さあ夏休み、大人も子どもも「つくる喜び」を。八重洲のアートセンターBUGが体験型ワークショップ開催

ついに今年もやってきた夏休み。どこに行こう、何をしよう——。ついつい手元のスマートフォンを触ってしまうけれど、時間があるこの夏休みこそ、手を動かしてつくること、表現することに向き合いたい。大人も子どもも、きっと何か発見があるはず……。

東京駅八重洲南口直結、アートセンターBUGは、大人から子どもまで参加できるワークショップを中心としたプログラム『Summer Studio 2025 手からうまれる創造』を開催中だ。アートやデザインはもちろん、陶芸や漆器、建築など、さまざまな分野から講師を招き、多様な表現に触れることで、つくることの喜びを味わってもらうことを目的としている。

今回は、そんなプログラムに先駆けて行われた、アートディレクター/グラフィックデザイナーの居山浩二さんを講師に迎えたワークショップを詳報する。「世の中は全てデザイン」と話す居山さんとともに、参加した中高生はどんな表現をしたんだろう? 講師やキュレーター、参加者の言葉も交えながら、先駆けたひと夏の冒険を、レポートする。

名画をマスキングテープで再解釈

7月中旬のとある日曜日。セミの声は聞こえなくとも、ジリジリと肌を焼く強い日差しが来る夏休みの空気を感じさせる。キャリーケースを引く人々をかき分け、東京駅八重洲南口直結のビルへ。

1階にアートセンター「BUG」があるビル内、この日はワークショップが開かれている別の会場へ向かう。会場の部屋に入ると、マスキングテープの鮮やかな色彩が目に飛び込んでくる。そして、そのマスキングテープを切ったり、ポスターに貼ったり、24人の中高生たちが黙々と制作に集中していた。

中高生は、誰もが一度は目にしたことがあるような名画を、マスキングテープを使ってポスターとして表現しようとしていたのだった。よくよく見ていると、そのまま模写しているわけではないようだ。それぞれの解釈によってアレンジを加え、あたらしい作品を生み出そうと模索していた。

これは、BUGが開催している『Summer Studio 2025 手からうまれる創造』の取り組みの一環。アートディレクター/グラフィックデザイナーの居山浩二さんを講師に迎えたワークショップだ。ここでつくられた作品は、BUGの展示スペースで8月31日まで展示されている。

2023年9月に、株式会社リクルートホールディングスが運営するアートセンターとしてオープンしたBUG。さまざまな展覧会をはじめ、年に1度のアワード『BUG Art Award』や、アーティスト/アートワーカーの支援も行っている。

『Summer Studio 2025 手からうまれる創造』は、昨夏からスタートした取り組みだ。9つのワークショップを中心としたプログラムで、小学生から大人まで、誰もが「つくる体験」に参加できる。

今回はそれらのワークショップに先駆けて7月に開催された『マスキングテープで描く名画、名作ポスター』のようすを詳報したい。

アートディレクター、居山浩二さんが講師に

マネ、モネ、ゴッホに北斎、高橋由一……。B1(728mm×1030mm)という大きなサイズに、参加者の中高生それぞれが一心にマスキングテープを貼りつけていた。取材に訪れたのは、3日間にわたるワークショップの最終日。制作は大詰めのようで、静寂のなかにペタペタ、ガサガサ、ピリピリ、作業の音だけが忙しなく響き、参加者が真剣な眼差しで「キャンバス」に向かっていた。

カモ井加工紙「mt — マスキングテープ」をはじめ、資生堂「ホリデーコレクション」、集英社文庫「ナツイチ」キャンペーンなどを手がけたアートディレクター/グラフィックデザイナーの居山浩二さんを講師に迎えたこのワークショップは、はじめに居山さんが自らの仕事を紹介したのち、マスキングテープを使って名画を表現する作品の制作に取り掛かるというものだった。居山さんは、名画を模写するだけではなく「自分なりのアレンジを加えてみよう」と呼びかけた。

一足先に制作を終えていた中学1年生の原田愛子さんが選んだ名画は、クロード・モネの『日傘をさす女』。描かれた絵画の時間帯を夕方に変えたといい、背景をピンク色のマスキングテープを使って表現した。「ドレスの色は変えなかったことがポイントで、状況だけアレンジし、世界観をつくりました」と話していた。

同じくモネの『チャリング・クロス橋』を選択した中学2年生の山口紗和子さんは、描かれた船が「宇宙船のように見えた」ことから、さりげなく宇宙人を加えるというアレンジを施した。「マスキングテープで再現するために、もとの絵をよく見たんです。すると、ぼんやりと橋と建物があることに気づきました。これから美術館に行ったとき、以前とは違う視点で、じっくりと作品を見れるようになると思いました」と話した。

一緒に会場を訪れていた母親の公美子さんに話を聞くと、体験型のイベントをSNSで調べるうちにこのワークショップを知り、紗和子さんに声をかけたそう。前日には作品を家に持ち帰り、少しだけ手伝ったという公美子さんは「それぞれ担当した画角の雰囲気が違って、感性ってそれぞれ違うんだなあと思いました」と笑った。

また、居山さんの仕事紹介に触れ、「世の中で私たちの知らない仕事が増えるなか、普段の生活では見えない仕事もたくさんある。身の回りのパッケージひとつとっても、さまざまな人の仕事が関わっていると知ることができて良かった」と話していた。

「世の中は全てデザイン」。表現に触れる可能性

制作が続くなかで、参加者のもとをめぐり、作品を見ていた居山さん。講評では一人ひとりの作品をめぐり、画角やアレンジ、マスキングテープの使い方など、それぞれ参加者の視点の面白さについて感想を話していた。全体講評では「皆さんの解釈と表現に刺激をもらいました」としたうえで、「視覚表現が好きな人、そうでもない人もいたかもしれない。いずれにしても、デザインやアートに触れる、知ることは、社会に出て役立つし、社会が必要としていることでもあります。つくること、見ることにぜひ関心を持ち続けて」とエールを送った。

あらためて居山さんに話を聞くと、「みなさん、集中力がすごかったね」と笑って振り返った。

今回の企画について、「マスキングテープアートは、絵の具などの材料やその準備もいらないという点もあって、ときどきワークショップをしていたんです。昨年、岡山で大きな屏風に桃太郎の物語を巻物みたいに、マスキングテープで描いていくという取り組みをしたんですが、参加者がもの凄い集中力で取り組んでいたのが印象的でした。今回もサイズに悩みましたが、あのときのような集中力があれば完成するだろうと思って、B1サイズを選んだんです」と語った。

『Summer Studio 2025 手からうまれる創造』のプログラムについても、その意義を聞いてみると「僕は、小学校で国語や算数に並んで、デザインの勉強をしたほうがいいと思っていて……」と答えた。

「だって、生活に密接に関わるものだから。デザインはコミュニケーションであり、何かしらのルールを決めるのもデザインなんです。例えばこれからAさんに連絡を取りたいとしたら、どんな手段や方法、言葉を選択する? それもデザイン。水の入ったコップひとつ、テーブルのどこに置くのか? それもデザイン。何を選ぶかが、デザインなんですよね。だから、世の中は全てデザインされていると言っていい。たとえ将来、つくり手にならなかったとしても、デザインを知っていると世の中の見え方が変わると思うんです」

「(子どもたちは)いろんなきっかけがあって、将来を考えると思う。もしかしたら、今回のワークショップのような機会がそのきっかけになるかもしれない。可能性がたくさんあるなかで、デザインやアートにも、興味を持ってもらえるといいと思います」

好きなことを大切にすることと、手を動かす喜びと

講評が終わったあとも、まだまだ足りないとばかり、作品に向かう参加者の姿も。高校2年生の満園紗江良さんが選んだのは、エドゥアール・マネの『すみれの花束をつけたベルト・モリゾ』。満園さんは、作品の背景を鑑みて「絵画に描かれたこの女性(モリゾ)は、当時ハッピーな気持ちだったのでは?」という解釈をもとに、明るくカラフルな色調にアレンジした。

美術部に所属しているという満園さんは、進路について考えている最中だといい今回、情報収集も目的のひとつとして参加したという。居山さんが美術大学を卒業したのちに活躍していることから、今後の道筋の一つを知ることができた、と話していた。また「マスキングテープだからこそできる味が出せて、すごい楽しかったです」と笑顔を見せた。ちなみに、今回の作品には遊び心も忍ばせていて、香水をイメージして、香り付きのマスキングテープをモリゾの首筋に貼り付けたのだと笑っていた。

『Summer Studio 2025 手からうまれる創造』には、若者にアートに関わる「仕事」に触れてもらい、多様な生き方や働き方を知ってもらいたい、そして、将来の選択肢が広がるきっかけになってほしい、という思いも込められているという。

またそれだけではなく、プロとして活躍しているアーティストやクリエイターと出会うことで、「好きなことを大切にする気持ち」「自ら考えてつくる楽しさ」を育む機会にしたいとしている。『Summer Studio 2025 手からうまれる創造』のワークショップを企画した、キュレーターの小高真紀子さんは、「子どもだけではなく、大人にも気づきがあるようなワークショップにしたいと思いました。デジタル隆盛のこの時代、実際に来て、接して、手を動かして……つくりながら発見していく体験をしてもらいたい。そして『ちゃんときれいにつくろう』と気負わずに、『自由に形にしていくことの楽しさ』を体験してもらえればうれしい」と話した。

「表現はコミュニケーションだから、自分の感情や思いの伝え方を工夫するということでもあると思います。自分がつくった、という体験の積み重ねが、自信にもつながっていくと思うんです。(ワークショップは)アート、デザインに限らず、例えば建築や工芸の分野の講師もいらっしゃるので、バリエーションも豊富です。興味の方向を広げて、参加者の『気づき』につながればいいなと思っています」(小高真紀子)

アート、デザイン、建築、陶芸……さまざまな体験を

『Summer Studio 2025 手からうまれる創造』の会期中ワークショップは以下の通り。参加には事前予約が必要で、材料費は各回1,000円。展覧会をはじめ、その場で制作できるコーナーも常設。マスキングテープで缶バッジづくりを体験できる。BUGは「ぜひ気軽に立ち寄ってほしい」としている。

▼マスキングテープで写真をデザインしよう
講師:居山浩二(アートディレクター/グラフィックデザイナー)
日程:2025年7月30日(水)、8月31日(日)

▼ニコニコでリメイク!
講師:とんぼせんせい(アーティスト/イラストレーター)
日程:2025年7月31日(木)、8月17日(日)

▼からだモデュール〜自分のものさしを作ろう〜
講師: HAGISO(建築デザインチーム)
日程:2025年8月2日(土)、8月7日(木)

▼立体どっとこオブジェをつくろう
講師:中村至男(グラフィックデザイナー / アートディレクター)
日程:2025年8月3日(日)、8月30日(土)

▼とうげい?とうげい!
講師:SHOKKI(セラミックレーベル)
日程:2025年8月9日(土)

▼「名画修復したい大会」自分の手で終わらせたい
講師:LEE KAN KYO(アーティスト)
日程:2025年8月10日(日)、8月24日(日)

▼ステキスタイル!
講師:田中景子(ミナ ペルホネン)
2025年8月22日(金)

▼輪島塗の沈金技法でオリジナルおはしをつくろう」
講師:芝山佳範(漆芸家/沈金師)
日程:2025年8月23日(土)

▼ゆらゆら癒しのインテリア・モビールをつくろう
講師:今井淳二郎(マニュモビールズ代表)
日程:2025年8月27日 水、8月28日 木

ワークショップ一覧
イベント情報
『Summer Studio 2025 手からうまれる創造』ワークショップと展覧会

2025年7月30日(水)〜8月31日(日)
会場:東京 BUG
小学生、中学生、高校生を主な対象にアーティストやクリエイターたちが講師となって多彩なワークショップを開催。会期中は、 中高生が制作したマスキングテープアートポスターが展示され、9名の講師によるワークショップや、こどもから大人まで気軽に体験できる缶バッジづくりコーナーなど、さまざまな参加型のイベントが開かれる。

■講師一覧
居山浩二(アートディレクター/グラフィックデザイナー)
今井淳二郎(マニュモビールズ代表)
芝山佳範(漆芸家/沈金師)
SHOKKI(セラミックレーベル)
田中景子(ミナ ペルホネン)
とんぼせんせい(アーティスト/イラストレーター)
中村至男(グラフィックデザイナー / アートディレクター)
HAGISO(建築デザインチーム)
LEE KAN KYO(アーティスト)


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