
ものの価値はものにはない 寒竹ゆりインタビュー
- インタビュー・テキスト
- 金子厚武
- 撮影:柏井万作
人間を描くっていうことを常にやり続けたいというか、そのためのアイデアを探しながら生きてる
―では監督ご自身のことも少し聞かせてください。MVを撮るときは、もちろん曲によってポイントが違ってくるとは思うんですけど、どの曲でも変わらない、監督の中で大事にしている部分を教えてください。
寒竹:最低限「アイデアはこれです」っていうものを織り込めることですね。ロケーションがあって、アーティストさんがいて、衣装があってっていう状況があれば、MVって撮れてしまうんですよね。編集でどうにでもなるし、雰囲気はいくらでも作れるんだけど、それだと監督が仕事をしたことにならないと思っていて。それはカメラマンの仕事であり、衣装の仕事であり、言ったら私(監督)なんかいなくてもいいんです。じゃあ監督って何だろうと考えたときに、映像を使ったその時考えられる最良のアイデアを提案できることだなって。それが提案できない曲だったらお受けしても失礼だし、毎回そこに尽きますね。私が好きなMVもそういう、クリエイターのアイデアが詰まってるものなので、私もそうありたいと思いますし。
―好きなMVでパッと思いつくのってありますか?
寒竹:最近ですと韓国のイ・ヒョリさんというアーティストの“Swing”のPVは、多分時間がなくて、シチュエーションも一つしかない中でどう撮ろうかっていうのをがんばってる感じで、画もすごくかっこいいです。monobrightさんの“雨にうたえば”も、多分いろんな制約の中でこの曲を…そういう目線で見ちゃうんですけど(笑)、その中で曲のイメージを拡大させているなって。
―やっぱり作り手の目線で見ちゃいますよね。
寒竹:そうですね。「いくらぐらいかかってるな」とか(笑)。でもいくらお金をかけても、アイデアがないと。映画でももちろんそうなんですけどね。
―“手”に関してはそのアイデアが出てきたわけですね。
寒竹:いつも転がりながら、苦しみながら、ギリギリでひねり出してる感じです(笑)。
―では最後に、大きな話になってしまいますが、監督の表現の核にあるものを話していただけますでしょうか?
寒竹:MVでも映画でも、人間を描くっていうことを常にやり続けたいというか、そのためのアイデアを探しながら生きてる…って言うと大げさかもしれないですけど、日々それを探しながら、与えていただける環境とタイミングを生かせればと思っています。クリエイターにとっての基礎体力はアイデアの蓄積だったりすると思うので、そんなことやらずに生きていけたら楽なんですけど、でもそうしたいから、そのために筋肉をつけて、しかるべきタイミングでそれを求めてくださる人に喜んでもらえて、そこに自分の表現したいことを合致させていければ。
―「そんなことやらずに生きていけたら楽」なのに、やってしまうのはなぜなのでしょう?
寒竹:そうですね…言葉で言いようもないぐらいの感動、中毒性があるんですよね。作ってて途中でアイデアが出てこないときは死んでしまいたくなる時もあるんですけど(笑)、でも自分のアイデアがハマったときは、こんなに楽しいことはないんです。それを一回でも経験すると、やめられないんでしょうね。
リリース情報

- 大知正紘
『手』 -
2010年9月8日発売
価格:1,000円(税込)
Driftwood Record / AKOM-10001〜2[DISC1]
1. 手
2. 星詩
[DISC2]
1. 手
2. 星詩
プロフィール
- 寒竹ゆり
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映画監督・脚本家。1982年生まれ。東京都出身。日本大学藝術学部在学中に岩井俊二監督にシナリオを送り、ラジオドラマ『ラッセ・ハルストレムがうまく言えない』で脚本家デビュー。同監督に師事し、映画やCF等の監督助手を務めたのち、佐藤健、上野樹里らのDVD作品を手掛ける。‘09『天使の恋』で劇場映画初監督。以後、MVやTVドラマの脚本・演出を手掛けるなど、幅広く活動。最新作はAKB48のドキュメンタリー映画 (1月22日全国公開)。