デモに嫉妬したドレスコーズ「音楽はもう社会の映し鏡じゃない」

志磨遼平のソロプロジェクトとなったドレスコーズから、新作『オーディション』が届いた。前作『1』は志磨がほぼすべての楽器を自ら演奏して作られた作品だったが、その後のライブでは様々なサポートメンバーを起用し、ときにはOKAMOTO'SやKING BROTHERSをそのままバックに従えるなど、自由な形態での活動を展開。その経験を踏まえ、『オーディション』には6人のギタリストを含む多彩なミュージシャンが参加し、さながらドレスコーズのメンバーオーディションであるかのような、賑やかな作品となっている。もちろん、実際には『オーディション』というタイトルの由来はそこではなく、「選ぶ」ということがキーワードになっている2015年の日本を記録することこそが、本作のテーマだったという。もしかしたら、ポップミュージックが社会の映し鏡だった時代は過ぎ去ってしまったのかもしれない。では、これからの時代においてミュージシャンが担うべき役割とは? 志磨にアルバムの狙いを訊いた。

とにかく温厚で、グレーが大好きな日本人が、ここまで白黒はっきりさせようとしているのを見るのは初めてな気がしたんです。

―『オーディション』というタイトルはとても意味深ですよね。多彩なギタリストをはじめ、多くのミュージシャンが参加しているので、ドレスコーズのメンバーをオーディションしているようでもあり、歌詞を読むと、何でも自動的におすすめされるこの時代に、能動的に選ぶことの重要性を訴えているようにも感じました。

志磨:テーマとしては、2015年の今っていうのをこのアルバムにちゃんと記録したいと思ったんです。オリンピックのことにしても、安保法案のことにしても、大きく賛成と反対に分かれていて、どちらに属するのか態度を表明しなさいという、二択を迫られるような状況がありますよね。とにかく温厚で、グレーが大好きな日本人が、ここまで白黒はっきりさせようとしているのを見るのは初めてな気がしたんです。時代が大きく変わりつつある、そういう節目なんやろうなっていうのを逃したくなかったんですよね。

志磨遼平
志磨遼平

―それで「選ぶ」ということがテーマになったと。

志磨:それは政治がどうこうってだけの話ではなくて、音楽にしてもそうじゃないですか? YouTubeの関連動画やらストリーミングやら、その一方ではアナログの人気が復活していたり、音楽の聴き方も多様化していて、そこでもまた選択を迫られる。「今日何を食べようか迷っちゃう」っていうのもひとつの選択だし、僕らは毎日何らかの選択を常に迫られていて、その答えを一つひとつ出しながら、今この時点まで生きてきた。これは全部オーディションなんだと考えると、辻褄が合うなって思ったんです。

ドレスコーズ『オーディション』初回限定盤ジャケット
ドレスコーズ『オーディション』初回限定盤ジャケット

―なるほど。

志磨:僕らは日々、小さいオーディションを繰り返していて、気づかないうちに審査員になってもいるし、自分がそこにノミネートされてもいる。例えば、今回のCDと同じ発売日にはザ・クロマニヨンズがいて、The Birthdayがいて、そこでは僕もオーディションに参加させられているわけです。そういう風に「選ぶ」っていうことが今の時代のムードであり、このアルバムのテーマでもあるんだと最近気づきまして、慌ててタイトルをつけました(笑)。

志磨遼平

―アルバムは“嵐の季節(はじめに)”という曲から始まっていますが、これは今おっしゃったテーマ性が見えた上で作った曲なのでしょうか?

志磨:いや、たぶん一番最初ぐらいにできた曲で、何となくこのイントロから始まったら素敵やなって思って、もともと仮タイトルを“はじめに”にしていたんです。「嵐の季節」っていうテーマは、今年の3月に渋谷公会堂にサニーデイ・サービスを見に行って、それがすこぶる良くて。サニーデイのお客さんはとにかく静かで、曲自体メロウな、穏やかな曲ばかりで、最近のバンドの「踊らんとは言わせんぞ」みたいな曲とは全く違うわけです。僕自身は、政治的なことに関してどちらかに賛成とか反対はないんですけど、ここ最近の騒々しさと比較して「渋谷公会堂のこの穏やかさよ」って思ったんですよね。ボブ・ディランの曲で“Shelter From The Storm”ってありますけど、ここもまさに渋谷のど真ん中にある隠れ家みたいだなって。音楽は今自分にとってこういうものとしてあるのかもしれないと思ったんです。だから、最初はもっと穏やかなテーマで作ろうとしていたんですよ。

これからのポップミュージックの役割は社会の映し鏡ではなくて、先を映すべきものだと思ったんです。

―サニーデイは1990年代の、言ってみれば、もう少し余裕があった時代を象徴するバンドというか、大学を出て就職もせず下北沢をフラフラしていても許された時代を象徴するバンドだと言えると思います。ただ、今の日本はその真逆と言ってもいいぐらい、圧の強い時代を迎えていますよね。

志磨:だから春ごろはメロウな曲をたくさん書いてみたんですが、どうも違う、こういうことじゃないなと思って、夏ぐらいからはニュースとかにも影響を受けつつ、一つひとつ曲を完成させていったんです。それで7月末ぐらいにやっと曲が揃ったときには、政治的な激しい運動の最中に曲を書いていたことが改めてわかるというか、期せずしてそういうドキュメントみたいな雰囲気を帯びてたんですよね。

―「家にテレビが来たのも大きく影響してると思う」って、Twitterでつぶやかれてましたよね。

志磨:Twitter自体を始めたのも去年なので、テレビとTwitterっていう、そのふたつは大きいですね。ただ、「それにしても外の嵐が騒がしいな」って、この国で暮らしている人ならみんながそう感じていたと思うんです。ちゃんとそこに反応したものを作りたいなっていうのは、何となく思ってましたね。

志磨遼平

―「優れたポップミュージックは社会の映し鏡である」という言葉がありますが、まさにそういったアルバムとも言えますよね。

志磨:そこで思ったのが、これからのポップミュージックの役割は映し鏡ではなくて、「炭鉱のカナリア」じゃないですけど、時代を予測するというか、先を映すべきものだと思ったんです。古いフォークもそうだし、江戸時代の琵琶法師みたいな人も、もともと世間のニュース的な役割を担っていたわけですよね。まさに「歌は世につれ、世は歌につれ」を体現していた。でも、今や情報のスピードが増し過ぎて、ニュースが起きた瞬間にTwitterで「なう」「なう」「なう」ですから、何かが起きて、「マジか」って思って曲を書いて、3か月後にリリースしてもお話にならないじゃないですか?

―確かに、スピード感はまったく違いますね。

志磨:その一方で、若い人たちが声を上げて、プラカードを掲げて運動をしていて、僕もそういうことをしたいと思ったというか、ちょっと嫉妬すらしたんですよね。彼らが主張している内容の是非は関係なくて、その行為自体に。こんなにも煽動的で、興奮があって、「あれは音楽やん」って、お株を奪われたと思ったんですよ。あそこには誠実さもリアルもあるし、迷いもあるだろうし、ヒーローがいて、体制っていう敵がいて、「全部あるじゃん」って思ったんです。じゃあ、音楽は今さら何をやれるんだ? となると、少し先のことを歌うべきなんじゃないかと思って、僕はたぶんそういうものを作ろうとしたんですよね。

志磨遼平

―ポップミュージックの役割が、改めて問われる時代が来たとも言えそうですね。

志磨:僕自身は誰の発言に対しても心からは同調できなくて、そのグレーの部分が音楽の居場所だと思うんです。今までは「戦争反対」とか、そういうことを歌うのに意味があって、僕はそういうものの力を今でも信じてるし、切望してもいるんだけど、それにしても、今それを歌っても説得力ねえなって思って。白でも黒でもない、その間で「うーん」って揺れる人間の小さい心を歌いたいと思ったんですよね。人間は常にバランスを取りながら生きようとしますけど、音楽って振り子の重しみたいなものになると思うんですよ。

―よくわかります。

志磨:これまでは、デモに参加して政治的な主張を声高に発表するのは、少数派の勇敢な行動だったわけですけど、それが今は大きく変わりつつあって、「よくわかんないけどかっこいい」というものになりつつある。「音楽みたいだ」ってさっき言ったのは、そういうことです。ただ、それが完全にマジョリティーになるのは少し怖いなとも思う。だから僕は「戦争反対」じゃなくて、「わかんない」っていうのをやろうとしたんでしょうね。そう、前は逆だったんですよ。みんなが平和ボケしてたから、「はっきり言わないとダメだよ」って歌う必要があった。でも今はそれが逆になっているんです。

―時代のムードは変わりつつある。でも、その中でロックがカウンターであることには変わりがないということかもしれないですね。

志磨:そうそう、カウンターです。めっちゃ短い言葉で済みましたね(笑)。だからきっと、今回はこういうことが歌いたかったんだろうなって。

ドレスコーズや音楽が、僕の想像がつかないものであってほしい。だから、今の「ドレスコーズ=概念」ってスタイルは、ものすごい大発明だと思っているんです。

―今回の『オーディション』というタイトルには、ライブやレコーディングのメンバーをその都度選びながら活動する、今のドレスコーズのあり方も含まれていますよね。『1』リリース時の取材では、「これからどう活動していくのか、自分でもまだ見えていない」という話だったかと思うのですが、その後いかに心境が変化していったのでしょうか?

志磨:今でもバンドが好きなので、そこから一人になったというのはものすごく大きなことだったんですけど、でもその状況に浸って、「一人でおなじみの志磨遼平です」みたいな、お涙頂戴もごめんだし、立ち上がるなら早いに越したことはないと思って。それでツアーに出て、友達に頼んで演奏してもらったら、ドレスコーズというのが出入り自由の常に流動的なバンドになっていって、もはや「概念」となりましたっていう感じですね(笑)。

志磨遼平

―ライブではOKAMOTO'Sと組んだり、KING BROTHERSと組んだり、すごく不思議な活動形態になっていますよね。

志磨:「ドレスコーズが出るらしいよ」っていうのが、もはや何の情報にもならないという(笑)。僕自身、「バンドって何なんだ?」っていうのを可視化するのがすごく面白くて、ラジカセからドラムやギターの音を流すっていうライブもやりましたからね(笑)。どこまでがバンドと呼べるのか? ということを試しながら、何となく動き出したんです。

―前回の取材では「一人でやりたいのか、誰かと作りたいのか、そこもまだはっきりしていない」という話だったかと思うのですが、少なくとも「誰かと作る」という方向に進んだわけですよね。それが一般的なバンドという形ではないにしろ。

志磨:前から自分のことにあまり興味がないので、「僕のメッセージを受け取ってほしい」とはあんまり思ったことがなくて、誰かと一緒にやることによって、まったく別のものが生まれるということが、結局一番面白いんですよね。人と人が出会って、そこでどういうストーリーが始まるのかってところにすごく興味があるんです。それがたまたま音楽だっただけで。

志磨遼平

―今回面白いなって思ったのは、これだけたくさんのミュージシャンが参加していながら、いわゆる「コラボレーションアルバム」という感じはしなくて、あくまで「ドレスコーズのアルバム」だと感じたんですよね。

志磨:それは面白いですね。僕の中では「ドレスコーズっぽい」っていうのがいよいよないんですよ。でも、「自分に興味がない」と言いながら、やればやるほど僕っぽいものが何となく立ち上がってくるんでしょうね。「誰とやっても変わらない部分」っていうのが。ただ、ライブの場合だと、例えばOKAMOTO'Sとやるときは、ドレスコーズを手伝ってもらうというよりも、はっきり言って、OKAMOTO'Sに入れてもらっている感覚なんですよね。OKAMOTO'Sのライブにこっそり紛れ込んでるっていう(笑)。なので、「ドレスコーズのライブ」と言っても、日によって全く違うわけです。別の人とやればまったく別のものになるというその感じを、何となくレコーディングにも持ち込みたかったんですよね。

―それもまさに「ドレスコーズ=概念」だからこそできることですよね。

志磨:ドレスコーズや、音楽ってものが、僕の想像がつかないものであってほしい。自分の手に余るものであってほしいんです。だから、今の「ドレスコーズ=概念」ってスタイルは、ものすごい大発明だと思っていて、僕の要望に100%応えてくれるアイデアなんですよね。もともと極端に飽き性というか、ルーティーンがとてもとても苦手でして、予定表とかにすごく拒否反応があるんですよ。でも、人と初めて何かをやるっていうのは、絶対に何かしらの興奮が生まれるから、ずっとこうやっていろんな人とやっているうちは、僕が僕に飽きることがない。それがすごく幸せなんですよね。

リリース情報
ドレスコーズ
『オーディション』初回限定盤(CD+DVD)

2015年10月21日(水)発売
価格:3,780円(税込)
KICS-93310

[CD]
1. 嵐の季節(はじめに)
2. jiji
3. スローガン
4. 愛さなくなるまでは愛してる(発売は水曜日)
5. メロウゴールド
6. We Hate The Sun
7. もあ
8. しんせい
9. オーディション
10. みなさん、さようなら
11. 贅沢とユーモア
12. おわりに
[DVD]
・PVほか収録予定

リリース情報
ドレスコーズ
『オーディション』通常盤(CD)

2015年10月21日(水)発売
価格:3,240円(税込)
KICS-3310

1. 嵐の季節(はじめに)
2. jiji
3. スローガン
4. 愛さなくなるまでは愛してる(発売は水曜日)
5. メロウゴールド
6. We Hate The Sun
7. もあ
8. しんせい
9. オーディション
10. みなさん、さようなら
11. 贅沢とユーモア
12. おわりに

イベント情報
『Tour 2015“Don't Trust Ryohei Shima” JAPAN TOUR』

2015年11月29日(日)OPEN 17:30 / START 18:00
会場:福岡県 BEAT STATION

2015年12月1日(火)OPEN 18:15 / START 19:00
会場:大阪府 心斎橋 BIG CAT

2015年12月4日(金)OPEN 18:30 / START 19:00
会場:宮城県 仙台 JUNK BOX

2015年12月6日(日)OPEN 17:30 / START 18:00
会場:北海道 札幌 cube garden

2015年12月10日(木)OPEN 18:15 / START 19:00
会場:愛知県 名古屋CLUB QUATTRO

2015年12月19日(土)OPEN 17:15 / START 18:00
会場:東京都 Zepp DiverCity TOKYO

料金:前売3,800円 当日4,300円(共にドリンク別)
※小学生以上はチケットが必要
※小学生未満は保護者同伴に限り入場可

プロフィール
ドレスコーズ

毛皮のマリーズのボーカルとして2011年まで活動した志磨遼平が、翌2012年1月1日にドレスコーズ結成。同年7月にシングル「Trash」(映画「苦役列車」主題歌)でデビュー。12月に1stアルバム「the dresscodes」、2013年8月には2ndシングル「トートロジー」(フジテレビ系アニメ「トリコ」エンディング主題歌)、同年11月に2ndアルバム「バンド・デシネ」を発表。2014年4月、キングレコード(EVIL LINE RECORDS)へ移籍。日比谷野音でのワンマン公演を成功させたのち、9月にリリースされた1st E.P.「Hippies E.P.」をもってバンド編成での活動終了を発表。以後、志磨遼平のソロプロジェクトとなる。12月10日、現体制になって初のアルバム『1』をリリース。2015年4月1日、ドレスコーズ初のLIVE DVD「“Don't Trust Ryohei Shima” TOUR 〈完全版〉」をリリース。2015年10月21日、4thアルバム『オーディション』をリリースし、11月29日からは全国6都市を巡る「Tour 2015 “Don't Trust Ryohei Shima” JAPAN TOUR」が開催される。



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