up coming artist

斜陽な時代だからこそ、変化を受け入れて前に進む——SYAYOSを『フジロック』出演前に紐解く

音楽ライター、金子厚武の連載コラム「up coming artist」。注目の若手アーティストを紹介し、その音楽性やルーツを紐解きながら、いまの音楽シーンも見つめていく。第14回目にフォーカスするのは、今年のFUJI ROCK FESTIVAL ’26「ROOKIE A GO-GO」に出演するSYAYOS(シャヨウズ)だ。

言わずもがなかもしれないが、「ROOKIE A GO-GO」は新人アーティストたちの登竜門と呼ばれ、かつてはASIAN KUNG-FU GENERATIONをはじめ、King Gnuや羊文学らがそのステージを踏んできた。約3,800組の応募のなかからオーディションによって選ばれた今年のルーキーは16組。

その切符を勝ち取った1組であるSYAYOSは、2024年7月に結成され、長野県伊那市を拠点に活動する20代前半の4人組。結成からわずか1年で1st Album『Anthem 1.1』をリリース。さまざまな表情をみせる楽曲で、広いジャンルのファンから注目を浴びているバンドだ。

太宰治の代表作『斜陽』を想起させるバンド名だったり、「さよなら」が目立つ歌詞だったり……そんな側面からも、現代の「時代精神」のようなものもうかがえる。非常に濃い面々が揃うフジロック3日目の深夜を飾るアーティストは、いったいどんなバンドだろう? 『Anthem 1.1』を軸に、じっくり紐解いていく。

音楽は好きだけど、最近、新しいアーティストに出会えていない……情報の濁流のなかで、瞬間風速的ではない、いまと過去のムーブメントを知りたい……そんな人に、ぜひ読んでほしい。

本稿で紹介したアーティストの楽曲をプレイリストにまとめました。ぜひ!

長野県伊那市拠点、20代前半の4人組。ジャンルに縛られない1stアルバムの「音響的センス」

今年も「フジロック」の季節がやってきた。ヘッドライナーにThe XX、KHRUANGBIN、MASSIVE ATTACKが並び、日本からはFujii Kaze、XG、Hi-STANDARD、ASIAN KUNG-FU GENERATIONらの出演も話題を呼んでいるが、国内の早耳リスナーであれば見逃せないのが「ROOKIE A GO-GO」の出演者。

一昨年はkurayamisaka、昨年はテレビ大陸音頭、Trooper Salute、雪国、yubiori、梅井美咲と、この連載でも取り上げているアーティストが多数名を連ねていたが、今年の出演者の中で個人的に特に注目しているのが、最終日の7月26日に出演するSYAYOSだ。

SYAYOSは2024年7月に結成され、長野県伊那市を拠点に活動する20代前半の4人組。最初のリリースは同年11月に発表された“Telescope”だが、僕がこのバンドをちゃんと認識したのは2025年8月に発表された1stアルバム『Anthem 1.1』からのリードトラックである“Spaceboy”だった。

幻想的なイントロに始まり、前半はカネコアヤノなどを連想させるすずきひなの凛としたボーカルが引っ張るが、徐々にバンドの熱量が高まっていき、〈I wanna be spaceboy〉のフレーズと共に爆発する5分40秒は、近年増えたシューゲイザー系のバンドとは一線を画すもの。往年のプログレバンド(※)のようなアートワークも含め、同じ長野出身のOGRE YOU ASSHOLEや、あるいはTempalayの系譜を受け継ぐような、曲タイトル通りのサイケなスペースロックを鳴らす新人の登場のように感じられた。

※ プログレッシブ・ロック。1960年代後半にイギリスで誕生したジャンル。クラシックやジャズの要素を取り入れ、高度な演奏技術と長大で複雑な楽曲構成が特徴。

しかし、アルバム全体を聴いてみると、その予想はとてもいい意味で裏切られていった。1曲目の“Spaceboy”に続く“さよならbaby”はLRに振り分けられたアコギのリフがポリリズムを刻み、そこに4つ打ちのビートが入ってくるBPM120ほどのテクノだし、3曲目の“Last Dance”は一転してパンクナンバーなのだが、歪んだギターは鳴らされず、やはりLRに配置されたギターが奇妙な空間をつくりだす。

4曲目の“形”ではボーカルがエディットされていて、“柔らかい圧力”は音数を絞ったミニマルなフレージングが特徴で、後半のエフェクティブなポストプロダクションも聴きどころ。今年の3月にリリースされた最新曲の“Lane”もこの曲の延長線上にあるミニマルな仕上がりで、この路線はSYAYOSのベーシックの一つのようだ。なお、『Anthem 1.1』は全曲の作詞作曲を手がけるベースの木下渉平がミックスも手がけているそうで、音響的なセンスにも非凡なものが感じられる。

SYAYOSというバンド名が太宰治の『斜陽』(※)から取られているのかは定かではないが、少なくともこの言葉をバンド名に選んでいるということは、かつてに比べて国としての力が弱まり、格差が広がり、未来に対しての漠然とした不安を抱えている現代の20代前半の時代精神を表していると言っていいだろう。この感覚は、川端康成の小説からバンド名を取った雪国の楽曲から感じられる、社会への違和感や心許なさともたしかに通じるものだ。

※ 太宰治『斜陽』は、没落貴族の家庭を舞台に、「真の革命のためにはもっと美しい滅亡が必要だ」という悲壮な心情を、登場人物の滅びの姿から描く太宰の代表作。昭和22年に発表され、「斜陽族」という言葉を生んだ。

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初期くるりや赤い公園に通じる要素も? 太宰治『斜陽』を冠するバンドの時代精神

あくまでバンドサウンドを基調としながら、興味の赴くままに雑多なジャンルを吸収して、最終的にはポップソングとして着地させる手腕はTropper Saluteらと時代感を共有しつつ、初期のくるりや赤い公園あたりと比較をしても良さそうだ。

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特にくるりに関しては、“さよならbaby”を聴いて、“WORLD’S END SUPERNOVA”を連想する人もいるだろうし、“形”の最後に出てくるフレーズは“ばらの花”と“ハイウェイ”の中間のようだったりと、おそらくは直接的な影響も受けているのだろう。くるりやカネコアヤノ的なソングライティングと、赤い公園にも通じるポストロック由来の緻密なフレージングや音響構築を併せ持つとなれば、それは幅広い世代の音楽好きが放っておかないのも当然だ。

アルバム後半の“有名な果物”や“Pigment”はよりフォーキーな歌ものとしての側面を見せつつ、“Pigment”で出てくる歪んだギターが醸し出すオルタナ感はやはりグッとくる。

そして、最初にリリースされた曲であり、アルバムではラストに置かれた“Telescope”もかなりの名曲。耳に残るリフレインを鳴らしながら、5分15秒で雄大な風景を立ち上げるサイケデリックジャーニーだ。伊那市で育った10代の頃は自分たちの街のことしか知らず、Telescope=望遠鏡で覗いてもそれは「ただの景色」でしかなかったが、音楽を通した旅をすることでそれぞれの場所に血の通った人々の生活があることを知っていく……そんな感動的な物語が描かれている。

繰り返される「さよなら」から感じる諦念と強さ——フジロック3日目の深夜を飾る

“さよならbaby”はもちろん、“Spaceboy”でも〈さよなら私 さよならあなた〉と歌われているように、歌詞に繰り返し「さよなら」が出てくるのも印象的。「さよなら」はくるりやカネコアヤノの歌詞でもよく用いられているので、そこも親和性があるし、井伏鱒二の「さよならだけが人生だ」(※)のように、ある種の諦念と、それを受け入れるからこその強さを感じさせる言葉でもある。

※ 唐時代の漢詩「勧酒」の結句を、井伏鱒二が訳したことで知られる一節。

“さよならbaby”の〈曖昧な感覚忘れたくなかった でも置いてくよ 寂しいけど I said go〉は、モチーフになっていそうな“WORLD’S END SUPERNOVA”の〈いつまでもこのままでいい それは嘘 間違ってる〉を受けての、時を超えたアンサーのようでもある。斜陽な時代だからこそ、変化を受け入れて前へ進んでいこうとする、SYAYOSというバンドの核にあるメッセージを表しているように感じられる。

残念ながら僕はまだSYAYOSのライブを実際には体験していないのだが、YouTubeにはライブ映像がいくつか上がっていて、それを見ていると「ROOKIE A GO-GO」でのステージも期待が高まる。音源ではアコギを多用していたり、ポストプロダクションも重要な要素となっている一方、ライブはシンプルな4ピースの編成で、フィジカルな演奏の良さを味わえることだろう。

なお、今年の「フジロック」の3日目には、その再結成が現在のライブハウスシーンにおけるオルタナの盛り上がりに大きく寄与したthe cabs、イギリスにおける轟音ポストロックの始祖的な存在のMOGWAI、ミッドウェストエモのレジェンドであるAMERICAN FOOTBALLの3組が揃って出演するし、さらには元black midiのジョーディ・グリープ、「時空の旅人」を自称する謎多きカナダのデュオ・Angine de Poitrine、さらには日本のサイケ代表・Tempalayと、実に濃密なラインナップが並んでいる。

そんな日の深夜、25時からライブをスタートさせるSYAYOSが1日をどう締め括ってくれるのか、いまからとても楽しみだ。

イベント情報
FUJI ROCK FESTIVAL ’26

SYAYOS出演日:7月26日(日)25:00〜25:30
場所:新潟県 湯沢町 苗場スキー場
ステージ:ROOKIE A GO-GO
プロフィール
SYAYOS (シャヨウズ)

2024年7月結成。長野県伊那市を拠点に活動中2024年11月に1st single『Telescope』をデジタルリリース。2025年1月から東名阪でのライブ活動中。結成から1年後、2025年8月に1st Album『Anthem 1.1』をリリース。『Anthem 1.1』はCDでもレコードでもない、フィジカルの形を模索し、 楽曲データ付きのlyric card box『Anthem 1.1 physical』も同時販売中。



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