志磨遼平に聞く、反戦シングルのリリースと、毛皮のマリーズ1stアルバム改題。民主主義の危機に鳴らす抵抗のノイズ

写真:毎日新聞社/アフロ(「ノイズ時代」ジャケット=画像左)

「毎朝目覚めるたびに悪くなってゆく世界で、希望を持つことに疲れつつあるのはぼくも同じです。そんなときは、古い本をひもときましょう。映画を観ましょう。レコードを聴きましょう。これも立派な抵抗のかたちです」

バンド・ドレスコーズを率いる志磨遼平。憲法記念日である5月3日、ドレスコーズは「反戦シングル」として「ノイズ時代」をサプライズでリリースした。先立って3月には、志磨がかつてフロントマンをつとめた毛皮のマリーズの1stアルバム『戦争をしよう』を「ファースト」に改題すると発表している。

その思いを探るべく、メールで取材を依頼した。一連の動きをめぐる背景はもちろん、音楽や芸術を通して反戦の思いを伝えていくことについて、そしていまこの世界のなかでどうありたいか……9つの質問に対して、テキストで想いを綴ってくれた。

届いた回答をそのまま全文掲載する。

憲法記念日に「反戦シングル」をリリースした理由

—5月3日、ドレスコーズの「反戦シングル」として「ノイズ時代」をリリースされました。なぜサプライズ配信にしようと思われたのでしょうか? また、憲法記念日を選んだ理由について教えてください。

志磨遼平(以下、志磨):サプライズ配信も、憲法記念日を選んだのも、このシングルが今の情勢に抵抗する目的でリリースされた作品であることを明確にするためです。誤解を招く余地をなくすため、ともいえます。

この “ノイズ時代” は歌詞を読めばお分かりのとおり、ぼくらの思想や表現の自由、差別や拷問の禁止、戦争また武力行使の放棄といった憲法の定めについて歌っています。これをリリースするのに憲法記念日ほどふさわしい日はないだろう、というのがその理由です。

—「ノイズ時代」というタイトルについて、Xの投稿を参照すると、この「ノイズ」は抵抗のノイズであるのかと思いました。タイトルに込めた意図を教えてください。

志磨:ご推察のとおりです。少数派の意見を多数派が「取るに足らないノイズ」と切り捨てることは往々にしてありますが、一見正しいように見える多数派の醸成した空気がかつてこの国を戦争や侵略に駆り立てたことを思うと、今はノイズを鳴らさずにはいられません。幸い、バンドマンはノイズが得意ですので、こういうときはお役に立てます。いつもうるさいうるさいと言われてきました。

いよいよ自分たちの民主主義が危機に瀕している

—“ノイズ時代”は、フォークを荒々しいノイズにのせたそのサウンドに対して、歌詞は詩的で穏やかさすら感じます。荒々しい感情と冷静な意思の、両足で立っているように感じました。そして、いつもとは少し違う、地に近いような声の出し方をされています。“ノイズ時代”という楽曲の構成には、どんな意図や背景がありますか? 理由や思いとともに教えてください。

志磨:少し長くなりますが、聞いてください。

“ノイズ時代” の構想が生まれたきっかけは、現政権の発足です。ぼくに特定の支持政党はありませんが、現与党がその任にあらず、という考えはこの10数年揺らぎようがありません。今年2月の自主クーデター同然の解散総選挙で、いよいよ自分たちの民主主義が危機に瀕していることを否応なく思い知らされました。

そこでぼくが思い出したのは、2024年末に韓国で起きた尹大統領の戒厳令宣布(※)でした。それを未然に防ぎ、弾劾にまで追い込んだ韓国市民の勇敢さと成熟さに、どれだけ心を打たれたことか。

ぼくはまず韓国民主主義の歴史に学ぼうと思い、光州事件に関する映画を『KCIA 南山の部長たち』『ソウルの春』『タクシー運転手』『弁護人』『1987、ある闘いの真実』の順序で観ました。あわせて、ハン・ガン『少年が来る』パク・ソルメ『じゃあ、何を歌うんだ』といった小説、またその時代に韓国詩人が残した多くの抵抗詩などを読みました。韓国以外の国で起きた民主化運動の記録もまた、ぼくに勇気と覚悟を与えてくれました。

そうした作品のなかで知った “あなたのための行進曲” “朝露” “プリパ” といったプロテストソングにひらめきを得て “ノイズ時代” は生まれました。「とびきりうるさい反戦フォークを作ろう」というアイディアです。

「ぼくの発声がいつもと違う」というご指摘については、おそらくぼくの個性を極力削ろうと試みた結果です。この歌の主人公はもちろんぼくではなく、これまで自由のために命を賭して抵抗したすべての人たちです。

※編集部註:2024年12月3日、韓国の尹錫悦(ユンソンニョル)大統領が戒厳令を宣布。政権の支持率低下や、国会においても野党が過半数を占めるなどした状況から、野党を抑え込んで自らの権力を守る非常手段に出たとみられている。それを受けて当時、国会前には多くの市民が駆け付け、戒厳軍と対峙。市民による直接的な抗議行動が、戒厳令の解除と大統領の弾劾(罷免)を実現させる大きな原動力となった。

—ジャケットデザインについて、道を進む群衆が写っています。これはどんな場面の写真でしょうか? また、「ノイズ時代」の文字を分解したレタリングも印象的です。アートワークに込めた意匠について教えてください。

志磨:この写真は1969年(※)に新宿駅西口で毎週のように開かれた「フォーク集会」に集まる群集をとらえたものです。彼らの多くは《フォークゲリラ》と呼ばれた若者たちで、毎週土曜にこうして集まり、機動隊の鎮圧に抗いながら、反戦を訴えてプロテストソングを合唱しました。

レタリングについては、近代東アジアの歴史とも密接にからむ明朝体を、意味をなさなくなるまで解体し集積することで「ノイズ」を表現しています。

※ 編集部註:1969年は、泥沼化したベトナム戦争(〜1975)に対する反戦運動が世界中でピークに達した年。

—“ノイズ時代”という楽曲から、そして「反戦シングル」としてリリースされたことからも、これまでパンクやロックが抵抗の意思を示してきた歴史と、そういった先人たちへのリスペクトも感じましたが、いかがでしょうか。

志磨:もちろん、ぼくの好む音楽の多くはレベルミュージック(※)であり、ぼくの作品もまたそうありたいと思っていますが、「抵抗の意思を示す」ことはあくまでパンクやロックの文脈と切り離して考えられるべきだとも思います。むしろ「パンクやロックはこうあるべきだ」「後継者ならば先人にならって続くべきだ」という過剰な強要は権威主義的にもなりかねません。ぼくはできることなら、あらゆる権威と無縁でいたい。

※編集部註:「レベルミュージック(Rebel Music)」とは、権力や政治、社会体制、差別などに対する「抵抗」を掲げた楽曲を指す。英語の「rebel(反逆・反抗)」に由来する。

「ぼくも変わったでしょうが、世界も変わりました」——毛皮のマリーズ1stアルバムを改題

—3月15日には、毛皮のマリーズの1stアルバムのタイトルを『戦争をしよう』から『ファースト』に改題されました。リリース当時、「世界に戦争を挑んだ」志磨さんの「実感」から名付けられたこのタイトルには強い思いもあり、つまり改題も断腸の思いをされたのではと推察します。決断に至るまでの心の動きについて教えてください。

志磨:一度リリースされた作品というのは、もはや作者だけのものではありません。手にしたそれぞれの記憶や思い入れと、すでに分かち難いものになっている。それを今さら回収して書き換えるなんて、聞いたことがありません。

相当の批判があることを覚悟しましたが、それは多かれ少なかれ、いつも作品を発表するたびに受けてきたものですから、恐るるに足りません。

本当に恐ろしいのは、平和を訴えた罪で銃を向けられ、投獄され、拷問を受ける未来です。これを妄想と笑い飛ばせるほど平穏であったなら、改題すら考えなかったでしょう。

—「ファースト」改題の際にX公式アカウントで、改題に至る意識の変化を「成長」であると綴られていました。反戦の思いを楽曲に込めたことを明らかにすることなどを含めて、長年音楽とともに生きてこられて、その気持ちや向き合いかたはどんなふうに変わっていきましたか?

志磨:改題時に綴った声明から引用します。《「成長」とは善悪をともなうものではありません。ただ変化するのです。たとえば5歳児だったあなたが今のあなたよりも悪であったとはいえないのと同じく、それでも今のあなたが5歳児のころと同じ行動をとらないのと同じく》。

これがぼくの「成長」のとらえかたなんですね。ぼくは今、音楽をはじめたころのように無邪気ではいられません。ぼくも変わったでしょうが、世界も変わりました。

「あきらめてはなりません。ふてくされてもなりません。ぼくらはもっとよい未来を望んでいいのです」

—世界各地で戦争が終わらない状況を志磨さんはどんなふうに見つめ、ファーストの改題や「ノイズ時代」のリリースにつながったのでしょうか。そして、音楽や芸術を通して反戦の思いを伝えていくことについて、どんな思いを抱えていらっしゃいますか。あらためて教えてください。

志磨:終わらないどころか、世界のいたるところで右傾化や排外主義が進み、ファシズムの亡霊が息を吹き返しつつあります。ぼくらの国もその最たるものです。毎朝目覚めるたびに悪くなってゆく世界で、希望を持つことに疲れつつあるのはぼくも同じです。

そんなときは、古い本をひもときましょう。映画を観ましょう。レコードを聴きましょう。これも立派な抵抗のかたちです。

そこには、自由の尊さを語る誰かのことばが、それを求めて闘った姿が、いたましい犠牲を払いながらもあきらめなかった歴史が、残されています。戦争を望む者たちがいくら躍起になったところで、ぼくらのこの営みをさえぎることはできません。

それらはあなたにさらなる勇気と怒りを与えるでしょう。あきらめてはなりません。ふてくされてもなりません。ぼくらはもっとよい未来を望んでいいのです。

—音楽は人の心を昂らせます。だからこそ一方で、音楽を含む芸術は、ときに戦争を煽る道具として利用されてしまった歴史もありました。もうそんなことがあってはならないと思うなかで、またその緊張感が漂う世界になっています。おっしゃるとおり「抵抗」のかたちはそれぞれあると思いますが、いまこの世界で、志磨さんはどうありたいと思っていらっしゃいますか?

志磨:おっしゃるとおり、熱狂の恐ろしさはバンドマンが誰よりも知っています。だからこそ、権力を誤用する者におもねってはならない。先ほど「パンクやロックはレベルミュージックであるべきか否か」について書きましたが、それらがレベルミュージックでなくなるときがくるとすれば、それは権力や体制に追従したときです。ぼくはいかなる場合も弱者や少数派の側に立つ人間でありたいのです。

これを読むあなたも、どうか悲観的にならないでください。この今の絶望は、ぼくらがシチズンとして成熟するきっかけとなり得るはずです。遅まきながらぼくらの民主主義はここからスタートするのではないでしょうか。

作品情報
「ノイズ時代」

作詞・作曲:志磨 遼平
写真:毎日新聞社/アフロ
イベント情報
the dresscodes TOUR2026

6/13(土)<宮城>仙台Rensa 開場/開演:16:15/17:00
6/21(日)<北海道>札幌PENNY LANE24 開場/開演:16:15/17:00
6/28(日)<石川>金沢EIGHT HALL 開場/開演:16:15/17:00
7/4(土)<福岡>DRUM LOGOS 開場/開演:16:15/17:00
7/5(日)<岡山>YEBISU YA PRO 開場/開演:16:30/17:00
7/11(土)<愛知>名古屋THE BOTTOM LINE 開場/開演:16:00/17:00
7/12(日)<大阪>GORILLA HALL OSAKA 開場/開演:16:00/17:00
7/20(月・祝)<東京>Zepp Haneda(TOKYO) 開場/開演:16:00/17:00

●チケット
前売り 立見¥6,000 立見U-22 ¥4,500(ともにドリンク代別)
当日券 立見¥6,500 立見U-22 ¥5,000(ともにドリンク代別)

Zepp Haneda(TOKYO)公演
前売り 1F立見 ¥6,000 1F立見U-22 ¥4,500 
当日券 1F立見 ¥6,500 1F立見U-22 ¥5,000
プロフィール
志磨遼平 (しま りょうへい)

1982年、和歌山県出身。2003年「毛皮のマリーズ」結成。日本のロックンロール・ムーブメントを牽引し、2011年、日本武道館公演をもって解散。翌2012年「ドレスコーズ」結成。2014年以降はライブやレコーディングのたびにメンバーが入れ替わる流動的なバンドとして活動中。2018年には初の音楽監督作品『三文オペラ』(ブレヒト原作・KAAT)上演。さらに菅田将暉やももいろクローバーZ、上坂すみれ、KOHHといった幅広いジャンルのアーティストとのコラボレーションも行なっている。また、連載コラム等の文筆活動のほか、俳優として映画『溺れるナイフ』『零落』などにも出演している。



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