the guitar plus meインタビュー

同時発音数が3つしかなかった「ドラクエ」の音楽を愛でる、the guitar plus me(以下、tgpm)ことシオザワヨウイチの音楽は、今時珍しいくらいにシンプルだ。逆に考えれば、それくらい彼は「1つの音」を大切にし、こだわり抜いてきたミュージシャンなのかもしれない。だから彼の音楽は気が遠のくほど美しくて、優しい歌声は中毒性すら秘めている。この声でクリスマスソングを歌うのはズルい! と男なら嫉妬したくなる名曲“aluminum xmas trees”を含む新作『HIGHWAY』についてお話を伺った。

月旅行が当たり前の時代になったら、
ぜひキャンペーンソングとして使ってほしいですね(笑)

―ニューアルバムの『HIGHWAY』聴かせていただきました。まずは、本作を『HIGHWAY』と名づけた経緯から伺わせてもらってもいいですか?

シオザワ:早い段階で、アルバム一曲目の“highway through desert”という曲を作ったのがきっかけです。車が走っていて、砂漠に向かって道が広がっていくイメージがとにかく頭にあって、これを一曲目にして『HIGHWAY』というアルバムタイトルにしようとすぐに決めました。

―なんで「砂漠に高速道路」だったんでしょうか?

シオザワ:砂漠や森や山を切り開いて通る道路の崇高な美しさとか、工場や大きな建物、多層建造物の写真とか見ると、すごくかっこいいんです。それと、ネット上の廃墟探索系のサイトを見たりしたんですけど、朽ち果てていくものの芸術的な美しさに惹かれたんですよね。自然と人間の文明のせめぎあいというか。

―なるほど。本作以外のアルバムも、そうやって全体像を考えていくんでしょうか?

シオザワ:そうですね。まずタイトルをつけて、そこに今ある曲でアルバムのイメージに合いそうなものをはめ込んでいって、さらに新曲を加えていくことが多いです。

―今作は12月リリースということで、季節感も出てますね。

シオザワ:ちょうど去年の12月ころから作っていて、今回収録されているクリスマスソングもその流れで作ったんですよ。

―クリスマスソング“aluminum xmas trees”のインパクトは大きかったです。今の時代、クリスマスソングを作る人が極端に減っているイメージなので、そこにあえてチャレンジするというのがとても新鮮でした。

シオザワ:確かに、今クリスマスソングを作る人は少ないかもしれないですね。ただ、昔から自分はそういうのが好きだったし、フランク・シナトラじゃないですけど、それこそ昔はどのアーティストも作ってたわけなので、自分としてはわりと自然なことだったんですよ。今回の場合は、クリスマスソングなんですけど、ちょっと宇宙っぽい、月面を舞台にしたような歌で。普通のクリスマスソングを作ってもつまらないし、ちょっと時代を先取ってみようかなと。月旅行が当たり前の時代になったら、ぜひキャンペーンソングとして使ってほしいですね(笑)。

―ずいぶん先取りましたね(笑)。宇宙っぽい音楽というのは、どんなイメージでした?

シオザワ:昔の電子音楽の元祖のSWITCHED-ON BACHみたいな、バロック音楽と電子音楽の融合ですかね。ちょっとアカデミックで、スケールが大きいんだけど、1950~1960年代の牧歌的・楽観的な近未来感も持っているというか。

自分にとってライブというのは、ガッとギター弾いてガッと歌う見せ物みたいなものなんです

―本作には、ライブですでに演奏されている曲もいくつか入ってますよね。ライブをやっていて、そこからのフィードバックみたいなものってありますか?

シオザワ:フィードバックというよりも、むしろ差があるから続けられるみたいなところはありますね。曲作りとか録音っていうのはいわば積み上げていく緻密な作業じゃないですか。でも自分にとってライブというのは別物で、人前に出たらガッとギター弾いてガッと歌う見せ物みたいなものなんです。全然違うから楽しめるんですよね。CDを人前で再現しようと考えたら、きっと自分は飽きちゃうんだろうなって思うんですよ。

―僕はライブからtgpmを知った人間なんですよね。その感覚は今でも強くて、ライブで曲を覚えて、家に帰ってCD聴きたくなるんです。

シオザワ:そうやって、音源とライブの両面をわかってもらえるとすごくうれしいです。

「ドラクエ」はすごいですよ
だって同時発音数が3とか4とかシビアな音数の中で、あれだけの音楽が作れるんですから

―ライブだと、所々で曲の説明をしてくれますよね。それがとても印象深いです。

シオザワ:どうしても一人だと、MCがもたないんですよ(笑)。

―歌詞が英語だということもあって、日本人だとライブで一聴してもわからないとは思うんですよ。でもそのユニークな歌詞にtgpmの魅力はあると思うんです。だから、曲の説明をしてくれるのはとても嬉しいです。

シオザワ:キーワードだけでも伝えておくのとそうでないのとではだいぶ違いますよね。何か少しだけでも説明しておくと、お客さんが言葉を曲から拾ってくれますから。

―曲はだいたい何かモチーフがあって、そこからすぐに英語で作り込む感じなんですか?

the guitar plus meインタビュー

シオザワ:そうですね。自分にとっては、ほんとタイトルが大事なんです。タイトルはできるだけ先に作る。タイトルありきで、曲が完成していくんです。それと、英語で韻を踏むっていうのが実は自分の中で「縛り」になっているんですよ。一個言葉を決めたら、そのコンビになる言葉を考える。その「縛り」の中でストーリーを発展させていくんです。

―韻を踏むというのは、カントリーの影響が大きいんですか?

シオザワ:そうですね。韻を踏みながらボヤくみたいな感じ(笑)。

―カントリーを好きになったきっかけっていうのは何だったんですか?

シオザワ:『トランザム7000』っていう映画があって、それに出演していて主題歌も歌っているのがジェリー・リードっていうカントリーミュージシャンなんですけど、その主題歌がすっごいかっこよかったんですよ。

―tgpmの音楽は、音数が少なくても不足を感じないですよね。何かお手本になったものがあるんでしょうか?

シオザワ:「ドラクエ」からですね(笑)。「ドラクエ」はすごいですよ。だって同時発音数が3とか4とかシビアな音数の中で、あれだけの音楽が作れるんですから。あれは本当にすごい。今ならいくらでも音を重ねられますからね。

わかりやすいですからね、文字通り「ギターとうた」って。

―最初からバンドは組まずに、こうして一人で音楽を作っていたんですか?

シオザワ:コピーバンドくらいしかやってないですね。自分の音楽は自分でやってっていう感じでしたね。だって音楽を作るのって楽しいじゃないですか。バンドを組んで分担作業したら、楽しみが減っちゃう(笑)。

―それはいつごろからですか?

シオザワ:高校か大学くらいですかね。そのときは、何も方向性は定まっていなくて、その場で好きになった音楽に影響されて曲を作る感じでした。特別何をやりたいとかはなかったんですよ。そこから、カントリーとかを聴くようになって、ギターの奏法でベースラインと上モノを一緒に弾けるようになって、歌詞も日本語と英語バラバラだったんですけど、簡単な英語にしようと思って、キーワードを決めてこうして作るようになった感じです。そこで“the guitar plus me”という曲名の曲を作って、それがきっかけで名義を「the guitar plus me」に変えたんです。そこから全てが変わりましたね。

―名義を変えることでも、本当に音楽って変わりますよね。

シオザワ:そうなんですよ。ほんのちょっとのきっかけなんですけど、すごく大きい。自分の音楽を人に打ち出しやすくなったし、伝えやすくなりました。わかりやすいですからね、文字通り「ギターとうた」って。

結局は、サッカーも音楽も同じなんですよ

―一人でいろんな楽器をやるのは大変ではないですか?

シオザワ:いや、楽しいですよ。音を重ねるのもすごく楽しい。全部の楽器が独学なので、どれも練習しながら録るんですけどね(笑)。それも楽しい。苦労はないですね。

―tgpmの音楽はどこか風景が思い浮かぶような音楽だと思いますが、旅行経験などは多いんですか?

シオザワ:それが、ほとんどないんですよ(笑)。頭の中で勝手にイメージを作っているんです。

―音楽家だからこそ、音楽で旅行ができちゃうんですかね?

シオザワ:実際に旅行したらまた違うものが生まれるのかもしれないですけど、今は頭の中で、勝手に作っている感じがあって、何かを見ていようと見ていまいとあまり関係ない。勝手に想像しているほうがかえってよかったりする場合もありますからね。

―それだけ創造性豊かだということですよね。だからこそ描ける世界があるんでしょうね。ありのままの風景があって写真を撮るのと、頭の中で思い描いて絵にするような違いなのかもしれませんよね。

シオザワ:そうなんですよね。こうしてtgpmとしてライブのためにいろんな場所に行かなければ、本当に地方には行かなかったかもしれないです。東京便利ですからね(笑)。

―では、音楽以外の作品による小旅行という点ではいかがですか?

シオザワ:本はけっこう読みますね。あとはサッカー(笑)。結局は、サッカーも音楽も同じなんですよ。オーディエンスがいて時間が決まっていて、ほんといつもどうなるかわからない。そういう意味では、なんかジャズみたいなんです。インプロの音楽みたいな感じ。

無駄なものを作ってしまうのが人間であって、それを全て否定するのもなんか違うんじゃないかなと。

―なるほど。やはり音楽と結びついてるんですね。創作意欲って、ほとんどが音楽に向かっている感じなんでしょうか?

the guitar plus meインタビュー

シオザワ:そうですね。でも、小説を書こうとかは考えたことありますよ。世に出るようなものではなかったですけど(笑)。自分が好きなストーリーを一番好きなように組み立てるということが、自分には合っているんじゃないかと。それが何より大きいんじゃないかと思います。表現するのに、これが一番「普通」であり、「自然」なんですよね。

―今っていろんなものに対し浮気性なアーティストも多いと思うんですよ。そこで音楽を「自然」と言えるアーティストは、すごく素敵だと思います。では、これからの未来像とかってありますか? 世界がどうなっていくのかな、とか。

シオザワ:世界はやばいんじゃないですか(笑)。エコはエコで好きなんですけど、やっぱり『マッドマックス2』みたいのも好きなんですよ。なんかもういろんなものがぶっ壊れちゃう世界。でも、太陽電池とかも使ったほうがいいのかなって(笑)。両面ですよね。前の『ZOO』っていうアルバムは、「文明はよくない」っていうアルバムだったんですけど、今回はその逆。何にもないところを切り拓いて道路(=『HIGHWAY』)を作っちゃうようなフロンティア精神というか。「道路族最高」みたいな(笑)。

―そういう意味では、こういったユニークな歌詞の中にも、独特なメッセージが込められているということなんですよね。

シオザワ:世の中が極端にダウンサイズになってきているのを感じていて、それに対して何かを示したいというのはありますね。無駄なものを作ってしまうのが人間であって、それを全て否定するのもなんか違うんじゃないかなと。無駄なものを全部排除してしまったら、本当に何もなくなっちゃう。

―極端すぎるのは良くないということですよね。『ZOO』のときの「文明はよくない」というメッセージもそうですし、今回の「道路族最高」もそうなんですけど、常に社会に対し敏感に反応することで、みなの意見が一元化することを自然と拒んでいるのかもしれないですね。今後の活動も楽しみです。ありがとうございました。

リリース情報
the guitar plus me
『HIGHWAY』

2008年12月3日発売
価格:2,500円(税込)
COCP-60039 Independent Columbia

1. Highway Through Desert
2. Sabotage
3. School Bus Blues
4. Blueprlnt
5. Winter Afternoon
6. Aluminum Xmas Trees
7. Fortune - Teller
8. Oasis
9. 89
10. Horizon

イベント情報
『the guitar plus me ワンマンリサイタル 2009 六弦道路公団』

2009年3月7日(土)OPEN 18:30 / START 19:00
会場:公園通りクラシックス(東京・渋谷)
料金:前売2,000円 当日2,500円

『HIGHWAY発売記念インストアライブ』

2008年12月14日(日)START 18:00
会場:HMV札幌ステラプレイス
料金:無料

2009年1月17日(土)START 17:00
会場:HMV渋谷 3Fイベントスペース
料金:無料

プロフィール
the guitar plus me

シオザワヨウイチによるソロプロジェクト。カントリーやクラシックの奏法・音階を取り入れたアコースティックギター、柔らかで透明感のある歌声、リズミカルでユーモアに溢れた寓話的英詞など、豊富な音楽知識を基に、いわゆる「弾き語り」とは全く異なるアコースティックポップスを奏でる。2008年12月3日に4枚目のフルアルバム『HIGHWAY』をリリース。



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