音楽ライター、金子厚武の連載コラム「up coming artist」。注目の若手アーティストを紹介し、その音楽性やルーツを紐解きながら、いまの音楽シーンも見つめていく。第11回目にフォーカスするのは、ピアニスト・作編曲家であり、トラックメイクから歌唱までも自ら行う音楽家、梅井美咲だ。
2002年3月生まれ、現在24歳の梅井美咲。ピアニスト、音楽家としての活躍に加え、菅野咲花とのユニット「haruyoi」、北村蕗とのユニット「°pbdb」としても活動している。2025年にはソロ初となるアルバム『Asleep Above Creatures』をリリース。本作はASIAN KUNG-FU GENERATIONの後藤正文主宰の「APPLE VINEGAR -Music Award-」にノミネートされた。
また、ゆっきゅん、坂東祐大、藤原さくら、吉澤嘉代子といったさまざまなアーティストの作品にも関わっていて、ジャンルを横断して存在感を放つ。彼女の活動から見えてくるのは、2000年代生まれの表現者がさまざまなかたちで結びつき、インターネット浸透以降の感性を持って自らの表現を追求する、エキサイティングな現代のシーンだ。今回は、そんな梅井のこれまでの歩みと、同世代アーティストたちとの共振を紐解いていく。
音楽は好きだけど、最近、新しいアーティストに出会えていない……情報の濁流のなかで、瞬間風速的ではない、いまと過去のムーブメントを知りたい……そんな人に、ぜひ読んでほしい連載です。
未知を求めて音楽で旅を続ける表現者——ピアノ、作編曲、トラックメイクから歌唱まで
梅井美咲は2002年3月生まれ、現在24歳の音楽家。アカデミックに勉強をしたクラシック、セッションを通じてほぼ独学で身につけたジャズ、その両方を高いレベルで併せ持つピアニスト・作編曲家であり、近年ではトラックメイクから歌唱までを自ら行い、未知を求めて音楽で旅を続ける気鋭の表現者である。
梅井美咲(うめい みさき)
2002年兵庫県生まれ。4歳よりピアノ、6歳よりエレクトーン、作曲を始める。数々のピアノ、エレクトーンコンクールにて入賞を果たし、東京音楽大学作曲科卒業。25年7月、ソロ名義では初となるアルバム『Asleep Above Creatures』リリース。26年1月、シングル「L a d y」をリリース。4月には渋谷WWWでの単独ライブを開催。ピアニスト、音楽家としての活躍に加え、菅野咲花とのユニット「haruyoi」、北村蕗とのユニット「°pbdb」でも活動している。
ピアノの先生だった母親の影響もあり、4歳からピアノ、6歳からエレクトーンを始めたという梅井。高校は地元の兵庫県立西宮高校の音楽科作曲専攻に進み、クラシックを勉強しつつ、この頃からジャズにも強い興味を持ち、学外でセッションを開始。
もともと譜面を見ながら演奏するよりも、即興演奏が好きで、その延長で作曲も始めたという特性もあってか、その存在はすぐに注目を集め、『BLUE GIANT NIGHTS』のオーティションでグランプリを獲得。Blue Note Tokyoで上原ひろみやケンドリック・スコットと共演したことは、彼女の早熟な才能を印象付ける。
2020年には東京音楽大学の作曲科に進み、クラシックをアカデミックに追求しながら、2021年には「梅井美咲トリオ」名義でのアルバム『humoresque』を発表し、クラシックの和声とジャズの即興が入り混じる梅井らしさをすでに確立している。
大学入学とともにコロナ禍となり、演奏活動が制限される時期も経験したが、部屋で過ごす生活のなかでDTMを使った打ち込みを開始。地元の同級生だった菅野咲花との歌ものユニット・haruyoiを本格始動させ、2023年にアルバム『euphoria』のリリースへと結実させた。
2025年、ソロ初のアルバムリリース。ジャズやクラシックという枠を大きく飛び越えて
こうした活動と並行させながら、2023年2月リリースの「prose-op.1」からゆっくりとソロ活動を開始し、その最初の集大成となったのが2025年7月に発表されたアルバム『Asleep Abpve Creatures』。端正かつテクニカルなピアノトリオ編成を基調としつつ、弦楽四重奏を招いた美しく優雅な曲もあれば、ジャズのシーンを軸としながらそのメタリックなプレイが異才を放つギターの小金丸慧を迎えたオルタナ〜プログレ色の強い曲もある。
かと思えば、打ち込みをベースにオートチューンを用いて自ら歌唱するエレクトロニカ系の楽曲もあったり、2010年代の「ミナス新世代」を代表するブラジルの音楽家、アントニオ・ロウレイロをゲストに迎えた曲もあったりと、この時点での梅井の音楽的な興味を詰め込んだ作品となった。
アルバムリリースの直前に出演した「フジロック」の「ROOKIE A GO-GO」のステージも話題となり、年明けにはASIAN KUNG-FU GENERATIONの後藤正文主宰の「APPLE VINEGAR -Music Award-」に『Asleep Above Creatures』がノミネート。2025年の活動を通じて、彼女の存在はジャズやクラシックといったカテゴライズを大きく飛び越え、より多くの音楽ファンからの注目を集めるようになったと言える。
ゆっきゅん、坂東祐大、吉澤嘉代子……さまざまな音楽家と関わりながら。北村蕗との「°pbdb」も
梅井の特徴としてもう一つ、さまざまな音楽家と関わりながら活動をしていることが挙げられる。ゆっきゅん、坂東祐大、吉澤嘉代子、藤原さくらの作品に演奏や作曲で関わっていて、それは尊敬する先輩であり、同じようにさまざまな音楽家と関わりながら活動を続ける石若駿や君島大空の存在が大きいことは間違いないだろう。
昨年はblack midiのジョーディ・グリープの日本ツアーにサックスの松丸契らとともに参加し、ラッパーのSkaaiによる生演奏を基盤としたアルバム『Gnarly』にも参加するなど、そのジャンル横断的な立ち位置はますます強まっている。
そんな梅井の現時点での最新曲が、今年の1月にリリースされた「L a d y」。彼女は『Asleep Above Creatures』の制作後、自らの歌と打ち込みを主体に、ミックスとマスタリングまでを手がけた「Tear.:*+」を制作し、アルバムの手前でリリースをしていて、「L a d y」もその延長で、セルフプロデュースでつくられた一曲。コラージュ的に音を散りばめつつ、ファンタジックで浮遊感のあるエレクトロポップに仕上げられた「L a d y」は、彼女のトラックメイカーとしてのさらなる前進を示すものだ。
ビートミュージック的な側面も強めつつ、グリッドには規定されない、そのしなやかなグルーヴは、独自のタイム感でピアノを演奏する梅井ならではのもの。彼女は同じく鍵盤奏者で、シンガーであり、トラックメイクを行う北村蕗との交流があり、2人によるユニット「°pbdb」としても楽曲を発表。ドラムンベースにも接近するなど、よりダンスミュージック的な志向の強い北村からも刺激を受けつつ、独自の作風を追求する過程にあると言えそうだ。
ちなみに、この路線に関して、個人的には2010年代から異質な存在感で作品を量産する電子音楽家・Serphとのリンクを感じている。『Asleep Above Creatures』のアートワークにはクジラが描かれていたが、Serphは以前、葉祥明の同名絵本を原作にしたプラネタリウム作品「イルカの星」の音楽を書き下ろしていたように、音楽自体に加え、どこかSFチックな世界観にも共通するものがあるように思う。
「2020年代的」背景と、その閉塞感を打ち破る力。現代シーンは表現者同士の共振がエキサイティングだ
ピアニスト、トラックメイカー、シンガーとして、自らの「好き」を自由に、ダイナミックに表現していく梅井美咲は、まさに現代的な表現者だと言っていいだろう。コロナ禍があったからこそ、演奏を突き詰めるだけではなくDTMを始めたこと——デジタルのツールが進化して、誰にとっても手を出しやすい分野になっていたという時代背景も、やはり2020年代的だ。SNSでは何かの表現を志したり、夢を語ることに対して冷ややかな視線が投げかけられ、「冷笑」がトレンドワードとなってしまう状況もあるが、彼女の表現はそんな閉塞感を打ち破るものでもある。
ではなぜ、梅井が時代の雰囲気に左右されずに活動できるのか。それは、彼女が憧れたフランク・ザッパからブラッド・メルドーに至るレジェンドたちの意思を受け継いでいることに加え、アカデミックな背景を持ちながら、ポップフィールドとアンダーグラウンドを自由に行き来する上の世代の活躍——石若駿とともにCRCK/LCKSで活動し、ceroやKIRINJIのサポートもする小田朋美や、自らのソロで即興もトラックメイクも混ぜ合わせつつ、TK from 凛として時雨からAdoまでをサポートする和久井沙良ら——を、すぐ間近で見てきた影響はとても大きいと言えるだろう。
梅井と北村、そしてShöka名義でも活動する菅野咲花。さらに、先日Shökaとコラボ曲「Stab at the light『』」を発表し、雪国のサポートも務めるrilliumや、弾き語りとバンド形態を並走させるゆうさり——2000年代生まれの表現者がさまざまなかたちで結びつきながら、インターネット浸透以降の感性を持って、自らの表現を追求している現代のシーンはとても興味深く、エキサイティングだ。
先日4月18日に、梅井は初のスタンディングでの単独公演『"Nobody (but you)”』を渋谷WWWで開催。エレクトロニックセット、WWWのグランドピアノを使用したソロ演奏、ドラムの海老原颯を迎えてのデュオセットと、多彩な形態で表現者としての現在地を示してみせた。
「Nobody (but you)」は「L a d y」の歌詞からの引用で、彼女は「It’s you lady, nobody(But you)/It’s you lady/Star,get it/(I don’t wanna be the same me)」と歌っている。あなたはほかの誰でもないあなただし、でもいつまでも同じ私ではいたくない。そんな強いアイデンティティと、変わっていくことへのアンビバレントな揺らぎを両方抱えながら、いつの日か光り輝く星を掴むまで。彼女の音楽の旅はこれからも続いていく。
- イベント情報
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『若井優也 & 梅井美咲 ピアノ・デュオコンサート in ムジカーザ』
日時:2026年6月3日(水)
会場:ムジカーザ(代々木上原)音楽フェスティバル『FUJI & SUN』出演
日時:2026年6月6日(土)
会場:富士山こどもの国(静岡県富士市桑崎1015)『MUSIC AWARDS JAPAN WEEK SPECIAL LIVE~“NOT A SCENE. A STATEMENT. | WaJAZZ”~Billboard Live TOKYO』出演
日時:2026年6月9日(火)
会場:Billboard Live TOKYO(東京・六本木)
- プロフィール
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- 梅井美咲 (うめい みさき)
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2002年兵庫県生まれ。4歳よりピアノ、6歳よりエレクトーン、作曲を始める。数々のピアノ、エレクトーンコンクールにて入賞を果たし、東京音楽大学作曲科卒業Rolling Stone誌が選ぶ日本代表25組「Future of Music」に選出。FUJI ROCK FESTIVALʼ 25「ROOKIE A GO-GO」に出演。25年7月、ソロ名義では初となるアルバム『Asleep Above Creatures』リリース。26年1月、シングル「L a d y」をリリース。4月には渋谷WWWでの単独ライブを開催。ピアニスト、音楽家としての活躍に加え、菅野咲花とのユニット「haruyoi」、北村蕗とのユニット「°pbdb」での活動など次世代を担う音楽家としてシームレスな活動が注目を集めている。
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