体験・購入」を通して、自らも一歩を踏み出せば、それぞれの生の「瞬間」を彩るかけがえのない「風景」が立ち現れるはずだ。
池田は、「BUGは個人的に、インスティテューショナル(制度的)でありながらオルタナティブなスピリットをあわせ持ったアートセンターと捉えています。インスティテューショナルな場はしっかりと予算があってチームを組める反面、草の根的な活動をすくい上げるのが難しい場合があります。でも、BUGにはこうした実験的なプロジェクトを受け入れてくれる懐の深さがある。そんなBUG、そして『バグスクール』のプラクティスにこれからも期待してほしいと思います」と語った。
- イベント情報
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『バグスクール2025:モーメント・スケープ』
2025年12月17日(水)〜 2026年2月8日(日)
会場:東京 BUG
グループ展 × 参加型プログラム × 作品購入を組み合わせたアートプロジェクト。アーティストと対話し、学び合うなかでの作品購入体験を創出する。BUGの活動方針の一つであるキャリアの支援に基づき、作品販売経験の少ないアーティストにその機会を提供。売上は、アーティスト収入分、配送経費等を除いた全額を「セーブ・ザ・チルドレン」に寄付する。
参加アーティスト:
Aokid
芦川瑞季
KANOKO TAKAYA
坂本森海
タツルハタヤマ
八木恵梨
𠮷田勝信
- プロフィール
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- 池田佳穂 (いけだ かほ)
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インディペンデントキュレーター。2016年より東南アジアを中心に、アート・コレクティブ、DIYカルチャー、カルチュラル・アクティビズムの調査を行う。森美術館でアシスタントとして経験を積み、2023年春に独立。現在は、山中suplexの共同プログラムディレクター、およびアートセンターBUGのゲストキュレーターを務める。近年の主な展覧会およびラーニング事業の企画に、『バグスクール2024:野性の都市』(BUG、2024年)、『一人で行くか早く辿り着くか遠くを目指すかみんな全滅するか』(山中suplex、2024年)、『神戸六甲ミーツ・アート2024 beyond』(兵庫、2024年)などがある。そのほか、『T3 NEW TALENT』(T3 PHOTO FESTIVAL TOKYO)キュレーター部門に選出。国際芸術センター青森[ACAC]公募AIR2025ゲスト審査員。シャルジャ・ビエンナーレ16 キュレータープログラム参加。
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