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ものの価値はものにはない 寒竹ゆりインタビュー

ものの価値はものにはない 寒竹ゆりインタビュー

インタビュー・テキスト
金子厚武
撮影:柏井万作
2010/11/25

何か関係している限り、美しいことだけでは済まされない

―実際の撮影ではどんな部分にこだわりましたか?

寒竹:ロケーションにはこだわりました。一日で撮影しなきゃいけなかったんですけど、その中でいくつもシチュエーションを撮りたかったので、効率的にいろんな画が撮れる場所を探して、栃木の足利に行ったんです。おじいさんの服装とか、グレイのものがいっぱい入ってるカートを引いてるっていう異質なものが混ざりこんだときに、一枚の画として画になるっていうことを一番に考えました。

―結構いろんな場面が出てきますけど、あれを一日で撮ったんですね。

寒竹:朝から終電まで(笑)。大知くんが歌ってるシーンが一番ラストに撮ったシーンで、駅の前のロータリーみたいなところで歌ってるんですけど、終わったらそのまま急いで(ギターを)背負って帰っていきました(笑)。

ものの価値はものにはない 寒竹ゆりインタビュー
大知正紘

―(笑)。場面がいっぱいあって、その配色や光加減の美しさがすごく印象的なんですけど、その一方でさっきおっしゃったように、カートに乗ってるものがグレイっていうのがさりげないんだけど印象的でした。

寒竹:おじいさんが持ってるだけではものに意味はないので、カートに入っているものにキャラクターを持たせたくなくて、全部同じ色に塗ったんです。同じ色の塊があるっていう違和感は、画としても面白いので。

―さりげないけどすごく異質で、普通っぽくも見えるんだけど「なんかこの画おかしいんだよな」っていう印象を受けました。

寒竹:おじいさんの服装も意外と派手なんですよね。バガボンドっていうか、浮浪者なんだけど、赤いキャップを被ってたり。そういう人がいる寓話の中の世界なので、他に出てくる登場人物とは異質な感じにしたいと思って、ちょっと浮世離れした雰囲気にしたんです。

ものの価値はものにはない 寒竹ゆりインタビュー
大知正紘“手”ミュージック・ビデオより

―最初に「キレイごとだけではない」という話をされていましたが、確かにこのMVには、「ものを渡す」という行為の背景にある想いの美しさや重要性が描かれているのと同時に、その脆さや不確かな側面も描かれているのが素晴らしいと思いました。犬に噛まれるシーンはその象徴だと思うし、最後の女性にしてもどこか幻のような印象を受けたり。

寒竹:一場面を切り取ってるだけじゃないですか? 子供に靴をあげて喜んでる、でもその後彼女がどう生きていくかはわからないし、またいじめられて辛い日々に戻っていくかもしれない。最後の女性ももしかしたら妄想かもしれない。でもその瞬間おじいさんが前を向けた、そういう気持ちになれたことが大事で。犬のシーンは、やっぱり何か他者と関係している限り、美しいことだけでは済まされない、良かれと思ったことが相手を傷つけるかもしれないし、ネガティブな感情が生まれることもあるかもしれないということですね。血はその象徴だと思うんですけど、ちょっと嫌悪感を抱くシーンではあると思うんですね。それは覚悟はしていて、でも描かないといけないと思ったので。

―うん、そのどっちもないとリアルじゃないと思います。

寒竹:人生のものすごく楽しい、幸せな場面を切り取る歌もあるべきだと思いますし、そういう歌が必要な時もあるけど、この“手”という楽曲はそれだけじゃない。大知くんにとってもこれからずっと歌っていく大事な曲だと思ったので。

―他に、印象に残ってるエピソードとかってありますか?

寒竹:市場で踊るシーンは、普通一般の人は入れないんですけど、足利は岩井さんの『リリィ・シュシュのすべて』を撮った場所で、うちのスタッフが『リリィ』の頃から一緒にやってる関係ですごく協力してくれて。夜11時とか、どんどんトラックが入ってくる時間に社交ダンスをするっていう(笑)。

―(笑)。

寒竹:キャストの周囲を回って撮りたかったんですけど、一般車輛が入れないんですね。それで市場にあったフォークリフトを使おうってことになって、「この中で一番(操作が)上手い人誰ですか?」って聞いて、カメラマンとスタッフを乗せてその方に運転してもらって撮ったんです。クレーンを使ったらあんなに小回り利かないし、上下もできないから、ああいう画ってちょっとレアだと思うんです。普段は野菜を運んでるフォークリフトなんですけど(笑)。

―じゃあいずれはご自身の作品でその手法が見られるかもしれないですね(笑)。

寒竹:そうなんですよ。フォークリフトいいなって(笑)。

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リリース情報

大知正紘<br>
『手』
大知正紘
『手』

2010年9月8日発売
価格:1,000円(税込)
Driftwood Record / AKOM-10001〜2

[DISC1]
1. 手
2. 星詩
[DISC2]
1. 手
2. 星詩

プロフィール

寒竹ゆり

映画監督・脚本家。1982年生まれ。東京都出身。日本大学藝術学部在学中に岩井俊二監督にシナリオを送り、ラジオドラマ『ラッセ・ハルストレムがうまく言えない』で脚本家デビュー。同監督に師事し、映画やCF等の監督助手を務めたのち、佐藤健、上野樹里らのDVD作品を手掛ける。‘09『天使の恋』で劇場映画初監督。以後、MVやTVドラマの脚本・演出を手掛けるなど、幅広く活動。最新作はAKB48のドキュメンタリー映画 (1月22日全国公開)。

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